真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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102:IF/技の開発は傍から見るといろいろとアレ①

153/修行をしましょう

 

 少しずつではあるが、無理ではない程度の気脈拡張をする日々が続く。

 いける……今日の俺なんかいけるよ! って勘違いをして調子に乗ると、知らずの内に空から天使が迎えに来るので大変注意が必要だ。

 

「フッ! はっ! ほっ! フゥ!」

 

 氣といえば真っ先に頭に浮かぶのは、一般的には体術方面だろう。

 俺もそうだ。

 なので今日も今日とて中庭で鍛錬。

 書類整理が安定してからは自分の時間を多く取れるようになった……ので、鍛錬。俺って本当に鍛錬馬鹿かも。

 しかしながらこの世界での“自分の中にある唯一の成長部分”を育てたくなるのは、当然のことだと思うのです。なので準備運動も混ぜた体術を虚空に向かって繰り出し、飛び散る汗にくすりと笑う。

 氣を扱っているから代謝がよくなっているのか、汗は結構な勢いで出る。それらが身を振るうたびに落ちて、なんだか映画とかの武術かみたいだなーなんてことを思ったのだ。

 木刀での錬氣の時はこうまで汗は出ないんだけど……やっぱり“体術”って意識が強く出ているからなんだろうか。

 

「ホアッチョゥ!」

 

 調子に乗って世紀末の愛の殺戮者のような声を出しつつ拳を突き出す。

 ……残念ながら、テレビで見るような中国拳法の音は出なかった。

 あれだな、“ボッ”とか鳴るやつ。

 拳を出しても足を出してもボッ、ボボッ、ボッとか鳴るのだ。

 実は無駄に憧れていた。あんな音、出ないけど。

 

「……氣を込めたらどうだろう」

 

 再度振るう。……もちろん、ああは鳴らない。

 加速を付加させてみても無駄でした、ハイ。

 バサッ、ボハッ、みたいな音は鳴るものの、これって服が急に動かされたから鳴ってるだけだろうしなぁ。

 うーん、中国拳法のなんと不思議なことか。(注:ただの効果音です)

 や、もちろんただの効果音だってことはわかってるけどさ。せっかく氣ってものを操れるようになったなら、是非とも試してみたいじゃないか。

 壁に拳を寸止めで放ちまくれば壁の一部を砂に出来るとか、離れた位置にある蝋燭の火を空拳で消せるとか、そんなものに小さく憧れを抱いていたのだが……うん、無理だ。無理だけど、“今の俺には”ってことにしておこう。いつか出来るかもしれない。

 そうだよな。なにせこの体、氣以外は成長しないかもしれないのだ。

 ならばこれから先をこの体のまま……成長速度が安定しているかもしれない体のまま、鍛えていける強みがある。これで筋肉も成長してくれたらなぁと思わないでもないが、どれかひとつでも成長してくれるのならありがたいことだ。

 なので鍛錬。

 

「ほっ」

 

 ヒュッと拳を突き出す。

 氣で加速させた拳は結構な速度で突き出され……ていると思う。

 氣で体を動かしている所為か体に余計な力が入らなくなったのはいいんだが、その分何かが速くなった~とかの感覚は逆に鈍ったような気がしてならない。

 昔は力を込めれば込めるだけ何かが速くなるとか思っていたもんだ。けど力は力でしかなく、速度は脱力とそれを手助けする程度の力とが合わさったのが丁度いいらしい。その人体のメカニズムに関しては、その道のプロじゃないと語りつくせないんだろう。結局は詳しく知らないのなら、感覚的に成長していくしかない。

 というか、氣は科学的に検証できるんだろうか。

 天では氣なんてものを得ることは出来なかった。テレビでビール瓶の口に手を当てて、ビール瓶の底を破壊していた人を見たことがあるものの、その頃はなにかのトリックだとか思っていたものだ。

 

「うーん……こう……こう? いや、こっちの方が速いかもしれないし……」

 

 首を捻りながら拳を前へ。

 まずは体術で試してみて、何かが掴めたら木刀を持って同じことが適用出来るかを検証。……大体は失敗する。そんなものだ。

 

「あ、そうだ。氣弾って連射出来るかな」

 

 自分の中から氣を小さく切り取って、放つイメージ。

 ポムと突き出した手から出た小さな気が、少し前へ進んでポスンと消えた。

 そのイメージを連続してみると……上手くいかない。

 出るには出るのだが、氣を千切るイメージの部分でどうにも詰まってしまう。もはや自分の中に当然としてあるものを千切るのを、体が邪魔しているのかもしれない。防衛本能ってやつだろう。これも日々、武器を持った春蘭に追い掛け回された賜物だね! ───嬉しくないけどね!

 

「だ、大丈夫だぞ、俺~。ここに春蘭は居ないし、これくらいの氣はすぐに錬氣できるんだぞ~?」

 

 言い聞かせてみる。

 ……上手くいかなかった。

 俺ってどこまで弱いんでしょうね。

 いやいや弱気になるな、弱気は損気! 弱気になっていいことなんてきっとないさ! なので、出来ないならがむしゃらだ! 無理矢理やってたらいつの間にか出来るかもしれないしネ! ……そうしなきゃ出来そうにもないっていうのも正直な話なんですが!

 

「魔空ゥウ包囲弾!」

 

 自分の中の氣を千切っては投げ千切っては投げ! ……意味が違う? いいのさ! 細かいことは気にしません! というわけで、もたもたとしたもどかしい動作ながら、空へと氣弾を飛ばした。

 ……もちろんピッコ○さんがそうしたように氣弾が空中で止まることはなかったわけだが。シュゴォーと飛んでゆく途中で止まってくれない氣弾たちに「待ってぇーっ!!」と本気で叫びつつ、そんな氣弾たちが青い空に消えてゆくのを……ただぼんやりと、眺めていた……。

 などと何処かの青春物語チックに締めようとしていないで。

 そうだ、そうだよ。

 切り離した氣って、空中停止とか出来るのかな。

 いや、ここで疑問に思うからダメなんだよ俺。いい加減目覚めなさい。

 出来て当然。それを疑ることなかれ。

 

「すぅうう……はぁああ……!」

 

 氣を切り離して……放つ。

 さすがに真っ直ぐ飛ばすと家屋破壊に繋がるので空へ。

 で、切り離したそれを停止させるイメージを……してみたんだが、止まることなく飛んでいった。なんか悔しかったので、青空に浮かぶ雲に消えていくように見えたソレへとポケットから取り出したハンケチーフを揺らした。当然意味はない。

 

「そうだよな、停止させるイメージなら、切り離す前に氣に乗せなきゃ意味がない」

 

 乗せられるかどうかなんて知らないけど、出来ると思わなきゃやる意味自体がないのです。

 さっきから蒲公英が愉しそうに俺を見ているが、気にしません。

 さらに言えば華雄が樹の陰から俺をじぃっと見つめてきているんだけど、これもきっと気にしちゃいけない。

 …………あれ? ていうか二人とも、仕事は?

 

「切り離すイメージ……完了!」

 

 いいや、ここに居るってことはきっと終わったのだ。

 だったら俺が気にしてもしょうがないよねと、氣にイメージを乗せて発射。

 空へと飛んでゆくそれは今度こそ空中で一時停止を───……しないで、シュゴォーと飛んでいってしまった。

 ……揺れるハンケチーフ。項垂れる俺。

 

「やっぱり俺みたいな若造が氣を知るなんて速いのカナ……」

 

 “出来て当然!”のイメージが“貴様のような小童に出来るものか! この愚か者が!”に変わってゆく。しかしここでそれを認めてしまえば前には進めないので、発想の転換。

 切り離した氣に氣をくっつけて、停止させるのはどうだろう。

 氣が攻守一体になる前にやっていたことだ。相手に攻撃側の氣をくっつけて、相手の動作を先読みするアレの要領。アレならもしかして上手くいくのでは?

 

「よし!」

 

 こういう成功のイメージが浮かぶ時って、自分でも驚くくらいワクワクするよね! こういう瞬間って大好きだ! で、失敗して項垂れるんだ。大丈夫、いつものパターンだから。

 

「まず切り離してぇえ……放つ!」

 

 空へと放つ氣弾。

 それにすぐさま氣をくっつけて───停止!!

 停止……てい……止まってぇえーっ!!

 

「………」

 

 ……ハンケチーフが揺れた。そしてお約束で項垂れる俺。

 い、いやいや失敗じゃないよ? 今のわざとだから。ててて停止のイメージが足りなかったんだヨきっと。次はいける。きっといける。いける……といいなぁ。

 どれほど哀しげな顔で止めようとしていたのか、蒲公英が俺を見ながら爆笑しているが気にしません。華雄がなんでか樹の陰から俺を見たままポッと頬を染めてるように見えるけど、気にしません。

 氣の習得だって苦労したんだ……これくらいの“出来ない”がなんだい! “出来なくて当然”でも、それは“今だから出来ない”で上書き出来るのさ。そして今だから出来ないは、“諦めなかったから出来た”で上書き出来る。

 こうなったら数をこなしてでも出来るようになってやらぁあっ!!

 ……っと、口調口調。

 

……。

 

 氣を放つ。放つ放つ放つ放つ。

 

「止まれ止まれ止まれぇええーっ!!」

 

 そして止める止める止め……止まってぇええ!!

 某龍球物語であれば、放てば負けるフラグとして有名なそれの如く、両手を交互に空へと突き出し放ってゆく。その度に新たに氣を伸ばして停止のイメージを届かせるんだが、ちっとも止まってくれない。

 でも気分はいい。

 何かに夢中になるのって、なんであれ気持ちがいいもんだ。

 ていうか……あれ? 俺ってなにがしたかったんだっけ?

 なんかとても大切なことが既に出来ているような気がしてならないんだが。……ハテ、大切なこと? ……いやいや全然だろ、だってまだ空中停止出来てないじゃん。

 

「んん……なにがいけないんだろうなぁ。飛ばした氣が氣弾と繋がってないとか? それとも切り離したものはもう切り離したものとしてしか機能しないのか?」

 

 それはないと思う。

 なにせ別の誰かに自分の氣を変換させて流し込んだ時には、その氣が自分の氣として流し込んだ人の氣を強く妨害するようなことはなかった筈だ。

 だから……………………あれ? 流し込んだ……氣?

 

「あ……あー!」

 

 そうかそうだよ! 氣の変換!

 切り離した氣はもう俺から切り離されてるんだから、飛ばしたのは俺でももう“俺の氣”じゃないんだよ! 切り離してからそれを操るなら、その氣に合わせたものをくっつけてやらないと意思が届くわけがなかった!

 

「よ、よーしよーし! そっかそっかぁ!」

 

 難題を解いた気分で高揚したままに氣を空へ。

 切り離したそれに向けて氣を飛ばしてくっつけて、今度こそ停止のイメージを……イメージを……

 

「……切り離したあとの氣の在り方が解らない」

 

 ……送るより先に、ハンケチーフが揺れた。

 

……。

 

 時間ばかりが過ぎる中、掌に浮かばせた自分の氣を調べる。

 切り離すと落ちるから、まだ切り離す前。手からエクトプラズムが伸びているようなカタチは見ていて可笑しい。

 

「これを切り離すと……落ちるよな」

 

 切り離した瞬間、それはヤム○ャさんの操気弾のように丸いカタチになると、掌に落ちてくる。それを両手に装填した氣で受け止めると、再び氣の在り方を探ってゆく。

 やり方は桃香や璃々ちゃんの氣を引き出した時と同じような感覚。そうして氣の在り方を探ってゆくと、その氣の在り方も見えてくる。……ようするに攻守の氣そのもの。俺はそれに、今までの癖で攻側の氣を伸ばすイメージを強くしてしまっていたようだ。

 氣が攻守一体になっているとしても、どうにも多少偏らせることは出来るようであり……上手くいかなかったのはこれの所為……のようだ。多分。

 ならばと両手の中にある丸い氣弾に氣を繋げて“浮け”とイメージを働かせる。すると……浮いた。浮い……浮いた!?

 

「ハッ、ハワッ! ハワワワワ!?」

 

 よもや……まさか! 成功!?

 試しに飛んでいけとイメージを乗せると、掌の氣弾が飛んでいって……や、速度は相当お粗末なものではございますが……飛んだ! おおお飛んだ! 停止も……できる! 出来るよこれ! おぉおおおお!!

 操気弾だ! 操気弾だよヤム○ャさん!

 こっちの言い方だと操氣弾が出来たよヤム○ャさん!

 

「す、すげぇ! 氣、すげぇ!」

 

 興奮が冷めない。口調がおかしくなっている事実も興奮によって気づかないままに、操る氣弾を地面に向けて飛ばしてみた。するとボスッ……と小さな音を立てて、氣弾は消滅した。

 

「………」

 

 興奮が裸足で逃げてった。

 もはや使うことはあるまいと思っていたハンケチーフが揺れた瞬間だった。

 

……。

 

 わかったことがある。

 俺の氣は貧弱だ。

 ヤム○ャさんは氣弾を地面に潜伏させて保つことに成功していたのだ。

 だというのに俺は地面を抉ることすら出来ずにボスッ……だ。

 すごいよ、ヤム○ャさんすごいよ。

 

「あ」

 

 ふと思い立ち、氣を手に集中。

 切り離したソレに再び氣を繋げて、氣のカタチを変えられるかを試してみる。

 これが出来ればいつか“落合流首位打者剣(おちあいりゅうしゅいだしゃけん)”で敵の氣弾を跳ね返すことも───!

 

……。

 

 コーン……

 

「………」

 

 無理でした。

 現在とっぷりと夜。

 朝から続いた鍛錬も終わりの時を迎え、俺の手にはとうとう一ミリもカタチを変えなかった氣弾。

 ソレを再び空へと飛ばしてハンケチーフを揺らすことで、本日は終了となりました。

 なにもかも思うようにはいかないもんですね。

 氣を剣にする……これが出来れば、黒檀木刀が傷つくかもしれない心配は無くなると思ったのに……。


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