真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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116:IF2/目標のために動ける時間自体がまず大事(再)①

168/拳で岩を破壊した人の気持ちって、どんな感じなんでしょうね……興味津々

 

-_-/北郷さん

 

 ある晴れた日のこと。

 遠い道を歩く中、思いついたことを実行して……

 

「うぉおあぁあああっ!?」

 

 絶叫。

 脱力した体に加速をかけて、いつものように拳を振るった。

 ああいや、あくまで体はいつものようにだったものの、氣の練り方が違ったのだ。

 加速のために使った氣もあったが、それとは別に動かしていた氣があった。

 それを放った結果が……目の前の、とうとう砕けた岩だった。

 

「……うそだろ」

 

 絶叫のあとは唖然。

 自分がこれをやってみせたって事実が自分自身で信用出来ず、呆然としていた。

 だだだだってさ、拳だぞ? 木刀使ったわけでも金剛爆斧使ったわけでもない。

 ただ試行錯誤して、ええとほら、アニメとか漫画でよくあるような中国武術。あれの氣を乗せた拳に憧れを持って、真似のその先を目指してみただけだ。

 それがある日、とうとう完成に至ったのか……岩が、岩が砕けた。

 

「………」

 

 殴った右手は結構ひどいもの。

 皮が剥けて血が出てるし、ずぐんずぐんと痛みも感じている。

 だけどだ。そんなことより喜びが勝ってしまっている。

 建業を目指す途中の広い草原……その途中で、真剣に岩を殴った結果がそれ。

 

「……氣は、相手の氣に合わせて流し込んでやらなきゃ毒にしかならない……」

 

 ぽそりと呟く。

 ようはその応用だったのだ。

 じゃあ、相手の許容を超えた氣を一気に相手に、拳とともに流し込んだらどうなるのか。それを岩に対して行なってみただけ。

 岩の氣の許容量なんてものはもちろん知らないし、だからこそ自分の中にある氣の全てを叩き込むつもりでいった。

 外に放出して、氣弾として撃つなんて真似ではなく、殴った衝撃に乗せるように直接流し込むように……いや、流し込むどころか叩き込むように。……叩き込む、以上の乱暴な表現がなかなか思いつかないが、つまり思い切り。

 

「……は」

 

 頭の中で整理をする途中、はふ、と呼吸を思い出した途端、くらりと視界が揺れた。

 また氣を使いすぎてしまった。

 仕方ないので、砕けた岩の傍に座り込んで溜め息。

 

「ああ、うん。やっぱり俺って氣だけだよなぁ」

 

 少しは強くなれたかなと思った瞬間、大体が崩れる。

 なので相も変わらず慢心すら出来ないし満足も出来ない。

 上を見上げて突き進むばかりの自分は、いったいいつになったらみんなを守れるのか。

 ていうか将の皆様が強すぎなのです。

 俺が目指した道は、いったいどれだけ困難なのか。

 

「んん……」

 

 ともあれ、岩を爆砕することで散った氣を、せめて少しでもと吸収する。

 あれだ、氣をくっつけたまま放出して、霧みたいにキラキラと散っている氣にくっつけて飲み込む、みたいな。

 実におかしな状況なものの、こうしたほうが回復が早いんだから仕方ない。

 丸い舌を伸ばして餌を食べるカメレオンのような気分だ。

 

「…………はぁ」

 

 幸いにして消えてなくなる前に氣の回収が成功。

 全てとは言わないまでも、立って走るくらいは平気なくらいに回復した。

 ……錬氣すれば問題ないんだけどさ、疲れるんだ、あれ。

 

「よしっ」

 

 立てるのならおさらいだ。

 夢の岩石破壊が完了したことで、この北郷の心も瞳も子供のように輝いておるわ。

 そのわくわく感が無くなる前に、出来ることを楽しみながらやるのだ。

 童心は最強の行動理由。人を動かす原動力となる。

 なので、

 

「自分の中で、もっと複数の氣の行使が出来るようになれば……」

 

 今回のように、加速と固定と放出を同時に行使する要領でやっていけば、または行使するものを増やせば、もっと上手くいけるかもしれない。

 でもその前に。

 

「っ……痛っ……手、痛っ……!!」

 

 今さらながらに手がとても痛かった。

 

……。

 

 手に集中的に氣を集めて痛みを和らげたあとは、やっぱり鍛錬。

 

「放出……は、ちょっと次に繋げないからアウトだよな」

 

 切り離さずになんとか出来ないだろうか。

 むしろ岩を破壊するほどの衝撃だ……それをもう一度取り込んで装填、次弾に備えれば……?

 

「おお! なんかいい!」

 

 体術が潤いそうだ!

 凪! 体術は素晴らしいね!

 なので早速実践した。

 加速、固定、放出(切り離さずに)、さらには衝撃吸収、装填───それらを一気に行ない、

 

「コォオオオ……んっ! せいぃっ! ───~……ィいギャアアアアァァァーッ!!」

 

 ……衝撃吸収を氣脈に通してしまい、絶叫。

 いつかの失敗を見事に繰り返してしまい、しばらくは痛みの所為で動けなくなりました。

 

……。

 

 トライ、ミキコ。

 じゃなくて再挑戦

 

「ふー、ふーっ、ふぅううーっ……!!」

 

 涙目で拳を構える俺。

 氣脈ニ衝撃、ヨクナイ。神経殴ラレルミタイ、痛イ

 それでも懲りずにやるあたり、自分はどれだけ馬鹿なのか。

 や、だってさ。このままなにもしないんじゃ、いつか俺って本当にただの柱になっちゃいそうだし。

 “いつか守りたい”って願った通り、その夢に真っ直ぐに進むことは悪いことじゃない筈だと思うの。

 国に返したことは山ほどあるんだ、国もそうだし、みんなにも返したい。

 

「……んっ!」

 

 なので鍛錬だ。

 自分に出来ることを全力で。

 

「まず、右の拳で───!」

 

 殴る。

 まずは軽くで、それでもその衝撃を吸収、捻る体は加速で速め、その外側には衝撃を流して左手に装填。

 

「左───!」

 

 殴る。

 右の衝撃を装填した左で殴り、その衝撃を再び右手へ装填。といっても気脈は通さず、手の外側を通してだ。

 加速で届けられたそれが右手に宿り、右手が岩を殴り、衝撃を左へ装填、殴り、加速、装填、殴り、加速、装填。

 速度が完全にノってきたところで装填する衝撃も相当なものへと至り、岩がひび割れてきたところで振り切る右拳とともに装填した衝撃を吸収せずにそのまま放った。

 ……それで、砕けていた岩はさらに砕けた。

 

「……、……はっ……はぁ……はっ……」

 

 集中の連続で、妙なところに力をこめていたのか、肺やら心臓やらが痛かった。

 けどその力も抜けて、一気に脱力。

 氣は……まだまだ充実している。衝撃を破壊に利用したためか、氣自体はそんなに使わなかったのだ。

 ただ。

 

「いだだだだぁああーだだだギャアーッ!!」

 

 手が痛かった。

 う、うん……! 俺もっ……体術使う時は、凪みたいに手甲でもしようカナ……!!

 

……。

 

 手に氣を集中させながら歩き、進んだ先にあった岩の前でまた止まった。

 岩を見つけるたびに壊したって仕方ないんだけど、ほら。ね? わかるだろ? 壊せるようになったんだ……岩をだよ? 誰に自慢したいわけでもないのに、起きているっていうのに“夢だろこれ”とか普通に思ってしまうんだ。

 だから破壊して夢ではないと知って、拳の痛みに涙するのです。

 

「な、なにも思い切り殴ることないんだよな」

 

 ていうかもう壊すのやめよう。壊すためにあるんじゃないもんな、この力。

 

「とにかく氣をバラバラに使うことに慣れなきゃな」

 

 便利なものも極めればシーザー。特別な味です。……じゃなくて、極めればきっと役立つはず。単純なものほど“極める”のは大変だというが、それでも挫けるって選択肢は今のところないのだ。

 

「加速のあとに一気に戻そうとすると関節が痛くなるから、それも氣のクッションで和らげて、吸収して……」

 

 加速、停止、戻し。それらを一気にやってみると、やっぱりぎしりと痛む腕。

 次は加速してから、停止に氣のクッションを使って、戻す際にも加速を混ぜてみる。

 すると、ビッと止めると同時に戻した腕から氣が微量に飛び散り、陽の光を受けて綺麗に輝いていた。なんだかダイヤモンドダストみたいだった。

 

「へぇえ……綺麗なもんだなぁ……」

 

 元々、俺の氣の色が金色なもんだから、陽の光を浴びると余計に輝く。

 そんな氣の散り様を横目に、なんとかして散る量を減らせないかと試行錯誤。

 しかし当然とばかりに上手くいかず、次第に拳を振り続けることにも奇妙な苛立ちを感じ始めたあたりで一旦休憩。

 苛立ってはいけません。冷静になるのです北郷一刀、とばかりにじいちゃんからの教えを思い出しながら深呼吸。

 

「すぅう……ふぅう……」

 

 自分の実力に伸び悩むことなんてよくあることだ。

 むしろ自分には、相手をよく見ることと氣しかないのだから、それだけに絞って鍛錬する以外になにがありますか。

 そっちの方向には冷静であれ。じゃないとそっちの方向ですら自分を見失う。

 

「でもまあ、周りが強すぎるとか優秀すぎるっていうのは、過信とか傲慢をしている暇がないから……それはありがたいのかも」

 

 その分悔しさは溜まるわけでございますが。

 ……だ、大丈夫だよ? 悔しいけど“なにくそっ!”って思えるくらいには、まだ向上心はあるつもりさっ! でも涙が出ちゃう! みんな強すぎるんだもん!

 

「えぇと……」

 

 そんな人たちをいつかは守りたいと思う自分は無謀中の無謀でしょう。

 直接話せば笑われるに違いない。主に春蘭に。

 しかし、だからといって諦めるつもりはないのだ。

 そのためにじいちゃんの下で頑張ったんだから。

 

「こう、拳を振るうだろ……? そしたら加速の勢いが……あ、あー……むうう」

 

 座りながら体捌きのイメージ。

 振るって、止めた時の衝撃は氣で吸収、装填するとして、散った氣はどうしましょうって話だったよな。

 えぇと…………この際無視しよう。加速で殴ったあとに、相手が待ってくれるわけでもない。加速の拳で相手が倒れてくれたならまだしも、今までの鍛錬を思えば倒れてくれる未来がてんで想像出来ません。

 ウ、ウワァイ! みんな強いナァ! 泣いていいですか!?

 

「はぁああ……道は遠いなぁあ………………あれ?」

 

 がっくりと項垂れたあと、せめて楽しいことを考えて暗い考えを追い出そうとした時。

 なんだか、手を振るったあとの衝撃とかをなにかで吸収、って部分でとある漫画を思い出した。……や、それの場合だと氣を込めた拳を、とかではなかったわけだが。

 

「……散る氣、加速を込めた連打、込めた何かで相手を殴る…………おおっ!」

 

 遊び心は人を動かします。

 疲れた体もなんのその。

 がばっと立ち上がってからは、すぐに実行に移った。

 

「コオオオオオオ!!」

 

 ……いやまあ、うん。遊び心だから、いつも通りといえばいつも通りなんだ。

 なので気にせずいこう。遊び心とはそういうものなのだから。

 

「ふるえるぞハート!」

 

 氣をッ! 巡らせるッ!

 深い呼吸を全身に行き渡らせるかのようにッ!

 

「燃えつきるほどヒート!!」

 

 言葉の度にバシィビシィと奇妙なポーズを決めて、心震わせ熱く燃えよ遊び心!

 

「おおおおおっ! 刻むぞッ! 血液のッ───ビートォッ!」

 

 そのポーズをする中で振るった身体が生み出す微量の衝撃をも循環させ、両手に装填してから───今こそ!

 

“山吹色の波紋疾走”(サンライトイエローオーバードイライブ)!!」

 

 いざ拳を振るう。

 遠慮無しの加速が振るう拳の速度を高め、ひと突きが終わった瞬間に繋げるように引き戻す拳。その際に生まれる筋への反動と衝撃も氣によって吸収、そのまま装填され、引き戻された時には既に出されていた左拳も同じ動作を。

 引き戻した際に人体構造上の限界まで戻した腕が止まる衝撃さえも、加速されれば結構な衝撃だ。しかしそれすらも吸収、いっそ加速の助走にするかのように弾けさせて、ただひたすらに拳を振るった。

 遠慮無く行使される氣が散って、陽の光を浴びて輝くさまは実に綺麗だ。

 サンライトイエローかどうかと問われれば苦笑を漏らすが、遊び心の前ではそんな些細こそが笑いの種だろう。完璧じゃなくていいのだ。遊びとは不完全だからこそ手を伸ばしやすいし、踏み込みやすい。

 完全を目指した遊びは、途端に義務的なものになる。

 ああだが、だがジョジョッ……その完全を得た時の喜びもまた……楽しいのだッ!!

 ……と、振るったはいいのだが。 

 加速するたびに腕に走る衝撃も増してゆき、装填される力も増えるばかり。

 さて……そろそろこの両手に篭った“衝撃”をどうにかしないとまずいのですが。

 なっ……殴ったら絶対にまたズキィーンですよね!? ででででもサンライトイエローオーバードライブといえば、あのトドメの拳が素敵なわけでして!

 

「…………っ……!」

 

 喉がごくりと鳴る。

 空振りを続ける拳の先には岩。

 これをドキューンと殴れば衝撃は霧散するわけですが、俺の拳も無事では済みません。ええ済みませんとも。

 

(進め! 立ちはだかる者はすべて切り伏せよ!)

(孟徳さん!?)

 

 も、孟徳さんが猛っておられる!

 いや……いやっ! むしろ遊び心でやり始めたなら最後までやらずして何が男!

 なので殴る! 加速度も最高潮に至ったかもしれないとなんとなく思えるこの速度を以って! 殴りぬけるッ!!

 

「るオオオオオ!!!」

 

 岩を破壊するといえばこの雄叫び!

 さあいざ全てをこの岩にぶつけるように! カエルは居ないが気にしない!

 

 

   どごーん…………ギャアアアアァァァ……───

 

 

───……。

 

 

 それからしばらくして……長い旅が終わった。

 手は笑えるほどボロボロで、建業に着いたら迎えてくれた人が居て、民達が「見ろ……あんなに手がぼろぼろだ……」とか「きっとそれだけ国のために尽力してくださっているんだ……」とか言って、とても申し訳ない気持ちになったのは秘密のお話。

 

「んむっ、ぐっ、はぐっ! はふっ!」

 

 で、現在は親父のお店で青椒肉絲を食べております。

 いやあ懐かしい味だ! 前にも来たけど!

 やっぱり呉といえばこれってイメージがあるのは、作ってくれるのが親父と祭さんだけだからかなぁ! いやぁ懐かしい! 前にも来たけど!

 

「お前も懲りねぇなぁ一刀よぉ。娘のことで困るとすぐこっちに来るもんなぁ」

「ナ、ナンノコトデセウ? ボボボボク、娘ト仲良イヨ?」

「はっは、そうかそうか。んじゃあ今回はなんだって呉にまで来たんだ?」

「…………」

「無言で視線逸らしてんじゃねぇって」

 

 親父は相変わらず元気だ。

 店も盛況で、魏のおやじの店のように酒を飲んだり騒いだりする人もごっちゃり。

 ……まあ、あっちのほうが狭いといえば狭いものの、その分親密度は高い気がする。腹割って話すことばっかりだもんなぁ、あっちは。

 

「で、どうだい、支柱の仕事は。娘のこと抜きにしても、元気にやってっか?」

「ん、それは問題ないよ。優秀な……ああいや、優秀すぎる人たちが都に集まってるから、分担すると仕事が少ないってくらいだ。……もっとも、その分あちこちで騒ぎが起きるわけだけどさ」

「騒ぎねぇ。呉では孫尚香さまがたまに騒ぐくらいで、騒ぎらしい騒ぎなんてなかったろうに」

「魏と蜀が問題なんだよ……」

 

 主に蜀。ていうか蜀。

 魏だって春蘭が暴れなければそれほどでも…………ああいや、真桜の絡繰実験とか霞のお祭り騒ぎ的な、民を巻き込んだ暴走とか、そういうのが無ければまだ……なぁ。

 季衣も鈴々と絡まなければまだ大人しいんだ。春蘭と居ても止めに入る方だし、流琉と一緒の時は騒ぐ方だけど、それはまだ大丈夫な部類だ。

 それがなぁ、他国の将と絡んだだけで一気に騒ぎ始めるから手に負えない。

 蜀が元気っ子揃いすぎるんだ。軍師も気が強いのが多いし、朱里と雛里なら平気かなーとか思ってると書店から怪しい本を購入したところを目撃されて、テンパって騒ぎ出してって……ああもう……。

 

「……なぁ一刀よぉ。頭抱えて溜め息つかれっと、どこが問題ないのかまるでわからねぇんだが……?」

「いや……問題ない……筈なんだよ……? これでもまだ捌けてるんだから、問題ないんだよ……きっと……」

 

 人が元気なのは平和な証拠さ!

 たとえそのために朝早くから起きだしてあちこち駆けずり回って処理して、子供たちが起きる頃には何食わぬ顔で戻って遊びに誘ってもすげなく断られてもっ……! も、問題ないんだよ……!? ない筈さ! ないよね!?

 

「イヤー、野宿ッテイイヨネー。俺久シブリニ熟睡デキタヨー」

「お前どんだけ寝てねぇんだよ……」

「俺の睡眠時間より子供たちと遊ぶ時間の方が大事じゃないか!」

「お前はもっと自分が支柱であることを意識しやがれ!」

 

 ごもっともだった。

 けれど、親父様。この北郷……支柱である前に父である!!

 ……あ、ごめん、父になる前から支柱だった……。

 


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