真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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113:IF2/お子らが元気で兵が大変①

165/それぞれの一日

 

-_-/一刀さん

 

 どうせ攻守を合わせた金色の氣ならば、殴る拳に防御の氣。

 村で休憩を取ってからまた走っていた俺は、そんな些細を思い出して……とある岩の前で立ち止まり、早速加速と防御を合わせた拳を真っ直ぐに打ち出した。

 随分前に思いつき、しかしその頃はまだ氣の部分的な使い分けが出来なかったこともあり、中途半端に諦めてしまっていた。しかし今なら。

 そんな思いと夢を込めた拳は岩にどかんとぶち当たり、

 

「ギャアーッ!!」

 

 拳は痛くなかったけれど、様々な関節を痛める結果を生んだ。

 

……。

 

 思いついては立ち止まりを繰り返す中、見つけた川で水の上を走る修行をしてみたり、いつかのように魚を素手で捕まえる(わざ)を試してみたり、蜂の巣箱の研究のために野生の蜂の巣を襲撃してみたり(蜂蜜を強奪して舐めてみたら、何故かアレが二本に増えて絶叫)。

 道行く先で見つけた様々に首を突っ込む過程で、体に溜まった嫌なことを少ぉ~しずつ少ぉ~しずつ発散していった。

 絡繰で空を飛んだり怪我した動物を癒したり、荷馬車の車輪が抜けて困っていた行商を手伝ったり、氣の回復を図るために広い原っぱで昼寝していたら野性のパンダに襲われたり、落ち着ける時間なんてほぼなかったのに、結局は笑っている自分。

 氣が回復すれば空を飛び、障害物が無い分、空を飛ぶ絡繰というのはとても速く、ただ真っ直ぐ飛ぶことに集中すれば、片春屠くんにだって負けないそれを以って、ただ只管に逃げたり楽しんだり。

 

 空を飛ぶ、というのは自分的にはとても大きな出来事だ。

 この絡繰も空を飛ぶという役目は完全に叶えてくれたが、何もしなければ上に飛ぶだけだったりする。つまり前に飛ぶには前傾にならなくてはいけないわけであり、重力から解放された状態での前傾はこれで案外難しい。何かを背負っていると余計に。

 なので結局ここでも氣や筋肉を使っての前傾が必要になるわけで、思った以上に疲れたりする。だが飛べる。飛べるのです。

 自分を飛ばすための大きなプロペラと、自分が横に大回転しないための補助のプロペラを同時に操作しなければならないため、体のほうに意識を回すのは結構手間だ。

 しかし飛べる。

 飛べるというだけで、これは素晴らしい発明なのだ。

 

「でも寒っ! 上空寒っ!!」

 

 一度勢いに乗ってしまえば勝手に前傾姿勢が保たれるから、それはそれでいいのだ。

 問題は勢いに乗るまで。

 集中を乱せば補助のプロペラの回転が止まって大回転⇒アグナコトることなど一回や二回じゃ済まなかった。試作の段階で真桜に何度も試してみてと頼まれ、俺は人がどれだけ大回転しようが、頭では地面を抉れないことを知った。

 素晴らしい発明の完成を見る前に首が捻れて死ぬのを恐れた俺は、それはもう防御の氣の昇華を急ぎました。生への執着もあって、思いのほか防御の氣も上手く扱えるようになったが……出来ればもう二度とアグナコトりたくはない。そう思った矢先にアグナコトったのは悲しい事実だ。

 

「これが戦の中で開発されてたら、いったいどうなってたんだろうか」

 

 爆弾を手に空からそれを落下させる俺の図。

 ……祭さんか紫苑に簡単に射落とされる自分しか想像出来なかった。

 

「っと、そろそろやばいっ、ほ、ほ、ほわっ……!」

 

 氣が枯渇していくのを感じて、慌てて地面に降りる。

 降りてからはしばらくゼェゼェと呼吸を乱してぐったり。そんなものだ。

 大げさだとは思わない。だって、空を飛びすぎた後は、アグナコトらないほうが珍しいくらいだ。

 

「はぁ……! ……もう少し、消費が抑えられると嬉しいな」

 

 真桜に頼んでみようか、などと思う必要もなく、とっくにとりかかっている真桜さん。

 七拾伍式・壊の上は既に製作されており、しかしバランスがいいのがこれとくる。

 消費する氣の量を低くしても回転してくれないものかと試行錯誤してはみているものの、望んだ結果が簡単に生まれるのなら、そもそも人は争ったりなどしなかった。結論はそんなところに落ち着いてしまっている。

 

「よい……っしょ、っと」

 

 なので絡繰を畳むとバッグへ詰め込み、休憩がてらに書簡を取り出してはそこらへんの木にもたれかかって、仕事をする。

 といっても竹簡に書いたものの纏めの部分なので、この書簡があるだけで随分と進められるものなのだ。困りごと等への対処・改善案を出すのも慣れたものだ。

 暮らすことにすら慣れていなかったこの世界を知って、慣れるどころか内政の手伝いまでして、一から作る都って世界と一緒に歩いていけば、そこをどうすれば良くなるのか、というのは結構見えてくるものだ。

 あくまで関係しているから見える部分では。

 難しい問題と難しい問題を照らし合わせて、じゃあ一方の解決策と、そこから生まれる恩恵を別の方向で生かそうって考えで埋まる解決策もかなりある。

 村よりは広いとはいえ、都といってもひとつの街のようなものだ。

 国より広くはないし、そこで見る物事というのは、一から作った人達が集う都ならではというべきか、住民のみんながそもそも問題をなんとかしようとする傾向や、問題を起こそうとしない傾向に落ち着いている。

 お陰で仕事はあるけどそこまで難しいものではない、といったものが大半だ。

 だから俺だけでも進めることは出来る。

 難しかった問題とかは、いつか俺が野生と化した時にみんながパパッと済ませちゃったからなぁ。

 

「…………はぁー…………」

 

 さぁ、と流れるように吹いた風に撫でられ、脱力しながら息を吐いた。

 気持ちいい。

 言ってはなんだけど、都や村や、国の主な街となる許昌、建業、成都ではこんな気分は味わえない。必ず誰かが傍に居て、必ず誰かが騒ぎを起こすからだ。

 それは主だった将らが都に居る現在でもあまり変わらない。

 後釜を任された将らもなんだかんだで“あの人たちを纏めている支柱”って意味でやたらと俺を頼ってくるし、俺が断らないと知るや仕事の大半を任せようとする。

 自分でやらなきゃ見る目も能力も変わらないぞと言ってみても、“そもそも能力自体が違うんです! どうなっているのですかあの人たちは!”とか泣きながら叫ばれた。うん、まあ、わかるけどさ。みんながかなり規格外なのは。

 

「どっちを見ても誰かが居る生活。……慣れたもんだよな」

 

 眠る時だけでも一人の時間が欲しいと感じる時がたまぁにある。

 そういった理由で子供たちにも母のところで寝なさいと言っている。

 ……もちろん、禅以外には意味がない言葉でございます。

 

「ここにまた来たいって願って、頑張って自分を高めて……ここに戻って、いろんな人に感謝して、泣いて笑って」

 

 刺されたりもしたなぁ。

 親父たち、元気だといいけど。

 

「……少しは強くなれたかな」

 

 バッグとともにある木刀入りの竹刀袋を見下ろして、一人こぼす。

 思い出すのは祖父の言葉。

 免許皆伝云々でいろいろと教えてもらったあの日だ。

 不老ではあるけれど、致命傷を受ければきっと死ぬのであろうこの世界で、どこまで努力を重ねればあの人に認めて貰えるのだろうか。

 いろいろな人と係わって、いろいろな人の表情や感情を知るうち、自分がどれだけ親不孝どころか家族不幸を働いているのかを嫌でも自覚させられた。

 戻った時にはここへ飛んだ時間と変わらなかった、なんてただの言い訳だろう。

 夕暮れの教室に戻った時と今の自分とでは心構えがまるで違う。

 だからせめて、不老であるとしてもなにかしらが原因で死んでしまうことがあるのなら、たとえどう足掻いても家族不幸は免れない自分ではあっても、立派であったと胸を張れる自分でいたい。

 道場持ちの息子なら、剣の腕を磨けば誇れるのだろうか。

 ……それも、なにか違う気がした。

 

「家族にしてみれば、生きて帰ってくれるだけでも嬉しい…………そうだよな」

 

 子供が出来てからわかったことだって当然ある。

 事故があっても、痛みで泣いたとしても、もの言わぬなにかにならなかっただけでも“よかった”と笑むことが出来るのだ。

 

「……家族不幸な俺だけど、子供が出来たよ。こんなこと知ったら、どんな顔するかな」

 

 今突然に現代に戻って、これが俺の家族ですなんて言ってみんなを紹介したら、じいちゃんに殺されそうな気がする。

 で、殺されそうになったところを華雄が止めて、星あたりが“お主が主の師でもあるお方か。手合わせ願いたい”とか言い出して、ならば私もと言う人が殺到して……あ、あれれー? なんだかものすごくリアルに想像出来るぞー?

 

「……華琳あたりはその横で、一夫一妻の話に“法律に問題があるのならそれを書き換えてやればいいのよ”とか言い出しそうだし」

 

 で、本当に国の偉い人になって法律を変えそうで怖い。

 ……や、はは? そもそも国籍が無いからそんな……ねぇ?

 

「あれ? タイムスリップ(?)した人の国籍ってどうなるんだろ」

 

 “国籍? 魏に決まっているじゃない”とか言ったって通るわけがない。

 通るわけがないのだが、自分の知る彼女たちならすぐに順応してしまいそうだ。

 けどさすがに姓名字を名前にしても、周囲から変な目で見られそうだし……あ、もしくは真名を名前に? ……ないな、誰かが呼んだ時点で、たとえば華琳の名前を誰かが読み上げただけでその人の首が飛ぶ。高い確率で春蘭の手によって。

 

「大体真名を名前にしたって、苗字が……ぶっ!」

 

 あははと笑いつつ言った言葉に途中で咽るように噴き出した。“北郷華琳”なんて名乗ってもらったらどうだろうか、なんて普通に考えてしまったからだ。

 

「いや。うん。こほん。そりゃ、その。子供も出来たわけだし? 俺だってそういうことを考えてないわけでもないし。ていうか子供居るのに婚儀とかしてないってどういうことだ俺。むしろ華琳、それでいいのか?」

 

 ……いいんだろうなぁ。だって、共通財産扱いだもん俺。

 誰か一人と結婚すれば同盟ってものに……王って存在に順位がついてしまう。

 確かに統一したのは華琳で間違いはないものの、現在の平和は三国が協力し合っているからこそ保たれているものなのだ。俺自身が言うのも物凄い違和感が走るけど、余計な禍根みたいなものを作る必要はない。たとえそれが大事なものであってもだ。

 

「…………」

 

 いろいろ考えていたら、氣の枯渇も手伝って眠くなってきた。

 なんとなく携帯電話を操作、適当な、もう聞き飽きているのに聞きたくなる故郷の音楽を聴きながら、ゆっくりと瞼を閉じた。


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