真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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105:IF/じぶんのなかでなにかがかわるかもしれない。9点 ○④

-_-/一刀くん

 

 猪と戦う日々が続く。制服のままじゃズタズタにされそうだから、道着と私服をとっかえひっかえしつつ。

 こりゃ無理だと逃げたり撃退したりの繰り返しだが、それでも続いている。考えてもみればそう長い時間、休暇と書いてサバイバルが与えられているわけじゃあないだろう。

 だからこんな日が終わりを告げる前に、少しでも自分の中に野生の勘というものを芽生えさせるのだ。

 

「ふっ───おぉおおおおおっ!!」

 

 左手で猪の突進を受け止めて右手に衝撃を装填。

 突進の勢いに弾き飛ばされる前に右手を振り抜いて、猪を殴りつける。

 その衝撃は硬い頭骨を(とお)して猪の体内へと響き、真っ直ぐ走っていた猪はバランスを崩して転倒。脳を揺さぶる攻撃は上手くいったらしい。いったらしいが、こちらの腕は大絶賛シビレ中だ。

 

「でも、いい経験をさせてもらった……殺すつもりはないから、またどこかで健やかに───」

 

 汗を拭いつつ、くるりと振り向く。

 その先にはぴくぴくと痙攣している猪と、その傍に寄ってくる猪、猪、猪……!

 

「ほっ……ホワッ……!」

 

 思わず出てしまった声に猪がこちらを見て、二、三頭どころではないそれらが前足で土を掻き始めた。

 コマンドどうする!?

 

1:たたかう(来るがいい勇者よ。そこに倒れる者の二の舞になりたいのならばな)

 

2:じゅもん(全身鋼鉄化呪文(ミナミコウテツ)ー! とか叫んで氣で体を固めてみる。やせ我慢である)

 

3:ぼうぎょ(2と大して変わらない)

 

4:にげる(多数で個を攻めるが勇者なれば、魔王に逃走の選択肢など有り得ぬのです)

 

5:アイテム(調味料とかで気を引くとか)

 

 結論:───5

 

「お~れっのっぶ~きーをっ! 知ってるっかーい!」

 

 モップ! 柱時計! コショウ!

 そう、俺にはコショウがある!

 これを使って

 

「ぶふぇぁあーっ!!」

 

 考えてる間に轢かれた。

 そもそも歌いながらバッグを漁る馬鹿を、誰がほうっておきましょうか。

 

……。

 

 連日連夜って言葉があるが、俺に夜なんてなかった。

 夜は寝る時間? 馬鹿を言ってはいけません、夜とは戦いの時間である。

 

「いい加減しつこいわぁーっ!!」

 

 猪が増え始めた気がするのです。神様気の所為ですか? 気の所為じゃないのなら、いつか天に召される日が来るとしたらチェーンソーを持参してあなたのもとへ参ります。

 しかし今は猪の相手が先決!

 休む暇なく現れる猪たちを殴り、躱し、時には逃げ、時には背に乗ってスリーパーしようとしたらそのまま木に突撃されて双方頭を強打したり、ともかくそんな日々というか時間が続いている。そう、時間だ。日々どころか、本当に休む暇も無い。

 だから苦しかろうが錬氣しなくちゃいけないし、疲れていようが相手をしなければいけないし、慌てたら錬氣が出来ないから冷静でいなくちゃいけないし、目が回るけど本当に回ったら轢かれるだけだしで、人間の限界に挑んでいそうな気がしないでもない。

 だがしかしだ。

 華琳たち武人はこれのまだまだ先に居るのだ。

 これしきを乗り越えられなくちゃ、華琳はせっかく与えた休暇という名のサバイバルには満足しないだろう。(*そもそも勘違いです)

 やる……やるといったらやるのだ。

 ああ、でも……でも……!

 

「もしかしてあの竹の子!? あれってきみらの食事だったとか!?」

『グヒーッ!!』

「ギャアアアアアなにやら勢いが増したぁああーっ!!」

 

 引っかかることがあるとしたらそれくらいしかなかったのだ。

 だがこれも悲しい生存競争……! だから……だから!

 

「果実をどうぞ」

『グヒッ!?』

 

 サム、と果実を差し出してみると、ふごふごと鼻を鳴らす猪さん。

 敵視していた様子もどこへやら、猪突猛進とはよくいったもので、ばくりと遠慮無く食べた。おお、食欲に向けても真っ直ぐなんだな、さすが猪。

 とか思ってたらその猪が“ゴブベファアア!!”と果実を吐き出し、ゲボオッフェ! ゴッフェ! と()せだすではないか! ぬ、ぬう、これはいったいどうしたことか……! いったいなにが…………ア。

 

「………」

 

 吐き出された果実の色が赤だった。

 

『ブフッ! グブルフフッ……!』

「あ、いや……」

 

 ア、アー……あの。猪さん? まずは落ち着かない? 話せばわかるよ。

 わかるから、こっち睨んで、時折にゲボォッフェとか噎せるのはやめてくれないかな、奇妙な罪悪感が。

 

『グヒーッ!!』

「うわぁあああっ!! ちょ待ぁあああっ!! すまんごめん悪かったぁああっ!! でも匂い嗅いでわからないのもどうかしてるんじゃないのかぁああっ!!!?」

 

 猪に追われるのはさすがに慣れていたものの、今回ばかりは罪悪感で反撃できる気がしなかった。結局疲れ果てたところへドグシャアと突進をくらい、武官と対峙していたわけでもないのに空を飛ぶ俺。

 ああ……俺って結局、何処に居ても空は飛ぶんですね……。

 

……。

 

 前略華琳さま。

 まだ都にいらっしゃいますか? 今じゃ何日経ったか忘れた北郷です。

 人というのはすごいものですね。

 生きるためならば自分でも信じられない成長をするのだと、奇妙な実感を抱いたのも既に過去。今では自然と一体になり、この密林を駆けております。

 

「ウキョロキョキョーン! フギャッ! フギャッ!」

 

 ほうら、口から出る声もすっかり人外じみてきました。

 幾度となく続いた戦の中で友情を築いた猪に跨り、今日も元気に密林の王者気取りさ。

 そしてどうやら猪たちも食事にこそ困っていたらしく、地面にある食べやすい竹の子を純粋に欲していただけのようであり、木の上の果実を持って下りればきちんと迎えてくれました。

 俺達は共存の道を選んだ。

 熾した火には未だ慣れないのか距離を置かれるものの、調理した竹の子料理なんかは結構バクバク食っている。猪が苦味が苦手かどうかはさておき、黄色の果実や煮た赤の果実も元気に食う。ただし赤の生食いだけは絶対にしなかった。

 竹の子も煮なきゃ苦味があるんじゃないかって気にはなったんだが、この竹の子って煮なくても美味いのだ。竹の子の刺身なんてものを某料理漫画で見たが、それも実際にやってみたら美味いのなんの。こっちは本当に加熱もせずに食べて、美味さに驚いた。でも菌とかはあったようで、腹は壊した。気が緩んでおりました。

 

「ウゴバシャドアシャア」

『ブブルブフ』

 

 猪と奇妙な意思疎通をして行動。

 心はすっかり野生の王者だ。

 むしろそんな王者を冷静な自分が遠い目で見ている感じ。

 だがこんな成長……し、進化? が華琳がこの休暇に望んだことなら、俺は喜ぶべきなのでしょうか。ああ、でも半眼が、遠い目が直らない。心が必死に“それはない”とかツッコミ入れてるけど、体が受け入れてくれない。

 アレレー……? 進化だと思いたいのに、時代的には退化している気がするのは何故?

 けれどもあえて言おう。この時代でこの逞しさは進化であると。

 ……お願い、言わせておいて。

 

「………」

 

 拠点……大きな樹の上に作った見てくれの悪い枝の集合体である家に着くと、そこからひとつの小さな甕を取り出す。

 思わず口元が緩むのがわかる。

 はっはっは、この野生となった北郷も、味には勝てぬと見えるわ。

 というのもその甕、元々は調味料が入っていたものなのだが……今はぎっしりとメンマが詰まっている。いやさ、そりゃさ、あんなに美味しい竹の子があるなら、作ってみたくなるでしょう。

 野生に染まりつつも、以前に季衣と食べたメンマの味を思い出しながら作ったもの。星と友達になるきっかけになった味だ、忘れるはずもない。

 それに近づけるようにと試行錯誤しましたさ。そして家では酒のツマミを作らされていたこの北郷、メンマ作りにも隙はございません。簡単ではあるが、こうして作れたのだ。ガラスープとかいろいろと問題になったものもあったものの、なんとか完成。あくまで味を近づけることが出来たってレベルだが、竹の子の味が素晴らしいお陰でそこまで気にならない。

 一歩足りないと言われたら、星自身に作ってもらえばいいのだ。なので帰る時には竹の子を持っていくつもりだ。

 とまあ、そんな試行錯誤から出来たこれ。

 ……味はほんとのほんとに美味く、見ているだけで唾液が滲み出るほどである。

 そういった自分の中の至高を作れた喜びに、ハッと華琳……あなたの顔を思い出すのです。ぶっちゃけて言うと…………迎え、まだでしょうか。

 

「ウキョ、ウキョロローン」

 

 ゴソリと甕を大事にバッグへ仕舞う。

 そう、これはこんな試練を与えたもうた華琳や、こんな長くて我が儘な休暇を支えてくれているであろうみんなへのお土産なのだ。

 この野生に染まった北郷もそれはわかっているようで、唾液を飲み込みつつも我慢した。

 うん、いいぞ、それでいいんだ。あと頼むから日本語を話してくれ。

 

「キッキーッ!」

 

 そして今日も野生は外へ。

 よく食べよく鍛え、道着で走り回る裸足の王者である。

 え? 靴? ……猪との戦を続ける日々に、とっくにブチ破れました。

 

 

 

 

 

-_-/華琳さん

 

 ……頭が痛い状況になっていた。

 

「それで……迎えに行ったはずのあなたは、何故こんなところで食事をしているのかしら……?」

「お、おいしい匂いに誘われたのにゃ」

「へえ、そう。匂いに誘われて、何日も忘れたままうろうろとしていたと……!?」

 

 迎えを出した筈が、その迎えである美以が街で食事に誘われたのがきっかけらしい。

 しかも誘ったのが春蘭で、どちらがたくさん食べられるかを競ったとか。

 すっかり満腹になった美以は食休みとばかりに近くの山へ行き、そこで目的を忘れて日々を過ごした。

 そんなことも知らずに仕事をしていた私なのだが、再び視察とばかりに街へ出ると……なんと美以が仲間を連れてうろついているではないか。随分と速かったのね、と感心しつつ、つい一刀の姿を熱心に探してしまった自分は忘れてしまいたい。

 で、居ないことに気づいて、自分でも呆れるくらいに落胆しながら訊いてみれば……そういうことらしい。

 

「今すぐに向かいなさい」

「お残しすると愛紗に怒られるのにゃ」

「い・い・か・らぁ…………さっさと行きなさい!!」

「みぎゃーっ!?」

 

 怒りと落胆とが混ざり、殺気めいたものに変わりつつあった怒気が放たれる。

 慌てて、しかししっかりと大急ぎで食事を食べた彼女らはばたばたと駆けていった。

 で………溜め息を吐くついでに怒気も吐き出す私に、涙目でびくびくしながら近寄ってくる飯店の店員。

 

「あ、あのー……お代を……」

「………」

 

 散々と食べた料金は、どうやら私が払わなければいけないらしい。

 ……桃香のところへ行きましょう。

 払う代金分と迎えの仕事を無視していたことや、落胆分や一刀への迷惑料を清算してもらうのだ。

 なに、ちょっとばっかり愛紗を借りるだけだ、十分だろう。

 

 

 

 

-_-/一刀くん

 

 いつの日になるのか。

 もういろいろと諦めて、心も野生になろうかなー、なんて考えていたところに美以がやってきた。とうとう人に戻れる日が来たのだ。そう思った。

 思ったのに……

 

「ウホォオオオオオッ!!」

「にゃあああああーっ!!」

 

 今、隣で、笑顔で猪に跨りながら、供に駆ける南蛮王がおる。

 ……あれ? え、あれぇ!? 美以!? 美以さん!?

 あなたは僕を人間に戻しにきてくれた救いの女神ではなかったのですか!?

 むしろ一緒に野生を楽しんでらっしゃる!? 楽しむならもっと早くに……出来れば初日に一緒に居てほしかった!

 じゃなくて! あぁあああいやもちろんそれもそうだけど、そんなことより早く都に戻ろう!? このままだと俺、もう本当に戻れなくなりそう!

 神様! 順応って素晴らしいですね! でも俺ここまで順応したくなかったです正直!

 だから返して!? 俺をっ……あの頃の俺を返して!?

 そしてっ……そしてぇえっ……!

 神様ぁあーっ!! 俺をスラムッ……もとい、都に帰してくれぇえーっ!!

 

 

 

 

  ……のちに、“支払い”を要求された愛紗さんが、半ば逃げるように捜索隊を編成。

 

  密林にて変わり果てた野生の王者───

 

  もとい、三国の支柱を発見するに至り、彼は無事保護された。

 


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