真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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108:IF2/いつだって父親はアレ①

161/父としての彼

 

 曹丕の誕生を喜んだ日も遠く、早くも自分の子供が6人も産まれた。

 それぞれ蓮華との子を孫登、穏との子供を陸延、明命との子供を周邵、祭さんとの子供を黄柄、亞莎との子供を呂琮、思春との子供を甘述と名づけ、自分の血を引く子供が7人に。

 連日喜びっぱなしの俺はあっちへ行ったりこっちへ行ったりで忙しい。

 みんな見たこともない穏やかな笑みで我が子を抱いて、そんな笑みを見てしまえば“頑張らなきゃ”って気持ちが溢れ出してじっとしていられない。

 衝動に突き動かされるままにがむしゃらに仕事して、時間が空けば子供の顔を見に行ってを繰り返し、とある日に「ホウぅ……」と息を吐いてみたら全身から力の全てが抜けて昏倒。華佗に頑張りすぎの烙印を押された上に華琳に絶対休息命令を出され、やる気は空回りしたまま東屋のベンチでぼーっと日々を過ごす俺が発見された。

 昼間っから公園のベンチで脱力したまま、空を見上げるお父さんを発見してしまったようだとは言わないでほしい。ちょっと状況が似ていてシャレになってない。

 

「主様主様、しっかりしてたも?」

「ふふ……空が青いなぁ、美羽……」

 

 青空の下なのに黄昏る俺の傍、大人なままの美羽が困った顔で励まそうとしてくれる。

 自分の容姿のこともあって、「うほほほほ? 産まれてきた子供らに大人の在り方というものを教えてくれようぞ?」とか怪しい顔で仰っていた。なんとなくそれって元の姿に戻るフラグなんじゃ……とか思ってしまっても仕方ないと思う。

 というか隠れて大人薬をちびちびと飲んでいるんじゃなかろうかこの子は。原液を飲むのはここまで危険なのか……覚えておこう。

 

「大人の在り方より、お姉ちゃんとしての在り方を教えてあげてくれな」

「むっ。主様がそう言うのなら、そうするのじゃ。姉、あねー……うみゅう……姉なぞおらなんだから、どういった振る舞いをしたらいいのかわからぬの……」

「姉って。一応ってカタチでは麗羽が───ごめんなんでもない」

「おおなるほどのっ! アレの真似をすればよいのじゃなっ!? おーっほっほっほげーっほごほげほっ!」

 

 高笑いした途端に咽た。

 そんな美羽に、お願いだからそれだけはやめてくださいと……ソッと背中を撫でてやりながら優しく呟いた。むしろ麗羽をアレ呼ばわりとか、この子も強くなったなぁとしみじみ思ってしまう。

 

「麗羽の真似はだめなのじゃ……! こんなことをしていたら喉を潰してしまうのじゃああ……!!」

 

 散々と咽た所為で涙目だった。

 大人の在り方を教えたかった人の末がこれなのだ……じいちゃん、世界は広いなぁ。

 

「麗羽には姉っぽいことされたりしたのか?」

「散々弄くられたのじゃ」

「じゃあ逆にやさしくしてやろうな」

「う、うみゅ……妾も誰かを弄くってみたいと思うのはだめかの……」

「やられたことをしてみたいって気持ちは……まあ、少しわかるんだけどな。もし自分がやられて嫌だったことを、他人にした時に“楽しい”って感じちゃったら、もう元の自分には戻れないと思うんだ。楽しいって思えたら後悔も出来ない。あいつはこんな楽しいことをしてたのかなんて考えたら、した相手さえ許す勢いで他人にひどいことをしていく。いつかそんなことを誰かに問い詰められて、美羽はその時なんて言うと思う?」

「………」

 

 すぅ、と息を吸って、美羽は目を閉じた。

 頭の中で自分の行動するをイメージしてみているんだろう。

 それはほんの少しで終わり、美羽は申し訳なさそうな顔で首を横に振った。

 

「……麗羽の所為にしておったのじゃ。麗羽が妾にそうしたから妾もそうしたと」

「………」

 

 そんな顔をしてくれたことが嬉しくて、美羽の頭を撫でた。

 やっぱり、人って成長出来る。

 そんなことを目の前で見せてくれるこの世界の人たちは、俺の中での人間の可能性の塊ばっかりな人たちだ。この世界には“出来るわけがない”が少ない。それが、今は勇気にしかならないんだから面白い。

 

「美羽。自分がやられて嫌なことを他人には絶対するな、なんて言わない。でもな、自分がその人にしてしまったことに、原因になった人のことなんて関係ないんだ。恨むならあいつを恨めなんて言われたって、やったのが美羽なら美羽が恨まれて当然だ。だからな、美羽。どうせやったのが自分になるなら、やられた人が嬉しくなることをしてみるんだ」

「う、うむ。妾、主様が喜ぶことならいっぱいいっぱいしてあげたいのじゃ」

「……俺限定?」

「他の者にやっても妾を小ばかにする者ばかりであろ! やったところで無駄なことなどするだけ無駄なのじゃ!」

「………」

 

 ぽむぽむと頭の上で軽く手を弾ませてから、さらりと髪を撫でる。

 美羽はムゥウ……と頬を膨らませながら俺を見上げてくるが、しばらく撫でていると猫のように自分から頭や頬を押し付けてきた。

 

「美~羽。それは“今までの自分”が他の人にそうさせてるだけなんだ。今の自分が変わっていけば、変わった自分を見てくれる人だってきっと居る。居なかったら俺が見るよ。だから、少しずつでいいから……他人にもやさしく出来る自分になってみないか?」

「……うみゅううう……いくら主様の言葉とはいえ、少なくとも呉の連中には無理な話なのじゃ……。あ、あうっ……もちろん主様の期待には応えたいのじゃぞっ!? 妾っ、主様の信頼だけは裏切りたくないのじゃっ!」

「ん、わかってる。だから、今ここからなら一歩が踏み出せるんだ」

「……? どういう意味かの……?」

「うん。なぁ美羽? 変わる前の美羽に対して小ばかにする人が多いなら、変わる前の美羽を知らない誰かはほら、ありのままをそのまま見てくれるだろ?」

「?」

「だからさ。いい“お姉さん”であってくれな、美羽」

「───! お……おおおお! なるほどの! 子供は以前の妾を知らぬと、そういうことなのじゃな!? うほほっ、主様も案外腹黒いお方よの……!」

「人聞きの悪いこと言わないっ!」

「隠さずともよいであろっ? よいであろぉっ? ……ふふっ、うははははーっ! そういうことなら妾にどーんと任せてたもっ!? 産まれたばかりの子供に、妾の凄さをどどんと思い知らせてくれるのじゃーっ!」

「………」

 

 どうやったらやさしく届けた助言がこうまでねじれるのか。

 俺はこの時……袁家の血の凄まじさを静かに感じながら、笑みを浮かべた遠い目で、空の青を眺めていた。

 

……。

 

 仕事が忙しい日は逆に張り切る現状。

 何故って、娘と遊ぶ時間を作るためだ。

 もちろん仕事中に大慌てしたり必死の形相で机にかじりつく姿は見せたりしない。

 仕事中は部屋に入ってはいけませんと言い聞かせてある。

 華琳は何故か「それでいいのね?」と訊ねてきたが……なんだったんだろ、あれ。

 

「丕っ、ここに居たのかっ! さあ、ととさまと遊ぼう!」

「はいっ」

 

 俺の娘であり華琳の娘である曹丕、字を子桓。

 肩まで伸びた髪の色は金を主体に、メッシュ調に間隔を空けて存在する黒がなんというか嬉しい。これでも地毛なのだから、この世界ってなんか凄い。

 子供ながらに凛々しさを持った、しかし元気な時は実に元気な子供だ。

 華琳の教育の賜物なのか元々の才なのか、勉強が出来て運動も見事。ちっこいのに喋り方もなかなかハッキリしていて、物事への理解力が随分と高いとくる。実は今現在で、迂闊なことを言えない相手No.1でもある。ヘンなこと覚えられても困るし。

 そんな丕だが……蜀の学校に通わせるかって話は出たものの、華琳は自分で育てると言って蜀行きを却下し、現在も城や城下で元気に生活している。桂花塾には通っているようだが、妙な洗脳をされたりしてはいないかと不安ではある。

 

  ……まあその。それはそれとしても、友人関係が心配だ。

 

 勉強づくしじゃなく、体作りもやっているためにもやし的なことになることはないものの、大人ばっかりと付き合ってる所為で同世代との付き合い方を知らないままに育ったら、なんというか……相手を見下す大人になってしまいそうで怖い。

 なのでここは俺の出番であるとばかりに父参上。

 遊びというものを教え、街に連れ出しては同世代の子供とも遊ばせる。

 しかしながら……これが結構難しい。

 主にタイミングってものは最大の敵なのだ。

 

「あ、しかんさまだ」

「しかんさまー」

 

 つい先日までは“子桓ちゃん”だった呼び名が、今日になって“子桓さま”になった。

 親に注意されたのだろう。

 子桓への接し方もどこか遠慮を混ぜたものになり、親ばかだから言うんじゃないが、賢い丕がそんな接し方に違和感を覚えないはずもなく。楽しみにしていた街での遊びの中でも、いつしか無邪気な笑顔を見せなくなっていた。子供のうちから作り笑いを覚えてしまったのだ。

 

「ととさま」

「……どした?」

 

 陽が落ちる頃、丕の手を引いて帰る途中。

 繋いだ手にきゅっと力が篭り、丕は俺を見上げながら言った。

 

「……もう、遊びには出たくないです」

「ん……街には来たくないか?」

「もう……楽しいって思えないから、いいです」

「……そっか。じゃあ、璃々ちゃんか美羽に遊んでもらうか」

「遊びはもう……いいです」

「………」

 

 俺の手を握る小さな手は震えていた。

 王の子として産まれた者が通る、どうしようもない孤独感。

 それを今まさに経験している丕はしかし、涙を見せようとはしなかった。

 溜め息ひとつ、くっと強く手を引っ張ると、驚いた表情の丕を抱き上げて、そこからさらに持ち上げて肩車にした。

 

「あ、う……ととさまっ」

 

 急に高くなった視界に戸惑いの声をあげる。

 そんな娘のまだ小さな両足をそっと支え、歌を歌いながら道を歩く。

 

「と、ととさま、みんな見てます……恥ずかしいです……」

「ん、いいんだよ。娘と仲良くしてなにが悪い。父さんはみんなに笑われても、丕との繋がりを選ぶぞ。馬鹿にされても、馬鹿になる勇気も持てないやつの言葉なんて笑って受け止めればいい」

「うぅ……よく、わからないです……」

「お前は難しく考えすぎなんだよ。全を大事にしていたのに一が崩れたら全を諦めるなんてもったいない。大事に出来るものは……自分が本当に大事にしたいって思ったものは、自分の中の何かが多少欠けようが掴んでいなきゃ、いつか後悔するかもしれないぞ?」

「………」

「あと、子供のうちからそんな、意識して丁寧に喋ることないんじゃないか? 語尾をですますにしてるだけで、敬語としてはちょっと崩れてるし」

「あぅう……」

「あだだだだ! こ、こらっ! 丕っ! 耳を捻るんじゃありませんっ!」

 

 犬とかに跨って耳を掴んでバイクの真似をする子供かお前はっ!

 などと怒鳴るようなこと、この北郷はいたしません。

 華琳が厳しくいくのなら、せめて俺はどこまでもやさしい親であろう。

 辛い時にこぼれる愚痴くらい聞こう。

 つまらない時は一緒に楽しいことでも探してみよう。

 どうすれば親らしいのかなんてものは、父親初心者な俺にはわかるわけもないが、辛さを吐き出す場所くらいにはなれるだろう。父親らしいことのひとつもわからないなら、出来ることくらいはしてやりたいし。

 

(これでいいのか、なんて……わからないよなぁ)

 

 躓きながらでも親をやっていくしかない。

 親ってすごいんだなぁ、未知のことを一歩一歩知っていく強さが必要だったなんて……俺、親ってものを自分の中でもっともっと軽く考えていた。

 相手にしてみれば失礼な話だろうが、自分がきっかけとなって産まれたのだから、多少は自分の思い通りになるものだなんてことを勝手に思っていたのかもしれない。

 

  もちろんそんなことなどあるわけがないのに。

 

 子供だろうと人は人なのだ。自分で考えて、子供ながらに出来ることを精一杯探している。知識が無い分、空回りばかりだろうと……それがきっといいことになると思うからやるのだ。だったら俺も、いいことになると思ったことくらいは……やってやりたい。

 親になるのが難しいなら隣人から始めようか。友達からでもいいし、知り合いからでもいい……と思う。や、親なんだから親だと言い張ればいいんだろうが、不安はどうしようもなく湧き出てくる。

 

  もう何度も学んできた。正解だけを引き続けることなど不可能なのだと。

 

 だから、親らしいことってなんだろうとか以前に、なにをやろうにも“いいところを見せよう”とか“無様は見せられない”とか無駄な力が入ってダメだ。だからいっそ、親としてじゃなく友達と接するみたいな気持ちでいいのだ。と思う。わからないのは仕方ないだろ、だって初めてのパパなんだもの。

 

「なぁ、丕~」

「……は、はい、なんでしょう、ととさま」

「……お前のその妙におどおどしたところは俺に似ちゃったんだろうなぁ……。まあその、なんだ。お前から見てこの都はどう映る?」

「みんな笑ってます。なんか……私だけ笑ってないみたいで、ちょっと嫌です」

「混ぜればいいんだよ。混ざって、無理矢理にでも笑ってみるんだ。苦笑もいつか笑いになるまで、楽しいことに埋没してみりゃいい」

「……………………」

「ん?」

「…………ひとりじゃ、無理だよぅ」

 

 子供然とした声が、小さく漏れた。

 俺の頭をきゅっと抱き締めるように体を折る娘の体温を感じると、嬉しいやら心配やら、苦笑が漏れる。

 

「大丈夫だって。不安なら手を伸ばしてみればいい。ここには丕の手を取ってくれる人がたくさん居るんだぞ? 丕はそれを、自分から無いって決め付けてるだけだ」

「でも……みんなは私のこと、かかさまの……王様の娘としか見ていないです。そんな人と手なんて繋いでも、きっと楽しくないです」

「まあ……そうだなぁ。みんなの反応も思いっきりそんな感じだ。特に桂花と春蘭」

 

 “さすが華琳様の娘!”が口癖みたいなもんだしなぁあの二人。

 どれだけ頑張っても華琳の娘だからで済ませられるのは、丕にとっては果ての見えない道を歩み切れと言っているようなもんだ。だって、追いつくべきが、見習うべきが、比べられる相手が覇王なのだ。走ったって追いつけやしない。三国を統一して平和を齎した人を超えるようなことを、この平和な世界でどう成し遂げろっていうんだ。

 追い越せない、果ての無い道を歩き続けろなんて言われて喜べるわけもない。歩いたって比べられるだけ。褒められるのは華琳の娘である事実のみで、丕は褒められてなどいないのだ。

 

「……なぁ、丕。華琳のこと、嫌いか?」

「………」

「いだぁあだだだだだ! だから耳を捻るなとっ! わかったわかった! 愚問だったのはわかったからっ!」

 

 嫌いと言えればきっと楽で……憎めれば軽くなるだろうに。

 我が娘は、困ったことに母である華琳を誇りに思っているくらい好きだ。

 逆に期待に応えきれない自分を不甲斐なく思い、強くなれない自分に嫌気を覚える。

 俺から見れば十分すぎるくらいに頑張ってもなお、この小さな体で頑張りまくっているのが曹丕という娘だ。親としては鼻が高い……と言いたいところだけど、正直に言えば危うい感じがして仕方ない。こういう子は、頑張った果てに失敗してしまうと……様々を我慢していた分、心を折ってしまうことが多いのだ。

 

「あ、じゃあこの父のことは?」

「………」

「ワー」

 

 耳を捻りもしない愛に、北郷ちょっぴり泣きそうになりました。

 

「まあ、いいや。追いかけるのが華琳ってのがハードル高いけど、お前ならいけるよ」

「……勝手なこと言わないでくださいです」

「まあまあ。役に立たないととさまだが、華琳についてならいろいろ助言できるぞー? 華琳に認められたいなら、まずは華琳が教えてくれること全てをがむしゃらに覚えていけ。そうすれば全ては解決。あとはお前の頑張り次第だ」

「かかさまがそんなことで喜んでくれるはずがありません」

 

 口調からして、喜ばせようと……褒めてもらおうとしたことも一度や二度じゃないのだろう。悲しみと僅かな落胆とが混ざった言葉は、そのくせひどくキッパリとしていた。

 

「努力は認める人だよ、華琳は。逆に諦める人をひどく嫌う。だから、頑張り続けて全てを受け取ってみればいい。吸収力の高い子供の頃にこそそれをやれば、自慢の娘だって褒めてもらえるぞだぁーったたたたた!! いやほんとだぞ!? 嘘じゃないから耳を捻るなったら!! ていうかなんで俺の娘は俺にやさしくないかなぁ!」

 

 なにが彼女をそうさせるのか……きっと人柄なんだろうね、主に華琳の下で成長した結果というか、そんな感じの。

 

「ととさまは弱い人ですね……かかさまみたいに仕事もしているように見えないし、いつも暇をしているから、いつでも私と遊べるんですか?」

「む」

 

 いつかされるんじゃないかなーと思っていた質問がとうとう来た。

 仕事はやっている。ええ、それはもう物凄い量を秘密裏に。

 しかし子供にわざわざそれを教える必要などありましょうか。

 パパはこんなにも仕事をしているんだぞーとアピールするのは、なんというか小さくはないでしょうか。

 どうしよう。

 

1:ととさまは華琳と同じくらい仕事をしているんだぞー

 

2:いや……実は全然やってないです

 

3:実は父さんの仕事は世界の平和を守ることで、見えないところで頑張(略)

 

4:実は持っている携帯電話で特殊な操作のあと、5を3回押して腰につけ(略)

 

5:子供達の未来を守るため、日夜暗躍する男! スパイダーマッ!

 

 結論:2……でいいな。うん。丕の見ているところでは仕事なんてしてないし。

 

 というわけで。

 

「仕事かぁ。実は父さんは、いつでも丕と遊べるようにと隠れて仕事を片付けては、時間が出来れば丕と遊ぼうと目論んでいるんだぞー」

 

 本当のことを、棒読みで言ってみる。

 ……耳を捻られた。

 

「ととさま。ととさまは将のみなさんになんと呼ばれているか知っていますか?」

「種馬だねぇ」

「……本当にその通りだったのですか? ととさまはかかさまが私を産むためだけに用意された人だったのですか?」

「……実は父さんな、今から約1800年も先の未来から来た、天の御遣いなんだ。いわば珍しさから華琳に拾ってもらって、それから天下統一までを一緒に過ごしたんだ」

 

 さすがに存在理由が種馬の二文字だけなのは勘弁を。

 なので真実をそのまま伝えた。丕に隠れて仕事って部分でも嘘は言ってない。

 娘にわざわざ嘘をつくのは心が痛いし。

 重くなく、気軽に話せる父をアピールして心をほぐしてみましょうという魂胆でもあるのだが……ど、どうだろうか。ああっ、このくらいの子供って接し方が難しいっ! 季衣や鈴々みたいに突貫型だったら、もう全然受け止めるだけで十分なのに!

 

「……御遣い?」

「わあ」

 

 てんで信じてないような口調で“御遣い?”と唱えられた。

 ち、違うぞ? 父さんは痛い設定的なことを言ってるんじゃなくて、ほんとなんだぞ?

 というか……あれ? 父の株どんどん下がっておりませんか?

 ただ気負いしないで華琳のあとを追ってほしいとか、なおかつ自分の自由な時間は自分のために使える人になってほしいとか、そんなことを考えたから話したはずなのに。

 

「……華琳からは何も聞いてないのか?」

「かかさまは……“あなたが見た一刀という人物があなたの父よ”と言うだけです」

「まあ、そりゃそうだ」

 

 それ=グータラ親父。

 あはははは! 俺、丕の前じゃ全然仕事してないから、仕事もしないで遊んでばっかの父にしか見えてないやー!

 なんか終わってる! いろいろと終わってる! そんな時だっていうのに周りの子供が丕を特別扱いしたもんだから心がしぼんで、さらにそんな時に父のグータラ説が確定しそうって雰囲気になって、俺の株大暴落だぁーっ!

 

「………」

 

 あ、やばい、なんか泣きそう。

 ああ、でもいいや、情けない父だって意味ではべつにハズレではないし。

 ここは……もうアレか? 反面教師効果を狙って突き放すが吉なんでせうか。

 今さら“父は仕事たぁーっくさんしてるんだぞー! いや本当に!”とか言ったところで、それが本当に真実として彼女に伝わるかどうか。

 じゃあ仕事している風景を見せてみる? ……いやいやいやっ、子供の頃からあんなカオスな仕事風景を見せてどうしますかっ、大人になりたくねーとか言い出したらどうしますかっ!

 だからもう自然体でいいじゃない? 他のみんなと接するくらいに普通で。

 

「まあとりあえず、俺は丕の前ではてんで仕事はしてないな。それは事実だ。丕が遊べない時でも暇してるし(仕事を片付けたから)。ただ、華琳のことは真剣に好きだぞ。丕は、後継欲しさに産まされた子なんかじゃ断じてない」

「……格好つかない言葉ですね」

「事実なんだから仕方ないんだよなぁ……俺だって出来れば格好つけたいなーとは思うけどさ。それで話がこじれても、それこそ仕方ない」

 

 今盛大にこじれてる気がしないでもないが。

 

「…………。仕事。どんなこと、してるんですか?」

 

 わあ、口調がすごい淡々なものになってきた!

 仕方ないから聞いてあげるとかそんなことを言ってる時の華琳にそっくり!

 

「書類書簡の整理が主だな。あとは……支柱をやっております」

「……ふぅん」

 

 冷たい! 口調が冷たいよ娘よ!

 でもまあ……これがきっかけで完全に華琳寄りになって、妙な影響もなく育ってくれるならそれはそれでいい……んだろうか。愚痴を吐き出す相手くらいにはなれるから、それはそれでいい……のかもなぁ。

 と思っているうちに城へ。

 とすんと丕を下ろすと、丕はなんだか出発前とはえらい違いの視線を父に投げ、言葉もなく走っていってしまった。

 

「うん、なんかもういろいろ終わった」

 

 丕が完全に見えなくなってから、膝からドシャアと崩れ、次に両手を大地について落ち込んだ。門番をしてくれていた警備隊の二人が「何事ですか隊長!」と心配してくれたけど、うん……なんかもういろんな意味で終わった。

 まあでもやることは変わらないんだけどね。

 変わらず仕事をこなして、遊びを欲する我が子らに遊びを提供する俺であろう。

 仕事をしていない父だと思われたって構うもんか。ならばいっそ、遊び人と思われようが国のために頑張り続けてくれるわぁあーっ!!

 纏めるとつまり。

 

 結論:……子育てって難しいわぁあ……!!

 

 いつだって正解を引き続けるのは難しいとはいえ、ハズレを引いた先でもどうかプラスになりますようにと振る舞うしかない。

 たとえそれが、娘から見る俺の価値が大暴落する道であっても。

 言った言葉は棒読みであっても事実だったのだ……ならばせめて、それを穢すことのない働きを続けられる親であろう。


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