真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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 お久しぶりです、凍傷です。
 随分と間が空いてしまいましたが……いえ、モンハンワールドじゃありませんよ!?
 PS4とMHWを買う余裕なんてありませんし、楽しそうだなーくらいにしておかないとどっぷりハマりそうですし。
 ただそのー……最近頭の中が固定されすぎていて、そろそろ新しい刺激が欲しいなぁと、積んでいたゲームの消化をしておりました。
 楽しかった、というか楽しいです。やっぱり商品になるだけあって、ぐんぐん引き込まれる文章とか、気づけば笑ってる自分とか、なんとも懐かしい気分で。
 何本か終わってみればモチベも結構上がっていて、けれど続編やファンディスクがあるようなゲームをやってしまうと次を次をと手を伸ばしてしまい、ズルズル。ダメなパターンですね。
 よし、頑張りましょう。
 え? 結果的にモンハンワールドにハマるのと何が違うんだ? いえいえ、結構狩りゲーでは得られない物語の運び方とか得られますよ? 別方向の刺激って有り難いです。
 というわけで、言い訳終了。遅くなりましてすいませんでした!!
 ……なのに丁度前後編モノって……お、押忍、次も早目にがんばります。


98:IF/愛を育む人①

149/愛を育む人

 

 時刻は朝。

 早朝より少々進んだ朝に、風呂に入り終えた俺と華琳と美羽は居た。

 信じられない事実を目の当たりにした様子の華琳は、カタカタと震えながら大人薬に手を伸ばそうとしているが……ハッとすると手を引っ込め、美羽に視線を戻して……またカタカタと震えだし、薬に手を伸ばす。

 

「で……寝てる途中で起きて、喉が渇いてたから水を飲みたかったんだけど水が無くて? 厨房まで行こうとしたけど暗くて怖かったから、机に置いてあったコレを飲んだ、と……。不味かったからちょっとしか飲めなかったってのは不幸中の幸いだな」

「~……!!」

 

 献上品を勝手に飲んだことで怒られると思っているのか、美羽は涙目になりながらカタカタと震えている。

 ……大変可愛くて綺麗です───じゃなくて! こんなこと考えてる場合じゃないよな! なんか隣から殺気が漏れてきてるし! 薬のことはもういいんですか華琳さん! むしろこんなところで普段から即興作り話で怖い話とかをしていたことが裏目に! 俺の馬鹿!

 

「はぁ……美羽、怒ってないからそんなに怯えなくていいよ。……それにしても、妙な偶然もあるもんだなぁ。図らずも、買った二着が役に立ったってわけか」

「うむっ、さっすが主様なのじゃっ! 妾のことをなんでも知っておるのっ!」

「ウワーイ耳がイターイ」

 

 無垢な笑顔でそんなことを言われた日には、胸がズキンと痛むのです。笑顔がカワイ───はうあ違う! 反応してない! 俺反応してないから!

 ……なんて心の中で自分に反抗してみたところで、そんな微妙な反応にも“メラリ……!”と殺意を向けてくる覇王さまが……! い、いやっ……俺もどうかと思うよ!? 眠るまであんなことをし合ってたのに、起きて風呂に入って出てきてみればコレって! 俺だって華琳が他の男とこんな状況だったら刺し違えてでも相手の男を───って物騒なことを考えない!

 でもこんな不幸な事故に俺は関係───薬持ってきたの俺でしたごめんなさい!

 

「………」

「?」

 

 華琳が美羽を見る。いっそ睨みに近いくらいにじっと。

 その視線に美羽が首を傾げる。一緒にポニーテールがさらりと揺れて、なんかこう……カワイ───じゃなくて。状況に心の余裕が追いつききれてない。で、でもさ、えと、こう……なんていうんだ? ほらっ、可愛がっていた妹がある日突然に彼氏を連れてきたような気分……どんな気分だ?

 ともかく落ち着かないのだ。

 ……あ、これだ。しばらく会わなかった幼馴染が、なんかアイドルになってました……みたいな。だって……なぁ。美羽だぞ? 可愛いとは思ってたけど、まさかなー……成長するとこうなるのか。

 落ち着きを持った、高飛車じゃない……いや、ごめん麗羽。麗羽を喩えに上げようと思ったんだけど、高飛車じゃないって時点でイメージ出来なくなってしまった。

 そもそも髪がドリルじゃない時点で麗羽をイメージできない。

 美羽も俺のことを主様って呼ぶようになってから、あまり無茶な我がままも言わなくなったもんだから余計だ。

 

「こ、こほんっ。でも、そうか。大人薬はやっぱり記憶とかはそのままなんだな」

「ええそうね。なにせそこに成長するまでの過程がないのだから」

 

 過程も得ずに成長をすれば、中身がよく知る美羽なままなのは当然か。

 なるほど、これは子供薬よりもよっぽど安全だな。

 

「……俺が飲んだら渋いダンディになれたりするだろうか」

「だんでぃの意味はわからないけれど、そういうものは望むようにはいかないものよ、一刀」

「うん……わかってた」

 

 華琳と一緒に、手にした薬を見下ろしてトヒョーと溜め息を吐いた。

 一度でいいから激シヴダンディになって流し目しつつ“ご婦人方にまたモテそうだ”とか言ってみたいとかおかしな願望を抱いていた頃の俺……さようなら。

 考えてみればじいちゃんってシヴいとかそういう感じじゃなかったもんな、きっと俺もあんな感じに成長するんだろう。

 ……シヴい以前に、視線が美羽に向かいすぎるのはどうかって話になるわけだが。なんか美羽も自分に向けられている俺の視線に気づいたようで、俺の目を覗いてみては少しだけてれてれと恥ずかしそうにしていた。

 ハテ? なんか新鮮な反応。でもなんか首傾げてるし、なにかしらの自分でもよくわからない状況に陥っているようだった。……ああ、そうこう意識している内にすぐ隣へやってきた華琳が俺の足をゴシャアと踏みつけていだぁあーだだだだだ!?

 

「ちょっ、なにすんの華琳!」

「べつに? なんでもないわ……!」

 

 怖ッ! 怖い! 笑顔が怖い!

 いやわかってるよ!? 昨日の今日で別の誰かに目移りとか相当に失礼だってことくらい! でも急に自分の体や住む環境が変わった子供の気持ちは、実際になってみなけりゃわからないんだって!

 ええそりゃね!? 俺も美羽がこんなことになってなければ、目覚めた華琳と目を合わせて顔を赤くして視線を逸らして照れ笑いとかそんな甘ったるい時間を過ごしてたんじゃないかなぁとか頬が緩むような想像だって出来てたよ! なんか今普通にそれやってて顔が緩みそうで痛い痛い足が痛いごめんなさいヘンなことなんて考えてないです! ぐりぐりしないで! 骨と骨の間に割り込ませるように踵を落としてくるのはやめて!?

 

「え、えーとそのぅ! そんな理由じゃあ美羽も喉渇いてるよな!? 今から採りたての蜂蜜で蜂蜜水をぎゃああああ耳が千切れるぅううう!!」

 

 華琳が! 華琳が輝く笑顔で耳を引っ張って!

 ああでも笑顔は眩しいのに青筋が! いたるところにある青筋がバルバル躍動してる!

 

「一刀? あなたには仕事があるでしょう?」

「え、や、朝は体を動かす時間を設けてるから他の時間に比べれば余裕が」

「あ・る・で・しょう?」

「いやいやちょっと落ち着こう華琳。俺と一緒に冷静になろう」

「あなたね。それは自分が明らかに冷静ではないと言っているようなものじゃないの」

「ごめん……自覚あるから……」

「笑えない真相ね……」

 

 二人して溜め息を吐いた。

 

……。

 

 数十分後、俺達は俺の部屋で静かな時間を過ごしていた。

 軽い柔軟ののちに食事を終え、部屋に戻って新たに積まれた仕事をこなす俺。

 その横の小さな円卓で勉強をする大人美羽に……どうしてかこの部屋で仕事をすると言い出した我らが覇王、孟徳様。

 

(………………)

 

 普通なら華琳と一緒に居られる、居心地のいい時間になる筈なのに……アハハハハ、どうしてかなぁ嫌な汗が出てくるのは。

 うん、きっと空気がどんよりしているからさ。だからわざとらしくコホーンと咳払いをして、緊張している所為か上手く椅子を後方へとやれずにガタガタと激しく音を立てつつ立ち上がった俺は、きまずさを抱きながらも窓を開放……! すると朝のサワヤカな空気が僕を包んだ瞬間部屋に篭った空気に侵食された。なにこれ助けて! 怖い! 空気が怖い!

 バッと振り向いても美羽はその空気にまったく気づいていないようで、俺が冥琳に借りていた絵本で文字の勉強をしている。強くなりましたね、美羽さん。気づかないってステキ。でも相変わらず時折に俺を見ては、視線が合うとてれてれと焦った様子を見せて、そんな自分に首を傾げているようだった。……首を傾げたいのは俺のほうなんだが。

 しかしまあなんだろう。

 何を読むにも七乃に読ませていたというのだから、文字が得意じゃないのは仕方ないのかもしれないが……なにか出来るたびに俺ににこーと微笑みながら報告してきたり、わからないことがあるたびに困った顔で俺に助けを求めてきたり……それはいい。

 なにかに夢中になるの、イイコト。よくある、“あの時に感じた高揚や興奮が、僕の心を掴んで離さない……!”とか、物語ではあるあるだし、なによりカワイ───タタタ頼られルって嬉しいモノネ!?

 俺も今、そういう“掴んで離さない”を体験している最中なんだろう。

 ほら、こうしているだけでも、孟徳様からモシャアアアと溢れ出る殺気が、“今も僕の胃袋を締め付けて離さない……!”……あれ? なんかこれ違くない?

 ともあれ、このままじゃ胃が死にそうなので出入り口の扉も少し開けて、ともかく風を……新たなる風を我が部屋に……!

 

(……ああ……)

 

 前略お袋様。男は胃袋から攻めるって言葉がありましたよね。

 俺、このまま胃袋攻められたら胃炎とかになりそうです。

 お袋様は父を家庭的に落としたとかそんな噂をおじいさまから聞いたことがあります。酔っ払っていたから本当かどうかもわかりませんが。

 俺もこうして胃袋を攻め……責められて落とされるのでしょうか。

 吐血して奈落の底に落ちそうだなんて考えはおかしいですか?

 きっとというか明らかに意味が違うのでしょうね。泣いていいですか?

 

「………」

 

 いやいや、こんな気持ちで都の仕事を請け負っちゃだめだな。もっと心構えを楽しい方向に持っていこう。

 

「~♪」

 

 鼻歌なんぞを歌って作業を続ける。

 暗い気持ちを引きずるからいけないんだよな。

 そうだ、逆に考えるんだ。暗くてもいいさって考えるんだ。

 子供の俺を見習え俺っ! 子供の頃の歌でも鼻歌で歌えば、きっと当時の楽しさを思い出せるさっ!

 そんなわけで鼻歌を。歌は……まったりとしつつも悲しみを混ぜたもの、ガンダーラでいこう。……しばらく鼻で歌ってたら華琳に“この状況でなにをそんなに楽しそうにしているのかしら?”と睨まれました。ち、違う! 楽しんでいるっていうよりむしろ逃げ出したい! さらにむしろこの空気はなんですかって俺こそがあなたに問いたい!

 でも問うたところで余計に空気が重くなるのは目に見えているので、こうして鼻歌を歌うのです。ほら、子供の頃の夜道で無理矢理明るく振る舞った瞬間のように!

 

「………」

 

 当時のことを思い出して、少し頬を緩めた。

 ……が、次の瞬間にはその夜道でどうして怖がってたのかを思い出して、少しヘコんだ。幼少時の四谷怪談はトラウマだ。なんであんなものをドラマチックに演出しようって考えたんだ、TV局は。

 内容なんて大して覚えちゃいないのに、怖かったことだけは染み付いているものだ。でも内容を思い出すためにもう一度見る勇気なんてないわけで。

 

「……失敗した」

 

 余計に集中できなくなってしまった。

 しかしながら自分の頭の中のスイッチは空気を読むことからトラウマ方面へと切り替わってくれたようで、さっきよりは胃に負担はかからなかった。

 むしろそんな自分の頭の切り替えを切っ掛けに、自分の過去を思い出してゆく。といっても剣道以外のことばかりだ。……剣道のこととなると、いろいろとしごかれている記憶しかない上に……天狗になって鼻を折られた記憶までずるずると引き出されるからヘコむ。

 ……もっと真面目にやればよかった。

 後悔って言うのはほんとうに、先に立ってくれないもんだ。

 

「んー……」

 

 自分のペースがようやく訪れる。

 朝のゆったりした時間が俺の生活習慣にガッシリと嵌るような感覚。

 この感覚がくると、大抵のことでは動じずに……むしろ人の声も聞こえなくなるという厄介さもあるのだが、作業は進む。鍛錬の時と似たような集中力だ。

 耳の奥でキィイイ……インとうっすらとした小さな音が鳴って、耳鳴りかと思ってそれに集中すると外の音が聞こえなくなる。

 

「………」

 

 さらさらと筆を動かす。

 意識のほぼは頭の中に。

 街を歩き、聞き込むことで得た情報と案件の相違点を調べ、どこをどう改善してほしかったのかを自分が耳にした情報と書かれた情報とを比べて決定する。

 解らないこと、疑問に思ったことは軍師に訊くべしとはいうものの、生憎と七乃も冥琳もまだ帰ってきていない。必然的に華琳に訊ねることになり、華琳も俺が仕事に集中していると知ると普段通りの態度で助言をくれた。

 

「……~」

 

 思考が都の方向へ向いていくと、自然と笑顔も困惑も増えてくる。

 こうしてほしいという案件も、そうすることでどうなるのかを考えた上で決定していかなければならない。

 かといって保留にしすぎれば民は不満を抱くし、それを民らに相談しにいっても……やっぱりどうしても“現在”を求めすぎていて、あとのことを考えない人が大体だ。

 今を生きるって言葉は素晴らしいけど、時に思考を濁らせますです。

 わざと明命的な口調で思考を展開。苦笑をもらすことで、暗い方向に意識がいきすぎることを防いだりした。地味だけど、意外と効果がある。

 集中力も続いてくれてるし、その集中力を鬱の方面に回してはもったいない。

 なので仕事を捌く。

 格好いい自分なんて置いておいて、今は国へ返せる自分であれるように。

 なんてことを思っていたら急に俺が座っている椅子が後方へ引かれ、空いたスペースを利用して俺の膝の上に乗ってくるお方がひとり。

 ふわりと漂うのはいつもの香り……なのに、視界がまるで違った。

 

「の、のう主様? 今日も教えてほしいところがあるのじゃがの……」

 

 美羽だった。

 いつもとは違う重み、やわらかくはあるのだけれど、子供の特有のやわらかさではない膝への重みに一瞬思考が持っていかれる。

 むしろ小さくはない美羽のこの行動自体に思考回路が吹き飛び、ワケもわからず口をぱくぱくと開閉。それを見た華琳がガタッと立ち上がり、同じくぱくぱくと口を開閉しているのだが……ああ、またトラブルの予感。

 いや……でもな、華琳。落ち着いて考えてほしいのだ。

 彼女は確かに美人に成長し申した。しかしながら、しかしながら……中身はそのまま美羽にてござる。中身が我らの知る美羽のままなのでございます。ふふっ……そんな状況を前に、この北郷めがそこまでの動揺を見せるとお思いか?

 

「……一刀。なぜ余裕顔で胸を張っているのかは知らないけれど。顔が真っ赤よ」

「なんかもうごめんなさいっ!」

 

 だって子供の頃に好きになった相手なんだもの!

 そんな相手がこんな美人に成長して、動揺するなって無理な話だ! しかもその美羽が完全に信用しきった顔で俺を見つめてくるのですよ!? なんかもう胸がいっぱいで……!

 

「うみゅ……いつもと見える位置が違うのじゃ。胸も重いし、邪魔じゃの……」

「!!」

「ヒィッ!?」

 

 美羽の何気ない言葉に、華琳が再び黒い笑顔に!

 漫画的表現だったら頬あたりに浮かんだ血管が破裂して、頬から血が飛び出てるようなそんな一場面が目に浮かぶようだ!

 ていうか美羽! もぞもぞ動かないで! どれだけ視線を以前のものに戻そうとしても、俺の足に美羽の体がめりこむわけじゃないから! おわわわわやわらかっ、いい匂いっ───じゃなくてぇええ!!

 

「……一刀」

「男でごめんなさい!!」

 

 錯覚だろうけど殺気という名の眼光が、本気で華琳の目をギシャアァと輝かせたように見せた! 殺気が視線を通して眼球を貫いたような寒気を感じました、もう勘弁してください! ああ、集中力が! 集中力が裸足で逃げていくよぅ! ……どうせ逃げるなら画鋲を踏んで痛がる集中力さんを思い浮かべてみた。よし、裸足で逃げるきみが悪い。現実逃避って虚しいよね。

 

「あ、あー……美羽? せめて足の間に座ってくれるか? じゃないと視界的に仕事が捗らないから」

「おお、わかったのじゃ」

 

 ……言ったことには素直に頷いてくれるんだよな。

 うん、いい子。

 でもあちらの覇王様は「どうしてそこで下ろさないのよ……」とぶちぶちと……あのー、聞こえてますよ、華琳さん。

 どうしてと訊かれれば、美羽は美羽としての普通な行動を取っているだけだ、と……俺が俺に言い聞かせているからとしか言えない。明らかな行動の変化は相手を傷つけるし、その所為で美羽とのこの……なんというかほわほわとした平和な関係が崩れるのは、俺としては嫌なのだ。

 ……日々ってね、癒しが必要なんですよ。わかってください華琳さん。


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