真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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103:IF/自覚した女の子は強い。そして怖い①

155/“これからもよろしく”って、すごく眩しい言葉だと思う

 

 結局また夜まで鍛錬した先日より翌日の今日。

 疲れ果てて眠ってしまったために、昨日の分の書簡整理が出来ていなかったので、それを朝の内に終わらせてしまう。うん、いい感じだ。軽い案件のものならそうつまることもなくこなせるようにはなっている。

 近頃は困った事件も起こらないし、いやあ平和っていいなぁ……なんて思っていたまさにその時。最後の竹簡に手を伸ばして中身を検めると、俺の笑顔は無表情に変わったのでした。

 

 

『街の治安問題について

 

 先日、現在の警邏に当たっている華雄様と甘興覇様と、客人である馬伯瞻様が街中で言い争いを始めるという事態が───』

 

 

「なにやってんのちょっとぉおおおおーっ!!」

 

 え!? 昨日!? 昨日って!

 え!? なんでこういうこと竹簡で出すの!? そういうのは直接言ってもらわないと北郷とっても困るんですけど!? やっ……そりゃあ昨日の内に検めておけば昨日の内にわかったかもだよ!? 疲れてたからって今日に回した俺が悪いんだけどさ! 仕事あまりないって言っておいたじゃない! こういうことはせめて直接言ってくださいお願いします!

 ええいもう!

 

「我を倒せる者はいないのかぁーっ!!」

「ここにいるぞー!」

「よぉ~しちょっとこっち来なさいコノヤロウ」

「あれ? え、わ、ちょっ、お兄様ー!?」

 

 呼びかけてみたら本当に現れた蒲公英の襟首を掴んで歩き出した。

 向かう先は中庭の東屋。

 そこで正座してもらってきっちりと事情を聞くことにした。

 

……。

 

 そんなこんなで東屋。

 ひんやりとした石の床に気まずそうにちょこんと正座する蒲公英の前に立ち、竹簡をずずいと突きつけて笑う。

 

「えーとそのー、だから……ね?」

「うん、だから、なにかな」

「あぅう……お兄様、笑顔がとっても怖いんだけど……」

「……この竹簡、俺の警備隊の仲間が書いたものみたいでさ。ど~して華雄か思春じゃなくて、そいつが書いてるのかな~っていろいろツッコミたいんだけど、それよりもだ。……蒲公英さん? この馬伯瞻様が言い争う二人をさらに煽って~って文字、どういうことかなぁ?」

「だ、だからぁ、それはぁ~……そのぅ」

 

 言い辛そうにちらちらと俺を見上げる蒲公英。

 ……ハテ? あの蒲公英が言い辛そう? なんでも容赦無しに言いそうなイメージが強いんだが、これは……なにかある? チラチラと俺を見てるってことは、もしかして俺に関係したなにか……とか?

 

「蒲公英。それってもしかしてだけど、俺に関係ある?」

「───」

「露骨にそっぽ向くんじゃありません」

「やー……でもさすがにこれはたんぽぽでも戸惑うっていうか。むしろ暴露しちゃいたいとは思ってるんだよ? でもそれってある意味お兄様にも原因があるわけだし」

「俺に原因?」

 

 ますますハテ?

 俺、華雄や思春になにかしたっけ。

 華雄は……なんか俺をじっと見ることが多くなって、思春は俺を避けることが多くなって…………待て待て、共通点とか言い争いに繋がるものが見えてこないぞ? 普通に食べ物の恨みとかじゃないのか? この世界での言い争いって、なんだかそっちの方向ばかりに結論が向く気がするんだが。

 

「考えてみたんだけどさ。全然答えに結びつかないぞ? 二人のことで俺が気にかかってるものって言ったら、華雄が俺のことをじっと見るようになったこととか思春が俺を避けるようになったことくらいだぞ?」

「なんだ、お兄様ってばわかってるんだ」

「へ?」

 

 ……わかって? いや、蒲公英さん? わかってるならここで悩んだりとかしていないんですけど? むしろその理由を胸に二人を仲直りさせようと走っているだろう。

 今挙げた二人の理由で俺に関係があることっていったら……

 

 

 

=_=/妄想です

 

 街中をゆく。街の案内と警邏がてらのとある日のこと。

 

「最近、気がつくと北郷を目で追っているのだが」

「…………(寡黙)」

「お兄様ってからかうと面白いよねー」

 

 歩く姿は主に三人。

 それを少し離れた位置から追うように歩くのは、警備隊の連中だった。

 

「しかし俺達も遠いところまで来たよな……」

「魏で警備隊をやるってことになった時は、どうなることかと思ったよな」

「お前は途中参加だったからまだいいさ。最初の頃なんてギスギスしてて空気悪かったんだぞ? 今でこそこうやって話しながら歩いてるけどさ、無駄口叩こうものなら上に報告されて厳しいお叱りがあったのさ」

「へええ……そりゃ怖いな」

「しっかし、隊長が支柱の同盟かぁ」

「……世の中、どう動くのかなんてわからないもんだなぁ……」

「だよなぁ……」

 

 警備隊の連中は小さく苦笑をこぼしながらも歩く。

 喋りながらでも目を光らせているのはさすがの経験者というもので、子供が転びそうになるや咄嗟に助けたり、道に迷っている人が居れば案内をしたりと実に親切だ。

 そんな気配に思春は誰に見せるでもなく静かにフッと笑い、それに気づかない華雄と蒲公英は北郷一刀についてを語っていた。

 

「しかしずっと見ていてわかることもある。まだまだ未熟だ」

「お兄様、確かに頑張ってるけど頑張る方向が時々妙な方向に飛ぶもんね」

「…………(寡黙)」

 

 思春は特に言葉を発さない。

 しかし同意出来る発言が出れば、じっと見なければわからない程度に頷いていたりもした。

 

「だが、もはや私に北郷のことでわからぬことなどないだろうな。やつの癖も行動基準も全てを掴んだぞ、私は」

「えー? それはちょっと答えを急ぎすぎてるんじゃないかなぁ。お兄様のことだったらたんぽぽもお兄様に……ちょ・く・せ・つ、いろいろと教えてもらったし、顔が真っ赤になるようなことを耳元で語られたこともないでしょ?」

「顔を真っ赤に……!? き、貴様、いったいなにを……!」

 

 注:初対面で体験談を語られただけです。

 

「武だ武だ言ってる猪さんにはそんな経験ないでしょ。どうせ二人きりで居たって武の話でしか盛り上がれないに決まってるし」

「な、何故わかった!」

「んや、そこは嘘でも否定しようよ……」

「…………(寡黙)」

 

 賑やかな二人に対して、思春はあくまでマイペース。

 そんな思春をちらりと見た蒲公英は軽い悪戯心に惹かれるままに、彼女にも声をかけた。

 

「ところでえっと、甘寧だっけ。この人はどうなの? 蜀に来た時からお兄様と一緒に居たけど」

「む? 脳筋だ」

「!?」

 

 無言な彼女の肩が跳ねた瞬間である。

 思わずそれは違うと止めに入ろうとするが、 

 

「? なにかある度に北郷に刃物を向けているだろう。それは脳筋ではないのか?」

「!?」

 

 さらなる衝撃が彼女を襲った。

 しかしそれでも武力行使に出ているわけではないのだからと言おうと

 

「あ、それこっちに来てもなんだ。蜀でも結構そういうの見たけど、まだやってたんだねー」

「………」

 

 ……する暇もないままに、どんどんと問題は積み重なっていった。

 思えば会う度に首に刃物を突きつけている気がする。

 最近では視線も合わせないし、もやもやする時はそれを振り払うために武器を振り───

 

「? それは脳筋ではないのか?」

「!?」

 

 口に出ていたらしい。

 心に甚大なダメージをくらい、彼女はよろりとよろめいた。

 確かに、無心になりたいからと頼る当てが武器というのは……どうなのだ?

 だが自分はそれ以外の無心になれる方法を知らない。

 いっそ瞑想でもしていればよかったのだろうか。

 

「ところでさ、華雄ってお兄様のことどう思ってるの?」

「フッ……知れたこと。好敵手だ」

「わお、自信たっぷりの返答だ!」

「あの叩けば叩くほど強くなる様はいいな。普段は情けなくて不甲斐なくて頼り甲斐もなくてそこいらに居るような普通の男だが、氣が扱えるところだけは評価出来る」

「うわー……それだけなんだ……」

「他になにがある?」

「…………ない、かな」

 

 解決した。

 

 

 

-_-/一刀

 

 ……って。

 

「いやいや解決しちゃだめだろ! つか俺、妄想でもどこまで自分に自信がないんだよ!」

 

 妄想の中でくらいもっと自分を立てよう!?

 事実だけどさ! 事実だけどさぁ!!

 

 

 

=_=/妄想(再)

 

 北郷一刀───またの名を三国時代に光臨した聖フランチェスカ学園剣道部が誇る期待の超新星、シャイニング・御遣い・北郷。

 彼は三国時代にご光臨あそばれ、笑みが無かった時代に人々を救った英雄として───ってだから待て。

 

 

 

-_-/一刀

 

 ……真面目にやろうな、俺。

 

「お兄様……ひょっとして疲れてる?」

 

 ぽかんと呆れた顔で俺を見上げる蒲公英の前で、俺は静かにこくりと頷いた。

 とひょおおお……と、中庭に穏やかな風が吹く。

 穏やかな筈なのに、どこかもの悲しく感じるのは、きっと心が疲れているからなのよ。

 

「えぇと、つまりあれか。思春が華雄と蒲公英にからかわれて激怒して言い争いになったとか」

「ふえ? えと、うん、まあそんな感じかな。あれは怒ったっていうよりは照れ隠しなだけにも見えたけど」

「照れ隠し? ……思春が? ───あ」

「にしし、そうそう、あれは絶対そうだよ。もうね、あれはぜ~ったいにお兄様のことが好きだよ。もうね、いろいろとツンツンしちゃうんだけど、手を差し伸べられたら散々と文句を言いながらも、最後には押し切られて手を掴んじゃうみたいなそんなほわぁーっ!?」

 

 思春が? と言った時点で蒲公英の背後に人影。

 ふるふると肩を震わせた誰かさんが鈴音を構え、好き勝手に言っていた蒲公英の首へとそれをそっと押し当てた。うん、わかるよ蒲公英。鈴音を首筋に当てられると、刃の冷たさと明確な殺気の所為で出したくなくても悲鳴が出るんだよなぁ。

 まあそれはそれとしてだ。

 

「思春」

「ふわっ!? なっ……北郷!? 貴様いつからそこに……!」

「最初から居たけど!? え!? 居たよね!?」

 

 思春に存在を疑われるとすごく怖いんですけど!?

 いや、むしろこの場合、俺に気づかないくらいに周りが見えていない思春に問題があるのか?

 嗚呼いやいや、それはそれとしてだよ、うん。

 

「思春、とりあえず鈴音下ろそうね」

「……何故私が貴様の言うことを───」

「正座」

「………」

 

 ビキリと笑顔のままに竹簡を見せると、無言でしおらしく、ちょこんと蒲公英の右隣に正座する思春さんの図。鈴音はしっかりとしまってくれたようだ。

 なのに顔はなんだか、傍から見るとにょろーんとか言いそうな顔だ。

 

「思春……キミともあろう者がなんだって街中で言い争いなんて……」

「言い訳を口にする気はない。罰するなら罰しろ」

「罰はこの説教と正座だから、言い訳はきちんとするように」

「くっ……! 蓮華さま、申し訳ありません……! こんな場所に来てまでこんな失態を……!」

「そういうのはいいから話して、お願い」

 

 じゃないと話進まないから。

 

「どうせなら華雄も居てくれたらいいんだけど」

「へ? 華雄だったらさっきから中庭方面の柱の影からお兄様のこと見てるけど?」

「怖っ!? え!? どこ───って居た! ほんとに居たよ! ちょっ……華雄!? 華雄! こっち来て! 見てないでいいから! 通り過ぎる侍女たちがなんかわざわざ回り道したりとかしてるから! お願いこっち来て!」

 

 通る人通る人が柱の影から俺を見る不気味な存在に驚き、ジリジリと制空圏的なものの内側へ入らないようにジリジリと一定の距離を保ちつつ歩み、離れてゆく。そんな光景が耐えられなくて呼んでみると、何故かバババッと身なりを整えてはっはっはと笑いながらこちらへやってきて、

 

「き、奇遇だな北郷! さあ鍛錬だ!」

 

 と、奇遇でもなんでもない謎の言葉を仰った。

 あっ……あれだけ凝視しといて何言ってるのこの人! 怖い! ほっといたらストーカーになりそうでとっても怖い!

 

「華雄、とりあえず正座」

「なに? おお、座禅の鍛錬か。氣を増やすという名目でやらされたな。以前は胡坐だったが」

「いや、そうじゃなくて。……街で言い争いしたことについての説教」

「………」

 

 あからさまに残念がって俯いてしまった。

 欄干横の柱から東屋までの距離を歩くまではソワソワした表情だったのに、今じゃしょんぼりと蒲公英の左隣にちょこんと座る華雄。それを見て、ようやく話を進められることに安堵の息を吐いた……が、どうやら三人にはこれが面倒ごとへの溜め息と受け取られたらしく、珍しく思春も含めた三人の必死な言い訳会が始まった。

 

「いやまて、違う、私はこの耳年増が北郷はいずれ馬超がもらっていくからなどと言うからだなっ」

「たんぽぽはこの脳筋がお兄様のこと、支柱だろうが御遣いだろうが強ければどうでもいいなんて言うから、どうでもいいならそこらへんの筋肉馬鹿の男とでも楽しんでればいいじゃんって!」

「……言い訳をするならば、この二人がしつこく私が北郷を意識していると言ってきたから否定をしただけだ。この手の輩は自分が正しいと思うと人の話などは聞かずに自分の言葉だけを発する。人が話し始めたならば、自分の言葉は一旦止めるということにすら気を使えんとはな」

「にししっ、あれ~? 言い訳になった途端、急に饒舌になってるよ~?」

「なっ!?」

「図星か。まあ、わかるぞ。私も考えることはどうにも苦手だが、こう……言い訳の時ばかりは随分と口がよく動く」

「一緒に───! ……こほん、……一緒にするな」

 

 ……言い訳を始めた途端、あっと言う間に思春が集中攻撃され始めた。

 それを見て“あ~なるほど”と思ったわけだ。

 つまり、街中でもこんな感じで思春をからかいまくったわけだな。

 

(うん)

 

 結論:思春、巻き込まれただけだよこれ。

 


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