真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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103:IF/自覚した女の子は強い。そして怖い②

 少し様子を見てみたところで、蒲公英が出す喩えに華雄がうむうむと腕を組んで目を伏せ頷き、思春がところどころで顔を真っ赤にしながら仰け反るように驚き、言い返したりもするんだがあっさりと返されてまた焦る。

 やがて返す言葉が見つからなくなってきたのか、そもそも人と話すのが苦手なのか……彼女の顔がどんどんと真っ赤に───むしろ真っ赤っかになっていき、口があわあわと動き、目が渦巻き状態になったあたりでブチリと何かがキレた音がして───その場は、戦場と化したのでした。

 

「わーっ! 思春がキレたぁあーっ!!」

「あはははは! やっぱり図星なんだー! やだなぁこれだから頭が固い人は。好きなら好きで告白くらいしちゃえばいいのにー」

「だだだだっだだだ黙れぇええええっ!!」

「フッ、決闘か! 面白ぐわぁああああああっ!!」

「うおっ!? ど、どうした華雄!」

「くっ……な、なんだ! これはどうしたことかっ……足が、足が痺れて動かない……!?」

「もう痺れたの!? どれだけ正座に弱いんだよ華雄! 胡坐の時は全然痺れなかったのに!」

「せ、正座……これは正座の所為なのかっ……! フッ……ば、罰というだけはある……!」

「言ってる場合か! 思春、とりあえず落ち着───なんで俺まで狙ってるの!? あれぇ!? 俺なにかしたっけ!?」

「だだ黙れぇえ! そもそも貴様がっ……貴様がぁあっ!!」

 

 目が手書きしたような渦巻き状な彼女が暴れる!

 ソレは足が痺れた華雄やキシシと笑って逃げ出す蒲公英───を追わず、何故か俺に的を絞ってウォオオーッ!?

 

「だっ、ちょっ! なんでいつもこうなの!? 今回ばかりは素直に蒲公英を狙うべきだと思うけどなぁ俺!」

「だっ……黙れと言っている……! 貴様が……貴様さえ……き、きさっ……」

 

 鈴音を構え、しかし立ち止まってくれた思春は俺をじっと睨み……言葉の途中でさらに顔を赤くすると、言葉も途中だというのに襲い掛かってきた!? ええいどうする!? 冷静になってもらうにしても、まずは鈴音をなんとかしないと止まってくれそうにないし……ハッ!? こういう時こそ意外性!

 普段俺がやらないようなことをやってみせて、そのポカンとした間隙を縫うように鈴音を弾くか奪えば───!

 

(集中! 左手に氣を込めて───!)

 

 生憎と鍛錬のために来たわけじゃないから木刀はない。

 ならばと、編み出したばかりの氣の応用で対処する! 大丈夫、これはきっと驚いてくれる! 驚いた瞬間に武器を奪えばなんとかなる!

 つかそんなことをもたもたやってる内に思春が目の前にキャーッ!?

 

「うわわわわちょ、ストップストップ!!」

 

 慌ててフィンガーマシンガンを発射。

 殺傷能力皆無の幾つものソレが鈴音を振り被っていた思春に当たり、テンパってて周りが見えていなかった彼女は彼女にしては大層驚いたようで───あろうことか、振りかぶったまま躓いた。

 “あ”と俺と思春が声も出さずに口のカタチを変えるのと、次の展開が頭の中に浮かんだのはほぼ同時。こんな時こそ氣だけで体を動かして、普通ならば間に合わない状況からの脱出を───なんて思っている間に思春に巻き込まれるようにして地面に倒れ───ない。下半身に氣を込めるまでは成功したお陰で、それが倒れることを許さなかった。

 ……のだが、この状況はまるで思春が俺に抱きつくような状況であり……

 

「あ、あのー……思春? 落ち着いた?」

「!?」

 

 軽く声をかけてみれば、再びビクーンと身を弾かせる思春さん。

 そして、また暴れられてはたまらないと、そんな彼女をギュムと抱き締めて脱出不可能にする俺。蒲公英が“わおっ、お兄様ったらだいたーん”とか言っていたが気にしたら負けだと思う。

 それでも暴れようとするなんとも珍しく冷静じゃない彼女に、俺も珍しく軽くとはいえ拳骨を落とした。こう、ごすんっと。

 

「! ……? ……!?」

 

 あ。なんか信じられないって顔で俺と拳とを交互に見てる。

 むしろ何も言わずにそんな挙動をされると恋を見ているみたいでくすぐったいんだが……。

 

「とりあえず急に刃物を持って暴れた罰。いつも冷静で居ろなんて言わないけど、暴れるなら武器は無しで是非お願いします」

 

 ……あれ? なんか途中からお願いに……。

 いやまあ実際に口で語るよりも怖かったし。慣れたとはいえ刃物は刃物だもの、振り回されれば怖い……つかそんな振り回される状況に慣れるなんて環境が一番怖いよ俺。

 

「それで? なんだってまた急に暴れだす気になったんだよ。いつもの思春なら、他の人のからかいの言葉なんて右から左へスルー……気にすることもなく流せるのに。あ、今の思春がいつもと違うのは重々承知してるから、そこのところの誤解は勘弁で」

 

 見てわからないのかとか言われるのも困る。

 ……や、実際には大変珍しい状況ではあるものの、俺は結構嬉しがっていたりする。だってあの思春が感情剥き出しで暴れるなんて、本当に珍しい。いっつも内側に溜め込んでいる印象があるから、たまには発散させなきゃ辛いんじゃないかとか思ってたし。

 だから……まあその。俺が出来ることなら、出来るだけ何かをしてあげられればなぁとか思うわけだ。まさか蒲公英や華雄が言うように好いた惚れたの話でもないだろうし。

 

「あっ、ぐっ、そ、それは……貴様……貴様が……」

「ん、俺が?」

 

 出来るだけやさしく語りかける。

 逃げるつもりはないからゆっくりと話してくれって意思を込めて、拳骨を落とした場所をやさしく撫でつつさらに落ち着かせるために彼女を自分の氣で包みながら。

 ………………ハテ。

 さっきよりもよっぽど慌て始めたんだが。

 なんで? とばかりにちらりと蒲公英を見ると、構わん続けなさいとばかりにサムズアップされた。……相手が蒲公英って時点でいろいろと問題もある気がしないでもないが、俺がそうしたいって思ってやったことでもあるんだから続行に異存はなかった。

 そんなことを続けていると、暴れていた思春の体がやがて鈍り、終いにはへにゃりと力を無くして完全に俺にもたれかかるようになって……あれ? 思春? 思春さん!? もしかして具合でも悪かった!? ……と心配になって顔を覗いてみれば、これ病気でしょうとツッコミたくなるくらいに真っ赤っかな顔の思春が、俺の視線から逃れるように顔を背けた。

 その目はひどく潤んでおり、まるで恋にトキメく少女のような───…………ような……?

 

(………………風邪か!)

 

 マア大変! 風邪の引き始めに神速パヴロン! ってそうじゃなくて! え……え!? 恋!? あの思春が!?

 

(いったい誰に……!!)

 

 ……なんてことはもう思いませんし、口にしたらまず刺されます。

 この状況でさすがにそれはないだろう、俺よ。

 えーと、これはつまり…………そういうこと、なんだよな……?

 いやいや待て待て、そうだとしても好きになるような要素がいったい何処に? そりゃあ他の男性に比べたらよっぽど思春と一緒に行動してきたし、一緒の布団で寝たことも野宿したこともある。惚れ薬に浮かされて、キスしそうになったこともあったけど未遂だったし……それ以外はほぼ冷静にツッコまれたり呆れられたり見下されたりの連続だった気がする。

 ……この北郷、正直に申し上げます。

 

(惚れられる要素がてんで見つからない……!)

 

 自分のことなのにね。おかしいね。不思議だね。

 いや、もしやすると思春はだらしのない男を支えるのが好きな、そんな姐御肌気質の人なのかもしれない。実際に錦帆賊のみんなにも慕われていたわけだし、なんだかんだで今まで支えてくれていたし……!

 

(そ、そうだったのか……!) *注:たぶん違います

 

 でも、じゃあいつからだったんだろう。

 なにせ思春の性格だ、きっと極々最近……恐らくは惚れ薬騒動あたりからの問題だったのではと思う。だって実際、あの辺りから避けられてた気がするし。

 落ち着かせるようにやさしい氣で包みながら訊いてみる。さすがにストレートにズバッと訊くのは無茶がすぎるというか、デリカシーに欠けすぎるのでソッと。

 すると…………大変信じられないことに、自覚はなかったもののどうやら呉に居た時には既にとのことで……! ば、馬鹿な! 思春が!? あの思春が!? ……などと本気で驚いてしまった俺は、きっと悪くない。口に出さなかっただけ見事だったんだろうが、顔に出たんだろう。胸に抱いている思春はともかく、蒲公英には呆れたような目で見られてしまった。……ちなみに華雄は「ところでいつまで抱き合っているんだ?」と首を傾げていた。

 いや、むしろこの場合、思春がそれを話してくれること自体が奇跡か。なんかちらりと見てみればいろいろと観念したというか、諦めたような顔で俺に全体重を預けきっている。あの思春が。なんか頼られてるみたいでちょっと……じゃないな、かなり嬉しい。

 思えばこれだけ一緒に居たのに、こうして体を預けるように寄りかかってくれたのなんて寝顔を写真に収めた時くらいだった。無防備な寝顔を見られるという大変珍しい瞬間だった。あの時と違うことといえば、今の思春は起きていて、自分の意思で身を預けているということで。

 

(……やばい、なんか本当に嬉しい)

 

 ただそれが本当に色々なことを諦めたからなのか、自分を好いてくれているからなのかが……正直ちょっと怖い。前者の場合だと“私が北郷ごときを……!”とか言って潔く切腹! なんて話になるかも……と、おかしな方向に想像が飛んでしまう。さすがにそれは無いだろうが。

 しかしながら、そう思ったとしても相手が思春ならやりかねないと思ってしまうのも事実なわけで。だって本当に俺の何処を、あの思春が好きになってくれたのかがわからないんですもの。

 ……まあ、そこには“でも”とか“だけど”が続くわけですが。

 

(わからないならわからないなりに───)

 

 そうだな、知っていけばいいのだ。

 こういう時に無駄な質問は無しだ。今わからないならじっくりと知っていきましょう。この状況でごめんなさいは流石に無い。大体身構えすぎなんだ、俺は。

 好き合った途端にああいうことをするんじゃないかって構えていて、相手の気持ちに気づくのに怯えている。ゆっくりと受け入れていこうとか言いながら、先延ばしにしているだけじゃないか。───だが言おう。そんな自分に呆れていたとしてもすぐに手を出すのはやっぱりどうかと思う。

 なので……やっぱりじっくりと。

 思春が嫌いかと訊かれれば、きっぱりと否と言える。

 結果として刺されることになった呉でのあの日、俺の我が儘でやりたかったことを最後まで見届けてくれて、その所為で自分が将としての立場を追われてもずっと一緒に居てくれた。立場の保守よりも呉の平和を願った彼女を嫌えるはずもない。

 

(うん)

 

 自分の気持ちと向き合ってから、改めて思春の体を抱き締めた。

 途端、くたりと力が抜けた体がびくりと震えた。

 軽く身動ぎをしたようだけど、上手く力が入らないのか、抵抗であるかとも思えない程度のものだった。

 

(なんか……)

 

 本人には失礼なことかもだが、小動物を抱き締めているみたいで可愛い。

 むしろ思春がこんな風に大人しくなる状況、考えたこともなかった。

 そもそもこういうこと自体、魏のみんなとしかするつもりもなかったあの頃を懐かしむ。あれからしばらく───呉に行って蜀に行って魏に戻って、お祭りをして都を作って。なんだかんだで一緒に居た時間も長いのに、おかしな話になるけど……いたした相手が魏では華琳だけに対して、こっちでは美羽に七乃って……。あれだけ恋焦がれた魏なのに、本当におかしな話だ。

 や……なんというか、霞が帰ってきたらそういうことをするって話にもなっているわけで、恥ずかしながら今からドキドキしている自分も居るわけで……ん? 魏? 魏……

 

(はうあ!!)

 

 魏……魏!

 やばい忘れてた! 一度は思い出したのに、また記憶の隅に置いておいて忘れてた! もしや本能!? それは防衛本能というやつでござるか北郷!?

 そう、魏だ。魏だよ……華琳は俺がああ言ったから度外視するにしても、美羽と七乃の件はどうやったって弁解のしようが……!

 ……頭の中に、“ふーん? じゃあ一刀が支柱になったら、真っ先にちぃが自然の流れで愛してあげる”という言葉が蘇ったが故の動揺であった。

 

(真っ先に……真っ先に……! ア、アワワ……!)

 

 次いで、“あ、でも……他の誰かに誘われて、あっさり抱いちゃったりしたら本気で怒るからね?”という言葉が頭の中に浮かぶと……もう自分の未来が真っ暗になってゆくのを見送るしかございませんでした。

 だからそのぅ……ついこんなことを口走ってしまうのも、日々を女性の力強さに驚きながら生きてきた俺にしてみれば、ある意味当然で、でもいろいろとひどいことだったわけで。

 

「ア、アノ、思春サン。これからもソノー……俺の傍に居てくれるカナ」

 

 口走った言葉はソレ。

 びくんっと思春の体が再度跳ねて、それを体で感じ取った瞬間にハッとなって自分で自分を殴った。もちろん、氣を付加させた状態で。

 耳の奥が“ゴンバォゥン!”と破裂するような衝撃とともに涙まで出てふらついたが、ざまぁない、自業自得だ。脳が揺れるのを実感しながらもなんとかふらつく体に喝を入れて胸をノック。そうじゃないだろ、と。ふらついたので、倒れないようにと思春の体をぎううと抱き締めてしまったのは正直ごめんなさい。

 

「ごめん、言い直す。……思春、これは命令とかじゃなくて“お願い”だから、よく聞いて、よく考えて答えてほしい。───打算や気負いも無しに、これからも俺の傍に居て欲しい」

 

 状況に怯えて誰かを欲するのは酷い話だと思う。

 しかもそれが相手の気持ちを利用したものなら最悪と言ってもいい。

 勢いとはいえ口にしてしまった自分の言葉に吐き気と頭痛と眩暈と嫌悪感と……ア、アレ? なんかいくらなんでもいろいろ感じすぎじゃない? あ、本気で自分を殴ったからか。なんかもうふらふらしずぎて立っているのも辛い。自分に苛立ったからってやりすぎた……? い、いや、自業自得だ。自分に向けてでも言い放てるぐらいに“ざまぁみろ”だ。

 でもやっぱり当たり所が悪かった所為で、俺は思春が俺を見上げるのと同時に……擦れ違うようにぽてりと地面に倒れた。ええ、もう顔面からストレートでしたよ。それで気絶したのか、それからの意識はぶっつりと途切れていた。

 


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