真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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114:IF2/親と子の生きる道③

-_-/一刀くん

 

 雨が上がった。

 ふと目をあけると白。

 もふもふしているホワイトタイガー先生に包まれ、目を閉じる前を思い出す。

 

「……生きてる」

 

 のっしのっしと歩いてきたホワイトタイガー先生を前に、“画王!”と吼えられて気絶したんだっけ。……思っておいてなんだけど、懐かしいなぁ画王。TVのCMだったっけ。

 などと暢気に考えていられるのは、とりあえず命の危険がなかったことへの安堵のお陰だろう。あと、気絶とはいえ眠ったからか、氣も少しは回復している。

 

「………」

 

 現在、ホワイトタイガー先生はお二方ともお眠りあそばれている。

 子供らも眠っているようで、抜け出るなら今……! なのだが、お二方……どうしてか俺を囲むように丸くなっているんだよね。

 しかも子虎が眠りながらも俺の道着をがじがじ噛んでらっしゃって、無理矢理でも取ろうものならガオオと唸って起きそう……!

 

(トリアエズ……ア、アレカナー……! 虎の気配に自分の氣を合わせて、同じ種族デスヨーとか思わせつつ抜け出る作戦を……!)

 

 と、氣を変化させた途端、ホワイトタイガー先生の眉間にビシィッと皺が寄った!

 なので我が身を疑う速度で氣を元通りにして寝たフリをした。

 

「……! ……!」

 

 アレですよね!? 種族に似せたってことは、縄張りに別のタイガーさんが来たとか思われても仕方ないってことだよね!? やりきらなくてよかったァアアア!! やりきってたら敵と見做されてバクゥリだったかもしれないッッ……!!

 そろりと薄目を開けて見てみれば、あたりをキョロリと見渡したのちにどすんと再び眠りにつく雄タイガーさん。

 ドキドキどころかドドドドドとうるさい心臓をなんとか押さえようとしつつ、とりあえずは安堵。

 再びぐっすりになるまで、しばらくの時を待つのでした。

 

……。

 

 そしてしばらく。

 

(………………)

 

 もはや恐怖にも慣れた(つもりな)俺は、キリッとしつつ遠い目をして、次のプランを組み立てた。名を、“大人タイガーがダメなら子供タイガーの氣を真似ればいいじゃない”だ。

 子虎も俺の道着から離れてくれた今こそ───!

 

(今こそ好機! 全軍討って出よ!)

(も、孟徳さん!)

 

 そう、今こそ好機!

 

(油断せず……無邪気な子供タイガーの氣を真似つつ、キャイキャイと外へ抜け出る)

 

 ここで浮かぶ心配なのだが、子供が勝手に外に出ることを親タイガーが止めるのでは、という部分にある。だが大丈夫。きっとそこまで過保護じゃないに違いない!(言えた義理ではない)

 そんな部分を勝手に信じて行動に移ることにしたのだ。

 

(そうと決まれば……!)

 

 氣を、子虎に似せて、のそりと動き出す。

 時に素早く時に大胆に、優雅に、そして力強く───はせず、悪戯っ子を演出しつつ、とてとて~っと。

 そして一定距離を稼いだところで、次は空をゆく鳥の氣を真似て、あなたたちとは無関係の無邪気な鳥デスヨとばかりに距離を取る!

 

(途中でバッグを拾うことも忘れずにキャーッ!?」

 

 よっぽど緊張していたからか、バッグを掴んだ手が震え、絡繰入りのバッグがゴシャアと落ちた。途端、俺は悲鳴をあげてしまい、洞穴の奥からは何かが動く音!

 こうなってしまったらもう手段はひとつ。

 涙目でバッグを開けて、絡繰背負って氣を流して、走り迫るホワイトタイガー先生の気配から逃げ出すように疾駆! その勢いのままに洞穴から出ると、回転しだした絡繰の導くままに空に逃げた───直後、俺が走っていた場所をホワイトタイガー先生の前足がガォンっと空振った。

 

「ホワァッ!? お、おぉおおっ……!?」

 

 見下ろせば、空を見上げて『ワ゛ーオ゛ォオゥ!!』と吼えるタイガーさん。

 なんでワーオ!? と思いつつ、アレがトラの鳴き声なのかなぁと震えながら考えた。

 

「………」

 

 ……本当はただ、いい匂いに惹かれて暖めてくれただけなのかもしれない。

 けれど死ぬかもしれない心配ごとには、出来るだけ身を置いておくわけにはいかないのだ。もし善意だったとするなら、ごめん。

 

(だって美以も、いい匂いがするとか言いながら噛んできたし……!)

 

 だからほんと、善意だったらごめん。

 そう思いながら空を飛んだ。飛んで飛んで、うるさい心臓の鼓動が治まるまで飛んで……次の街が見えたあたりで気が緩んで、街近くの草原の大地でアグナコトって涙した。

 ウン……そうだよね……。

 結局あんまり回復しないままだったもんね……。

 

……。

 

 街についてしばらく。

 舐められたり齧られたりして唾液まみれだった道着を洗って、服はいつものフランチェスカの制服に着替えた俺は、そこでもいろいろと指示をお願いされた。

 どうして俺なんだろうかと考えながらも、いつかのように実際にこの街の警備体制を自分なりに点検しつつ、そこに合ったやり方をこれまでの経験の中から弾き出して、他の警備隊の意見も混ぜつつ煮詰めていく。

 いきなり来た人に一方的な方法を押し付けられたところで、今までのやり方でやっていた人は反発するだけだろうと思ったからだ。思えば警備隊がまだ北郷隊なんて呼ばれる前は、本当に手探りで頑張ったもんだ。

 泥まみれになりながら駆けて、氣なんて満足に使えなかったから鍛えてもいなかった体で走って、何度へこたれそうになったか。

 

「そういえば……俺のことを新入り新入り言って扱き使ってくれたあの人、元気にやってるかな」

 

 支柱になって、都暮らしが随分と長くなってからは、隊の仕事は主に報告用の書簡整理ばかりになっていた。

 たまに顔合わせはあったものの、報告と一緒に改善案も出してくれるから困ることも少なくなった。……お陰で会いにいけない。

 街で擦れ違ったら肩を組んで笑ったりとかしてたけど……あの人も長いよなぁ。今でこそ俺のことを隊長とか呼んでくれるけど、あの遠慮の無い性格はきっと一生直らないに違いない。

 

「御遣い様ー! ここの警備体制について相談があるのですがー!」

「っと、今いくー! あと様はやめてくれって何度言ったら!」

「あっはっはっは! 今さらですよ、御遣い様!」

「あっ、御遣い様! 仕事が終わったら稽古つけてもらっていいですか!?」

「あ、俺───っとと、自分もお願いします!」

「俺なんかじゃなくて将の誰かに頼もう!? 俺に勝ったって自慢にもならないだろ!」

「自慢とかそういうんじゃないんですって!」

「というかあのー……御遣い様? ご自分の実力、わかってて言ってます?」

「そんなのわかりきってて辛すぎるくらいだよ……。華雄は一人でどんどん強くなるし、美羽もぐんぐん成長するし、桃香だって蒲公英だって……! 春蘭に至っては、本人の前では言えないけどほとんど化物級じゃないか……!」

「いえいえいえいえいえいえ!! あの方たちと比べるのがそもそもどうかしているんですって! というか打ち合える時点で自分もどうかしているって自覚してくださいよ!」

「……きみ、やさしいなぁ。今度奢るからオヤジの店に一緒に行こう」

「慰めたわけではなくてですね!? あぁああ駄目だ! 強すぎる人に囲まれながら生きてきた所為で、自分の実力とか完全に客観視出来なくなってる!」

 

 思えばあの日から随分と長く歩いた。

 この世界をこの足で歩んだ時間も、呆れるほどと唱える必要もなく、やがて天を歩いた時間に届くだろう。

 大人になったら何が待っているんだろうなんて、剣道で負けて腐っていた頃に考えた日は遠い。当時出した結論はもう、周囲の笑顔に埋もれて掘り起こす気にもならないけれど……腐った自分さえ埋め尽くせるほど、自分が笑っていられるようになったなら、掘り起こしてもいいのかもしれない。

 

(いい天気)

 

 必死に俺のことを持ち上げようとしてくれる、兵や将に苦笑いを浮かべてから空を見る。

 思うことはいろいろ。

 みんなが都に集まっている今だからこそ、こうして一人で暢気に出かけることなんてのが許されるが、以前だったら代わりに仕事を引き受けてくれる人など居やしなかった。

 ……まあ代わりに、立ち寄った場所で何かを頼まれたら断るなと、覇王様に釘を刺されている御遣いさんでございますが。

 でもなぁ、だからってなぁ、稽古もなにも、俺なんかより強い人なんていっぱい居るだろうに。

 

(もっと頑張らないとな。いつか、ちゃんとみんなを守れるように)

 

 それは、この8年で物凄く難しい目標だったのだと思い知らされた想い。

 もうやめれば、なんて言われると、コロっと転がってしまいそうな思い。

 頭の中ならなんとでも言えるそれだけど、実際には笑って否定する願い。

 目指した覚悟に嘘はない。

 いつか時が過ぎて、成長できない自分が彼女たちを守れる日が来るまで、俺はこの世界を見守る。

 いつになったら国に返しきれるのかなんて、誰が教えてくれるわけでもない。

 それでいいんだろうし、俺だってそう思う。

 好いてくれる人も居れば嫌う人も居る。

 嫌われているからって自分までもが嫌い切る理由にはならないし、自分が好きだからって相手にも自分を好きになれだなんて強要は出来ないしするつもりもない。

 

(いや……まあ、好いてくれるならそれが一番なんだけどなぁ……ハハ……)

 

 年頃の子供の気持ちはわからない。

 世の父や母は偉大だなぁ。

 

「───……」

 

 “もしもって言葉が大好きだ”

 いつか、夢に流れた言葉を拾ってみた。

 “もしも”にはいろいろな可能性がたくさんある。

 それはIFだからこその“出来る筈がない”を完成出来る世界。

 現実は出来ないことや叶えられないことが多すぎて、ただ真正直に生きるのは辛い。

 だから笑顔でもしもを謳う。

 夢の中に出てきた理想の物語にはいつだって笑顔が存在していた。

 本当に、いろいろな意味を持つ笑顔が。

 

「……なぁ。人を笑顔にしたいって思うのに、理由は必要だと思うか?」

 

 急に訊いてみた言葉に、まだ俺の強さについてを話していた数人がきょとんとする。

 返った言葉は要る、要らないの半々。

 じゃあ、俺の答えはというと───……

 

 

 

   ───……たぶん、夢の中の理想と同じだった。

 

 

 

-_-/曹丕

 

 夜が来た。

 お風呂で危うく気絶するように眠りかけて、なんとかふらふらながらも自室へ戻る。

 それというのも氣を使っての行動を母に禁止されたため、己の肉体で頑張るしかなかったからだ。言うまでもないけれど体はもうボロボロ。これがまだ何日も続くという。

 

「信じられない……! こんなことを、治安の悪い頃に、氣もろくに使えない人が……!?」

 

 氣を使うなという条件は、当時のその人が氣を使えなかったからという理由から。

 氣を使って体を動かすことに慣れきっていた自分にとって、これはもう拷問だ。

 体中の筋肉という筋肉が、じぐんじぐんと断続的に熱を持った痛みを発する。なんと言えばいいのか。沈んでいる痛みを筋肉とともに持ち上げられるみたいな、そんな不快感。

 

「くぅう……!」

 

 それでも自分に与えられた仕事が無くなるわけじゃない。

 体が求める休息という安らぎを跳ね除けて机にかじりつく。

 ただ、足を少しでも休ませたい気持ちから、椅子に座ってからは靴を脱いだ。

 火照った体に夜の涼しさがありがたい。

 ともあれ、筆を動かして自分に与えられた書簡整理をこなしてから、一日一度は必ずと言われている氣の鍛錬を始める。

 

「集中、して……」

 

 丹田より生まれ出でるそれを全身に流して、丹田に溜まったものをからっぽに。

 それからもう一度丹田から氣を生み出して、気脈をほんの少しだけ広げる。

 やりすぎると気絶するほどの激痛に襲われるから、本当に少しだけ。

 力ってものを望んだ甘述がそれを味わう様を見た。あれは本当に危険だ。

 

「………」

 

 そういえばあの時は誰が助けてくれたんだっけ。

 急に絶叫して苦しむ妹を前に、私は震えて泣き出すことしか出来なかった。

 泣いて、怯えているうちに周囲は静かになって。

 それから……それから。結局、怖くて訊くことは出来なかったんだっけ。

 あの時のことは甘述も話したがらない。

 ただ、あんな苦しさを味わってもまだ、強くなりたい気持ちは消えないらしい。

 だからこそ彼女は、激痛に襲われない程度の気脈拡張はいつもやっているし、その伸びが武力側の気脈よりも、本当に僅かにしか広がらないとわかっていても、ずっと続けている。

 母親である甘寧にそのあたりのことはキッパリと言われたそうだ。

 でも諦めていない。

 武から知に切り替えたらしい呂蒙の話を知っているからこそ、知から武も出来るはずだと。出来なければおかしいと。

 

「すぅう…………ふぅうう……」

 

 気脈を少しだけ押し広げる。

 肺一杯に空気を取り込んで、さらに吸い込んだような膨張感。

 それが全身に走る感覚はいつまで経っても慣れない。

 ただ、この無理の無い気脈拡張を鍛錬に組み込んだらしい人は、今でも暇さえあれば……いや、仕事をしながらでもやっているらしい。

 それを考えると、その人の氣はいったいどんなことになっているのか。

 想像するだけで恐ろしい。

 

「……はぁ」

 

 安定。

 あとは広げた状態をこのまま保っていればいい。

 体中に氣を満たすことで、体中の痛みも少しだけ軽減出来るし、氣で体を動かせば痛んでいる筋肉を無理に動かす必要もない。

 お風呂で“まっさーじ”もしたし、氣のお陰で体もまだ温かい。

 仕事も片付けたし、あとはゆっくり…………寝台、で…………うう、寝台が遠い……。

 だめ……眠気に勝てない…………このまま机で…………

 

……。

 

 朝である。

 

「はぐぅううーっ!?」

 

 目が覚めたら机で寝ていた。

 おかしな体勢を長時間続けていたからか、関節が痛いし筋肉も痛いしでろくなことがない。しかし仕事はあるので泣き言は言っていられないので、これまた鍛錬の前準備として組み込まれたとされる“らじお体操”とやらをして体を起こしていく。

 その最中も体の痛みに終始涙目だったけれど、終わったあとはましにはなっていた。

 あくまでほんの少しだけ。

 

「く、ぅううう……! 関節いたい……! 筋肉いたい……!」

 

 涙ぽろぽろ。

 ふふふ、しかし舐めてくれるなよ我が肉体。

 この子桓をこの程度の痛みで縛り付けられると思ったら大間違いぞ。

 我は曹丕! 曹孟徳が一子!

 これしきの苦しみに泣き言を唱えて蹲るつもりなぞ───はぴうっ!?

 

「小指ぃいいいいいーっ!?」

 

 ふらふらと椅子から立ち、歩き出した途端に小指を机の角にぶつけた。

 体を休ませたいからと靴を脱いでいたのが仇となった。

 

「あぅう……! あうぅうううう……!! 痛い……痛いよぅう……!」

 

 泣き言を唱えて蹲って涙した。

 ごめんなさい我が肉体。もう我が儘言いませんからこの痛みをなんとかしてください。

 この痛みは無理だ。これにはきっと誰だって勝てない。

 勝てないから───今日はもう、休む──────……

 

「っ……違うっ!」

 

 ハッとして首を振った。

 ここで休んだら投げ出すのと同じだ。

 私は、私は違う。あの人とは違う。

 こ、こんなの全然痛くない! そうだ、自分は痛みには強かったじゃないか!

 転んでも最初は痛いのにすぐに痛くなくなって、怪我をしたってすぐに痛みなんかなくなって! いっつも傍について回っていたととさまに、凄いでしょって胸を張って───!

 

「あ……れ……?」

 

 ……その筈なのに、いつまで経っても痛みは消えない。

 すぐだ。すぐな筈なんだ。

 ぽっ、て体が温かくなって、こんな痛みなんて。

 

「………」

 

 そうか、きっと疲れているからだ。

 普段だったらこんなこときっとない。

 ただ……痛みのあとにはいつもあった温かさが今はない。

 それが、ひどく寂しく感じた。

 

「───」

 

 さあ、今日も仕事だ。

 きっかけはいろいろだけど、きっかけ以上に知りたいものは増えたのだ。

 北郷一刀の過去を知ることもそうだし、様々な国で様々を成し遂げた人が居る筈なのに、その人のことが語られない理由も知る必要がある。

 こんな痛みで挫けてなど───!

 

「挫けている時間などないわよ曹子桓! さあいざコカッ!? あ、……~っ……!!」

 

 今度は手のほうの小指を机の端にぶつけた。

 

 

  ……前略母上さま。

 

  そのっ……~……挫けても、いいでしょうか……っ……!!

 




凍傷はスキル:不眠不休を使用した!
世界がぐるぐる回っている! これから仕事だというのに不安でいっぱいだ!

でも大丈夫! いけるいける気持ちの問題!
今日から俺は───富士山だ!
……動けないよ!

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