真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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親子成長編
107:IF2/この世界へようこそ①


160/未来に歩む今のこと

 

 見上げる空は……たぶん、いつもと変わらない。

 見つめる景色は様変わりを繰り返して変わっていって。

 見下ろす景色は……これも、やっぱり変わらない。

 そんな変わる景色と変わらない景色の中で、みんなと一緒に随分と急ぎ足で今までを生きてきた。多分……これからもその生き方は変わらない。

 急ぐ足もあれば、少し休むためにのんびりと生きることもあるのだろう。

 

  ……さて。

  男と産まれたからには一度はやりたいことって、きっとある。

 

 今日から、そしてこれからの日々を、困惑させて驚かせて、けれど確かに彩りに溢れさせてくれたこの日に……ただ感謝を。

 

「北郷」

「あ、ちょっと待っててくれ、もう少しで書簡整理が終わるんだ。……あー……っと、これでよし、っと……ごめん秋蘭、お待たせ。なに?」

 

 確認して落款した書簡を纏めて、積み重ねながら、自室の入り口前に立ち……何故かなにかを言いづらそうにしている秋蘭を促す。

 そんな秋蘭は本当に珍しく、視線をあちらこちらにうろつかせながら「あぁ……」とか「う、うむ……」とか言って、しかしようやく俺が座る机の前へとずかずかと歩み寄ると、

 

「───華琳様が子を身籠った。……お前の子だ、北郷」

「───」

 

 停止。

 頭の中で言葉の意味が溢れかえり、混乱しそうになる一歩手前で……溢れる思考の中から自分が一番嬉しい結果を掴み取って椅子から立ち上がった。

 

「ほ、北郷っ?」

 

 急な行動に若干驚く秋蘭の前で、机を飛び越えて隣を通り抜けて駆け出した。

 子供……子供。

 実感なんて沸かない言葉に、不安も恐怖もごちゃまぜにして走った。

 自分がきっかけで産まれる生命を担うという恐怖。

 生命を育てることへの不安。

 でもそれ以上に───

 

「華琳っ!」

 

 駆けて駆けて駆けまくり、ドバンとノックもせずに開け放った部屋の先に、急な来訪に激怒する桂花と……俺を見て少し驚いている華琳が。

 

「ちょっと北郷! 今の華琳さまは安静にしなくちゃ───」

「っ───でかしたぁあああああああっ!!」

「ふひゃああっ!?」

 

 男として、言ってみたかった言葉が自然と出た。

 華琳に駆け寄り、抱き締め、その状態で持ち上げて、溢れてしまう笑顔が止められずに笑った。

 言葉を被せられた桂花がさらに激怒するものの、罵声さえ、不安や恐怖さえ走る隙間もないくらいの喜びが、俺を包み込んでいた。

 華琳も抱きかかえられるとは思っていなかったのか、真っ赤になって慌てている。

 

「か、一刀っ! ちょっ……下ろしなさい!」

「男の子かな! 女の子かなぁ! 名前はなにがいいかな! ははっ、きっと女の子なら華琳に似て可愛いぞっ!」

「かわっ……ってだからそうではなくて! 下ろしなさいと言っているでしょう!」

 

 自分の子供! 思っただけで心が弾む!

 名前は───名前はやっぱり曹丕になるんだろうか!

 あれ? じゃあ男? いやでもこの世界だとほぼが女性だったわけで、つまり……!

 娘! 娘かぁ! じゃああれだな! 話が早すぎるけど結婚相手に“貴様なんぞに娘はやらんぞぉおお!”とか言って、せめて俺より強い男でなければって話になって、拳の殴り合いを……!(*相手が死にます)

 いや、でも、男だった時の夢のキャッチボールがだな……!

 

「………」

「……ん? 華琳?」

 

 幸せいっぱい夢いっぱいの未来への期待に笑う俺とはべつに、華琳は少し顔に不安を混ぜた珍しい表情をしていた。

 ……って、そりゃそっか、男顔負けの王としての勤めを果たしてきて、ここにきて女性としての巨大な壁だ。

 不安がないわけがないし、そもそも初めてのことなんだ。

 

「……! ……こほんっ」

 

 俺の視線に気づいたのか、すぐに不安を押し込めて赤くなる華琳。

 わざとらしい咳払いをひとつ、抱き上げられたまま俺を見ると訊ねてきた。

 

「ねぇ一刀。あなたは今、うれ───」

「嬉しい!」

「……ああ、そう、即答なのね……」

 

 溜め息を吐きいた彼女は「わかりきっていたことじゃないの、曹孟徳……」と自分に向けて言うと、それからフッと笑った。

 

「いいわ、だったら迷うこともなにもない。子の名は丕。字は子桓とするわ」

「えっ……お、俺の意見はっ!?」

「あら。“なにか間違っている”のかしら?」

「……───~っ……はぁあ。……いいんだな? それで」

 

 ちらりと桂花を見つつ言うと、汚らわしいものを見る目で見ら「こっち見るんじゃないわよ汚らわしい!」……言われた。

 桂花が居るところで言うべき言葉じゃないんじゃないかって意味だったんだが。

 

「べつに私が思ってつけた名前だもの、天の“しるべ”に従っているつもりなんて全くないわ。“歴史”についていくつもりはない。歴史が勝手について来ればいい」

「それが、今の覇道?」

「欲しいものを掴み切らなければ、覇道の果てへは辿り着けないわよ。私はまだまだ、てんで満足していないもの。言ったでしょう? “全てを興じてこそ王”。苦痛だろうとなんだろうと楽しんでしまえば怖くはないわよ」

 

 誰に何を訊いているつもりなの、とばかりに笑う華琳。

 少し斜め上から見下ろすように人を見る視線は、相変わらずというかなんというか。

 

「そうよ! 大体あなた、覇王たる華琳さまに向かってなんてことを訊いているのよ!」

「覇道のなんたるかをご教授願おうと思った所存にございます」

「ふんっ!」

「いってぇっ!?」

 

 桂花の蹴りで全弁慶が泣いた。

 桂花とギャーギャー騒ぎながら華琳を下ろし、延長戦のように言い合いを続ける。

 華琳が溜め息を吐きつつやめなさいと言うまで続いたそれは……なんというか、もう日常の一部と化しているのだろう。

 

  ───みんなが各国を、能力がまだまだ若い人たちに任せてどれくらいか。

 

 都にはかつて回った国の将のほとんどが集まっており、都も大分大きくなった。

 都にも小さな学校……いや、この場合は塾か。が建てられて、桂花はそこで毎日教鞭を振るっている。

 空手道場まがいなものまで建てられて、そこでは凪が体術を。

 医療術方面は、その道場で氣の強さに恵まれても武力に恵まれない子がそちらへ移り、思春や祭さんや明命が氣での治療についてを軽く教えている。

 最初は華佗にと思ったそれも、五斗米道が一子相伝のために教えるわけにはいかず、それじゃあってかたちで俺も教えることに。

 大きくなったら自分で狩りが出来るようにと、弓術道場やら槍術道場まで作られて、英雄たちの下で習えるってことで、目を輝かせて門を叩く子供たちはあとを絶たない。

 問題なのはお金……とくるだろうが、習うだけなら無料で十分、いつか国に返してくれればと、出世払いを期待したものだ。子供の頃から国の仕事に触れることで、国のためにって意識を強めさせるという……まあ、ちょっとずるいかなーと思う方法でもある。

 

「せいっ!」

「やー!」

「とー!」

 

 道場には定期的に訪れて、子供たちにも挨拶をする。

 なにかやってみせてーとせがまれて……というか、そもそも俺に何が出来るかが疑問だったらしい少年少女が、道場に訪れた俺に“なにか”を求めたある日。

 せがまれるままに氣を黒檀木刀に込めると、金色に輝く木刀に感動。

 ワーワーキャキャーと喜ばれ、調子に乗って剣閃を放ったあたりから、氣を覚えたいという子供は増えた。氣といえば凪。まずは体術道場に通って、それから武器を決めようと話し合う、少し背伸びをした子供を見た時は……なんというか苦笑しながらも応援してしまった。

 

「………」

 

 変わってゆく国の中に居る。

 喜ばしいこともあれば、悲しいこともあって……そのたびになんとかしようと走るのに、世の中ってのは悲しいことばかりが上手く解決してくれない。

 理不尽を無くすために駆けては理不尽を生んでしまう瞬間が悔しくて、それでも……笑える時は素直に笑いながら、今も今日を生きている。

 

「っ……はぁっ! 祭さんっ、もう一本!」

「おうっ! こい北郷!」

 

 子供が出来たと聞いてから、鍛錬も余計に力が入った。

 守りたいものが増えたのだ、当然だ。

 気脈も随分と太くなって、多少の無茶もなんのその。

 真桜が作った空飛ぶ絡繰の試作、“御遣いくん”を使って……というかこれの名前の由来って、俺が鍛錬の度に空飛ばされてるからなのか真桜。おい、目を逸らすな、目を。

 ……ああともかく、これを使って空を飛んでみても、氣自体には問題がないくらいに飛べた。氣自体には。

 飛べたことも事実だが、俺がキリモミで空を舞って、氣を緩めたら大地に落下しただけだった。キリモミで大地に落下した瞬間、火山の大地を泳ぐ某ハンティングアクションの竜を思い出したのは別の話。大地に潜るどころか転がり滑って酷い目にあった。

 真桜さん、装着した本人が回転しないように工夫しようね……ほんとに。

 落下しても、大地を泳げたらこんなことにはならなかったんだろうと思うと、ズキズキと痛む体をとりあえずは労わりたいアイディアばかりが浮かぶ。

 たとえそれが無茶なことでも。

 

「水泳教室を開こう。教室名は───アグナコトラーズ!」

「いや隊長、なに言うとるん……?」

 

 日常の中の息抜きも相変わらずで、みんなが定めた休日には全員で大盛り上がり。

 その日までにあったことを、とっくに報告しているにも係わらず笑いながら話し合って、楽しくて、嬉しくて。

 

「むむむむぅううむむ娘に料理を教えるのもっ……しゅしゅしゅ主夫の務めっていうか! 素直に言おう! 娘に料理を教えて、娘の手料理を食べてみたい!」

「はーぁ……? 一刀は娘に対して、随分と夢抱いとるんやなぁ……ウチとの子ぉが出来ても、同じこと思てくれる?」

「当たり前。というわけで霞! 料理の練習をしよう!」

「えー? ウチ食べる専門で───」

「母親が娘に料理を教える光景を、後ろから眺めてうんうん頷くのも男の喜びなんだ! それは華琳が実現させてくれるかもだけど、霞だって子供に伝えたいこととか出来るかもしれないだろっ! あの時習っておけば……じゃなくて今やろうさあやろう!」

「……一刀、えらい興奮しとるなぁ。てかなぁ一刀? 娘と決まったわけやないやろ?」

「いーや娘だ! つか娘でも息子でもいいんだ! どちらにしても教えてやりたいことがいっぱいあるんだ! この世界はすごいんだぞって! みんなが頑張ったから今があるんだって、早く教えてやりたいんだ! あぁあ~っ、早く産まれないかなぁ!」

「っはは、そら気が早いわ……けど、それえーなぁ! ウチも今から楽しみになってきた!」

「ああっ! そうだよな、そうだよなぁ!」

「……けど一刀はもうちょい落ち着こうな」

「えっ……だめか?」

「だめや」

 

 きっぱり言われても笑顔が溢れる。

 嬉しくてたまらない日は何日も何ヶ月も続いて……そして。

 

「あ、あああ……ん、ぬぐぐ……」

「た、隊長、落ち着いてください!」

「凪かて落ち着かんと、目がぐるぐるなっとるやん」

「ででででもー! でも華琳さまがー! 落ち着けるわけがないのー!」

「かかか華琳さま! 華琳さまー!!」

「落ち着け姉者……こういう時は手に華琳様と書いてだな……」

「秋蘭さま!? 目が渦巻き状になっていますよ!?」

「流琉だってこんなところにまで菜箸持ってきてどうするつもりなのさー! ……ににに兄ちゃぁあん! 華琳さま大丈夫かな! 大丈夫かなぁ!」

「おおっ……いつかはこんな日がくるとは思っていましたがー……一大事ですねー」

「あ、あぁああ……! この扉の向こうでは華琳さまが子を産むために頑張っておいでで……はっ!? 産むということはつまり、一糸纏わぬ姿に近い格好を……う、うぶっ! ぶーっ!!」

「あぁほら稟ちゃん、とんとん」

「ふがふが……!」

「あなたたち! 静かにしなさいよ! こうしている間にも華琳さまは頑張っておいでで……ああっ! なんで私は産婆としての行動を学ばなかったの!? そうすればこんな時でも華琳さまのお傍についていられたのに!」

「や、桂花も大概やかましいやん」

「うるさいわね! うだうだ言っている暇があるなら、その胸のさらしでもほどいて華琳さまの痛みを包み込む準備でもしていなさいよ!」

「傷が無いのに巻いたってしゃあないやろ」

「うぅうう歌とか歌って応援したほうがいいのかな……! それともこういう時って安静にするべきなの!? あぁあもうちぃはこういうの苦手なのよー!」

「大丈夫だよちーちゃん、こういう時は心の中で歌を歌うの。まずは自分が落ち着くために、歌い慣れた歌を何度も何度も。そうすると目の前のことなんて忘れて楽しい気分にえへへへへへへ」

「天和姉さんっ! 落ち着いてないっ! 全然落ち着いてないっ! ちぃ姉さんも、確かにまずは自分が落ち着かないと……」

「落ち着くってなに!? 落ち着くって何処! こんな状況で落ち着けるわけないでしょー!? ああもう歌うわ! ちぃ歌うから! 一刀、ちょっと付き合いなさい!」

「よしきた!」

「あかん隊長! そこはきたらあかん!!」

 

 出産の日……俺はとある世界のとある王の気持ちを知った。

 パパスってしっかりパパだったんだねと本気で思った。

 ああ落ち着かない! 早く産まれてくれ!

 なんていうことを、華琳の部屋の前をうろうろしつつ思っていた。

 う、産湯の用意、オッケー。タオルの用意、オッケー。

 ふっ、ふふふっ、たたた足りないものがあるならこい! 出来れば来ないで!

 しかしこの北郷、逃げも隠れもせぬわ!

 ふははははは! そう、たとえこの北郷が倒れたとしても、俺など四天王の中でも最弱……! 俺が力尽きても凪、沙和、真桜がまだ残っているのだからな……!

 ……ギャアアアアア落ち着かねぇえええっ!! 冗談みたいなこと言ってもてんで紛らわせねぇえええっ!! ───はうっ!? 口調口調! 乱暴な言葉遣いが子供に移ったら大変だもんな、落ち着け落ち着け……だから落ち着けないんだって!

 

「はうあそうだ子守唄だ! おおぉおおお親たる者、子守唄のひとつも歌えないでどうする! こ、子守っ……ああっ! 知らない! 子守唄なんて知らないぞ俺ぇええっ!」

「ぉおおーぉおお落ち着いてください隊長!」

「や、だから凪ー? 隊長ー? さっきからなんべん同じことやっとんねん」

「おおお落ち着くの! こういう時は掌に……ななななんて書くんだっけぇ真桜ちゃぁあああん!!」

「沙和、華琳さまだ。華琳さまと書いて、慈しみをもって舐めあげてさしあげれば……」

「だから秋蘭さま! 目が渦巻き状ですってば! きぃいいききき季衣もなにか言ってあげてよ! ていうか子供ってなに食べるのかな! ぼぼぼ母乳!? 母乳の作りかたってどうだっけーっ!!」

「うわぁ春蘭さまぁ! 流琉の目までぐるぐるになっちゃいましたぁあっ!!」

「あぁああ華琳さまー! 華琳さまぁあああーっ!!」

「うわぁーっ! 春蘭さまはもっとぐるぐるだったーっ!! 兄ちゃぁあん! なんとかみんなを落ち着かせてよー!」

「ねねねねネンネンコローリャアアーッ! コローリヤァーッ!! あっ……ぁああ! ぁあああーっ!!」

「兄ちゃんそれなに!? それが天の子守唄なの!?」

「うぅん……子守唄よりも、気を落ち着かせる歌を考えたほうがいい気もしますがねー……皆さんそれどころではありませんねー。ではお兄さん、風からひとつ助言があるのですよ」

「じょっ……助、言……? 噴水のように噴いていた稟の鼻血を輸血に使う案ならもちろん却下の方向で」

「お兄さん、産湯が血まみれです」

「へっ? ……うぉわぁあああっ!? どどどどうしよう! どうしよう!! いやすぐに沸かせば大丈夫! 凪は薪の準備! 沙和は桶を洗って! 真桜は俺と子守唄を考えて!」

「隊長まで目ぇ回っとる! わかりきっとったことやけど!」

「だだだだだってさぁ!」

「だーっ! えーから黙って待っとけゆーんがなんでわからんねん!!」

「ハッ!? ……そうだ……そうだよな。真桜の言うとおりだな。だから───子守唄を考えよう!」

「あかーん! この隊長ちぃともわかっとらんわぁーっ!!」

「歌のことならお姉ちゃんにお任せっ、さあちーちゃん、歌を考えてっ」

「全然お任せじゃないんだけど!? でもちぃを選ぶところはさすがは天和姉さん! ようは子供が寝ればいいんだから、こう、妖術を使うように眠れ眠れと暗示をかけて───!」

「ネンネンコローリャァアーッ!!」

「それだわ一刀!」

「どれやぁっ!! んーなんで眠れるわけないやろ!! ……ってうぅわっ! 目ぇ回っとる! むっちゃ目ぇ回っとる!」

「ちぃは回ってなんかないわよっ! 回ってるのは世界のほうよ!」

「思いっきり回っとるんやん……」

 

 落ち着く落ち着かないは別として……ひどく長く感じたその一日は、ある瞬間を境にあっという間に過ぎ去った。

 産まれたのだ、小さな命が。

 俺、あれだけ騒いでいたのに呆然としちゃって……産声聞いたら、呆然としたままぽろぽろ涙こぼして泣いてた。

 涙の意味もわからないまま、ぽんって真桜に背中押されて……部屋に飛び込んで、赤ちゃんの顔を見て……疲れきっている華琳の頭を、いつかのお礼と今までのお礼と、今の感謝の全てを込めて胸に抱き、泣きながらありがとうを繰り返した。

 

「……っ……はぁ……馬鹿ね……。感謝を届ける相手が……違うでしょう……?」

「間違ってるもんか……! 華琳……ありがとう……! あの時拾ってくれて……今も一緒に居てくれて……! そして───」

 

 そして。

 

「産まれてきてくれて、ありがとう……“曹丕”」

 

 親としてはそのまま丕って呼ぶべきかも、なんて考える余裕がその時は無くて。

 ただ産まれて来てくれたことにありがとうを届けた。

 赤子は……返事なんてもちろん出来なくて、泣いていた。

 やさしく抱いて産湯で体を洗ってあげて。

 そんなひとつひとつの作業が、自分に小さな生命を抱くことの重さを教えてくれる。

 ……その。

 華琳が言うには……その時の俺の顔は、間違いなく親の顔だったんだそうだ。

 あとで聞いて、しこたま恥ずかしかったのを覚えてる。

 ただ……同時に、とても誇らしかった。


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