真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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102:IF/技の開発は傍から見るといろいろとアレ②

154/続・修行をしましょう

 

 翌日。

 今日も来るのかなと思っていた蒲公英や華雄の姿はなく、中庭には穏の姿だけ。

 なんでも昨日は都の街の視察に行っていたらしく、現在の呉とどれほど違うのか、その差を調べにいっていたらしい。

 で、蒲公英と華雄が本日それを行なっていると。

 華雄は普通に警邏の仕事で、蒲公英はそれにくっついて街を見る。

 案内役が華雄というところが少し怖い気もする。街中でまた睨み合いなぞしていないかとか考えないでもないが、そこはさすがに……ねぇ?

 

「……やりそうだー……」

 

 今までが今までだもの、きっとやる。

 そうなったら警備隊に任せるしかない……よな。

 

「………」

 

 心の中で頑張れと言いつつも、手では十字を切りそうになっているのを止めた。

 

「さて」

 

 朝に出来る分の書簡整理は既に終了。

 のちに送られてくるであろうものも夜にやれば問題無し。

 緊急のものは直接報せてくれって言ってあるし、あとは鍛錬だ。

 

「前は三日ごとだったのに、翌日にやるなんて……」

 

 なんだかくすぐったい気分だ。

 筋肉を鍛えるためなら二日三日は休ませる、なんてことを知らなかった頃はほぼ毎日筋トレをしたもんだ。お陰で体がどんどんと動かなくなっていって、それを口にしても鍛え方が甘いからだーなんて言われたりもした。

 当時の体育教師は結構熱血派だったに違いない。“鍛えれば強くなる! 強くならないのは貴様が軟弱だからだー!”で全てを通しそうだった。

 

「……あ。そういえばさ、穏ー」

「はぁい? なんですかー?」

 

 東屋の石椅子にちょこんと座ってこちらを見ている穏に声をかける。

 少し愉しげに……というよりはわくわくしているように見える彼女は、にっこり笑いながら声を返してくれた。そんな彼女に“穏って武器、なにか持ってたっけー”と訊いてみた。

 ……返ってきた言葉は、意外にも紫燕という名の多節棍。

 大丈夫なのか、それ。

 あんなぽんやりさんが多節棍を使う様なんて、まるで想像がつかないんだが。

 あ、あー……でもなんだろ。

 呉での鍛錬の合間に、祭さんが“穏はあれで結構できる~”的なことを言っていたような。

 

「………」

「?」

 

 マジか……って目で呆然と見つめていると、にこりと笑まれた。

 離れているにも係わらず、その笑顔はぽややんとしたものだと確信が持てる。なのに結構できるらしい。

 ……前略おじいさま。俺、やっぱりこの世界の常識がよくわかりません。

 ま、まあいいや、今は鍛錬だ。

 穏もあそこで書物を読むそうだし、見られて気になることもない。

 今は自分のことに集中だ。

 ……でも氣を剣にするのは諦めようね。

 

「そうそう、氣を空中で停止させることは出来たんだし、あとは連射を……連射……連射?」

 

 …………。

 

「出来てる!?」

 

 あれぇ!? そういえば俺、空中で停止させることに夢中になるあまり、当初の目的忘れてたよ!? そうだよ! 俺、元々連射のために練習してたんじゃないか!

 

「あ、あ……あー……」

 

 人は難しい事態に陥った時、さらに難しい困難に直面したあとだと“その前に難しいと思っていたこと”が案外楽に解けるといいます。……それを身をもって経験しました。

 

「それにしたって気づかないまま使うとか…………」

 

 阿呆ですか俺は。

 い、いや、でも出来たんだよな! これは喜んでいいことだ!

 では改めまして───

 

「魔空ゥウウウウ包囲弾!!」

 

 ズドドドドドとピッコ○さんのように氣弾を連続で放って、それを空中で停止させる。

 …………一個だけ停止して、残り全部が空へと消えていった。

 

「………」

 

 ハンケチーフが揺れていた。

 

……。

 

 つまりあれだよ! どうにも俺は氣の可能性っていうものを自分で狭めすぎているんだ! 考えすぎなければ上手くいきそうなものなのに、これまで生きて学んできた常識がそれを邪魔する!

 氣なんて漫画やゲームの中のものだ~なんて固定されたことをわざわざ考えたりしなければ、きっともっと自由で……なんというか救われていたのかもしれないのに……独りで静かで豊かで……。じゃなくて。

 

「というか……これ、氣弾切り離さずに放ったほうがよくないか?」

 

 切り離してわざわざ繋げるくらいなら、いっそ繋げたまま放ってみたらどうか。

 

「そうと決まればソイヤァーッ!!」

 

 新たな発見に伴うハイテンションとともに氣弾を切り離さずに空へ!! すると放たれた勢いとともに俺の中の全ての氣がゾリュリュリュと根こそぎ空へと飛んでいきィイイェエゥゥェエ…………どしゃり。

 …………気絶しました。

 

……。

 

 前略おじいさま。一刀はまた一つ賢くなりました。

 

「切り離し、大事!」

 

 や、既に一度通った道であり、忘れてただけなんですが。

 そうだよなー、剣閃とか放ったあとに氣がすっからかんになるから、凪に切り離しを教えてもらったんだもの。

 それを忘れて得意になるなんて……いかんなぁこれは。いかんいかん。

 あ、ちなみに穏は読書に夢中で、気絶した俺にはてんで気づかなかったそうです。

 ……いいんだけどね、べつに。

 

「夢中になることも大事(主に連射習得)。でも過去の経験はもっと大事(主に切り離し)」

 

 麒麟さんが好きだけどガネーシャさんはもっと好きみたいな、そんな気持ち。かなり違うけどそんな気持ち。

 

「はぁあああ……!!」

 

 ともあれ、錬氣が終わったなら再び鍛錬。

 氣の応用も少しだけ道が開けたし、ならば開けた……拓けた? 拓けた、じゃあないよな。だって操氣弾だし。先人としてヤム○ャさんが居るんだから、拓いたとは言えないね。

 なのでこの、先人が既に通った道……極めてみせよう!

 

「つおッ!」(それっぽい言葉)

 

 掌の上、何も無い中空に氣弾が浮く。

 氣の大半を凝縮させて作ったソレは、昨日のものよりも金色が強い。むしろ眩しささえ感じるくらいにギラギラしている。春蘭や恋と戦った時に弾けた氣の閃光みたいだ。

 

「はぁ……はぁ……こ、これを操って……」

 

 停止させるイメージを常に流しながら、カラッポに近い気脈に錬氣。

 既に息切れしている情けなさはご容赦ください。ほんとに辛いんです。

 

「ふぅ……よしっ」

 

 錬氣した氣が安定すると、次は氣弾の操作に移る。

 まずはゆっくりと動かして……右~……左~……おおお、案外自由に動く。でもやっぱり多少の反動みたいなのはあるようで、右に動かしたあとに左に向かわせようとすると、ブレーキみたいなのがかかってから左に行く。

 氣でもこういうのってあるんだなー……重力とかあるわけでもなさそうなのに。

 

「……? ハッ!」

 

 ま、待てよ? 大変なことに気づいてしまった……!

 これの要領で体に氣を纏わせれば、空飛べるんじゃないか……!?

 

「……いやいやまだだ。焦るな焦るな……!」

 

 まずは小さなコントロールからだ。成功を焦っては失敗しか産めない。

 ならばこそ、まずはこの操氣弾のコントロールからだ。

 

「───右!」

 

 意識すると、操氣弾がヒョンッと右へ飛ぶ。

 

「上っ!」

 

 さらに上へ。

 

「………」

 

 しばらくそのままにしておくと、ゆっくりと掌へと戻ってきた。

 氣で繋げてるからかな? なんか面白い。

 

「氣って結構応用が利くんだなぁ。ははっ、これを誰かに向けて飛ばして、相手の氣に変換してからぶつけたら吸収されたりするのかな」

 

 それが出来たら回復弾の出来上がりだ。

 なんだか一気にファンタジックになった。

 

「じゃあ繋げたまま相手の氣に合わせてくっつけて……う、浮かせる?」

 

 出来るんだろうか。

 そしたらそのまま空に飛ばして“悟空ーっ!”なんて叫ばせて……それじゃ相手が死にますね。じゃああれだ、“魔封波じゃーっ!”って叫んで発射、相手を氣で包んで浮かせてぐるぐる回転させて目を回させる。

 ……物凄く面倒な行動だった。

 

「どちらにしたってこれが慣れてからだよな」

 

 そもそも氣は相手に合わせてくっつけた時点で気脈に飲み込まれる。そうなるともう俺の氣ではなくなるわけだし、浮かせることなんて無理だ。

 じゃあ自分はどうなんだって話だが……多分自分を浮かせるのも無理。

 氣自体はそれに重力がないから浮くのであって、そもそも放つ時だって方向を決めて“発射”しているからこそ飛ぶのだ。なのにそこに重力の塊である人を乗せたりなんかしたら、浮くはずもない。

 

「ん、それはそれで仕方ない」

 

 空を飛ぶのは真桜に任せよう。

 俺は俺で、数少ない自分の特技を昇華させることに真っ直ぐになればいい。

 

「…………念のため言っておくけど、特技って氣のことだからね?」

 

 誰にともなく呟いた。

 離れているから聞こえなかったのか、穏はこちらを見ることもなくうっとりした顔で本を読んでいる。

 ……そう、断じて床上手とかそっちが特技ではない。

 氣だよ? 僕、氣が得意なんだ。むしろそれしか伸びないんだ……。

 しかし昔からよくある話だ。全てを万遍なく育てるよりも、一点を集中してそれを極めた者は強いって。大変腹立たしいことに、その多くは一部の“天才”と呼ばれる存在にはどうあっても勝てやしないのだが、それでも食らいつくことは出来るのだ。

 俺はその可能性を決して否定したりなどいたしません。

 なので一歩。一日一歩、三日で三歩ってやつだ。え? 二歩下がるのか? 否である! 進んだからには下がらない!

 後ろが気になるなら振り向きます。下がる理由なんて今はないしね。

 

「よっ! ……ほぉおお~……」

 

 バスケットボールのように、両手で弾くように正面へと操氣弾を飛ばす。しばらくすると止まったそれは、やはりゆっくりとこちらへ戻ってくる。

 試しに引き寄せるイメージを働かせてみると、シュバッと元気に戻ってきたそれをバッシィと両手で受け止め

 

「ギャアアアア!!」

 

 爆発した。

 ……うん、バスケットボールみたいに弾き飛ばせたからって、勢いよく戻ってきたソレが弾けないとは限らないもんね……。でもまさか、キャッチの衝撃で爆発するとは……思ってもみなかったよ……。

 

……。

 

 バッババッバッバッ!!

 

「上っ! 上っ! 下っ! 下っ! 左っ! 右っ! 左っ! 右っ! B! A!」

 

 上下左右に氣弾を移動させまくる。

 いい調子だ。なんだか最近の自分が冴えている気がしてならない。

 いける……何処へとかそんなこと訊かれても答えられないけど、なんかいけそうな気がする! なんでコナミコマンドなのかはイメージしやすかったからだとご理解ください。

 

「よーしよしよしっ! っへへ~♪ なんか調子いいし、そろそろ威力のほうも……!」

 

 子供のように鼻をこすり、調子に乗りまくって顔を大いにだらしなく緩めた俺は、氣弾を地面へ向けて飛ばした。これで地面を抉って、さらに地面から飛び出させることが出来れば俺も……俺もようやくヤム○ャさんに近づくことが───!

 ……ボスンッ。

 

「ホワッ!?」

 

 ……地面と衝突した途端、軽く破裂して消えた氣弾に驚きを隠せなかった。

 あ、あれー……? もう少しこう、ぼかーんとかどごーんとかそんな音を期待してたのに。

 

「……人に当たった時だけあんなに激しく爆発しておいて」

 

 少し腹が立った。

 そりゃあ練習用ってことで練り方はお粗末だったかもしれないが、それでも立派な氣弾だったのに。少し意地になってもう一度練り上げた氣弾を、今度は上昇させてから一気に地面へと落とした。

 すると、地面との接触とともに大きな音を立てて破裂する氣弾! 氣弾の大きさよりも少しだけ大きめに抉れる地面! 「おおおお!」と子供のように燥ぐ俺! ……そして固定のイメージを持続させなかったために、無残に飛び散って消えた氣弾。

 

「………」

 

 一つのことに夢中になると、そもそものきっかけを忘れる癖をなんとかしようと思った瞬間だった。だ、大丈夫、今度は大丈夫だ。人間は学習出来る存在です。

 

「固定、固定ね」

 

 地面に穴を空ける、破裂させない、地面からまた空へと飛ばす。これを以って成功ってことで、とにかくまずは地面に穴を空けられる氣弾を作ること。さらにその時点で氣弾が破裂しないこと。……穴空けても、喜んで氣弾を霧散させちゃわないこと。集中だ、集中。

 

「よしっ!」

 

 錬氣、氣弾生成、氣をくっつけて操作、地面へ向けて発射。

 ここまでは流れるように出来るようになった……と思う。や、アニメとかみたいにシュバーとか出来るわけではもちろんない。あくまで今の俺の中で。相当もたもたしてるんだろうけど、これでも速い方なんだ。……うん、実戦向きじゃないのはとっくに理解してるんだ。でも浪漫が……男の子には浪漫があるのです。

 すげぇ、ヤム○ャさんすげぇ……。俺なんてもうぜぇぜぇ言ってるのに、こんなものを自由自在に……!

 

「~……せいっ!」

 

 中空から地面へ向けて急降下した氣弾が、ごりごりと地面を削る。

 なんというかこう、回した独楽がチリチリと地面を抉るみたいにゆっくりと。

 ……ああっ! もどかしいっ! でも集中切らすわけにもいかないっ!

 そうだよなぁ、やっぱりそうだよなぁっ! 氣弾って破裂した時にこそ威力を発揮するものだよなぁ! 固定したままじゃ、ただの回転するボールと変わらないんだもんなぁ! なんか変だと思ってたよ!

 すごいよ! ヤム○ャさんあなた最高だ! カタチを保ったままの氣弾で地面どころか武舞台の固い石床まで破壊するなんて!

 よくサイ○イマンと一緒にネタにされるけど、彼だって俺達に比べたら十分に最強種じゃないか。そんな彼の技を真似てみようだなんて、自惚れにも程があった……!

 

「じゃあ威力を上げよう」

 

 しかし北郷めげません。

 だってこれしかない……俺には氣しかないんだもの!

 単純に考えればいいのさ、威力が弱いなら、威力を上げればいい。当然のことだよね。じゃあこういうもののセオリーとして、威力を上げるにはどうすればよかったっけ?

 

「そう……水はだばだば流すよりも、ホースの先を摘んで出口を細くしたほうが勢いがいい!」

 

 簡単なことじゃないか!

 なので掌からじゃなくて指先から出す! これ即ち───!

 

「くらいやがれ!!」

 

 右手は人差し指と親指以外の全てを握り込み、指ピストルの構え。左手は右手首にソッと添えるだけ。この右人差し指に氣を集中させて、心の引き金とともに空へと一気に解き放つ。これぞ某・霊界探偵が好んで使用した霊氣圧縮発射奥義!

 

霊丸(レイガ)ァーン!!」

 

 叫んだ名前の通りの物が、金色の色を以って放たれる。

 俺は……圧縮されたソレが空の青へと勢いよく飛び、やがて真っ白な雲に消えてゆくのを……ただ黙って見送っていた。

 

「………」

 

 のちに静かに膝から地面に崩れ、両手を地面についた時点で一言。

 

「……空に撃っちゃ、威力わからないじゃん……」

 

 ……いい加減学ぼうね、俺。


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