真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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112:IF2/日常化すると、息をするみたいに鍛錬する人①

164/親として頑張ろうとしているのに子供がそっぽ向く場合、そこから離れることを育児放棄と言いますか? 言うならなんか理不尽だ。

 

 ごひゅぅん!

 風を斬る音がする。

 耳の傍で鳴るそれは、振り回す金剛爆斧が鳴らすもの。

 もちろんレプリカだが、重さは実物と同じものだ。

 

「んっ……おぉっ!!」

 

 ここは呉国のとある村。

 建業へ向けて進む途中で宿をとった一角の広場にて、金剛爆斧を振るうのは……ええまあ、俺なわけだが。

 

「っとと……っひゃー……! やっぱり重いなぁこれっ……!」

 

 筋肉は育てようがないとわかってから───氣と体捌きに重点を置いた鍛錬に切り替えてから8年以上。重い武器も工夫次第で振るえるようになった俺は、呉の国にて誰に遠慮することなく鍛錬をしていた。

 都の暮らしはそりゃあいいものだが、たまぁに支柱ではなくただの北郷一刀に戻りたくなる時もある。それが出来るのが魏のおやじの店であり、都以外の国でもあるのだが……ううむ。

 

  問題点そのいち。人に見つかれば結局は支柱扱い。

 

  問題点そのに。各国に行くと、関係者に国の次代を担う子はまだですかだのなんだのと言われる。

 

 それを考えると子も産まれている呉が一番いいわけで。

 や、そりゃ魏に曹丕、蜀に劉禅と、きちんと王候補は産まれてるよ? けれど王だけで国は回らないとはよく言ったもので、主に付き合いの長いみんなが都に集合してしまっている現在、各国を任されている将らが次代を次代をと願うのだ。

 ……そんなに大変か、華琳たちがやっていたことを多少でも請け負うのは。ごめん大変だった。愚問すぎでしたごめんなさい。

 もちろん建業から離れた場所なら、そういうことを言ってくる人も少ない、いやむしろ居ないのだが……今回は村を視察にきていた軍師見習いさんが居たために泣きつかれた。先人が優秀すぎるのです、同じことを要求されたって限度ってものがあります、などなど。

 冥琳と同じ仕事をしてみせろと言われても、なるほど、そりゃあ無理だ。

 

「よし、じゃあ……」

 

 まあそれはそれとして鍛錬。

 氣を大して使わずに振るっていた金剛爆斧を氣で包み、操氣弾の応用で少しだけ浮かせる。……浮かせるって喩えは違うか。えと、どう言えばいいんだ? 氣は上に飛ばせば上に飛ぶってことを理解してもらえていれば、その応用で飛ばしつつも氣で腕に括りつけている状態、って言えばいいのか?

 えーと……ああ、これだな。

 “飛ばしている状態とくっつけている状態を常に同時に行なっている”んだ。

 だから重かった金剛爆斧もひょいと持ち上げられるし、軽く振るえる。

 もとの重力自体が完全に消えるわけでもないから、遠心力とかはどうしても出るものの、持てる振るえるというのは大きな強みだろう。

 なので振るう。思うさま振るう。

 

「あっはっはっはっはっはっはっは! あっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

 振るう振るう振るう振るう! 楽しい! 振るうの楽しい!

 この興奮を誰に伝えよう! ……誰も居ない!

 夜中に来たんだから当然だよなぁ! 村務めの見張りの兵も「またですか……お互い、家庭には苦労しますね」って眠たげな顔で通してくれたし!

 

「あっはっはっはごほぉーほげっほごっほっ!?」

 

 でも笑いながら動くのは危険ですね。

 急に咳き込んでしまい、拍子に金剛爆斧を落としてしまった俺は、レプリカといえど本物の重量分と似ている分のそれを小指にゴシャアと

 

「─────────!!」

 

 ギャァアアアーアアアアアァァァァーッ!!

 

 

───……。

 

 

……。

 

 人間、調子に乗るとろくなことになりません。

 

 

「っ……ぐっ……ふぅううぐぐぐ……!!」

 

 わかってる。わかってるのに、“楽しい”の只中だとそれを忘れるのも人間です。

 夢中になれることって大事だけど、その分恐怖も潜んでいるのですね。

 前略お爺様。一刀は何度目か忘れたけど、また一つ賢くなりました。

 ……賢くなっても夢中になればまた忘れるんだ。気にしないでいこう。

 

「鍛錬って……辛い……!!」

 

 ここ最近で一番の感動。

 涙がこぼれる瞬間がこんなにも辛い。

 感動って感情が動くと書くんだよね……うん、動いてる。辛い苦しいって感情が痛覚とともにヅクンヅクンと脈動してるよ……! ズキズキと蝕んでくるこの痛みが辛い。

 

「折れてないよな? 折れて……ないな。全身に氣、回しといてよかった」

 

 痛みはあるが、それもすぐに氣を集中させて霧散させる。

 ……氣ってすごいなほんと。

 その分疲れは出るものの…………痛みからの脱出に勝るもの無しッッ!!

 

「小指への激痛って、つらいんだ……」

 

 ぽそりと呟いて鍛錬を再開。

 常々氣の鍛錬だけはやっていた俺だ、氣だけは……本当に氣だけは一人前って呼べるようにはなれた。って凪が言ってた。凪が言っていた言葉を疑うわけじゃないんだが、凪って俺を持ち上げたがるところがあるから……真実かどうかはちょっぴり不安。ああ、これ考えてる時点で疑ってるな、ごめん凪。

 

「でもなぁ、そんな自分よりずんずんと前に行く人を見てるとなぁ」

 

 その人はレプリカじゃないものを持っております。

 氣の拡張についてを説明してみればそれを実行。強さのためなら止まることを知らない、かつて猪武将とか呼ばれていただけはあって……倒れるまで強引氣脈拡張をやったり天使に迎えられそうになったりドグシャアと受身も取らずにストレートに倒れてみたりと、意識を失うことを何度も繰り返して……彼女はついに。

 

「……氣脈が広がっても、常に武に使われてるんだよなぁ……」

 

 ……ついに、攻撃力UPが完了した。

 ええ、相変わらずの武です。

 変わったのは体捌きと破壊力だけ。だけっていうか、十分です。

 えっとね。まずね。避けなきゃ吹き飛びます。ガード? いいえ、吹き飛びます。

 あれはね、なんていうのか……笑える。よく漫画で力のみを渇望した者っていうのがいて、技術云々や氣のうんたらかんたらで倒される~とかあるけど、華雄のあれは……笑える。

 だって慢心がないんだもの。

 まだまだ強くなれるとばかりに鍛錬を続けるもんだから、もうどう止めていいものかと……思うこともなくなり、ただ暖かで穏やかな目で見守る僕が居ました。

 だって8年だよ? そりゃあ“止めても無駄だ、せめて行く末を見届けよう”って穏やかな目にもなりましょう。

 攻撃を外せば“まだ未熟か”、攻撃を受ければ“集中が足りないか”、など。誰の影響か知らないけどすっかり鍛錬の鬼になってしまった。“もうそのくらいにして休んだら?”なんて言っても“いいやまだだ!”って言ってやめてくれないんだ。

 だから俺も、一緒に続けて鍛錬。華雄も鍛錬。氣を使い果たしたあたりでようやく終了すると、とっくに集中も氣も使い果たしていた華雄がようやく休む。そんな三日ごとの鍛錬。

 ほんと、あの鍛錬好きは誰に似たのか……。それとも誰かに負けたくないとか? 誰か……やっぱり雪蓮かな。訊いてみたって“先に折れるような女でいたくないのだ!”などと熱く語られてしまった。折れるもなにも、雪蓮は鍛錬なんてしてないんだけどなぁ。

 

「ふう」

 

 ともあれ休憩がてらに氣を放出。

 特に意識もせず、体中に溜まった氣を自分の頭上に収束させるイメージ。

 そこに攻撃側の氣を意識して強めてやると、金色の氣が赤く変化してくる。さらに適度に風を巻き込む回転をさせてやると、とてもおかしな話だが氣と氣の摩擦で火が熾る。相当圧縮させないといけないので、火球として放つのはとても無駄だ。凪の場合はそういった方向に特化していたからやりやすいんだろう。

 俺がやろうとすれば、普通の氣弾の数倍の圧縮度が必要になる。

 つまり…………8年頑張ったけど実用性無し!!

 気づいた時には泣いていました。

 まあまたサヴァイヴァルをするハメになったらきっと役立つさ。きっと。多分。

 ほ、ほら、暗い夜道に輝くピカピカのレッドノーズ並みに役立つはずさ!

 ……一度燃やしたらもう自分の氣として体内に入れられないんだけどね。不便だ。

 

「だが考えてみよう。結果は無駄かもしれないが、男のロマンとしては花丸じゃないか? 手から火が出せるんだ……最高じゃないか」

 

 そう思わなくちゃ8年が報われない。

 言いつつも頭上に氣を収束。

 某・元気玉の要領で、身体組織のみんな、オラに元気を分けてくれェェェとばかりに氣を集めてゆく。

 さて。

 集めてどうするのかといえば……

 

「よっ……っとと……これで全部だな」

 

 体の中の氣を全部出し終えると、次に氣を生み出してゆく。

 それを体中に満たすと、またそれを頭上の氣に掻き集めるように収束。

 そんな調子で氣を作り出せる限界まで作り出すと、頭上に集めては呼吸を整える。

 ……これで全部。これ以上無理、というところまできたら、限界まで圧縮させます。

 

「~っ……はぁ……」

 

 氣の使いすぎでフラフラする。

 だがしかし、こういう一歩一歩が明るい未来に繋がるといいなぁと思うのでやる。

 手探りの未来探しなんてこういうもんだと俺は思うのだ。

 そんな手探りを続けてはや8年。氣脈は地味に広がったし、休み無しで一日中走り回ることくらい平気になりました。氣だけなら……あくまで氣だけなら誰にも負けないと───! ……いつか言いたいです。そんな自分。

 

「……よし」

 

 圧縮出来たら、次はそれを自分の体に纏わせます。一気に吸収してはいけません。吸収したら気脈が大変なことになります。

 纏わせたら、少しずつ体に吸収。気脈に潤いを与えるようにして準備完了。

 これのいいところは氣を作る手間無しでずっと戦えることと、圧縮した氣を纏っているから防御力が多少あがること。問題点は圧縮させるまでに時間がかかりすぎること。俺が敵ならわざわざ待ちません。

 では何故こんなことをしだしたのかといえば。

 

「……………」

 

 ごとり、ごちゃりとバッグから重い物体を降ろす。

 折り畳み式のそれをガコリと起こして伸ばすと、よいしょと背負ってふうと額を腕で拭う。そう……これぞ真桜式飛行絡繰七拾伍式・壊【摩破人星くん】。まっはじんせい、と読むらしい。

 摩擦と破壊、人を星にするほどの飛行能力を目指した結果らしい。ななじゅうごしき・かい、なんてどっかで聞いた名前だなぁなんて思ったものの、実際七十五回目の絡繰を“あぁあああ! まぁた失敗やぁあ!!”と壊しかけたところ、そこから閃いて出来たのがコレだから“七拾伍式・壊”。

 誤字ではない。

 

「すぅううー…………んっ!」

 

 そんなわけで飛行開始。

 氣を絡繰に流し始めるや大回転を始めるプロペラに、思わず笑みが漏れた。

 

「さあ! 空をゆこう!」

 

 都では我慢ばかりだった!

 だが他国では自由! 子供の目を気にせずに全力で“北郷一刀”をしよう!

 

「……なんで今、北郷一刀っていったら種馬だろうがって声が頭の中に流れたんだろ」

 

 ……気にしたら負けだ。

 さあ行こう! この空は俺を縛らない!

 たまには大きなことも言っていいよな! この大空は僕のものだーっ!!

 

 

  ……そうして、彼は飛んだのです。この大空を。

 

 

 しっかりと完成された飛行絡繰の調子は素晴らしく、彼はちっとも成長しない容姿のままに子供のように目を輝かせました。

 

 

 飛んで飛んで、飛び回って、いつしか氣が尽きた頃─── 

 

 

 彼は再び、アグナコトルの気持ちを知ったのだといいます。


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