真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

317 / 454
111:IF2/それでもそんな自分をマイペースって言える④

-_-/パパん

 

 何かを為したあと、人はなにかしら声を発することが多い。

 走ったあとにわざわざ息ではなく声でフゥと言ってみたり、欠伸をする際にわざと声を高く出してみたり。

 闇夜の道を逃げ駆けたこの北郷めが最初に放った言葉も、きっとそれに類するものだ。

 

「不幸だ……」

 

 幻想殺しが言いそうな言葉だが、事実なのだから仕方ない。

 なにせ娘との至福の時……隠すことなどなにもない素の自分でいられた瞬間を、別の娘に邪魔されるどころか気づかれそうになってしまった上に部下である凪の暴走を止めるために石を投げてしまった。

 軽く自己嫌悪。

 “いっそもう全部ゲロっちまったほうがいいんじゃないか”と脳内の自分がカツ丼片手に語りかけてくるのだが、困ったことに自分がだらしないと認識させている方が娘達の成長が良いということも実証されているわけで、わたくしこと北郷一刀は今日も頭を抱えているわけです。

 

「大体、俺が普段から仕事していて、その合間に娘との関係にそわそわしている父親だとか知られたら、余計に引かれるんじゃなかろうか」

 

 その考えは多分正しい。嫌な予感ってやつはどうしようもなく当たるもんだ。

 だからこのままでいい。誤解されたままがベストなのだ。

 バレた時に全部を打ち明ければいいのだ。どうせ、知られたところで今さら何をって話しになるに決まっている。

 

「ぐうたらって思われてるだけで、嫌われてるわけじゃない……もんな?」

 

 疑問系が離れません。誰か助けて。

 いやいや、前向きに行こう前向きに!

 娘の成長を第一に願えばこそ、それが俺が望む未来ならば俺のため!

 そ、そう、これ、俺のためだよ? ツツツ強ガッテナイヨ!? 僕、強イ子ダモン!!

 

「……明日、時間に余裕が出来そうだからまたアニキさんのところ行くかな……」

 

 おやじの店は心のオアシスです。

 今度は華佗も連れて行こうかな……子供達におじさんおじさん言われてヘコんでたし。

 

「男って……辛いなぁ……」

 

 女が辛くないと言うんじゃない。ただこの世界での男っていうのが辛いだけだ。

 辛い……いやいや辛くない辛くない! 自分のためなんだから辛くないんだぞ一刀!

 そ、そうだよな! 辛くないならおやじの店で吐き出すことなんてないよ!? ほんとだよ!? だから明日は呉に行って、親父たちと飲み明かすんだ! 蜀のメンマ園で飲み明かすのもいいなぁ(メンマ汁を)! ……な、なんだ! 俺まだまだ行ける場所あるじゃないか! 辛くないよ!?

 

「…………また紫苑に親相談でもしに行こう……」

 

 心だけは出来るだけ前向きに、とぼとぼと歩きだした。

 ……が、ざわつく心は一向に治まらず、もはや誰も俺を止めることは出来ぬゥウウとばかりに走りだす。自室に辿り着けば書き置きをして、着替え一式が入ったバッグ片手に部屋を飛び出て。

 片春屠くんを使わず、己の氣と足のみで外へと逃走。

 家出……ではなく、子供たちが産まれてからというもの密かにしか出来ていなかった鍛錬をここで一気にという意味も含め、呉までの長い長い距離を駆け出した。

 

「氣と体捌きと木刀術と体術だけは立派と言われた北郷です。その力……忍者にも負けない! ……といいなぁ!」

 

 人にして人に非ず。日に百里も歩むとされる忍者に倣うように駆けた。

 国境で捕まったりもしたが、ここ八年でおやじの店に泣きに行ったり親父のところへ人生相談しに行ったりした俺にとって、国境なぞ顔パスでございます。泣いてませんよ?

 

「北郷さま……またですか」

「今度、自分たちと一緒に飲みにいきませんか? 都の酒屋には負けるかもしれませんが、村にいい酒を作る場所があるんですよ」

「…………」

「だから泣かないでくださいってば! あ、ああもう、これだからこの支柱さまはほうっておけないんだ!」

「まあ、なんというか物凄く身近な偉い人だよなぁ……あ、ほら北郷さま、こちらへ。見張り交代の際に飲もうと思っていた酒がありますから」

「うう……人のやさしさが身に染みる……!」

「普段どんな生活してるんですか……」

「いや……みんなは今までと変わらず接してくれるよ? でもさぁ、娘がさぁ」

「もう娘はそういうもんだって思うしかないでしょう、それは」

「なんだとぅ!? 宅の娘がわからず屋だと言うのか!?」

「だぁあああああーっ!! 面倒くさい人だなぁもう!!」

 

 親というのはいろいろと大変です。

 距離を取られていても可愛くて仕方が無い娘ならば余計に大変です。

 

「あ、いや、ごめん。これよかったら食べてくれ。俺が作ったお菓子」

「っとと、毎度すいません。喜んでいただきます」

「もうこれ、賄賂みたいなものですよね……」

「ああ……死ぬときは一緒だな」

「巻き込まないでください!」

「冗談だって。大丈夫、死ぬつもりなんて全然ないから」

「……とか言いながら、娘に大嫌いとか言われたら直後にでも首を吊っていそうなんですが」

「…………」

「だから泣かないでください!!」

「とにかくもう行ってしまってください! あまりこういうところを見せると、後輩に悪影響しか与えませんから!」

「っと、そうだった。ごめんな」

「隊長と自分らの仲じゃないですか」

「北郷さまとの付き合いももう長くなりますしね」

 

 それでは、と頭を下げる見張り番に手を振って、先を急ぐ。

 さあ行こう。

 どうせ仕事は前倒しでやりまくっている。

 数日空いたって取り戻せるものだし、前倒し分の仕事もバッグの中に装填済みだ。

 装填って言い方なのは、ある意味仕事が戦みたいなものだからだとかそんなことはどうでもいい。子供ばかりに持っていかれている意識をこの世界へ戻そう。

 国のために。今はただ国のために───!

 

「べ、べつに寂しくなんかないんだからねっ!?」

 

 ……意味もなくツンデレ怒りをしてみたら、ぽろりと涙がこぼれました。

 深く考えるな北郷一刀。

 俺はただ子供たちが産まれる以前の俺に戻る───それだけのことなのだから。

 

(一刀……それでいい、気にするな……。そうすることで国に返すことが完全なる勝利なのだ。これでいいんだ全ては……)

(もっ……孟徳さん!?)

(父親とは縁の下の力持ちだ……。お前はそれを解き放つことが出来た……それが勝利なんだ……)

 

 などと脳内孟徳さんとともにブチャラティしながら駆けてゆく。

 特に考えもなく心の自分に敬礼をしてみるつもりで手を挙げてビシっとしてみたら、左手敬礼になった。……どうやら心の中の自分はまだまだ諦めるつもりはないらしい。敬意を払うどころか右手を見せずに心の刃を隠しておるわ……!

 なのでまだまだ諦めない。

 左手敬礼は不敬の証。顔でサワヤカ、心に刃。左手で敬礼をするなと言う人々よ、それを見た時点で相手の心の中の刃を知りなさい。したくもない相手に敬礼をする場合は左手だ。汝、屈することなかれ。

 

「娘達よ……この北郷はただでは死なぬぞ………………いや、ほんと死なないけどさ」

 

 ぐうたらぐうたらと侮っておるがよいわ!

 いつかうぬらが我慢ならぬと我に刃を抜いた時、この父は真の壁となって巣立ちの時を祝おう! 世界は広いのだということをきっちり教えてあげるのだ! 大人気なくてもやるのさ! だってそこまでやって初めて、俺の目的……“我が娘らは立派な子に育ってくれた”という目的は達成されるのだろうから!

 誰かも言っていたじゃないか。

 人は何度か泣いて、本当の大人になる的なことを。

 なので泣かします。容赦なく泣かします。罪悪感に押し潰されそうな予感が滲み出てきてるけど泣かします。

 

「そのためには鍛錬!」

 

 どうせまたぐうたらしているんだと娘達が思っている間に、より一層強くなるのだ。

 そ、そしていつかこの父も娘達から見直されて、またととさまととさまってエヘヘ……はうあっ!?

 

「邪念雑念は捨てような! エイオー!」

 

 国境を越えて間もなく、自分でも不安な旅が始まったのでした。

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ