真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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114:IF2/親と子の生きる道①

166/血ってものを感じる日々

 

-_-/北郷さん

 

 Q:いつもより建業が遠い気がするのは何故ですか?

 A:金剛爆斧を持っているから

 

「アンサァアーッ!!」

 

 道端でひとり叫んだ。

 朝日が眩しい空の下、今日も地を駆ける北郷です。

 

「木刀も持ってきてるのに、どうしてこれを持っていこうだなんて思ったのか……!」

 

 いやわかってる、わかってるんだ。ただ俺は、いつもより負荷のかかるなにかが欲しかっただけなんだ……!

 そう、それが金剛爆斧だっただけ。

 もっと重いものがあるのなら、きっと鈍砕骨でもよかったはずだ。

 

「考えても始まらないし、これも鍛錬!」

 

 道着姿で地を駆ける御遣い(金剛爆斧持ち)。

 肩と腰に通した縄で背中に括りつけながら走って、氣が安定したら摩破人星くんと交換するように手に持ち、空をゆく。

 これを持ちながらのアグナコトることは大変危険なので、多少、氣に余裕があるうちに降りることを前提として空をゆく。

 

「ゲームとかのガーゴイルみたいな格好だよなー……」

 

 槍ではないものの、長柄のものを手に空をゆく者。

 足をだらーんとして、フォークみたいな槍みたいなのを持って空を飛んでるアレ。

 ……ガーゴイルって石造的化物だったら翼が生えてなくてもいいんだっけ? 小林さん家のガーゴイル……あ、それメイドラゴンだ。吉永さんね、吉永さん。

 

「重いものを持ってるからか、いつもより氣の消費が激しい気が……」

 

 なにせ浮くために必要な回転数を増やさなきゃいけないのだ。

 いつも通りにいかないソレは、茨の道ならぬ土中の道を進呈してくれます。

 ええまあ、実際に氣が枯渇したら、地面に潜るどころかジョリジョリ回転しながら大地を滑るだけなんだが。

 しかしながら氣だろうが筋肉だろうが、成長させる方法はやっぱり負荷なわけで。使えば使うほど拡張される気脈なのだから、それが悪いというわけでもない。辿り着く時間がいつもより掛かるってだけで。

 

「よし、急ぐか」

 

 空から降りるとバッグに絡繰を仕舞って、金剛爆斧とバッグを背負って駆け出す。

 氣ではなく己の足で走って、ただし極僅かではあるものの気での関節クッションをつけて。生憎と氣の残りが微妙だ。全力で走れるほど残っちゃいない。

 

「さてと……次の邑は…………まだまだ先だったなぁ」

 

 邑や街を見つけるたびに寄って、そこで休憩をしつつも、駐屯している兵や将に頼まれて仕事のコツなどを教えていく。

 他の人なら“泣き言を言うな!”とか言うのだろうが、泣き言を言いたくなる気持ちが痛いほどわかる俺としては、そんなものは見捨てておけないのだ。みんなスペックが高すぎるくせに、他人にまでそれを望んじゃうところがあるからなぁ。

 ……しかも教え方が大雑把だし。なので、俺がそうされたらわかりやすいかも、と思える教え方で教えるわけだ。

 実際、結構好感触だとは思う。なるほど、そういうことだったんですね! と言われたりするし。

 以前は誰が教えていたのやら。

 

「……けどなぁ」

 

 最近、若い衆の中にやたらと俺と戦いたがる人が増えた気がする。

 寝所を提供してもらったさっきの邑でだって、見張りの兵が“ほほほほほ北郷様! 無礼を承知でお願いします! 稽古っ……稽古をつけてくださいぃいっ!”って。

 俺なんかじゃなくて、責任者として場を任されていた将に言えばよかったのに。……まあ、そんなこと思ってたら、その将にこそ“お願いします!”と言われたのだが。

 

(兵の手前、御遣いや支柱って意味もあって、手加減してくれたんだろうなぁ)

 

 じゃなきゃこの世界の将相手に俺が真正面から勝てるなんて。無理無理。

 しばらく打ち合ってから“本気で行きます!”とか言ってても、結局は手加減してくれるんだから……うん、いい人だ。

 

「勝てる、といえば……」

 

 8年前から今まで、華雄が何度も雪蓮に挑んだけど……雪蓮ってやっぱりどうかしてるよなぁ。鍛錬しなくてもあの華雄に勝てちゃうんだから。

 もしかして知らない場所で鍛錬してるとか?

 

「……………」

 

 …………雪蓮だぞ? ないない。

 やっぱり鍛錬なんてしてないだろう。

 

「よ、っほっほっほ……」

 

 考え事をしながら道を往く。

 世の中平和になったもので、山賊が現れて人を襲う、ということも随分無くなった。

 やったところで国に潰されるとわかっているのだから当然だろう。

 代わりと言えるのかは疑問なものの、山賊のアジトだった場所などは商人の休憩場になっていて、長い道を歩く中でのありがたい癒しとなっている。

 さすがに食料とかがあるわけでもないが、お粗末ながら布団くらいは存在する。

 立ち寄った者が使用後に乾かしていくのがいつの間にかのルールになっているとか。

 立ち寄って休憩している最中に干して、夜になったら寝て、と。そんな感じ。

 俺も一度立ち寄ってみたものの、夫婦で行商している二人が布団の上で熱く燃え盛っていたので直ちに逃走したのは……忘れたい過去だ。俺はなにも見なかった。

 あんなの見てしまったら、もうあの布団使えないよ俺……。

 

「ほっほっほっほ……」

 

 忘れるように駆ける。

 駆けるのだが……氣を使って走る距離の半分にも満たない時点で疲れてしまった。

 筋肉は鍛えようがないのだから仕方が無いわけだけど、もうちょっと保ってほしい。

 

「ほんと俺って……氣がないとダメだなぁ」

 

 たはぁ……と溜め息を吐きつつ、息を荒くしててほてほと歩いた。

 この調子じゃあいつ建業に着けるのか。

 やっぱり片春屠くんで行ったほうがよかったかな。

 いやしかし、空を自由に飛べる喜びはこんな時じゃないと味わえない。

 これでよかったのだ。

 

「……お? なんか頬に───へっ? ……雨!?」

 

 頬に当たった感触に、バッと空を見上げる。

 天気がいいと思っていたのに、気づけば空はどんよりとしていた。

 恵みの雨ちょー! とか言って喜ぶべきかと言われれば、現在の俺からすれば勘弁だ。

 

「どこか雨を凌げる場所はっ……」

 

 見渡してみても、あるのは山道に差し掛かる道のみ。

 大きな木も無く、このまま降られればずぶ濡れ確定だった。

 

「はぁっ……んっ!!」

 

 溜め息ひとつ、氣を無理矢理絞って足に込めると、大急ぎで地を駆けた。

 途中気持ち悪くなりながらも、強引に。

 やがてぽつぽつがしとしとに、しとしとがざあああに変わる頃。

 山道の途中で洞穴を見つけて、その中に潜り込んだ。

 

「ふへぇっ……結構濡れウェエエエ……!!」

 

 ……のはよかったんだが、辿り着いたことで気が抜けて、氣の枯渇の気持ち悪さが一気にきた。ふらふらとふらつきながら洞穴の壁に手を付いて、揺れる景色を視界に納めるままに体勢を崩し、その場に腰を下ろした。

 

(あ…………やば…………)

 

 多少濡れてもいいから、枯渇するまで使うんじゃなかった。

 こうなるともう、氣が回復するまで立てない。

 一点を見ているつもりなのに視界が揺れて、高熱に浮かされるみたいにボーっとする。

 

『…………』

「!?」

 

 そんな僕の視界に、のそりとご降臨あそばれたのは……ホワイトタイガー先生だった。

 しかもその巨体を以って近づき、俺の匂いをすんすんと嗅いで……いやっ、ちょっ、待っ……死ぬ!? え!? 俺死ぬの!? ま、待ってくれ! 俺……俺まだ死ねない! まだろくに国に返してないし、みんなと一緒に国のこれからをもっと見たい! 娘たちの誤解も解いてないし、やりたいことがまだまだたくさん───!

 

「うわああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 噛まれた。襟が。

 しかしべちょりと少々湿った鼻が首筋に押し当てられて、生きた心地がしなかった。

 あ、で、でも食べない!? 食べないのか!? じゃああの、ここが巣ならすぐに去りますから是非とも離してくれるとそのっ…………あ、あの? なんで引っ張るのでせうか!? 何故洞穴の奥へと引っ張るので!?

 去りますから! 去りますからどうかほうっておいて!?

 あ、もしかして周々のお知り合いの方ですか!?

 どどどどうも北郷一刀です! 周々さんにはいつもお世話になっていて……あの!? 何故奥の千切ってきた草を敷いたような場所にたくさんの小さなタイガーさんが!?

 もしかしてアレですか!? 俺を餌に子供たちに狩りの仕方を教えるとかいうアレですか!? ぃやああばばばばばやめてやめてぇえええっ!!? どどどどうせ殺すなら一思いに───いややっぱり死ねない死にたくなギャアアーッ!!

 

……。

 

 …………。

 

「…………」

 

 世の中ってわからない。

 どうして俺、虎の子に混じって大きな虎様に包まれているのでしょうか。

 恐怖が抜けずにカタカタ震えていると、それを寒さからの震えと判断したのかホワイトタイガー先生がヴェロォリと頬を舐めてきます。断じて味見しているわけではないと思いたい。

 

(……ア、アレかナ。これって美以にも例があった、動物に好かれやすい匂いのお陰とか……)

 

 だったら嬉しいナ。違ったらこれって絶対味見です。

 

(どどどどちらにしろ刺激を与えるのはマズイ……! 無心だ……! 心を無にして、いやいっそ子供の虎のように無邪気になるつもりで───!)

 

 ハルルル……と喉を鳴らすタイガーさんを前に、こう……子虎になったつもりで!

 恥じ入るな! 猫に……もとい虎だ! 虎になるんだ!

 

「ニャッ……ニャー♪」

『グァォオオ!!』

「ごめんなさい!?」

 

 やってみたら吼えられた! もの凄い迫力だ!

 でもなんかグァオオっていうかワーオに聞こえた! なにこれ!

 虎の鳴き声ってこんなのだっけ!? 外国人の喉がイガイガしてそうなおじさまがくぐもった声でワーオとか言ったらこんな声になるよ!

 そして俺の馬鹿! 虎のつもりでって決めてたのに心が猫になってた! だって怖いんだもんしょうがないじゃない! 誰に言い訳してるんだ俺!

 いやダメ! 死ぬ! 猫なで声なんて自殺行為以外のなにものでもない! 子猫を可愛がる女性の声を真似てやってみたけど絶・対・無理! 漫画的表現だったらもうタイガーさんの眉間とかコメカミ付近に青筋浮いてるって! そんでもってビキバキ鳴っちゃってるよ顔面が!

 アワワワワどうすれば……!? これ絶対怒ってるよ……! なにやらハルルルルって唸ってるし……アレ? でも俺を見てるわけじゃない……? 後ろ……後ろ?

 

「?」

 

 ちらりと、体が震えるのも構わず振り返ってみる。

 するとどうでしょう。

 いつの間に居たのか、音も無く近寄ってきていたらしいホワイトタイガー先生が、威風堂々とその場にいらっしゃった……!!

 

「───」

 

 お、雄の方……デスヨネ?

 あ、あはは、僕北郷一刀イイマス。

 イエ違いますヨ? 僕米屋的なものじゃなくてデスネ?

 タタタタただソノ、少々、デスネ? あぁぁあ雨宿りをサセテイタダキタクーッ!!

 

「ハワッ……ハワワァアアーッ!?」

 

 TSUTSUMOTASE。

 何故かそんな、美人局と書く言葉が僕の脳裏に浮かんだ瞬間だった。

 

(ぬ、ぬう……! やりおるわこの虎め……! よもやこの北郷が弱りきっているところに雌の虎を向かわせ、多少なりとも心が安心に向かった途端に自分が現れるとは……!)

 

 なんてことを渦巻き状になった目で混乱しながら考えていた。

 余裕の思考? そのようなことがあろうはずがございません。大自然の王たる虎より圧倒的に劣るこの北郷めが、余裕などと。

 余裕がなかったらこんな口調の思考が浮かぶわけがない? ……余裕がないから混乱しているのです助けてください!

 

『………』

 

 コルルルル……と喉を鳴らし、どすんどすんと歩み寄ってくる巨体。

 俺、もう頭の中真っ白。

 この真っ白なキャンヴァスに何を描きたいですかと訊かれたら、きっと僕はこう答えます。自分が五体満足で生きている未来を描きたいと。

 色は何色がいいかなぁ! あっ……青がいい! 青空をそのまま画板に移したような少し白っぽさが混じった蒼がいいなぁ! 赤だけは嫌だ! 白骨を連想させる、血の赤が混じった白は嫌だぁああっ!! 嫌だから近づかないでくれ!

 

(お、俺は、何回こんな危機に直面するんだ!? これを乗り越えたとして、次はど……どこから……! い……いつ“襲って”くるんだ!? 俺は! 俺はッ!)

 

 俺のそばに近寄るなあああああああーッ!!


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