真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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99:IF/愛を育む人(再)③

 

 朝である。

 朝日が窓から部屋へと降りて、薄暗い部屋に光の斜線を作っている。

 そんな光を寝転がった状態のままにぼーっと見つめ、そののちに自分の胸の上ですいよすいよと眠っている美羽を見た。

 

「………」

 

 ああ、ああいや、うん。わかってる。北郷わかってるよ。

 なんかヘンな言い回しだけど、ちょっと軽くヘコんでる。

 我慢がよくないと言ったことに嘘偽りはなかった。

 人を抱くのなら、持ち得る限りの愛を以ってと精一杯愛した。

 それはもう深い愛だったと自覚出来る。

 痛がろうと我慢する姿に胸が締め付けられて、愛が余計に湧き出したのも覚えてる。いや、まあ行為の全てを覚えているわけですが。

 ただ思い返されるのは七乃の言葉。

 美羽は意外なことに初めてではなかった。

 いつか七乃が、蜀での顔合わせの時に“男性の方でしか知り得ないことも”だの“実際の殿方によって涙を散らす瞬間”だのと言っていたが……あれってつまり? つまり、七乃は───

 

(漢…………だったのか───)

 

 大変な事実を知ってしまった……!!

 いや、いやー……いや、ねぇ? ハ、ハハハハ? さすがにそれはない…………ないよね? でも美羽も、行為の最中に“七乃とした発声練習に似ておるの……”とか言ってたし。……は、発声練習? この時代の人は発声練習で初めてを散らせるのか? と本気で信じかけた。

 ……七乃が帰ってきたら、いろいろと訊かないとなぁ。

 

(………)

 

 胸の上で眠る美羽の頭を撫でて、苦笑。

 そして何かを忘れていることを……思考の途中で思い出した。

 

 

  いつかお嬢さまにも色を知る歳が来るんでしょうね……たとえば目の前の、悔しいけど顔だけはいい男性にいいように扱われて……扱われて……っ……その時は是非とも私も混ぜてくださいね?

  お嬢さまが実際の殿方によって涙を散らす瞬間……それを見なければ、私としましては一生悔いが残りますので。お嬢さまの全てを知ってこその側近。お嬢さまの無茶振りの全てを受け止め、やさしく包みつつ、時にはからかって涙に滲むその可愛らしいお顔を愛でる……それが、この張勲の至高の喜び……! ああもうっ、お嬢さまったら可愛すぎますっ!

 

 

「………」

 

 …………わあ。

 七乃、居ないや。

 

「……はぁあ~……ぁあ」

 

 溜め息を吐きつつ、やっぱり美羽の頭を撫でる。ずっと乗っかられてた所為で痺れて動かしづらい腕をギゴゴギギギ……と動かした。ああっ! 痺れてるっ! 思いっきり痺れてる! しかもこの調子だともう少し時間が経つと痺れが本格的にやってきそうで怖い!

 でも、撫でるとくすぐったそうにむにゅむにゅと口を動かす美羽を見ると、自分も思わず笑ってしまう。むにゅむにゅ動いた口が何を言っているのかはわからないが。

 そんな幸せそうな顔を見て、抱いたことに後悔はあるかと自問してみても、悔いなんてものは浮かんでこなかった。

 ……ようやく、そういった“立場”や“感情”を受け入れられたんだろうか。立場だけで抱くのではなく、ちゃんと好きだから抱きたいと思える瞬間を。

 というか、こんなに幸せそうなのに悔いがあるって言ったら最低すぎるだろ。

 

「うみゅぅう……」

 

 美羽がもぞりと動く。

 と同時に、下半身に走る心地良さ。

 …………いや、うん、行為自体に悔いはないだろうけど……抜かずに力尽きるまで、というのはいささかどうかと思った。

 “これが子を成すための行為じゃったのか……!”と驚いていた美羽だったが、“ならば初めてのおのこは主様ということじゃの!”と嬉しそうに言った美羽。

 どうやら初めての相手(おそらく七乃)とは太さが違ったようで、とても痛そうにしていたが……抜こうとしたら捕まり、逆に押し倒され、この姿勢のままに何度も行為を……!

 なんでも初めての相手(おそらく七乃)とは一度どころか二度でも終わらなかったようで、“それを越すほどやらなければ嫌なのじゃ!”と涙目で言われてしまい……でも苦しいなら一度抜こう、と提案をしてみれば、“抜いたら初めてではなくなるであろ!?”と何故だか逆に熱い説得を受けるはめになり…………こんなことになってしまった。

 初めてって、そういう問題なのだろうか。

 やっぱり俺には、まだまだ乙女心は難解なのかもしれない。

 

「ん……ん、みゅ……?」

 

 はふぅと苦笑とともに溜め息を吐くと、それが髪でもくすぐったのか、美羽がうっすらと目を開ける。

 寝惚けた調子の瞳が俺の視線と合うと、美羽は幸せそうな顔でふにゃりと微笑み、「おはようなのじゃ、主様」と言った。

 ……なんか、軽く幸せ。

 それから美羽が体を身じろぎした拍子に、まだ自分の中に俺のモノが入っていることを思い出すと、真っ赤になりつつも俺にくちづけをして、ぽやりととろけた表情のままに体を動かしだして───って美羽さん!? さすがに朝からはちょ───って! 人! 人の気配! 来る! ちょ、美羽待った! 待って待って待───

 

「お嬢様ぁっ! 朝ですよっ! お嬢様の七乃がっ、今帰ルヴォァアアーッ!?」

「キャーッ!?」

 

 ───朝から強烈な刺激に身を弾かせたまさにその時、自室の扉を物凄い勢いで開け放った誰かが絶叫。誰かというか七乃でした。

 いつもの怪しいニコニコ笑顔で美羽を起こすつもりだったらしい彼女はしかし、俺が買ってあげた服を淫らに着崩して俺と繋がっている現場を発見、そして絶叫。

 というか大人になった状態など気にもせずに口をぱくぱくと開けては閉じて───……そそくさと外へ出ると、扉をパタムと閉じた。

 

「………」

 

 ……多分、大人になった美羽を見た俺も、傍から見ればあんな感じだったのだろう。

 なんかルヴォァアアって叫んでたし。

 ……ていうか美羽が気づいてない。

 視界も聴覚も俺にしか向けていないようで、なのに俺がキャーと叫んでも特に気にした様子もなく、うわ言のように主様……主様ぁと漏らして俺にキスを……ってちょっと待ったほんとに待った! 今はこんなことをしている場合じゃないんだってば!

 そ、そうだよ失念してた! 出かけた人は帰ってくるのが当然であって、あの七乃が遠出をして帰ってくるなら一番に会いたいのは美羽なわけで! なのにその美羽が大人になってて俺とこんなことをしていれば叫ぶのも当然で………………や、叫ぶ要因はこの行為だけで十分だけどさ。

 ああっ! 寝起きのまったりとした、やさしさに溢れた時間が裸足で逃げていく! さっきまで感じていた幸せが七乃の絶叫で埋め尽くされてゆく! ……なんて思ってたらなんか普通に扉を開けて戻ってくる七乃さん。

 ピンッと指を立てて、元気に「はいっ♪」なんて仰ってる。

 

「曹操さんに確認を取ってきました。いやいやまさかお嬢様が大人になるだなんてっ! しかも大人になった上に大人の階段を上ってしまうなんてっ! お嬢様ったら逞しすぎますっ!」

「………」

 

 七乃は絶好調で七乃だった。

 しかもにっこり笑顔で服を脱ぎ始め───脱ぎゃあああああっ!?

 

「いやちょっ、七乃さん!? なんで!?」

「なんで、って……いやですねー一刀さん。蜀での顔合わせの時に言ったじゃないですかー♪ お嬢様の殿方での初めてを散らしたのちには、私もと」

「───」

 

 血の気が引いた! なのに下は元気ですごめんなさい!

 

「えっ、やっ、あのっ……あれは、冗談だったんじゃ……!」

「まあ当時は。ですが自分が認めた殿方ならばとは、きっとこの世ならば誰もが思いますよ? 子を成すための行為ならば、誰とも知らぬ種馬よりも認めた相手です、はいっ」

 

 立てた人差し指をくるくると回し、既に上半身裸な七乃が迫って───って待ったちょっと待った! さすがにこれは抵抗するぞ!? 大体俺は七乃のことは……っ……うう、嫌いじゃないし、もう大切な仲間ではあるんだけど。

 って考えを纏めようとしてるんだから触ってこないで!? 美羽もやめて!? いい加減動き止めて!? こっちはずっと美羽に乗っかられて寝てた所為か、体が痺れて動けないんだから!

 あ、ああっ、腕が重い! 腕を枕にして寝た時みたいに反応が鈍すぎる! ───ハッ! だったら氣で動かせば……ってこの状況でどうやって集中しろと!?

 とかやってる間に七乃に唇を塞がれ、舌を捻り込まれ───い、いやぁあああああああぁぁぁぁぁー…………───っ!!

 

……。

 

 …………こーん……。

 

「………」

 

 ……いたしてしまいました。

 ようやく痺れから解放されてみれば、自分の両脇で幸せそうに眠る二人。言ってしまえば寝てるのは美羽だけで、七乃はくすくすと笑っている。

 

「女性を抱いたのに頭を抱えようとするのはどうかと思いますよ?」

「抱いたというか抱かれた、だろ……この場合」

 

 痺れて動けないのをいいことに、アレやコレやだったんだから。

 

「まあこれで私も罰を受けたということで。惚れ薬を勝手に使用しようとしたことは目を瞑ってくださいね?」

「……まさか、それが理由?」

「一端ではありますけど、それが全てではありませんよー? 言ったじゃないですか、認めた相手ならばと」

 

 言いながら、七乃は俺の体を跨いで美羽の傍へ。

 そこですいよすいよと眠る美羽の成長した姿にウルリと目を潤ませ……何故か、美羽の胸の先を口に含んだ。

 

「なにしてはりますの!?」

 

 思わずツッコミを入れたんだが、七乃は「いえいえ、いつかの仕返しですよー」と笑うだけ。

 いつかの仕返しってなんだろうと思いつつ、なんでか思い出したのは俺の胸に吸い付いた美羽の姿だった。

 ……あー、もしかして七乃もやられたのかな。…………やられたんだろうなぁ。

 

「ああっ、お嬢様が成長なされた姿がこんなに美しくも可愛いらしいなんてっ! しかもすっかり恋する乙女の顔が出来るようになって……!」

「……うん、とりあえず胸をしゃぶりながらお嬢の成長に感動する人って初めて見た」

「世界初ですねっ!」

「嬉しいの!?」

 

 なんだかいろいろ間違っている筈なのに、相手が七乃じゃツッコミきれない自分が居た。頭は回るくせに自由奔放って、まるでどこかの元呉王さまじゃないか。……いや、あっちは頭じゃなくて勘で動くだけか。

 思考でも身体的にもどっと疲れた俺は、寝台に体を投げ出したまま長く長く息を吐いた。その隣では未だに七乃がねちっこく美羽の胸を舐め、吸い、転がし、なんだか美羽の口からくぐもった声が出たあたりで、おちおち溜め息もついていられない状況に哀しくなった。

 

「ていうかさ、いつまでやってるんだよ……」

「え? それはもちろん、お嬢様が私と同じことになるまでっ」

「………………ちなみに、同じことって?」

「いやですねー一刀さんたら。それを言わせるんですか?」

「今すぐやめなさいっ!!」

 

 飛び起き、七乃から美羽をひったくり、抱き寄せる。

 七乃は特に気にしたふうでもなくくすくすと笑い、はぁと溜め息を吐く俺を見上げてにっこり。

 

「さて。これで罰する相手は残り一人になりましたね」

「へ? 罰する……なに?」

「え? ですから、罰する相手ですよぅ。曹操さんもお嬢様も私も献上品を勝手に使用したことで罰せられて、男を知ったわけですからね。まあ曹操さんは知っていたわけですが。ですけどほらっ、まだ罰せられていない人が一人っ」

「………」

 

 ……誰? 思春か?

 確かに惚れ薬を飲んだけど、あれは俺が飲ませたからで……って、マテ。あの日俺が自室に戻った時。思春を連れて逃げ出す前、美羽は誰と好きだ好きだと言い合ってらっしゃいましたっけ?

 

「わからないようでしたら今すぐに呼んできま───」

「やめて!?」

 

 既に思い当たってしまっていた俺は即座に止める。

 いそいそと着衣を身につけてゆく七乃はやっぱりにっこり笑顔で、一度扉を見つめると……にっこり笑顔のままでさらに目を輝かせ、そんな表情を俺に向けてきた。

 え? なに? と俺が言おうとしたその時。

 

「一刀~、起きとる~? 報告終わったから来たでー♪ お土産あるから開けてくれへんー?」

 

 扉の先から、よく知る声。

 輝く笑顔の意味がわかった時、俺もまた輝く笑顔で……スウウと涙した。




 ……地和は力を溜めている。

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