真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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95:IF/安っぽくても好きは好き①

146/嫌よ嫌よも好きの内って言うけど嫌って言ってるんだから人の話はちゃんと聞きなさい

 

-_-/北郷一刀

 

 部屋に戻って服を着替えて、いつものフランチェスカの制服に腕を通して装着。もちろん下着も交換済み。

 着替えという作業の全てを終えると、誰も居ない自室でホウと溜め息を吐いた。

 これで華琳が居たら、いい笑いものだ。

 そして今現在、自分こと北郷一刀は美羽にだけはとても会いたくない。

 心の整理が出来るまででいいのだ、会わないでいたい。

 なんてことを思っていると、会ってしまうのが世の常とはよく言ったものです。

 フラグ、って言えばいいのか? などと考えていると会う確率が……減るといいね。

 

「………」

 

 静かな日。

 外からは鍛錬している兵の声が僅かに聞こえ、鳥の声と合わさってゆったりと届く。

 兵にしてみれば大変なところなんだろうが、それらが日常化しているように自分に届く日々というのは、少し心強く感じられた。

 俺も頑張らなきゃ~って気になるよな。

 …………頑張る対象が武なら、まだいろいろと割り切れることもあったろうに。

 

「あからさまに避けたりしたら美羽だって傷つくだろうし、もっと強くあれ、俺っ」

 

 むんっと気合を入れて部屋を出る。

 

「………」

 

 それでもやたらとキョロキョロしてしまうのは……まあその、人間として仕方ないと理解していただけると大変嬉しい。

 と、それはそれとして、中庭の東屋へと戻った。

 東屋へと歩く途中で霞と冥琳には気づかれて、その場へ辿り着くまで見つめられて妙な恥ずかしさを味わうことになったが……あの時間はどうも苦手だ。こう、妙に気恥ずかしくて勝手に口角が持ち上がるし、目も合わせたくないから微妙に視線をずらすんだけど、そうすると相手にこの気恥ずかしさがバレるんじゃないかって思って……ああうん、つまりはささやかな男の見栄ってやつだ。ほっといてくれ。

 

「おー、ちゃんと一刀やなー」

「顔が赤いぞ」

「ほっといてください」

 

 冥琳の指摘に、思わず敬語にも似た言葉が自然と出た。

 事実、顔は真っ赤なのだろう。

 霞に半被を返しつつも懐かしい視線の高さで中庭を見る。

 すとんと椅子に座ると早速霞が絡んできて、「酒宴の続き、しよかー」と暢気に言う。

 別に構わないんだが、もっといろいろ訊かれると思っていた自分としては、少し拍子抜けだった。ありがたいけどさ。大変ありがたいんだけどさ。

 

「ああ、いろいろと忘れたいこともあるから、今日は飲もう……」

「あ、忘れる必要ないでー? いろいろ聞かせてもらうんやし」

「そんなこったろーと思ったよどちくしょー!」

 

 酒の肴にしたかっただけのようです。

 苦笑する冥琳に「そら」と酒を勧められ、猪口に注いでもらいながらがっくりと項垂れた。周公瑾に酌をしてもらうとか何様なんでしょうか俺……とかいろいろ考えることもあるが、難しいことは考えずに受け取ることにした。

 酒の席でいろいろと考えるのは無粋ってことで……友達だもんな、それでいい。

 ならばと酌を返して、冥琳の猪口にも注ぐ。

 途中、霞がウチもウチもーと割り込んできたから、やっぱり苦笑しながらそこにも注いで……準備が出来るといざ乾杯。

 

「あ、老酒か。懐かしいなぁ」

「っへへー、あの時以来やろー? 一刀、きちんと日本酒飲ましてくれたもんなー。だから次こーして飲む時は、ぜ~ったいこれにしよ思とったんや」

「……そっか。ありがとな、霞」

「えーてえーて。ウチと一刀の仲やん」

 

 本当になんでもないからって風に、手をヒラヒラさせて上機嫌に言う霞。

 俺もなんだかそれに釣られるように楽しい気分になって、卓の上の料理に手をつけて酒を飲んでと、楽しんでいく。

 

「で、華琳には報告したん?」

 

 で、そんな上機嫌な霞が突如としてそんなことを言う。

 突如というよりはむしろ当然のことなのだが、霞の顔は“わかってて言っている”ってものだった。

 

「報告してたら、俺はここには居ないだろ」

「せやろなー、きっとまずは記憶が残っとるか訊いて、残っとったと知るやいろいろちくちくと責めてくんねやろなぁ」

「やめて、会いたくなくなる」

 

 口から自然と情けない言葉が出るのは勘弁してほしい。

 だって考えてもみろ、華琳に向けて“馬鹿”って。あの曹孟徳に向けて“馬鹿”って。

 華琳が許してくれてなきゃ、もうとっくに首が飛んでたぞ子供の俺よ。

 ここまで来るとほんと、“俺って生かされてるんだなぁ”って思えるよ。

 だって華琳の一言であっさりトチュリって刺されて死ねるわけだもの。

 

「しかし、会わないわけにはいかないだろう」

「そりゃそうなんだけど」

 

 なんというかなぁ……雪蓮に馬鹿って言うのと華琳に馬鹿って言うのとじゃあ、いろいろと違うわけだよ。友達にばーかって言うのと、こう……先生にばーかって言ってしまうのを比べる感じ? いや、先生じゃまだ低い。校長先生……いや、よくよく考えれば天皇陛下に言うのと同じレベルなのか、この世界じゃ。

 …………よく死ななかったなァ俺ェェェェ……!!

 ああ、嫌な汗がだらだら出てる。

 これで華琳に会って、“許したのは子供のあなたであって、今のあなたを許した覚えはないわ”とか言われたら、今度こそ俺の存在がデュラハンに……! あれ? でもその理屈って“じゃあ言ったのは子供の俺であって今の俺じゃないよな”って返せる?

 あっ……ああ、なんだっ、あるじゃないか救いっ! よかった、これで───…………これで…………、……マテ。そんな理屈が、華琳ならまだしも春蘭や桂花に通じるか?

 

「……んあ? どないしたん一刀。急に胸の前で手ぇ動かしたりして」

 

 穏やかな顔で十字を切ってみた。

 さよならマイ人生。友情フォーエバー。

 

「あ、そうだ冥琳」

「うん? なんだ?」

「絵本。すっごく面白かった。そういえば“俺として”はきちんと感想言ってなかったもんな。続きが出たら教えてくれ。ていうか続きが出る日とか知ってたら今教えてくれ」

「……随分と気に入ったようだな」

 

 やれやれといった様相で溜め息を吐く。が、その顔は笑っている。

 やっぱり人には笑顔だよな。俺も笑っていこう。隻眼の赤い悪魔の大剣によって、俺がデュラハンになるまで。フフ、ウフフフ……。

 

「で、だけど。授業中に酒宴開いちゃって大丈夫か? あ、もちろんこれ終わったらすぐに今日の分はやるつもりだけど」

「それならば問題ない。どこぞの馬鹿な元王のようにほったらかしにしないのならばな」

「言われて当然とはいえ、ひどい言われようだなぁ」

「北郷が呉に御遣いとして降りてくれたならば、もう少しはましだったのだろうがな」

「や、前にも言ったけど、絶対に一緒にサボってたって」

「せやな。一刀やもんなー」

 

 俺と霞、二人でけたけたと笑う。

 冥琳はやっぱりいまいち信じられないって顔をしているが、まあ……一度目にこの世界に降りた俺からすれば、今の俺は相当に信じられない存在だろう。

 というかな、俺自身も華琳たちに会って、ぶきっちょながらに守ってやりたいとか思わなければ、一度自分の世界に戻ったって“強くなろう”だなんて思わなかったはずだ。

 じゃあ今の俺はなんで、って話だが…………惚れた弱み以外のなにものでもない。

 男ってこういう時、なんというか恥ずかしい生き物だよなぁ。

 

「まあそんなわけで、今は今で楽しもうか。料理足りないならなにか作ってくるけど」

「あぁええてええて。ここに居て一緒に飲も。一刀もサボるの久しぶりやろ? 懐かしいもんなら楽しまな損やろ」

「戻った途端にサボるとはいい度胸ねとか言われそうだけどなー……」

「ふふっ、なに。相手はあの曹操。結果を残せば怒りはしないさ」

 

 だといいけど。

 呟きつつも、ちびちびと酒を飲んだ。

 ただまあ、そういった心配はもちろんだが、別の心配もあるわけだ。

 もちろん直接華琳が知っているわけがないことでの心配なんだが、俺が果たして冷静でいられるかどうか。

 

(……俺、華琳をその、誘おうとした矢先にああなったんだよな)

 

 愛の営み云々。

 ウワァイ物凄く恥ずかしい。大事なことを大事な人の前で盛大に失敗した気分だ。

 けれども考えたところでどうにもならないのが現状なわけで。

 なら考えることを放棄して、華琳から放たれる文句でもなんでも、フツーに受け入れようか。断る理由もないだろうし。

 

(こういうこと考えてると、大体ナナメ上の提案してくるから怖いんだよなぁ、華琳って)

 

 クイッと酒を飲んで、熱い息を吐く。

 霞も冥琳も酒宴自体を楽しんでいるようで、霞は好き勝手に酒を。冥琳は霞に促されるままに酒を飲んでいた。

 猪口が空かない限りは霞も注いだりはしないようで、冥琳はあくまでマイペースでちびちびと飲んでいる。もちろん俺も……と言いたいところだったんだが、「なーにちまちま飲んどんねん」と霞に首根っこを引き寄せられ、その状態で徳利を直接口にゲボバァッ!? いやちょっ……霞!? 霞さん!? おぼれっ───溺れる! ちょ、待っ……!!

 

……。

 

 数時間後。

 

『………………』

 

 酒宴の場……東屋の卓には、酔い潰れた三人が確認された。

 しかしながら本当に潰れると、本気の本気でサボることになるので、揺れる頭をなんとか持ち上げるようにして歩く。

 一応二人にも声をかけたのだが、屍状態だ。返事もなく、ただ深い眠りについている。

 

「うあー……水分摂りまくったのに、どうして喉が渇くんだろ……」

 

 酒浸しになった喉が、ただの水を求めていた。

 ああいやいや……自分のことよりもまず、この二人を部屋に運ばないと……。

 

「はぁ……んっ! ぐぁああっだぁああっ!?」

 

 右手に氣を集中させて、自分にデコピンをする。

 弾ける氣が、普通では有り得ない音を奏で……奏で? いや、鳴らし、激痛に襲われる。

 しかし視界はスッキリした。

 

「ん、よしっ」

 

 さらには両の頬をビシャンビシャンと叩いて意識もしっかりと。

 氣で酒気が抜けるなら一番助かるんだが、さすがにそんな器用な真似は出来ないらしい。しかしながら簡単に諦めるのもどうかと思うので……

 

「外で飲むなとは言わないけど、今度からは量を考えような……」

 

 ……長く生きることになるであろうこの体で、試してみるのも楽しいんじゃないかと思い始めている。子供に戻ってみるのも案外悪くなかったのかも。いろいろなものを新鮮な感覚で見直せた。なにより“やる気と好奇心”に溢れた子供の感覚は、一定の固定的な観念や原則に縛られていた脳にはいい刺激になった。

 子供はいろいろと見ているものだっていうけど、自分自身で知ることになるとは。

 はふぅ、と小さな苦笑を漏らして行動に移る。

 まずは霞を抱きかかえて移動。

 “こんなところで寝たら風邪引くぞー”なんて言葉以前に、もうちょっと暖かい格好をしなさいと口酸っぱく言いたい気分ではあるが、きっと言ったところで変わりはしないんだろう。むしろ変えることになったらなったで、俺に買ってくれとか選んでくれとか言いそうで怖い。

 

(それくらいの甲斐性を見せろーとか言われそうだけどさ。……人数がなぁ)

 

 女性を部屋へ運びながら、トホホイと溜め息を吐く男は情けないですか?

 いやもう情けなくてもいいよ、辛くても選んで買ってをする者を男というのなら、俺は間違い無くそういった男にはなれない。金銭的な意味で。だって片春屠くんの制作費のお陰でお金少ないし。今は空飛ぶブツを作ってもらってるから、働いても働いてもお金は飛ぶ一方だ。

 はぁ……。見る人が見れば、露出の高い女性を抱きかかえてるんだから、もっと別に考えることがあるだろうとか言うんだろうけどなぁ。

 

「……幸せそうな顔で寝ちゃってまぁ……」

 

 見下ろす寝顔に苦笑が漏れる。

 ……っとと、あんまりのんびり歩いてたら冥琳が風邪引くか。

 

「及川あたりなら今現在を、“ハーレムやーん!”とか言うんだろうな」

 

 言われたらこう返そう。

 だらしなく笑っていられるのは最初の一瞬だけだぞ、と。

 

……。

 

 霞と冥琳をそれぞれの部屋の寝台に寝かせてから、厨房へ行って水を飲んだ。

 幸いと言うのもおかしな話だけど人の姿は無く、水を飲んだらすぐに自室へ。

 定期的に自分にキツケ代わりのデコピンをしながら残りの仕事を終わらせて、確認が済むやゴシャーンと机に突っ伏して潰れた。寝台まで立って歩く余力は残っちゃいなかった。

 

……。

 

 翌日。

 ……ごめん、うそだ。

 その日の夜のうち、俺の意識は「ほうわー!」と叫ぶ美羽の声で戻った。

 

「主様! おおお主様なのじゃー! いつ戻ったのじゃ!? おぉおそのようなことはどうでもよいの! うむ! おかえりなのじゃ、主様っ!」

「………」

 

 頭が重い。

 そんな頭をふるふると振るうと、意識もハッキリ……するよりも、頭にヒモ付きの鉛でもくくりつけたかのように引っ張られる感覚が。

 二日酔いというか、当日酔い?

 おおお……軽く振っただけで、遠心力に引っ張られるかのように頭が傾ぐ。

 それをなんとか我慢しながら美羽に向けて「やあ」と返す。

 うおお、やっぱりちょっとおかしい。痛みとかそういうのじゃなく、ともかく重い。熱が出た時のあの感覚に近いかも。

 

「帰ってきたのは……昼ごろ……かな。それからいろいろあってなー……」

「いろいろとな? まあなんでもよかろ、傍に居ることに意味があるのじゃからの」

 

 たととっと駆け寄り、上体を起こした俺の膝の上へと座る美羽。

 途端に、青かっただろう俺の顔が一気に沸騰する。

 もちろん酔いも吹き飛び……しかし痛みだけがこの頭にこびりついておったわ。ええい忌々しい。

 

「う、あ……いやっ、その、だな、美羽……? あ、ぁあああ……あまりその、あー……」

 

 頭、混乱中。

 しかし鼓動の度にじくりと痛む頭が、少しずつだが混乱を抑えてくれている。

 ここは酔いに感謝……でいいのか? 痛みに感謝だな。

 くそう、まさか美羽が近くに居るだけで、こうも動揺するなんて。

 いやっ! 俺はロリコンじゃ……っ…………せ、説得力がないにもほどがある!

 なんでこんな時に季衣や流琉の顔が頭に浮かぶかなぁ! 時々俺に恨みでもあるのかって気分になるぞ、俺の脳よ!

 

(落ち着けー……落ち着くんだ───……オックスベアってなんだっけ?)

 

 意味不明な思考が少しだけ落ち着きをくれた。

 よし、いつも通りだー……いつも通り動けば問題ないんだぞ、俺ー……。

 だ、大体俺はフラれたんだから、なにも一生懸命になる必要なんてないんだぞー……?

 いくら意地でも振り向かせてやるーとか考えてたからって、いやむしろそういう気概を持ってたくせに、触れられたらしどろもどろってどれだけ子供なんだよって話でだなっ……!

 

「………」

 

 ごくりと喉を鳴らし、頭を撫でた。

 すると笑顔で自分へと振り向く美羽さん。

 神様……心が満たされた気分になった俺は、もう手遅れなのでしょうか。

 




目の前に豆腐。
“うまい”と大きく書かれている。

 本日豆腐日和

 う ま い

 どんな料理にも便利
 絹豆腐

我が晩飯である。
うそです。

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