真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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99:IF/愛を育む人(再)②

 ───衝動的に口が動いた。途端に嫌な予感。

 何を言うつもりだ、と自分で自分に問いかけるが、答えが見つからないままに口が動く。嫌な予感がして止めようとするのに、焦りに抱かれた自分は止まれない。

 ただ、本当に嫌な予感がした。

 自分の居る位置を、今の状況を守るためだけに他人を傷つける……そんな嫌なイメージが胸に湧いた。

 それは、きっと初めてじゃない。

 小さい頃、自分は剣道で一番強いのだと力を誇示して得意になっていた頃。家がたまたま道場で、たまたま他のやつより学ぶのが早くて、たまたま他のやつより強かったから、自分より弱いやつを負かして天狗になっていた。

 自分は強いのだという位置を守り、強いから馬鹿にされないという状況を守るために、懸命に練習をしていた他人を傷つけた。この感覚は……あの時とひどく似ていた。

 それはこんな状況になってひどく取り乱していた心を、あっという間に冷やしてしまうくらいに味わいたくなかったもので、だからこそすぐにそのイメージを……初めて敗北した瞬間を思い出すことで、無理矢理に止めた。

 

「………」

「…………? 主様……?」

 

 気持ち悪くて吐きそうになるくらいの敗北感と悔しさ。

 込み上げるそれを飲み込んで、胸を何度もノックした。

 一回くらいじゃ立ち直れないほどの覚悟と時間が必要だったあの頃に比べて、自分は少しでも成長できたのかな、なんてことは……時間が経つたびに何度も思った。

 結局思えば思うほど惨めになるだけで、こうして同じ思いをしている今でも……きっと成長なんて出来ちゃいないのだ。事実、目の前では俺の勝手の所為で不安がっている人が居るんだから。

 

「………」

 

 さ、北郷一刀。

 誓った覚悟を思い出してみろ。

 そして並べてみて、今の自分との接点と矛盾を数えて笑え。

 好きになっていこうって誓った。

 支柱らしく、俺らしくあろうと誓った。

 自然とそういう状況になったら受け入れようって誓った。

 少しずつ歩いていこう、前を向いていこうって誓った。

 目標があるなら進み、理由があるなら立とうと誓った。

 そして───……そして。国に返していこうって、誓った。

 

「……すぅ……はぁ」

 

 誤魔化すのは無し、なんだよな。

 好きなら好きって何度でも言う。届くまで言う。

 はぐらかされても聞くことは聞く。

 なんか言ったか、なんて聞き返さない。

 自分に正直に。好きな人には、大切な人にはきちんと伝えろ。

 今は、それが国に返すことなんだから。

 

「───……うん」

 

 美羽の両手の中にある右手ではなく、自由な左手でトンッとやさしく胸にノック。そして、その手で美羽の頭を撫でると……もう一度覚悟を頭の中で決めて、きっぱりと言う。

 

「美羽。俺は、美羽のことが好きだよ。妹とかとしてではもちろんなくて、面倒を見る相手としてでもなく。一人の女の子として、美羽のことが好きだ」

「───」

 

 やさしさが口から漏れたかと思うくらいに、愛おしく美羽の頭を撫で、そのまま頬に手を添え、目尻に溜まった涙を拭う。

 美羽はそうされるがままに、まるで何を言われたのか理解出来ないと言うかのようにぽかんとして……次第に理解が全身に回ったのか赤くなっていき、慌てるでもなく騒ぐでもなく、ただ……そのままの表情でぽろぽろと涙をこぼした。

 

「へぇっ!? やっ、えぇっ!? み、美羽っ!?」

「……? あ、う……?」

 

 もちろん相当に驚いて慌てて何度も拭うのだが、拭うたびにぽろぽろとこぼれる涙。

 美羽自身もどうして涙が出るのかがわからないらしく、自分の手でも拭おうとするのだが……その手のどちらもが俺の手を握っていることに気づくと、涙をこぼしながら俺の目の奥を覗き込み……くしゃりと顔を歪ませ、しかしそのくせ嬉しそうという難しい表情で俺の手を顔へと引っ張って、涙を染み込ませるように頬擦りをした。

 ……ちなみに俺は慌てたままで、しかし告白をして、しかも受け入れられたのだと自覚するとともに、なんだか胸に閊えてたものが落ちたような気分になった。そうなると不思議とやさしさばかりが溢れ出して、泣きすがるような美羽を寝台に膝を立てながら胸に抱き、その頭をやさしく撫でていた。

 美羽が───彼女が泣き止むまで、ずっと。

 

……。

 

 …………で。

 

「~♪」

「…………えーと」

 

 急に大きくなり、急に恋心を無理矢理知ることになり、急に恋をして急にそれが叶った少女はというと……泣きつかれて寝るかと思いきや、とろりととろけた表情で俺の腕に抱きついていた。

 そうして寝台に座るカタチとなっている俺達とは対象的に、そんな僕らの視線の先に仁王立ちするのは我らが魏王曹操様。笑顔です。笑顔なんだけど、なんか殺気を感じたり感じなかったり。

 

「えと……華琳?」

「……べつに、自覚しているからいいのよ。これも自分のためなのだから」

「? 自分の? ……って?」

「……だ、だから。あなたがそうして誰かと連れ添う度に怒っていては、こちらも身が保たないと言っているのよ。必要なことなのだから、私のことを気にする必要はないわよ」

 

 胸の前で腕を組みながら、ちらちらと俺の腕に猫のようにすりすりと頬をすり寄せる美羽を見ては、笑顔に青筋をプラスする僕らの覇王さま。そんな目が俺に何かを促していた。

 

(覇王は言っている……さっさとやれ、と……!)

 

 やれ、というのはつまりアレなのですね……?

 いや、でも、さぁ……さすがに告白した次の瞬間って……さぁ……。

 ももも物事には順序がありまして。

 いえ別に怖気づいてるわけじゃないですよ!?

 怖気づいたわけじゃなくてその……いやそりゃ告白して次の瞬間なんて今さらだろとか言われたら何も言えない訳ですがね!? いろいろあるの! いろいろ! 今まで受身だったのに自分から告白したの! なのにそれが次の瞬間アレってなんかいろいろと……! さぁっ……!

 

「美羽。あなたは、一刀があなたにすることならばなんでも受け入れる覚悟があるかしら」

「おおっ、それは勿論なのじゃっ! 妾、主様のもとに妾の全てを置くと決めたのじゃからのっ!」

 

 フンスと目を輝かせ、腰に手を当てて胸を張る美羽さん。

 拍子に大きく揺れた一部に、華琳のコメカミあたりからビキッという嫌な音が。

 

「それがどんなに辛く、苦痛を伴うことでも?」

「う、うみゅ……? 痛いのかの……? ……うみゅ? …………おおっ、考えてみれば主様が妾に対して、実りにならぬ痛みなどくれる筈がないのじゃっ! ならば安心じゃのっ!」

「………」

「………」

 

 なんだか無性に恥ずかしくなって視線を逸らした。

 華琳もなんだかおかしな質問をしたとでも思ったのか、無邪気な少女の純粋さを前に顔を赤くして壁へと視線を逸らしていた。しかしそんな視線が美羽へと戻ると、もうその表情はいつもの華琳のものに。

 

「それじゃあ美羽。あなたはこれから一刀に抱かれなさい」

「? もう何度も抱かれておるのじゃ」

「…………一刀?」

 

 いつもの顔が般若に変異!? そして空気が軋んだ!!

 違う誤解だ濡れ衣だ! だから般若顔で殺気はやめて!?

 

「ヒィ違う!! 抱くって意味が違う! “抱き締める”! 後ろからこうやって! ね!?」

「はぅ。な、なんじゃ……? いつものことなのに、妙にここがうるさいの……」

「うわぁごめんいきなり抱いて!」

 

 思わず抱き締めて“こういう意味ね!?”とアピールするのだが、後ろから抱き締められた美羽が斜め後ろに俺を見上げる表情に思わずババッと手を放す。

 美羽はどうして急に離されたり謝られたりしたのかわからないようで、「いつものことであろ……?」と不思議がっていた。が、顔は恥ずかしそうな表情のままだ。“ここがうるさいの”と言った通り、胸を押さえたまま。

 ア、アウゥ……! あの幼く、無邪気だった美羽が……! あんな、あんな恥ずかしそうな顔を……!

 

「………」

 

 急に娘の成長を見てしまった親の心境ってこんななんかな……。いや、親でもないし兄でもないんだけどさ。

 

「それで、主様……? 妾、主様に何をされるのかの……」

「華琳説明よろしく!!」

「えなっ!? む、無茶言うんじゃないわよ!」

 

 かつてない速度で華琳に投げたら真っ赤な顔で却下された。

 説明しろと!? 抱かれるの意味を事細かに!?

 ……ああっ……ああ、だがっ、ジョジョ……じゃなくて、じいちゃん……! 俺、言ってしまったんだ……! 決めてしまったんだ……! 誤魔化さない覚悟を……!

 

「エ、エートネ? ソノ……コ、コドモハドウヤッテデキルカ、シッテルカナー? ……えぁちょ待っ、ゲーヴェ!」

 

 脇腹にトーキックが炸裂した。覇王の貴重なトーキックである。

 思わず奇妙な悲鳴が漏れるほど、それは嫌な部分に突き刺さった。

 あまりの痛みに体がくの字に曲がる。あと変な悲鳴が出た。ゲーヴェってなんだ。

 

「あなたねっ! 言うにしたってもっと気の利いた言葉があるでしょう!?」

「ア、アオオオ……! だっ……だだだだっだだだだったら華琳がやってみろよぉっ!! ここここれでも顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったんだぞぉっ!?」

「だからなにも泣くことないでしょう!? ……まったく、いいわ。だったら軽く言ってやろうじゃないの」

 

 華琳がスッと目つきを変える。

 Sっぽい目だ。主に春蘭と桂花をいじり倒す際に見せる。

 

「美羽。あなたはこれから一刀に女にしてもらうのよ」

「? なにを言っておるのじゃお主は……。妾は生来、女性なのじゃ」

「そういう意味ではなくて。子を成す行為をする、と言っているのよ」

「……妾と曹操とで子が成せるわけがなかろ?」

「そうではなくて! だからっ! するのは一刀とあなただと言っているのよ!」

「う、うみゅ……? なにを怒っているのか知らんが、もそっと心を広く持ってみるがよいぞ? 主様のようにの。うほほほほ」

「……! ~……!」

 

 あ、あぁああ……華琳のコメカミがバルバルと躍動を……!

 あ、でももう少し怒りにくくなってくれればというのは賛成かも。

 もう何度、絶を突きつけられたかわからないもの。

 

「もういいわ一刀。早くしなさい」

 

 再び、漫画表現だったら血管が切れて血が飛び出てそうな笑顔だった。

 笑顔なのに表情がないように見えるとか、ある意味すげぇ顔でした。凄いじゃなくて、すげぇって言葉が妙に合っている。

 

「いや、でもな。やっぱりさすがに大人になった当日にってのは」

「……あなたは。本当にいちいち理由がなければ動けないのね。……いいわ、ならば正当な理由を用意してあげるわよ」

 

 はぁ、と溜め息。

 目を伏せてのソレは、苦労を滲ませるような行動ではあるものの、妙に華琳に似合っていて目を惹き付ける。もっとも、本人はこんな行為で目を惹き付けたくなどないのだろうけど。

 そんな華琳から改めて告げられた言葉に、俺は───

 

「三国の支柱への献上品を二つも飲んだのだから、罰は当然よね?」

 

 ……汗をだらだら流し、真っ青になりながら頷くしかありませんでした。

 

……。

 

 結局。

 あれからなんとか華琳を説得して、数時間の猶予を貰うことに成功した。

 なんでそこに許可が必要なんだというツッコミに関しては、俺のエゴのようなものだ。

 やっぱり大人になった途端にそういうことをするのは抵抗があって、だったらせっかくなら……生まれたばかりの恋心、乙女心とやらを育んでからのほうがいいじゃないかと思ったのだ。

 なので……本日は美羽とデートのようなものをしている。

 ……うん、まあ、ようなものというかデートなんだけどね。

 金がもうあまりないから、ようなものとつけたくなるんだよね。

 お腹が空いたらわざわざ街から城へ戻って厨房で食べて、また出てなんて面倒なことをやっているあたり、少し情けない。でもわかってください、服って高いんです。

 

「のうのう主様っ、次はあそこっ、あそこへ行くのじゃっ!」

 

 それでも美羽はご機嫌だった。

 軽く頬を染めて、笑顔で俺の腕をぐいぐいと引っ張る。

 最初こそ慣れない大人の体や歩幅に難儀していたのものの、慣れてしまえば元気なもの。俺は腕を引かれるままに小走りして、美羽が望むようなデートをした。

 行動のひとつひとつの度に赤くなったり目を潤ませる美羽はある意味で目に毒で、俺の中の子供の俺が、“我が人生に悔い無し”とか言って召されてしまいそうな瞬間ばかりに遭遇する。つまり俺も結構舞い上がっているのだ。

 だからといってそんな舞い上がりが面倒なことを引き起こすフラグになることもなく、街で散々と遊び通した俺達は川に行き、暗くなるまで今日あったことで楽しかったことを話し合って……城へと戻る。

 

「………」

「?」

 

 もはや真っ暗なくらいの夜。

 胸が苦しいから夕餉はいらないと言った美羽とともに、自室の寝台の上へと腰掛けて、見つめ合うと首を傾げられる。

 当然のことながら美羽はこれからすることなど知らないようで……ならばと、まずはわざとらしい咳払いののち、相手のことがどれだけ好きなのかを語る。

 すると美羽も負けじと俺への好意を語って…………もう俺、顔がじんじんするほど熱かった。確実に真っ赤ですすいません。手で口元を押さえて、ニヤケてしまうのを押さえる以外耐える方法が見つからない。

 しかしながら誤魔化すのはやめると決めてしまった事実を胸に、もうニヤケようがどうしようが構わないと覚悟を決めて美羽の目をじっと見つめた。

 潤む瞳が俺の目の奥を覗き込んでいる。

 胸が苦しいと訴える美羽にその意味を一から教えなければならない気恥ずかしさとも戦いつつ、やがて距離を縮めて口付けをした。

 美羽はなにがなんだかわからないという顔をしていたが、

 

「うみゅぅうう……余計にここが苦しくなったのじゃ……。曹操が言うてた痛みとは、このことなのかの……」

 

 ぽつりぽつりと呟いて、それでも目は逸らさぬままに今度は自分から俺に口付けをしてきた。

 勢い余ってガヂィッと歯がぶつかって、しばらく悶絶したのは……まあ、いつかいい思い出になるだろう。

 唇を痛めたと言う涙目の美羽にもう一度口付けをして、痛いという部分を舌で撫でる。美羽はくすぐったそうにして離れようとしたが、少し離れるとまた自分から口付けをしてきて、痛む部分を自分の舌でも舐めて、自然と舌が触れ合った。

 

「あぅ……なんだかくすぐったいの……。お、おお……?」

 

 胸の痛みからか苦しそうにしていた美羽の表情がとろんと変化する。

 唇を離して胸に手を当てる美羽は、小さく「……苦しくなくなったのじゃ」と呟いて再び俺を見つめる。その目は“やはり主様は無意味な痛みなどは与えぬのじゃのっ”と言っているようで、なんか軽い罪悪感。これって知識があることをいいことに、軽く騙していることに繋がりやしませんか華琳さん。

 そう思ったところで、華琳はもうここにはいないのだが。

 思わず苦笑が漏れてしまいそうになる俺をよそに、美羽は「きっと主様の口には万病を癒す効果があるに違いないのじゃ……!」なんてことを、信頼に満ちた目で呟いておられる……! なんだか誤解が誤解を生んでいる……あの、美羽さん? 御遣いってそんな便利なものじゃないからね? ただの人間ですからね!?

 なんて心の中で誤解を解くイメージをするのも束の間、美羽は首に飛びつくようにして俺の唇に自分の唇を押し付けると、再び舌を突き出して俺の舌を探る。

 俺はといえば……突然の美羽の大胆な行為に頭が真っ白になって停止。舌を発見され、舐められ、その感触に体が驚くのと同時に戻ってこれた。しかしながら相変わらずどうして急にって言葉は頭からは離れず……美羽に吸われるままに、キスを続けていた。

 

「ん、む、ぅっ……み、美羽っ……? ちょっ……」

 

 熱心にキスを続ける美羽。

 ……なのだが、その行為の途中であることに気づいた。

 美羽は俺の口内を舌でなぞったのち、引いた舌を自分の唇に擦り付けていたのだ。…………それってつまり?

 

(……いや……美羽さん? 万病に効かないからね? いくら痛いところに唾液を塗ったって効果なんかないからね?)

 

 理由がわかって苦笑が漏れる。漏れる中でも口は美羽に塞がれていて、軽い人工呼吸のようなカタチになった。それがくすぐったかったのか、美羽はさらに口を押し付けて、俺の口内に息をふぅーっと……ってやめて!? 肺が破裂する!

 急に体内に送られた空気に体が驚く。

 そんな行為をやめさせるために顔から離して胸に抱いた美羽は、楽しそうにくすくすと笑っていた。しかしそんなくすくすも少しすると聞こえなくなり、見下ろしてみればやはりとろんとした顔で、俺の胸にこしこしと頬を擦り付けている。……まるで猫だ。

 

「んみゅ……主様は温かいの……」

「そか? 美羽も温かいぞ」

 

 抱き締めながら、やさしい気持ちで美羽の頬を撫でる。

 その過程で頬にかかった髪を軽くどけようとした人差し指が、ぱくりと美羽に銜えられた。

 手が両手で掴まれて、指先がぺろぺろと舐められて……くすぐったい、と思った矢先にコリッと軽く噛まれる。……うん、猫だな。猫ってなんでか舐めた後に噛むよな……なんでだろ。

 

「………」

 

 指先を舐められながら、頭を撫でる。

 くすぐったそうにする美羽に、思わずやさしげな笑みが浮かぶ。

 込み上げてくるのは温かな気持ちばかり。

 その感覚をよく知る自分にとって、それは今まで受け取るべきものではなかったのだろうけど……

 

(ああ……俺は本当に、美羽のことが好き……なんだなぁ)

 

 それは魏のみんなに向ける感情と同じだった。

 つまり好きなのだろう。

 もはや子供の俺がどうとかではなく、俺自身も。

 子供の頃の感情に引っ張られたって感覚はもちろんある。

 けど、じゃあ嫌いなのかと言われれば好きなのだと胸を張れてしまう。

 ……なんだ。

 育むことが必要だったのは美羽じゃなくて、俺だったのかもしれない。

 自分が自覚する時間が欲しくて、時間稼ぎをしていただけなのか。

 理解してみればなんとも恥ずかしい。

 素直に好意を向けてくれる、中身は少女な彼女に、なんてもったいぶった行動をしてやがるのか、自称大人な俺は。

 

「………」

 

 思考の海に沈んでいた頭を持ち上げて、胸をノック。

 美羽をきちんと女性として受け入れる覚悟を決めて、俺の人差し指をちうちうと吸っている美羽を抱き起こして……その口に自分の口をやさしく押し付けた。

 好きになる努力、支柱になる努力。

 言葉はいろいろと並べた。

 じゃあ好きになったらどうするんだと訊かれれば……きっとまた悩むに違いない。

 好きになったからってすぐに抱いていいってことには繋がらない。

 ならやっぱり、また育もうとするのだろう。育む努力をして、相手も自分を求めてくれるのなら、その時こそ止まらない。

 相手がそういった行為を知らない場合はどう求められればいいんでしょうと、自分で自問をしてみるが……

 

「そ、その……主様? 妾たち、これから……子を成す行為をするのであろ……?」

 

 既に孟徳さんによって敷かれた計により、なんというか俺はもう、いろいろと受け入れなければいけないようだった。

 俺から少し離れて真っ直ぐに俺を見つめて言う美羽からは、わがままばかりだった少女の雰囲気など感じない。そんな綺麗な瞳のままに、美羽は俺の目を見て笑うのだ。

 

「大丈夫なのじゃ。妾や主様もそうして産まれたのならば、妾はその行為に感謝しかないでの。そ、その……少々怖いのじゃが、きちんと我慢出来るの……じゃ?」

 

 ……いろいろとごちゃ混ぜな眼差しではあったが。

 不安を見せたり首を傾げたりおろおろしたり、やはり行為自体は知らないようだ。けれどその手は“離すものか”と俺の手をぎゅっと握り、目は俺の瞳の奥を捉えて離さない。

 そこまでの覚悟を相手に見せられては、引くほうがひどいだろう。

 じゃあ、と。

 俺はもう一度美羽にキスをすると、彼女を引き寄せ、後ろから抱き締めた。

 大人になったといっても、やはり腕には納まる大きさ。

 そんな彼女をぽすんと抱き締めた俺は、肩越しにもう一度彼女にキスをする。

 互いに唾液を交換しながら、時につつくように、時に深く。

 そうしながらゆっくりと体に手を這わせ、くすぐったがる美羽をゆっくりと、時間をかけて愛した。


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