真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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104:IF/邪な風もみんなで吹かれりゃ怖くない②

 そんな日々の、とあるひとコマ。

 

「でさ。各国合同模擬戦大会っていうのはわかったんだけどさ」

「なんだ北郷! 既に戦いは始まっているんだぞ! 無駄口を叩くな!」

「いやいや言わせてくれよ! これ絶対におかしいだろ! 各国の将全部をごちゃまぜにして、魏と呉と蜀と都の主で指揮をして戦うってのはわかったよ!? くじ引きで選んだんだからそりゃあ公平だった筈だろうさ! でもさぁ! これはさぁ!!」

「なんだよアニキぃ、あたいらじゃ不満だってのか?」

「いや心強いし頼りにしてるよ!? むしろ頼りにしか出来ないだろ!」

「にゃはは、なら大丈夫なのだ! 鈴々たちにど~んと任せるのだっ!」

「そーだよ兄ちゃん。このちびっ子はまだしも、絶対に春蘭さまとボクが勝たせてあげるから」

「春巻は黙ってるのだ!」

「なんだとー!?」

「戦……戦か。ふふふ……腕が鳴る……! 今こそ磨きに磨いたこの華雄の力、天下に轟かせる時!」

「くぅっ……どうせならば桃香さまに選んでほしかったが……! おい北郷っ、お前がワタシを選んだからには半端は無しだ! だからお前も勝てる指揮をしろ!」

「勝てる指揮って…………あの。この軍にパワーファイタ-しか居ないことへのツッコミはゼロですか?」

「ん、んん? ぱわーふぁいたー? なんだそれは。相変わらず貴様の言葉はまるでわからん」

「春蘭の場合、理解する前に頭から難しい言葉を追い出すからだろ……。パワーファイターってのは、力が秀でた優秀な“戦士”って意味だよ」

「なんだそうなのか。まさしく私のためにあるような言葉だな! 華琳さまの軍と戦わなければならんということは気に食わんが、手を抜けば華琳さまにお仕置きをされてしまう。…………それはそれでいいかもしれんが、のちのちを考えるとわざと負けるのは性に合わん! さあ北郷! どう戦うのかさっさと言え!」

「あの。もひとつ質問いい? ……なんでこの軍って軍師が居ないの!?」

「? なにを言ってるんだ。軍師に選ばれた桂花が“貴様につくくらいなら首を斬る”と言って辞退したんだろう」

「けぇえええいふぁぁあああああああっ!!」

 

 “そういうことは忘れずに生きていこう”と思いながら生きてはいるけど、時々泣きたくもなります。それもまた俺の日常。

 

  ───季節は、完全なる冬。

 

 寒さに負けてカタカタ震える体や心に気合を入れようってことで、三国と都で模擬戦を始めた。軍と言うからには兵も用意して、大将と決めた相手の頭から鉢巻を奪えば勝ちという、超実戦的な騎馬戦みたいな催し物である。

 くじ引きで人材を決めるそれで、俺は一番最初に春蘭を引いて「おおっ!」と喜んだ。次いで鈴々を引いた時にも喜び、華雄、季衣、猪々子、焔耶と引いて……なんかその辺りで頭を抱えていたような気がする。

 さて、そんな突撃大将軍しか居ないような軍の中で、俺がする指揮なんていったら?

 

「全軍抜刀! するべきことはただ一つ! 突撃!! 粉砕!! 勝利だぁあっ!!」

『うぉおおおおおおおおおおっ!!』

 

 これしかなかった。

 だってね、くじで引いた兵の部隊っていうのが春蘭隊とか華雄隊とか、猪兵ばっかりでさぁ……。いったい他にどんな命令が飛ばせたと? むしろ飛ばしたとして作戦成功は在り得たか? …………ないだろ。

 だったらもう将の能力を生かすしかない。つまり……突撃あるのみ。

 

「にゃっ!? お兄ちゃんも一緒にくるのかー!?」

「この軍で一人で待機してたら囲まれて終わるよ!? みんな陣地なんてもう見てないだろ! だから突撃粉砕勝利!」

「お……おー! なんだかすごく楽しくなってきたー! 鈴々、一度でいいからお姉ちゃんともこうやって突撃してみたかったのだ! でもそれは無理だから、一緒に突撃してくれて嬉しいのだ!」

「はっはっはっはっは! なんだなんだ北郷! 貴様も前に出るのか! 戦の中ではいつも後ろに居たというのに、随分と勇ましくなったではないか!」

「ははっ、たまにはね! どうせすぐにもうごめんだとか言いそうな自分が容易に想像出来るけどっ!」

「そうか。そうなったら私が引きずってでも連れていってやろう。そうすれば華琳さまも貴様の成長を認めるとともに、私にもご褒美を……! ……ありがたく思え?」

「あ、兄ちゃんボクもボクも!」

「やめて!?」

「あっはははは! なんかいいなぁこういうの! うちは麗羽さまがああだったから、“頭”と一緒に突撃なんてしたことなかったしなぁ~! なんかこれぞ人馬一体……じゃなくて、軍勢一体って感じだな! へへっ、あたいもわくわくしてきたぜ~っ!! これで斗詩が居れば文句ないんだけどなぁ!」

「うむ……私もその、王というか……主が月のような女の子だったからな。こうして主とともに突出する興奮は今まで味わえずにいた。……なるほど、この高揚が軍というものの一体感か!」

「桃香さまに刃を向けるのは気が引けるが……これも催し物の一種! そしてなにより桔梗さまと戦える良い機会だ! 我が名は魏文長! 我を倒せるものは居ないのかぁーっ!!」

 

 聞いてみれば、意外というか。

 王とともに突撃したいと願っていた者は結構居たらしい。

 言われてみればそうなのかもしれない。

 命令されて突撃するよりも、王の背についていってともに戦いたいって気持ちは……それが憧れている相手なら、そう思うのも当然なのだろう。

 

「お兄ちゃんっ! 突撃したのはいいけど、相手側の策とかはどうするのだー!?」

「相手側の軍師が伝令に伝える前に全力を以って潰す!!」

「おおお! わかりやすいのだー!」

「おい北郷! 貴様ぁあ……こんなにわかりやすい作戦が出せるなら、なぜ魏に居た時からそうしておかなかった!」

「そんなにややこしいこと言った覚えないんですけど!? あと主な作戦は桂花や稟や風の仕事だったろ!?」

「ええいやかましい! 言い訳は見苦しいぞ!?」

「言い訳どころか正論な筈なんだけどなぁ! ええいもう突撃突撃突撃ぃいいいっ!!」

『うおぉおおおおおおおおおっ!!』

 

 突撃を続けた。

 作戦なんて邪魔だと断じてただひたすらに。

 何も考えずにただ突っ込み戦う……純粋なる戦いっていうのは結構気持ちよく、やってみて初めて……春蘭と華雄の気持ちが少しだけわかった気がした。

 

「ごめん! 通るな!」

「つわっ……! はっ……ははっ、強くなりましたね、隊長……!」

「───! ……ああっ! 今まで後ろから指示してばっかでごめんな! 俺、これからももっと頑張るから!」

 

 そして、突出する怖さと緊張というものも。

 それらを経験している兵からの言葉に思わず泣きそうになって、それをぐっと堪えると笑顔で感謝をした。

 返すものがまた増えた気がしても、それがてんで辛いなんて思えなくて笑う。

 ……そう、普段じゃ話せないことも、解らないこともある。

 だからぶつかって、戦場での目的地目指してがむしゃらに突き進んだ。

 これが兵が、将が見ていた、経験していた世界だ。

 いつかじいちゃんの前で鍛錬した多対一の構えで兵と戦い、ただただひたすらに大将のもとへ。

 

「───! 北郷か!」

「───っ……祭さん!」

「かっかっか、よぉ来おった! 鍛えたというのに後ろで縮こまっておるのだったらどうしてくれようかと弓を構えておったところだ! ここへ突出してきたということは───わかっておるな?」

「大将の鉢巻は、当然簡単には……ってことだよね」

「以前は妙な終わり方をしてしまって燻ってしまったからのぉ。ここでならば全力でぶつか───」

「うりゃりゃりゃりゃりゃぁああああっ!! どくのだーっ!!」

「ぬっ!? 張飛じゃと!?」

「突撃! 粉砕! 勝利なのだーっ!!」

「ちぃっ! さすがに戦場ともなれば一騎打ちなど静かには出来んか……! これは正規な戦ではないからのぉ……!」

「───って、そうだった! 場の雰囲気に飲まれるところだった! ごめん祭さん、決闘はまたいつか! 俺の我が儘で今の軍の足引っ張るわけにはいかないから!」

「ふっ……ふふははは、はっはっはっは! おう! それでよい! 軍の一部として戦うと決めたならそれを貫けぃ! ───もちろん、ただで通す気はないが───のぉ!」

 

 三国と都の将を混ぜた戦は混戦を極めたようなものだった。

 誰が味方かを覚えておかなければ同士討ちでもしてしまいそうで怖い。主に春蘭が。

 周囲の勢いを止めてしまうという理由で一騎打ちは認めてはいないものの、それ以外は結構ずぼらなルールのこの戦。

 たとえば高いカリスマを持ってらっしゃる誰かさんが、その誰かさんを愛してやまない誰かさんに声をかければあっという間に───

 

「春蘭。私に協力なさい」

「はいぃっ! 華琳さまっ!」

 

 伝令:【夏侯惇将軍が寝返った!!】

 

「おぃいいいいいいいっ!!」

「しゅ、春蘭さまぁ! さすがにそれはまずいですよぉ!!」

「余所見しておる暇はないぞ!」

「ほわぁっ!? ちょっ……祭さん! 模擬刀でも今のは危ないだろ!!」

「なんじゃ、攻撃方法くらいでいちいちみみっちい。余所見で負けたとして、それはただお主が油断しただけじゃろう? 戦人たるものならば常に周囲に気を配はぴゅうっ!?」

「へっ……!? う、うわぁああ祭さぁああああん!?」

 

 春蘭が華琳側に寝返るという、まあ予想はしていた事態に突っ込みを。

 そうこうしている隙を狙われたもののなんとか避けた……先で、戟の長柄部分でゴインと頭頂を殴られてオチる祭さんの図。

 なんだかとても可愛らしい悲鳴が漏れたが、それは言わないほうがいいのだろう。

 ともかく今は、倒れた祭さんの後ろに居た───恋をなんとかしないと。

 と思っていたのだが。

 

「……一刀は、恋が守る」

「うえぇえっ!? りょ、呂布っ!? に、兄ちゃん、どうするの!?」

「ど、どうするったって……あの、恋? 守ってくれるのは嬉しいけど、後ろから頭に戟を叩き込むのは……」

「………」

「……え、えと。恋? 俺と一緒に、来てくれるの?」

「……ん。一刀は恋が守る」

「……わぁ」

「……いいのかなぁこんなので。じゃあボクも流琉を見つけたら誘ってみよ……。ていうか兄ちゃん、ボクたちの軍、なんでこんなに人数少ないんだろうね」

「力の問題だと思うぞ……」

 

 伝令:【恋が仲間に加わった!!】

 ……なんかあっさり仲間になった。

 いいのかこれ。……いいのか。最初にやってみせたのがこの大陸の覇王さまなんだし。

 

「うわわーっ!? 恋ちゃんが寝返っちゃったーっ!! どどどどうしよう愛紗ちゃん!!」

「落ち着いてください桃香さま。ならばこちらも鈴々を引き入れればいいのです。……というか桃香さま、陣地でお待ちくださいとあれほど……」

「私だって頑張って鍛錬してるもん。お兄さんと華琳さんにその成果を見てもらいたいってこともあるけど……愛紗ちゃんはきっと怒るだろうけど、突撃するみんなの気持ち……私も知ってみたかったんだよ」

「桃香さま……」

「でも、うん。とにかく今は愛紗ちゃんの言うとおり鈴々ちゃんを味方に───」

「にゃははははは!! いーやなーのだーっ!!」

「ええっ!? 鈴々ちゃん!?」

「鈴々!? いつの間にこんなところまで!?」

「突撃してたら呉軍を抜けちゃったのだ! というわけで愛紗! 勝負なのだっ!」

「…………鈴々。まさか最初からそのつもりだったんじゃないだろうなぁ……!」

「んにゃ? なんでわかったのー? くじが分かれたらそうするつもりだったのだ」

「……まったく、お前というやつは……!」

「っへへー、構えたからには戦うだけなのだ!」

「いくぞ鈴々! 全力で───!」

「応なのだ! 全力で───!」

「───獲物、みぃ~つけたっ♪」

『!? ───孫策!?』

 

 あちらこちらで悲鳴やら怒号やらが聞こえる中、なんかもうこれ模擬どころか普通の戦より盛り上がってるんじゃないかってくらい、みんなの気迫がすごいすごい。

 ここまで混ざるとどこで何をやっているのかも解らなくなるってものだが、そんな中でも俺は───居た!

 

「! 一刀!」

「蓮華!」

 

 兵に守られるように立つその姿を見て、木刀を逆手に持って切っ先を後方へ。

 蓮華もくすりと笑うと剣を鞘に納めて地を蹴った。

 兵が止めるのも聞かずに俺と蓮華は近づき───すぐ目の前に立つや掌と拳をパァンと叩き合わせて、預け合っていた“戈”と“文”を互いに戻す。

 そうすると即座に武器を構えてぶつかり合った。

 周囲は一体何をしたかったのかと困惑の視線をぶつけてくるが、俺達にとっては大事なことだったのだ。

 預け、預けられたのは“人を殺めるための戈”。

 それを戻すということは殺し合いでもするのかといったらそうではなく───覚悟の問題なのだ。模擬とはいえ戦をするのだから、甘い考えは根本から捨てて真っ直ぐに。

 

「っ……私が“王として”を学んでいる間、お前は随分と己を鍛えたのだろうな……!」

「蓮華だって。あの祭さんが、強くなろうとしてる人をほうっとく筈がないしね……!」

「ああ、散々と扱かれた。弱音なんて許さないとばかりに。そうして挑んだ天下一品武道会も負けてしまったが……お陰で今まで余計に扱かれた……!」

「俺だって、訪れる人訪れる人に代わる替わるボコボコにされて空飛んで泣き言言って叩きつけられて空飛んで吹き飛ばされて空飛んで……!」

「……随分と空を飛んでいるのね」

「そこで女の子な言葉になるのやめて!? ───って、蓮華、鉢巻は?」

「え? ……ああ、あれなら姉さまが。その方が狙われやすいからと言って持っていった」

「……そか。じゃあ今頃───って向こうは向こうか。全力でいくからな、蓮華!」

「ああ! 望むところだ一刀!」

 

 氣を全力で解放。同時に錬氣も常にしての攻防が始まった。

 恋が突っ込んでくるかなと思っていたが、恋は他国軍の将に集中攻撃を仕掛けられているらしく、足止めされている。

 しかしその包囲もどんどんと力を無くしてゆく異常ともとれる光景に、蓮華と戦いながらも喉を鳴らした。

 その一方で───

 

「あっははははは! せっかくこの乱戦の中で会えたんだから、すぐに楽しみましょう!? ねぇ、愛紗、鈴々、桃香!」

「くっ……鉢巻、というと孫策、あなたが呉の大将か!」

「孫権じゃなかったのかー!?」

「あぁこれ? 狙われるために奪っちゃった。だってその方が楽しそうじゃない?」

「奪った、って……はぁ。周瑜殿の苦労が目に浮かぶようだ……」

「あ、そういえばそっちの軍師は冥琳だったわよね。いい作戦はくれた?」

「あなたに気をつけろと」

「わお。行動を見透かされてるみたいでまいるわねー……───あとは?」

「会ったとしても攻撃はするなと」

「え? 冥琳が? そう言ったの? へー……じゃあこの睨み合う時間にもなんらかの意味があるのかし───」

「孫策! おぉおおおおおお孫策! 見つけたぞ孫策ぅううううっ!!」

「───ら? って華雄!?」

「ふははははは! ここで会ったが百年目! 北郷とともに強くなった私の手で───孫策! 今日こそ貴様を打ち下してみせよう! 我が金剛爆斧の前に散れぇえええぇええぃいい!!」

「え、わ、ちょっ───きゃーっ!?」

 

 ───どこかから悲鳴が聞こえた気がしたが、きっと気の所為だ。

 むしろ悲鳴なんてどこからでも聞こえてきているのだから、気にしたら負けだろう。

 その悲鳴が主に男集(兵と俺)が出しているものだとしても、気にしたら負けなのだ。

 

「うわあああ!! りょ、りょっ……呂布だぁーっ!! げああぁーっ!!」

「ひぃいい!!? 相棒!? 相棒ーっ!!」

「しっかりしろぉ! 武器は模擬っ……模擬戦用の斬れない戟なんだぞ! なのになんでそんなに吹き飛んでるんだ!」

「へ、へへっ……ど、どうやらドジっちまったみたいだ……。み、みんな……あ、あとを……た、頼ん……───」

「相棒ぉおおーっ!!」

「え、衛生兵! 衛生兵ぃいっ! 頼む! こいつを助けてやってくれぇえ!! こいつっ……ようやく恋人が出来て、今朝まで俺達にどつかれてくすぐったそうに笑ってたのに……! こんなっ……こんなことって……!」

「ち、ちくしょうもう我慢ならねぇ! 俺だってあの乱世を生きた兵だ! 戦での勇気じゃあ───将にだって負けねぇええっ!!」

「はっ───よ、よせ兵士壱! やめろぉおっ! 戻れ! 戻ってくるんだぁあっ!!」

「へへっ……今行くぜ、相棒……。お前一人に寂しい思いはさせぶべえっしぇぇえっ!?」

「兵士壱ーっ!!」

 

 人が飛ぶことに武器の鋭利さは関係がない。

 俺達にとってはそんなことは当然だったのに、心のどこかで“斬られて死ぬことはない”なんて安心があったのかもしれない。

 俺達の体は将の一撃で簡単に空を飛び、地面に叩きつけられただけで全身が痛みで動かなくなる始末。その衝撃には武器が切れるか否かなんてことは関係がなく……ただ吹き飛ばせて長ければ、彼女らにとっての武器というものは、大した違いはなかったのだろう……。

 次々と兵がキリモミで飛んでゆく景色に歯噛みしながら、俺は蓮華の攻撃を弾き、逆に攻撃しを繰り返していた。

 

「つ、ぅ……! 受け止める度に腕が千切れそうなくらいに痛い……! 一刀……それがあなたの答え……!?」

「こうでもしなきゃ、華雄たちの攻撃の一撃一撃すら弾ききれなかったって、それだけだよ!」

「───そう。ならば相性は良いのだろうな。私は祭から避けることを重点的に習った。剛撃ばかりでは、以前のあなたと戦った華雄のように疲れるだけで終わるぞ」

「───!」

 

 蓮華が強く握る剣や構えからスッと力を抜いてゆく。

 まるで自然に身を任せるような、風が吹けば揺れそうなくらいの脱力だ。

 表情からは険しさも緊張も消え、力は抜いたが集中は消えていないとわかる彼女の顔───

 

「フィンガーマシンガン!!」

「きゃあああああああーっ!?」

 

 ───が、驚愕に染まった。

 ボチュチュチュチュと地面を軽く抉る、雨程度の威力しかない氣弾にしこたま驚いたらしい蓮華は、アニメとかでよくあるような足をぱたぱたさせてマシンガンの弾丸を避ける人みたいになっていた。

 のちに激怒した彼女に襲われるに到り、なんかもうフィンガーマシンガンは使わないほうがいいかもなぁと普通に思っていた。使うにしても状況を考えようね、俺……。

 

  そうして、武人のほぼが目を輝かせて戦っていた。

 

 俺も全力の戦いで、しかも相手はいつかの呉で互いに高めあっていこうと誓った相手だというのだから、心が熱くならないわけがない。

 蓮華も同じようで、祭さんに扱かれたと言うだけあってその立ち回り方は見事の一言。

 攻撃は避けられるし隙は逃すことなく狙ってくる。

 加速攻撃を使おうとした瞬間、その予備動作を潰されるとは思わなかった。

 驚いた顔で蓮華を見れば、いたずらが成功したみたいな子供のような顔で笑う彼女。

 ……いや、そりゃ流石に予測できないって。まさかあの蓮華が前蹴りでこちらの体勢を崩しにかかるなんて。

 でも確かにその蹴りは、いつかの日に祭さんにもやられたものだったのだから、恐らくは蓮華も随分とやられたんだろうなぁと予想が出来た。じゃなきゃ、あんなに嬉しそうな顔をする筈がない。

 

「いっちち……! ははっ……強いなぁ、蓮華っ!」

「……! ~……ええっ! ええっ、貴方もね、一刀!」

 

 素直に強いと口にすれば、これまた褒められた子供のように眩しい笑顔をこぼす蓮華さん。……“褒めてくれる人なんて居なかったんだろうなぁ”って答えに簡単に辿り着いた。

 自分達はあれから成長出来たのでしょうかと互いに語りかけるように得物を振るい、衝突の度にその答えを受け取ってゆく。それは、その鋭さと重さを体で感じる度に笑みがこぼれてしまいそうになるくらい、とても清々しい戦いだった。

 相手の攻撃を受け止める度に、体が“成長出来てるよ”と言ってくれているようで。

 以前だったら数合でぜえぜえ言っていた体が、“まだ全然動ける”、“まだ頑張れる”と自分の“こうしたい”を受け止め、実行してくれる喜び。

 それを誓い合った二人で幾合もぶつかり合い、確かめていった。

 そんな戦いを、兵を蹴散らしながら満足げに見守るのは思春だ。

 

  ……そう、誰もが自分の武や、高鳴る思いを胸に自己の得物と想いをぶつけ合った。

 

 汗を流し、攻撃を受け止め、時には弾いて時には弾かれて。

 渾身を放ったのに逸らされて息を飲み、隙を穿つ攻撃を己も避けて見せ、息を飲む姿に笑みを浮かべ。

 そうやって、次第に武人の目が目の前の者しか映さなくなった───その時。

 

『今でしゅ!!』

 

 掛け声とともに一斉攻撃。

 ハッとした瞬間には驚くほどの兵が突撃を仕掛けてきており、他の将は無視して何故か俺目掛けて……えぇえええっ!?

 

「これはっ……いつの間にここまで包囲されて───!?」

「……! 一刀は、恋が……!」

 

 蓮華が驚き、自分に向かう兵を恋が吹き飛ばし、それでも尚突撃をする兵たち。

 今でしゅ、ってカミカミ言葉から察するに、指示を出したのは朱里と雛里。

 そしてその二人が居た軍は……困ったことに魏だった。

 俺達がほぼの武官を引き当てる中、華琳が引いたのはほぼが軍師。

 それでは戦いにならないだろうって話になりそうだが、その分、軍師一人につき付いてくる兵の数は武官側とは大きく異なり、多いのだ。

 その結果がこの雪崩式のような包囲突撃。

 ああっ! 春蘭をあっさり奪われたのは痛かった! 華琳のやつ最初からこれが狙いだったのか!? 軍師が多いっていっても元々は力側だった亞莎も居るし秋蘭も居る! そこに春蘭の力が加わって、朱里も雛里も穏も風も稟も……アワワー!?

 力ばっかりだからってこっちの人数少ないのはやっぱり納得がいかないんですけど!?

 しかもその力の一部があっさり寝返っちゃったし!

 

「っ! ……! ふっ……!」

 

 恋が、俺に突撃してくる兵を蹴散らしていくのだが……兵は俺しか見ていない。

 そりゃそうだ、鉢巻を取れば勝ちなら、恋には構わずとことん俺を狙えばいい。

 むしろ俺も蓮華との戦いに熱中しすぎてそもそものルールを忘れていた。

 で……そのお相手の蓮華さんなんですが。

 

「下がれ貴様ら! 一刀は私と戦っているのだ!!」

 

 ……かつてない気迫を以って、兵を薙ぎ倒しまくっておりました。

 しかしまあ……なんでしょう。

 きちんと統率と忠誠が保たれていない部隊のなんと恐ろしいことよ。

 乱れに乱れて、隙を突かれたらもろいったらない。

 そんなことまで体験してしまった俺は、呆れながらも最後の最後まで全力で楽しみ……結局、数の暴力に押さえられる形で、鉢巻を奪われてしまった。

 

  ……ちなみに。

 

 後日の話になるが、体が熱くなったのはいいんだが熱くなりすぎたために汗を掻き、しかし全員が全員一気に風呂に入れる筈もなく……最初に入った王や将以外の者が、例外なく風邪を引いた。さすがに医務室代わりの部屋にはそんな人数は入れられませんっていうことで、謁見の間が仮の医務室代わりとなった。そこで全員で寝るという、不近親だけど修学旅行っぽい状況につい笑ってしまう。普段ではありえない状況に、俺以外にも笑っている将が居るくらいだ。熱で顔赤いけど。

 そんな俺達のために呼び出された華佗が今回一番災難だったんじゃないかなぁと思ったのは、きっと俺だけじゃなかった筈だ。全員の軽い治療が終わる頃には華佗もぐったりしていて、そんな彼にボーっとする頭のままに深く深く感謝と謝罪を届けました。

 まあ、そんな日々のひとコマ。

 応急治療はなされても熱はあるっていうのに、大多数の将の顔は楽しげだった。

 やっぱり、たまには思い切り体を動かしたほうが日々の鬱憤も取れるんだろう。

 俺も笑いながら、くらくらする視界に苦笑をもらし、眠りについた。

 


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