真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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101:IF/イメージと覚悟が技を作る。強いかは別で②

 そんな双方を見た蒲公英がニコッと笑って二度三度とバックステップをして、そこで元気よくエイオー。

 

「それじゃあたんぽぽが立会人ってことで! 真剣勝負! 一本目ぇ! 始めぇえい!!」

『応っ!!』

 

 一本目ってのが気になったけど気にしない。

 怯みも無く互いが地を蹴って前へと身を弾かせる。

 直後にぶつかる互いの長柄が武器に宿った金色を弾かせ、衝撃とともに後方に下がるや弧の攻撃へと転じた。

 

『せいぃっ!!』

 

 振るうは双方横一閃。

 直後に腕に走る衝撃は痺れに近いものであり、人の身を打ったものではないことに息を漏らす。

 それは安堵か落胆か。

 どちらにしろ止まることなどしないまま、全力を以って相手を打ち倒すために体を動かし続けた。

 

「ふっ! しっ! はっ! つっ! だぁっ!」

「ふっ! ふっ! ふんっ! はっ! せいぃいっ!!」

 

 ぶつかる時は無遠慮に加速を使って全力でぶつかって、避ける時も遠慮なく避ける。武とは己の全力を以ってして相手に勝つこと。負けて卑怯卑劣を唱えるくらいならば、全てを想定した上でそれを破れる力を持ってから己の武を誇るべし。

 ならばそこに遠慮などあるだけ無駄。

 相手が真っ直ぐに自分を倒しに来ているなら、自分だって自分の全力で向かわなければ、鍛えた武に意味などないのだ。

 

(突き突き斬り上げ斬り下ろし薙ぎ払い振り上げ叩き下ろし───ここっ!)

「フッ……隙と見れば突きで来るのはお前の悪い癖だ!」

「うえっ!? そんな癖が!? つわぁっ!?」

 

 一定の攻撃の後の隙を突いての突きはあっさりと逸らされ、その上で弾かれた木刀目掛けての攻撃に吹き飛ばされかける。

 あ、危なっ……! 武器弾きに来た……!

 咄嗟に氣で繋げなかったら武器が弾き飛ばされてた……!

 

「お前に鍛えられた私だ。お前の癖などおおよその見当はついている」

「……だよなぁ。そうじゃなきゃ、馬鹿丁寧に一定の連撃を繰り返すわけがないもんなぁ」

 

 俺が鍛えたというか、俺は休憩と鍛錬の効率化を提案、プログラムを組んでその通りにやってもらっただけなんだが。

 それで“華雄はワシが育てた!”とか言うつもりはないけどね。

 

「けど、もちろん俺だって華雄の癖は知ってるぞ」

「生憎だが私相手に癖を知っても無駄だぞ? 常に全力、常に最速だ。隙があるというのなら私の動作全てにある。癖を知ったところで、私がやることはなにも変わらん!」

「威張るなぁーっ!! そんなことぉおおーっ!!」

 

 叫んだところで華雄は嬉しそうに笑うだけだ。

 それはそれで清々しい。

 受け入れ方ひとつで、“自分の武はどこまでも曲がらない”と受け入れられもするわけだ。なんだか、カッコイイって思える。

 思えちゃったらもうぶつかるしかないだろう。

 馬鹿と言われようが、それで負けたらただの阿呆だと言われようが、“そうしたい”と思ったならやれる内にやってしまうのが男以前に“人間”である!!

 でもとかしかしは今は捨て置け今の俺!

 相手に武しか誇れるものがないのなら、俺が誇れるものは氣しか無い! だって鍛えられるのそれだけなんだもの! だったらその氣を持って全力でぶつかる! それしかないからそれでよし! 余計な考え要りません! 故に突っ切れ男道ィ!!

 

「はぁあ~……(ふん)っ!!」

 

 自分の心を焚きつける意味も込めて、木刀を持ったまま拳と拳を叩き合わせた。

 氣が十分に篭った双拳は鮮やかに金色の氣を弾かせ、俺の胸の前でさらさらと綺麗に消える。

 ……OK、氣は十分に充実してる。

 ではあとは何が必要か? 決まってる。いつでもどこでも覚悟だけだ。

 

「覚悟───……すぅう───はぁあ……───完了!!」

 

 胸を強くノックして、迷うことなく疾駆。

 華雄は言った。これは決闘だと。

 だったら意地でも負けられないし、たとえ鍛錬だろうと負けたくはない。

 見れば華雄も同じくノックをしていて、走る俺を見るとニヤリと笑った。

 ───さて。

 何回まで保つかなぁ俺の体。

 

「まず、一ぃいっ!!」

 

 全力。

 俺の突撃をどっしりと構えて待っていた華雄へ、全力の氣を乗せた加速居合い。

 華雄は当然ながら怯むことなくその一撃へ自分の渾身を叩き込むと、弾ける金色と痺れる自分の腕に歓喜の笑みを浮かべる。

 

「二ぃいいっ!!」

 

 再び全力。

 弾けた氣を化勁の要領で吸収、さらに錬氣も合わせて充実させた氣で戻しの加速。

 それさえも怯むことなく返された華雄の一撃に再び弾かれ、華雄もまた武器ごと腕を弾かれ、白い歯を見せながらにやりと笑っている。

 だが止まらない。

 空っぽになる度に錬氣と装填を繰り返すように、氣ばかりに長けたこの体で渾身を繰り返す。

 弾かれて無理矢理捻るように曲がった体勢さえも、勢いのための助走のように利用して、錬氣しては攻撃を発射する。装填しては体から弾くように放つ木刀の一撃は、もう斬撃というよりは弾丸だ。

 足から上る氣を、螺旋をイメージして加速。先端である手に持つ木刀が振るわれる速度は、華雄の反撃を僅かずつだが押している。

 コンパクトに攻撃することを覚えた華雄は以前と比べて戻しも速いが───戻しが速いだけでは加速の一撃を弾ききれないと見るやスイッチ。速度ではなく剛撃重視になり、弾かれる度に体に走る衝撃の強さも格段に増した。

 

「五っ……六ぅううっ!!」

 

 ───たとえばと考えたことがある。

 たとえば漫画、たとえばアニメ、たとえば小説たとえばゲーム。

 あげれば結構あるだろうが、もし……もしもだ。

 それらに登場する主人公だろうと脇役だろうと誰でもいい。

 “技”というものを常に使えたら、それはどんなに強いだろう、と。

 常に使えたら、というのは語弊があるかもしれない。

 言ってみれば、攻撃の全てが技ってやつだったらと考えた。

 わざわざゲージを溜めなければ出来ない技じゃない。

 ただ振るう拳のひとつひとつに技が付加出来れば、きっと強いんじゃないかと。

 

「八っ! 九っ! っ……十ぅうううっ!!」

 

 振るうたび、弾くたびに金色が宙に散る。

 生憎と必殺技なんてご大層なものなんて持っていない俺に出来ることなんて、きっとこれだけ。“でも”を使うなら、全ての一撃に氣の全力を込められるなら、それはどれだけ強いだろう。

 そう思って出来たコレが、氣しか育てることが出来ない俺の精一杯。

 全ての一撃を必殺技にするつもりで、俺の氣が枯れるのが先か相手が潰れるのが先か。単純な根性勝負だ。

 “しかし”を使うなら相手だって馬鹿じゃない。

 ご丁寧に何度も武器で攻撃してくるはずもなく、俺の腹目掛けて蹴りを放つ。

 “でも”だ。

 蹴られる場所に一気に氣を集め、その衝撃を吸収。

 足から螺旋に上る氣とともに体を走らせると、木刀に装填してそのまま振るった。

 ……もちろん、衝撃自体は内側ではなく外側を走らせて。

 

「! 化勁か!」

 

 蹴りをしたために体勢も悪いまま。

 そんな状態で弾こうとしても失敗するのは目に見えていた。

 だから華雄は振るうのではなく自分の前に金剛爆斧を構えて、自ら木刀が走る方向へと跳躍した。

 

「っ───!」

 

 直後に轟音。

 いつか春蘭とぶつかった時に金色の閃光が眩しかったように、すぐ目の前で金色が武具を殴る音に耳が痛みを覚えた。

 その轟音に眉を顰めながら、自ら吹き飛ばされた華雄を追って地を蹴った。

 華雄はもう着地していて、追いすがる俺をやはり笑みで向かえ、金剛爆斧を振るう。

 そこへ向けて、守りを捨てた渾身の加速居合い。

 接触。再び金色が散り、耳を傷める。

 そんな金色の火花を視界に、“まるでファンタジーだ”なんてことをこんな状況の中で考えていた。

 過去の、それも自分が知った史実とはまるで違った世界へ行く……そんな自分にとっての現実を体験しているのに、今さらファンタジーもなにもない。

 

「……ははっ」

「……フッ」

 

 目に焼きつくくらいの眩い火花。

 その奥で互いの視界で笑う男と女。

 全力を出すってのはこれで結構愉しいもんだ。

 俺の場合はそれが、“錬氣できる内”までしか続けられないのが残念に思えて仕方ない。

 さて。

 ようするにこの“全力”があと何発保つかなんだが。

 既に相手の攻撃を吸収、上乗せしての攻撃で誤魔化している部分もあるくらいだ。

 痛かろうが辛かろうが、また気脈の強化と錬氣速度強化をしないといつまで経ってもこのままってことだ。

 もしくは全力で振るおうが、氣が飛び散らないように固定する方法を身につける───……まいった、やりたいことがまだまだありすぎる。

 そんな考えが顔に出たんだろう。

 いい加減押され始めているのに笑う俺を、華雄は愉しげな笑みで迎えて───

 

「お前の覚悟、存分に見せてもらった」

 

 振り下ろした金剛爆斧が、俺が持つ黒檀木刀を弾き飛ばした。

 

「───」

 

 轟音のあとに訪れる時間っていうのは、やけに静かに聞こえる。

 次にまたそんな大きな音がこないか、人はどうしても身構えてしまうものだ。

 そんな時間を感じられるか感じられないかの一瞬とも取れる時間の中、華雄は己の勝利に笑みをこぼし、俺は……“弾かれた瞬間の衝撃”を右手に装填して、無手のままに踏み込んでいた。

 

「!? ほんっ───」

「“決闘”だってこと忘れるなよ華雄!!」

 

 鍛錬ならば武器が飛んだ時点で諦めもしよう。

 結構しぶとくねばる時もあるけど、寸止めでもされれば諦める。

 けど、決闘の最中に動ける相手を前に勝利を確信するのはちょっと早い。

 慌てて武器を構えようとする華雄を前に、腕と金剛爆斧の間を縫うように放たれた掌底が、華雄の腹部に埋まる。同時に解放した衝撃と氣が、彼女の体を突き抜けるのを感じた。

 

「かっ……はっ……!?」

 

 確かな手応えを感じながらも距離を取って構える。

 そんなことをする暇があるなら追撃しろよって話なんだろうが……ごめん、もう錬氣がきかない。カラッポだ。最初から全力で、しかも全ての攻撃を必殺技のつもりで出せばこうなりもする。十以上続いたのが奇跡だ。解放出来た気脈の澱みの数を考えれば、普段なら6か7の全力居合いが出来ればいい方だろう。

 つまり、余力を残そうと無意識に構えたための、あの回数だ。お陰で体が痛い。

 しかしながらこの北郷、そんな己の不利を顔に出すようなヘマは───

 

「お兄様、汗すごいよ?」

「ツツツ疲れてるからネ!?」

 

 ツッコまれた途端に声が裏返りました。

 こんな自分でごめんなさい。

 

「……っ……ふふっ……最後の最後で……油断か……。武器を飛ばした程度で勝利を確信するなど……まったく……」

 

 聞こえた声にハッとして、蒲公英にツッコミながらも目を離さなかった華雄の目を見る。その目には己への不満はあったが……どうしてかやさしげで、満ち足りていたようでもあった。

 

「……諦め悪くてごめん」

 

 雄々しく前のめりに倒れそうになる華雄を、正面からそっと支えた。

 拍子に手から力が抜けたのか、金剛爆斧がどごぉんと地面に落ちる。

 ……音からして重さが半端じゃないんですが。今度、“もっと軽いものを武器にしたらどうだって”ツッコんでみようか。

 いや待て待て、そんなことより華雄だ。

 無遠慮に腹に掌底当てちゃったけど、内臓とか大丈夫か?

 

「勝負ありっ! お兄様の勝ちぃ~っ!!」

 

 そんな心配を余所に、蒲公英が俺の手を取ってエイオーと天へと突き上げる。

 まあ、結局はそこだ。

 勝者宣言もされてなかったし、されていたとしても最後まで気を抜かないのが戦い……らしい。じいちゃんの受け売りだ。

 一言で言えば、そんなものを拾うように突かなければ勝てないのが現状。

 ……もっと強くなりたいもんだ。

 

「はぁ……しかしまあ」

 

 本当に。

 こんな細い体の何処に、あんな破壊力を出せる力があるのか。

 蒲公英に持ち上げられた手が離されるや頭をコリコリと掻いて溜め息。

 そうしてから、当たり所が悪かったのか意識があるのにくたりと力を抜いた華雄を抱き抱えて、とりあえず歩く。

 

「お、おいっ!? 北郷!? 私はべつにっ!」

「はいはい、力が出ないのに妙な遠慮しない。内臓痛めてるかもしれないんだから大人しく運ばれるように」

「肩を貸されるならまだしも、この格好はまるで力無き赤子のようではないか! こんな格好は屈辱以外のなにものでも───!」

 

 ぎゃーぎゃーと耳元で騒がれ、力の入らない体でぱたぱたと暴れられる。

 まるで無理矢理抱き上げて少ししたら暴れだした犬か猫だ。

 ……これは、少し強めに言ってやったほうがいいかもしれない。

 一応勝ったんだし、勝者の言うことは訊くもんだーって感じで。

 って、それだけじゃ納得しないかもしれないし、なにか華雄が言った言葉から言質みたいな盾を作って、適当に……よし。

 

「はぁ……───華雄っ! 決闘して負けたんだったら文句言わない! それに仮にも俺の女だって言うならこういう時くらいは大人しくしろっ!」

 

 びしーっと言ってみた。

 俺を見上げるその顔に、自分の顔を迫力満点 (のつもり)でぐぐいっと押し付けるようにしながら。

 しばらくそうして睨み合っていると、華雄のキリッとした顔が少しずつ驚きに変わり、さらにぽかんとした顔になったあたりでポムと赤くなる。

 …………ハテ。なんですかその反応。

 

(ア、アレー……? 俺としてはそのー、“くっ……負けたことは事実な上、言ったことも事実だ……!”的な返し方を期待していたのですが……? え? なんで赤くなるの?)

 

 そんな困惑を知ってか知らずか、華雄は俺の瞳を覗き込んだまま、ぽかんとしたほんのりと赤い顔のままにこくりと頷いた。そんな、普段ではありえない豪快さもない小さな反応がなんか可愛───イヤ違うヨ!? ななななにトキメキかけてるかなぁ俺!

 少しずつ受け入れていくって決めたのにいきなりこういうのとかヨロシクナイ! ヨロシクナイぞ! 神聖なる決闘のあとにトキメくなんて、恥を───…………恥はもう十分に知ってましたごめんなさい。

 そして大変なことになった。言質のつもりで言った“俺の女だって言うなら”を真正面から受け止められてしまった。

 思春だったらこういう時、誰が貴様の女だとか静かに言って鈴音を突きつけてくるだけで済むのに……!(注:平然と“だけ”とか言ってますが一大事です)

 

「おおう……お兄様ったらだいたーん♪ まさか無理矢理抱き上げて、“俺の女なら大人しく抱かれてろ”だなんて」

「言ってませんよねそんなこと!!」

「あはははは、言ったようなもんじゃん。いやー、お兄様もちょっと見ない内に大胆に………………」

 

 なったねー、と最後まで元気に言うかと思いきや、なにやら様子がおかしい。なにかを思い出す仕草をして、ポッと顔を赤らめて、俺のことをズズイッと見上げてきて……ソッと視線を外しつつ俯いて、

 

「……そういえば、出会った頃から大胆だったよね……」

 

 と囁くような声でってちょっと待てぇええええ!!

 

「あれは蒲公英が訊いてきたからであって、俺はあくまで事実を話しただけでウギャアそれだけで大胆だったァアーッ!!」

 

 自分の言葉でなにかに気づく時ってありますよね。

 俺は新たに自分で自分の大胆性と恥を発掘してしまいました。頭抱えて蹲りたい気分だったけど、華雄を抱き上げてるから無理ですハイ。

 なので中庭の樹の幹まで華雄を運んで、そこにとさりと下ろす。

 そんな中、依然として華雄が俺の顔をじいっと見上げてきている。その仕草がなんだか本当に犬猫みたいで、苦笑しながら頭を撫でた。

 

「おおう……御遣いの本領を見ちゃった気分」

「んあ? 蒲公英、今なんて───なんて言ったか今すぐ教えてくれ!」

「ふえっ? どしたの急に」

「男として、“何か言ったか”はやめることにしたんだ。つまり言うまでしつこく訊く! 訊かれたくなかったら言ってくれ!」

「……いっつもそうやって問答無用なくらいで迫ってれば、誰でもコロリな気がするのになぁ。お兄様っていろいろともったいない人だね」

「? よくわからんけど“もったいない=価値がある”ってことでありがとう」

 

 言ってみたら笑われた。

 おまけにしっかりと聞き逃した“御遣いの本領”って言葉とその意味を教えてもらうに到り、要するに俺は無自覚の女ったらしとして見られていることがわかった。

 その時はそんな馬鹿なと笑ってみせたんだが───……困ったことに、その後に始めた蒲公英との鍛錬の中、華雄の視線がず~っと俺だけを追っていることに気づくと、さすがに笑えなくなっておりました。

 霞……きっと華雄を止められるのはキミだけだ。今すぐ帰ってきて華雄を止め……アレ? 霞が帰ってきたら抱かなきゃいけないんだっけ? …………あれ? や、嫌がってるわけじゃなくて……あれ? なんかどんどん逃げ道というか、自分の自由意志が無くなっていっているような……。

 

「なぁ蒲公英。自由ってなんだっけ」

「んあ? 好き勝手に行動できることじゃないの?」

「…………」

 

 以前の、この世界のことを何も知らなかった俺よ。

 きみは、きっと自由だった。

 そんなことを思いつつ、周囲からジワジワと固められていっている支柱という立場に向けて、乾いた笑いをこぼした。


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