真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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100:IF/なかなか平和続きとはいかない日常③

-_-/一刀くん

 

 案を出し合って、心惹かれる案があれば候補として取っておく。

 候補として取っておかなかった案も、他の案件に使えないかとメモにとっておくのも忘れない。

 そうして“これが最善だ”と思うものを具体的に竹簡に書き出し、最後のチェックが終わると落款。

 どれが一番いい提案なのかを考えすぎるのは中々に疲れるものだけど、こういうのも案外文化祭の準備のようで楽しかったりする。

 欲を言うなら相談役がもっと居ればなと思ってしまうところで、三国連合での祭りの準備期間中は本当に楽しかったことを思い出して、思わず口角が軽く持ち上がる。

 俺達は、そうしたなんとも言えないような……なんというか、温かな空気ってものの中に居た。

 

「それで一刀さん? 張遼さんへの罰はどうするんですか?」

「せっかく温かな空気で誤魔化してたのにこの人はっ!!」

 

 そして早速そんな温かな空気がぶち壊されました。

 

「いえいえ感謝されるほどのことでは」

「人の話を聞きましょう!? 別に感謝してないから!」

「じゃあ一刀さんもお話を聞いてくださいね? で、どうするんですか?」

「………」

 

 墓穴を掘ってしまったらしい。言い放つツッコミにも気をつけなきゃいけないなんて、なんて話しづらい軍師様だ。

 

「どうって……こうして仕事を手伝ってもらってるけど?」

「そんなものはあくまで仕事の一環ですよー? 大体、各国のみなさんがここに来る理由のひとつがそれなんですから、今さらそんなことで罰にはなりません」

 

 無駄に正論だった。

 どうしてこの世界の軍師さま方は、人をいじる時にばかり思考の回転を見せるのか。

 もっと支柱にやさしい頭脳を持ってくださいお願いします。

 ……支柱にやさしい、とか考えている中で、ふと地和のことを思い出して、笑顔のままに泣きそうになったけど。……華琳の次はたっぷりと~とか言っていた彼女だが……既に美羽と七乃といたしてしまっておりまして……エ、エエト、ソノー……。

 ……ト、トリアエズ、地和が都にやってくるか、俺が魏に行くまではどうしようもないから……今はごめんなさい、忘れたままにさせてください。

 ていうかだよ? ……“華琳とはもうしたから地和! ……スケベしようや”とか言えるわけないじゃないか! 忘れてた俺もだけど、あの約束もどうかと思うなぁ! 求めたらがっついているみたいだから、とかたまには男の子な事情も汲んでほしいです地和さん!

 

「一刀さん?」

「へ? あ、ああ、うん、続けてくれ。そのー……罰の話だよな?」

「はい。仕事の一環の話と、罰にならないって話ですよ? かといって、さっきも言いましたけど種馬状態を続けていたら民の信頼も下がる一方です。支柱の膝元で罪を犯せば女は御遣いに抱かれる、なんて笑い話にもなりませんし」

「それをお前が言うのか、七乃……」

 

 人が痺れてるのをいいことに襲っておいて。

 恨みがましい視線を向けてみたら、いつもの調子で人差し指をピンと立ててくるくると回し始めた。

 

「ですのでここは、罰にもなって民にもやさしい何かを提案すべきだと思うんです」

「罰にもなって民にもやさしい……」

 

 霞の後頭部をちらりと見つつ、たとえば何があるだろうかと考えた。霞が魏で民のためにやっていたことといえば……祭り? 突撃隊長を務めてたよな? あとで怒られてたけど。

 

「っていっても、霞は魏の将だからなぁ。ずっとここに居てもらうわけにはいかないんだから、そうそう難しいことはしてもらえないぞ?」

「そうですねー……ではこういうのはどうでしょう。都周りの田畑は他国に比べて随分と豊かで、少々悔しいですけど天の知識には驚かされるばかりです。けれどそれらを管理したりする人手はいつでも足りていません。あのー……何と言いましたか? のうぎょうきかい……でしたっけ? それもありませんし」

「あ」

 

 そうなのだ。

 天には田植機やらなにやら、一人で短時間で様々ができる機械がある。

 しかしながらこの時代にそんなものはなく、真桜に言ってみたところでそんな簡単に出来たら苦労はしない。片春屠くんは作れるのにね。改良すればいけそうな気もするんだが、最悪田んぼを高速で走り抜ける田んぼ殺し機の完成が予想される。

 氣の入れ具合で田んぼを爆走する絡繰…………すごいな、糧の繁栄どころか本当に滅びにしか向かえそうにない。

 

「けどまあそれだけというのも罰としては軽い気もしますが。なにせ私とお嬢様は女としての初めてを───」

「人聞きの悪いことを言わない! あれは襲ってきただけだろっ!」

「いやですねぇ一刀さん。罪を自ら償おうとした結果じゃないですかー」

「むー……ウチもそっちのがわかりやすくてええのに……」

 

 いやあのすいません、ほんとに体が保たないんで勘弁してください。

 俺だって霞とそういうことがしたくないわけじゃないが、それとこれとはやっぱり別なのだ。

 

「ま、それが罰やゆーなら引き受ける。要は邑とかで働いとるおっちゃんらを手伝えばえーんやろ?」

「はい。……ひとつ手伝えばいいというわけではありませんけどね」

「どうしてそこでクククと怪しげに笑うかな……。あ、それ俺も手伝っていいか? 最近は雪蓮と民の手伝いをしたりもしてないし、久しぶりに手伝いたい───」

「却下です」

「即答!?」

 

 え……なんで!? べつに手伝うから民との糧の取引でケチるとか負けてもらうとかそんなことするつもりはないのに!

 

「んもう一刀さんってば相変わらず乙女心のわからないお馬鹿さんなんですからっ。一緒に手伝ったりしたら罰どころかご褒美になりかねないんですよ?」

「いや馬鹿ってお前……ていうか乙女心関係ないだろ」

「なので、これは張遼さんにやってもらいます。もちろんその格好では男性の人にとっては目に毒ですから、農業用の地味な服を」

「地味言わない! いいじゃないかアレ! 俺結構好きなんだぞ!?」

 

 極々一般的な邑人の服だけど! ……うん、農作業やるからって服がいちいち変わるわけでもない。何度も言うが、服は高いのだ。

 なので邑人の服。この時代の一般的な服である。

 俺も雪蓮も、田畑で仕事をする時はアレに着替えたりした。

 茘枝とか採ったり雑草取ったりして、あれはあれで楽しかった。

 ……まあ、雪蓮があの服を着れば、胸の部分が大変なことになるのはわかりきっていたことだったのだが。結局さらし巻いた上に着たんだったな。霞も同じことになりそうだ。

 

「んー、それやればとりあえずはええの?」

「はい。言った通り天の知識を盛り込んでありますので、最近の田畑の活性状況は目覚しいものがあります。今一番に遣り甲斐があって大変な仕事はと問われれば、恐らくはこれになるのではと思うほどに」

「へー、一刀、ちゃーんと頑張っててんなぁ」

「そりゃ頑張るだろ。お飾りでここに居るんじゃないんだぞ、俺」

 

 これでも仕事も鍛錬も頑張ってるんだから。

 教師役が三国屈指の軍師さんや武将さんなんだから、怠けたりサボらない限りはそりゃあ成長するさ。

 ……そう考えると、以前降りたときは本当にもったいないことをした。あの頃から鍛えておけばと思う度に悔しいくらいだ。

 

「ん、わかった。そんで? いつから始めればええの?」

「今からです」

「へ? …………あ、やー……あっはっは、ウチちぃと耳悪なったみたいやー。もっぺん、もっぺん教えて、勲ちゃん」

「今からです♪」

「………」

 

 指を立てられてまでの笑顔の言葉でありました。

 そんな七乃を見たのちにゆっくりと俺の顔を見て、寂しげな顔をする霞さん。

 

「えー!? いややーっ! ウチ、期間ぎりぎりまで一刀とーっ!!」

「はいはい我が儘は言わないでくださいねー? それに心配しなくても、やることをやれば一刀さんと寝ることだってできるんですから。問題なのは一刀さんが女性にかまけて悪政をしないかどうかです。同盟の証としては三国の女性に手を出し続けることは正解といえますが、そのために別のところで気を抜かれては困るんですよ」

「……収穫手伝ったら寝てもええの?」

「はいっ、それはもちろん。一刀さんだって、立派に勤めを果たした相手の望みを無碍に断ることなんて出来ない筈ですから」

「おー……なるほどなぁ~」

「そういうことはもっと聞こえないように言おう!?」

「またまたっ、嬉しいくせに一刀さんたらっ」

「嬉しいのは人をからかって笑顔満点のお前だよな!?」

 

 言ってみたところでくすくす笑いながら、七乃はやる気になって立ち上がった霞の背中を押して部屋を出て行ってしまった。

 …………え? いや、嫌ってわけじゃないんだが……え? 俺、霞が戻ってきたら抱くこと確定しちゃった?

 

「………」

 

 最近、自分の周りのことが別の誰かの手で動きすぎてる気が……いつものことだった。もういいな、この部分はきっと足掻いても無駄なのだ。

 むしろ足掻くことで周囲の足が躓いてしまうくらいなら、いっそ全てを受け入れるつもりでいこう。俺は支柱で、そういうことも込みで受け取ったんだからさ。でも覚悟を決める機会なんていくらあってもいいよな……じゃないと日本人としてのアレコレがいろいろと……さぁ。

 

「えーっと……次の仕事は……」

 

 仕事に戻る。

 体には疲労が蓄積されているのだが、さすがに今、美羽(大人)が眠る寝台で一緒に眠る勇気はない。むしろ寝れる気がしない。

 

「はぁ……」

 

 前略おじいさま。

 …………御遣いってなんでしょうね……。

 途端に静かになった自室で、天井を見上げながら心の中で呟いた。

 

……。

 

 それからのことは……いつも通りと言えばいつも通りだった。

 霞は一日で終わるとか思っていたんだろうが、結局は滞在する日数のほぼを手伝いに使うことになった。言ってしまえばたった一日の田畑の仕事が罰になるわけもなく、そもそもが糧を生み出す行為なのだから“やること自体は当然ですよ”なんて七乃に笑って言われてしまっては、霞も霞なりに引けない部分が出てしまったのだろう。

 ムキになって仕事をする霞を、視察とは名ばかりの様子見で見てしまった俺。

 当然声をかけることはしなかったが……あれはあれで結構楽しそうだった。

 支柱としての仕事を追われたら、どこか辺境で農業しながら生きていくのもいいなぁなんて普通に思ってしまったほどだ。……適当に遠くから見て微笑んでいられるほど、田植えとかって楽じゃないんだけどね。

 そこのところは雪蓮に手伝わされて、嫌ってくらい理解できている。

 ただ、町人と汗水たらしながら田畑の仕事をするのは結構楽しかったりする。

 もちろん、相手が友好的であることが大前提であるが。

 

 城の自室に戻ると自分の仕事を進める。

 ……日が経つと華琳も冥琳も自国に帰ることになり、片春屠くんで送ったりもした。

 冥琳が“量産が出来るのならこれほど便利な絡繰はないだろう”なんて言っていたが、気軽に操るには容易くはないことを説明すると、“まあそんなものだろうな”と目を伏せて口角を持ち上げていた。便利なものほど融通は利かないものだ。

 そんな彼女との入れ替わりで来ることになったのが穏であり……片春屠くんの後部に乗せて連れてくるに到り、ほら。振り落とされないように抱きついてくるわけで、背中にふんわりとした山脈が押し付けられイヤなんでもないよ!? 冥琳の時だって感じてたけどそんなことはこうして心を無にすればどうってことないさ! 多分!

 

 華琳の代わりに誰かが、ということはなく、そもそもが俺の代わりに都を仕切るためにきていたのだ、霞が戻るまでは代わりは来ない。

 ……とまあそんなわけで、城の自室に戻って自分の仕事を進める現在の俺の前には穏が居る。

 目のやり場と集中力に困るので、そのー……服は着替えてもらいました。

 ええもちろん「えぇー!? 以前は平気だったじゃないですかー!」と困った顔で言われたりもしたさ、ええ。でもそれは以前の話であって、今の俺はもう……支柱として“そういうこと”も受け入れるって決めてしまった所為で、まったくもって自分自身でも恥ずかしいとか情けないとか思う限りなんだが、反応してしまうのだ。

 魏が、魏に、魏だから、と言い訳をしていた頃とは違う。

 結局のところ華琳ともその、いたしてしまったからには強い蓋の役割をしていたものが無くなってしまったようで、だからって獣のように手当たり次第にということもするわけもなく、こうして少しずつ新しい自分を受け入れている次第です。

 人間って……むしろ男っていろいろと面倒な生き物なんです。

 いっそ獣のように出来たら楽なんでしょうね。

 でもそれは俺自身が嫌なのでご勘弁願いたい。

 

 そういった理由もあって、大人になってからの美羽は七乃と同じ部屋で寝てもらっているわけだが……今の俺は思春と同じ部屋で寝ているわけで。それに対して美羽が不満を口にしていたものの、七乃の巧みな話術で首を傾げながらも納得していた。

 それはそれで、なんだが……最近おかしなことがあった。物心ついた頃から思春が俺と目を合わせようとしない。無理矢理合わせようとすると顔まで背ける始末で、なんとなく面白くなって視線を追いまくってたら鈴音を突きつけられたのでやめた。

 これって前に霞が言ってた“様子がおかしい”ってことと関係があるんだろうか。

 

「穏、絵本はどう?」

「絵本ならまだ大丈夫なほう……ですかねぇ~……」

 

 俺が机で仕事をする中、穏は俺が買った絵本を手にうっとりした顔をしている。

 知識の宝庫である書物に囲まれるといろいろと大変なことになる穏。そんな彼女をなんとか出来ないものか作戦2として始めたことがこれ。

 文字だらけの本に囲まれるとアレなら、絵もついている絵本に囲まれるのはどうかということで。……それでも“本”という印象があるだけで顔がとろけてらっしゃる。危険だ。児童に読ませるようなもので興奮するのであれば、この北郷めもいろいろと考えなくてはなりませぬ。

 

「それでそのぅ、一刀さん? もしも穏が熱に負けてしまったら、なんとかしてくれるんですよねぇ……?」

「ああっ、任せとけっ」

「なんでそこで指を鳴らすんですかー!?」

 

 え? なんでって。痛くなければ覚えません! なのでこの北郷めも心を鬼神にして容赦なく力ずくで止めてみせよう! ……べつに穏が嫌いとかではなく、本でとろけた熱で誰かを襲うというのをやめさせてあげたいだけだ。ちなみにゴキベキという音は、氣を弾けさせて鳴らしているだけであって軟骨をすり減らしているわけではないので安心してほしい。

 大体、もし穏と“そういうこと”をするのだとしても、好きになったからとかそういう理由じゃないと受け入れる気にもなれない。だって、本を使って自分を襲わせたみたいで嫌じゃないか。……こんなこと思っている時点で、好き合えば受け入れる気満々みたいで嫌なんだけどさ。

 

「そこで“俺が居るから”に逃げられても困るって。はい、ちゃんと慣れていこう。呉では途中になったけど、いい加減自分で倉に行けるようになりたいだろ?」

「あぅう……それは、そうなんですけどぅ」

 

 しょんぼりとする穏はここでは……正直な話、あまり積極的な役には立てていなかったりする。

 何故ってそりゃあ、自分で書物を取りに倉にも行けないし、書簡整理のために俺が持ってきた本にも息を飲んでうっとりして集中できなくなるし、それが行き過ぎると人の部屋だというのにおもむろに───っていやいやなんでもないよ!?

 

「とにかく! 目に毒! 集中出来ない! 他国に来てまですることがそういうことに向かうなんて哀しいだろ! 都に自分を慰めに来てるわけじゃないんだから、とにかく頑張る!」

「あぅう……」

 

 ぐったりとした表情を向けられるが、これはもういい加減に直すべきだろう。

 各国の交流の度に各国で“倉には近寄れません”とか“書庫だけは勘弁したくださいぃ~”とか言っていたんじゃ、いい加減怪しまれる上に……魏に行ったら絶対に華琳に捕まる。

 それは穏としても俺としても避けるべきだろう。……あれ? これって嫉妬か?

 ……なんとなく顔が赤くなるのを感じつつ、仕事と書物鍛錬に戻る。

 ようは本に慣れてしまえばいいのだから、以前は出来なかった方向でいろいろと考えてみよう。そう、たとえば……本に囲まれて熱に浮かされそうになったら、氣でもって落ち着いてもらうとか。

 


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