真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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07:呉/訪問者と罪④

 シーン1、桃太郎……誕生。

 

「はわわ!? 天の国では桃から子供が産まれるんですかっ!?」

「……ごくり……」

「なるほどのぉ……天の国天の国と聞いておったが、よもや誕生の仕方までもが違うとは」

「違うよ!? 一緒だって!」

 

……。

 

 シーン2、桃太郎……犬、猿、キジと出会う。

 

「て、天の国では動物が喋るんですかっ!?」

「す……すごいね、朱里ちゃん……」

 

……。

 

 シーン3、桃太郎……鬼と激闘。

 

「なんと……兵も連れず、動物を共に鬼と戦ったというのか。見事じゃのお」

「はわわわわわわ…………!!」

「あわわわわわわ…………!!」

「……ところで北郷? 二人とも、鬼が怖すぎて聞く耳を持っておらぬが」

「あれ!? なんで!?」

「お主が鬼の特徴ばかりを事細かに説くからだろうに……」

 

……。

 

 ラストシーン、桃太郎……帰還する。

 

「はわ……!?」

「え、え……えぇ……? 手に入れた財宝……民に返さないん……ですか…………?」

「民が救われん物語じゃの……それでよいのかこの話は」

「うん……今考えてみると、結構ひどいよな、桃太郎……」

 

……。

 

 昔話終了。

 一息をつくと同時に諸葛亮と鳳統は今の話について話し合い、祭さんは納得がいかない風情で腕を組んで唸っていた。

 

「どうだったかな、俺の国に伝わるお話なんだけど」

「はわ……桃太郎が急に鬼を退治する理由が掴めません……」

「村から宝を盗むから悪い鬼だったはずなのに、それを返さないのなら……その……鬼と変わらない気がします……」

「ふむ。きっと酒が欲しかったんじゃな」

「それだけは絶対に違うと思うよ祭さん……」

 

 苦笑混じりに返しながら、“春蘭も似たようなこと言いそうだな”と思わず頬を緩ませる。

 続けて言う言葉に、二人がどういった反応を見せてくれるのかが楽しみだ。

 

「……じゃあ、自己紹介を再開しようか」

「え? ……あ」

「あわ……」

「……ほう、なるほどのぅ」

 

 いい具合に緊張がほぐれてくれたらしい二人は、俺を見て少しの驚きを見せた。

 けど祭さんはニヤリと笑って二人の背中を押し、押された二人は俺の前にたたらを踏みながら来て、体勢を立て直して俺のことを見上げた途端に、またはわあわ言い出して……どうしたものか。

 

「え……っと……あ、あー……改めてー……北郷一刀だ。よろしく」

 

 それでも自己紹介をしてみるが、

 

「はわっ……」

「あわっ……」

 

 差し出した手に怯える二人の完成である。

 思わず祭さんを見て、「祭さぁあん……」と恨みがましく呟いてしまう。

 

「な……なんじゃ、儂が悪いとでも言うのか?」

「や、背中を押すことは大事だったかもしれないけど、勢いがありすぎたんじゃないかなぁと」

「むう……」

 

 さもありなん───まったくその通りであると頷く。のだが、何故か手を握ってもらえない俺に追い討ちをかけるかのごとく、二人は祭さんの後ろへと隠れてしまった。

 え? あれ? どうして!? ……俺? これ、俺が悪いの?

 

「あの……祭さん、俺……泣いていい?」

「これしきで泣くでないわ」

「うう……」

 

 ただでさえ不安を抱えているのに、こんなふうに怯えられたんじゃ泣きたくもなる。

 不安……そうだ、不安っ!

 

「───祭さん。その……甘寧のこと、報せ来た?」

「………」

 

 俺の言葉を聞いた祭さんは、ここで言うことではなかろう……とでも言うように眉間に手を当てて俯いた。

 でも気になるんだから仕方ない。

 

「仕方の無い……興覇、入ってこい」

「え?」

 

 祭さんが声をあげると、私室の扉が開かれ、甘寧が入ってきた。

 いつものような赤の着衣ではなく……どうしてか、庶人の服を纏い、結っていた髪を下ろした彼女が。

 

「え……え? 祭さん、これって───」

「段落をつけて話してやろうと思ったんじゃがな……お主が知りたいというのなら話してやろう。魏国、曹操殿からの報せはお主が気絶している内に届いていた。内容は───」

「……内容は?」

「甘興覇が持つ将としての全権剥奪、権殿に付き従うことも良しとせず。事実上、呉の将としての死を命ずる」

「───!」

 

 ずくんっ……と胸が痛んだ。

 納得するより先に、胸が……とても痛んだ。

 

「剥奪って……そんなっ、街で会った冥琳はそんなこと一言も!」

「魏に任せ、どんなことでも受け入れると決めた以上、それは当然のことじゃ。納得出来ぬこともあるじゃろうが、それが軍師というものじゃろう」

「っ……」

 

 息が詰まった。何かを言い返したいのに、なにも浮かんでこない。

 ただ申し訳ないと思う気持ちと、死ぬなんてことにはならないでよかったという気持ちを抱き、甘寧を見るが……彼女は俯いたまま何も言わない。

 

「江族頭としての立場を奪われたわけでもない。将としてでなく、錦帆賊の頭として呉に尽くすことを剥奪されたわけでもない。……が、だからといって実際にそうすれば、屁理屈を並べ好き勝手を働く恥知らずの誕生じゃ。興覇はそのようなこと、望むまい」

 

 祭さんがちらりと甘寧を見やる。

 甘寧は変わらず、俯いているだけだ。

 

「己で撒いた種だと馬鹿正直に受け取りおって。たしかに曹操殿に委ねはしたが───……いや、もはや言うまい。儂らがどう言おうが、受け入れたものは変わらぬ。むしろ問題があるとすれば、その後とお主のほうじゃ」

「え───俺……?」

 

 甘寧が処刑されずに済んだことに、とりあえずの安堵をする中、再び飛び跳ねる心臓。ごくりと息を飲み、続く言葉を待つと───それはたっぷりと間をとってから発せられた。

 

「……曹操殿から、お主への罰も届けられている」

「華琳から!?」

 

 飛び跳ねた心臓はやかましいくらいに鼓動を繰り返す。

 そ、そうだよな、警備隊長風情の俺が、他国の民に手をあげて無罪で済むはずがない。正当防衛がどうとかの問題じゃなく、逃げようと思えば逃げられた場面で、逃げずに他国の民を殴り、しかも刺され、自国の王にも他国の王にも迷惑をかけたのだ。

 罰なんて、あって当然だ。

 

「曹操殿より届けられた処罰の内容はな、お主に存在する拒否権の剥奪じゃ。今後、お主が呉を発つまでの間、呉の将の発言等に対し、拒否することを禁ず。ただし死ぬことは許さぬものとし、どんな無理難題だろうが死力を尽くして実行すること。ただし“呉に留まれ”等の拘束する類の命は許可範囲外とする……とのことじゃ」

「………」

 

 愕然とする。

 なんだそれ、何かの悪い冗談か?

 呉の将の言葉全てを受け止めて、全てを実行しろって?

 

「それって……その。誰かを殺してこいとか言われたら、実行しなきゃいけないって……ことなのかな───いってぇっ!?」

 

 頭に重いゲンコツが落とされた。

 

「見縊るでないわ。仮にも同盟国の客にそんなものを頼むわけがなかろうが」

「ち、ちがっ……一番悪い例えとして出しただけでっ……! くぅうぉおおお……!!」

 

 落ち着かないと……自分が思っているより混乱してる。

 自分の軽率な行動がこんな事態を招くこともある……そう、刻み込まないと。

 ていうかこれ、思い切り華琳さんの私情だったりする? いきなり刺されたなんて報せを受ければ驚くに決まってるだろうけど……呉に居る間だけ、言われたことをこなすって、いきすぎなんじゃないでしょうか。

 

「ふぅ……では次じゃ。お主に暴行を働いた民への処罰じゃが───」

「───! 祭さん、それはっ……!」

「黙っておれ。“拒否は許さん”」

「うぐっ……」

 

 黙ってられない……黙ってられないけど、これは俺の行動への“責任”、心配させたことへの“罰”だ。

 言われたなら受け入れなきゃいけない。どんな無理なことでも、真っ直ぐに。

 呉に居る間だけっていうなら、そう難しいことじゃない…………と思いたい。

 

「これはお主の口から、暴行を働いた民へと届けよとのことじゃ。“二度と騒ぎを起こさぬと誓い、呉の発展のために生涯を尽くすこと。これを破りし時は鞭打ちの刑とす”。……よいな?」

「…………え? それってつまり、騒ぎを起こさずに呉に尽くせば罰がないってこと?」

「無論、別口で罪を犯せば相応の罰が下る。力を示すことをやめていくにせよ、罰がないわけではない。ようするに……そうじゃな。処刑とするのではなく、呉に己の生涯を捧げよという罰じゃな。“呉の為に生き、呉の為に死することのみを許可する”。それが曹操殿が出した処遇じゃ」

「……雪蓮はそれを頷いたの? その……民の処罰と甘寧への処罰の差とか、いろいろ」

「先にどんなことでも受け入れると言っておったからな。頷いて、それで終わりじゃ。むしろ興覇に“気負いなく庶人とぶつかってみなさい”と笑って言っておった」

「雪蓮さんよぅ……」

 

 い、いや……でもよかった。誰かが死ぬ結果にならなくて、本当に。

 俺からは拒否権ってものが無くなって、甘寧は将としての地位を失ってしまったけど、俺のほうは完全に自業自得だ。

 死ぬことを除いた全てを受け入れるってことが、逆に生き地獄になるんじゃないかと不安だけど、みんなが生きていけることを今は喜ぼう。

 甘寧も自棄を起こして自害、なんてことをするつもりはなさそうだし。

 ……なんて思っていた時だった。

 

「さて、後回しにしていた“その後”についてだがな、北郷よ」

「エ? あの、罰についての話ってこれで終わりじゃ……」

「先に言っておいたじゃろう。“問題があるとすれば、その後とお主のほうじゃ”と」

「あ」

 

 その後……その後? その後って、その前はどんな話を……甘寧のことだな。うん。

 

「その後って……甘寧にまだなにか罰が下るってこと!? そんなっ───」

「黙っておれ」

「うぐぅうっ……!!」

 

 再びぴしゃりと言われてしまう。

 華琳……これって罰にしては相当に辛いよ……いや罰だから辛いのか……?

 がっくりと項垂れる俺の頭上から、見下ろす祭さんが言葉を落とす。

 俺はそれを耳にして、しばらく固まった。

 

「よく聞いておけ? 興覇にはの、お主の下についてもらうことになった」

「…………」

 

 ………………。

 

「─────────………………はい?」

「むう、ちゃんと聞いておかんか。興覇には、お主の下に、ついてもらうことに、なった、と言ったのじゃ」

「…………」

 

 エート……ナンデスカソレ。

 噛み砕いて言ってもらっても、いまいち理解が追いつかないといいますか。

 

「な、ななななな……なななんで!? だって俺魏国の警備隊長だぞ!? そんなヤツの下につくって、そんなの……自分で言うのもなんだけど、将として屈辱にも値するんじゃないか!?」

「なんじゃ、お主は警備隊の仕事を誇りに思っておらんのか?」

「誇りだよ! 誇りだけどさ! なんだってそんな……!」

「下手をすれば見殺しになる刺傷沙汰じゃ。死罪を免れるのであれば、屈辱のひとつも被るは当然というものじゃろう」

「っ…………かっ、甘寧はさ、その……それでいいの?」

 

 ちらりと、微動だにしない甘寧を見上げて言う。

 俺の言葉に甘寧はピクリと肩を震わせ、正座をしている俺を俯かせていた目で見ると───

 

「よくはない。だが罰は罰だ。貴様が殴られる様を傍観し、刺されることを許してしまった。が、その結果として騒ぐ輩が消えたなら、呉の憂いの一つが消えたということ。呉のためならば、私の地位などいくらでもくれてやる」

「う……わぁあ……!」

 

 物凄くさっぱりした、だけど熱い答えをくれた。

 聞いた途端、じっとしていられなくなるような熱い言葉だ。

 褒められたものじゃないかもしれないけど、国を思い地位にしがみつこうとしない姿勢が、とても眩しく見えた。

 そんな彼女の目が俺に向けられ、一言。

 

「貴様の下につくなど、舌を噛み切りたくなるほどに反吐が出るが、私は生きると決めた。蓮華様が死ぬことは許さぬと言ってくださった。それが、私が蓮華様に仕えた内の最後の願いであるなら、私は只管に生きるのみだ」

 

 …………うう。

 

「祭さん……祭さん……俺なんかすっごく罪悪感が湧き出てきてる……! ていうか噛み切るのに反吐が出るの!? どんな嫌われ方なのそれ!!」

「ぶつくさ言わずに噛み締めい。建業での騒ぎは今のところ起こる様子もない。結果がどうあれお主は建業の騒ぎだけでも鎮めてみせた。それによって恨まれる物事もまた、負った責任にはつきものじゃろう」

「うぐっ……でもさ、やっぱり俺の下なんかには───」

「ええい駄々をこねるでないわ! “拒否は許さんっ”!」

「うあぁっ!? ……うぉおおおおおおっ! 華琳さぁあああーん!!!」

 

 なんて罰を与えるんですか貴女は! そんな思いを胸に、頭を抱えて絶叫した。

 その声に諸葛亮と鳳統がビクゥと肩を震わせるのを見て、慌てて口に手を当て黙る。

 ……そういえばこんなことになって、まだ自己紹介も済ませていなかった。

 俺は泣き出したくなる気持ちを胸に抱きながら、正座をしたままに彼女たちをちらりと見て言う。

 

「えっと……こんな状況でごめん……。出来れば自己紹介させて……。もういろいろと辛い…………って、あの……なぜ、困り果ててる顔に輝く関心の視線を向けてるんでしょうか……」

「はわっ!? ななななんでもないですよ!? そんな、困っている顔が可愛いなんて!」

「あわわ朱里ちゃん、言ってる、自分で言っちゃってるよ……?」

「……祭さん、泣いて良しと許可してくれませんか?」

「だめじゃ」

 

 ……呉の民が笑顔になる代わりに、俺と甘寧は暗雲にも似た空気を背負うことになってしまった。

 しかもそんな民たちに自分の口から言わなきゃいけないことがあるんだよ……。

 呉に“生涯の忠誠”を誓ってくれ、出来なきゃ鞭でブッ叩きますって感じの言葉を。

 華琳さん……これって思いっきり力での制圧じゃあ……? しかも俺の口から、って……。

 ああ……今さらだけど、どうりで民たちが今日、普通に話し掛けてきたわけだ。このことを知っていれば、俺にあんな態度はなかなかとれないと思う。

 

(ああ……)

 

 あんな笑顔にそんなこと言わなきゃいけないなんて……。

 あ、いや。ならもっと、静かに伝わるようなやわらかな言い方を選んで───

 

「ああそうじゃ言い忘れておった。民に伝えるべく用意した言葉、一言一句違えることを禁ずるとある」

 

 華琳さん……俺のこと嫌い……?

 

「わかった……街に行って、伝えてくる……」

 

 突破口を開いたと思えばこの始末。

 項垂れながら立ち上がって、とぼとぼと歩き、扉を開けて外へ出ようとした───その時。

 くいっと両手が後方に引かれて、ハッとする。

 

「あ……」

 

 顔だけ振り向かせてみれば、俺の手を握ってくれている二人の少女。

 

「あ、あのっ、姓は諸葛、名は亮、字は孔明っていいましゅっ!」

「あのあの……姓は鳳、名は統、字は士元……でひゅ……」

「………」

 

 陰鬱な顔をした俺を見上げる少女達が投げかける自己紹介。

 自己紹介を返そうとするも、喉に痰がへばりついたみたいに上手く言葉になってくれない。

 だから一度手を離してもらって咳払いをすると向き直り、二人の目を真っ直ぐに見て、この時だけでも笑顔で返す。

 自己紹介の時に陰鬱な顔だけ見せるわけにはいかないから、深呼吸してから。

 

「……姓は北郷、名は一刀。字と真名がない世界からきた。……よろしく、二人とも」

 

 言葉とともに差し出す手。

 それが、今度はきちんと握られた。

 友達にならないかと言おうとしたけど、ふと自分の立場を考えてみた。

 

(……奴隷?)

 

 言われるままに拒否せず働く御遣い様の誕生である。

 そんな人と友達になりたいだろうか。

 

(どちらにしたって───)

 

 どちらにしたってまだ早い。

 今はこんな奴隷みたいな状況でも、生があるだけ良しとしよう。

 そんな状態でも信頼が得られたなら、その時は改めて手を伸ばしてみる。

 それまでは呉のために頑張ろう。どんなことを願われても、耐えられる覚悟……決めないとなぁ……

 

(どうなるんだろ、これからの俺……)

 

 これは泥を被るって意味でいいのかなぁ、じいちゃん。

 そう思いながら歩き出す俺に、何故かついてくる甘寧に頭を痛めた。

 

(ねぇ、祭さん……“俺の下につく”って、“俺の後ろに憑く”の間違いじゃないよね?)

 

 そう思えて仕方が無い自分を飲み込みながら、部屋を出て通路を歩いていった。

 重い空気を背負ったまま、民にどう切り出そうかと迷いながら。

 

(……あ)

 

 傷がどうして塞がりかけてたのか、祭さんに訊くの忘れた……。

 氣のお蔭だとかどれだけ言っても、それだけで治るのかとか訊いてみたかったのに。

 


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