その後、城のみんなに挨拶をする前に民に挨拶するという、この時代にしてみればへんてこりんとも取れそうな行動ののちに城へ。
……到着するや泣きついてきた文官を前に苦笑を漏らしつつ、蓮華や冥琳の方針を崩さない程度にアドバイスの時間。
人にものを教える時は、その人の立場を想像して、頭の中で言葉を組み立ててから言葉にしましょう。絶対にやってはいけないことは、頭ごなしに怒鳴ることと、主語を抜いた説明と、こんなん出来て当たり前だろうがという決め付けです。
ああ、あとこれ。急かしちゃいけない。冷静に。
間違ったことをしていた場合は、やんわりと止めてやんわりと説明しましょう。
その際、その行動がどうして間違っているのかも説明すると素敵かもしれません。
自分が知ってるんだから相手も知っていて当然、という考えは気楽な考えだけれど実はかなり危険な考えです。
まあどれだけ説明しても、相手に聞く気がなければどうしようもないんだけどね……。
こればっかりは……まあ、わからないでもないんだけどさ。
「優秀な“上の人”が身近に居ると、へこむよなぁ……」
「ですよね! そうですよね! 私たちが未熟なだけではありませんよねぇ!?」
現在、建業を任されている将が涙目で叫んでいる言葉に同意している俺。
上の人っていうのはじいちゃんだったり不動さんだったり、まあいわゆる、自分の鼻を叩き折った人たちのことを言う。
自分なりの努力を真正面から叩き折って、そうではないと意見をぶつけてくる人。
で、自分にも自分なりのやり方があるんだと叫んだところで届かない。
何故って、相手のほうが優秀だからだ。
それがわかっていて、実際に相手のやり方で合っているのに、妙なプライドや意地の所為でそれを受け止め切れない自分。こういう時、大体の場合は反発して後悔する。
(だから受け止められる自分になったつもりで、教えられたことはなんでも実践してきたのにな……)
まだまだ全然勝てない自分。
既存の知識を追ったのならば、手探りをしている人よりも早くに経験を積めるはずなのに、てんで追いつけもしない現実。
悩んでいると飛んでくる“悩むな”の言葉に苛立ちを抱いて、がむしゃらにしてみれば“そうじゃない”の言葉。結局はその繰り返しで、努力が報われる瞬間にはなかなか巡り合えないわけだ。
「まあでも、身近に居る内にさ、もらえる知識はもらっておこうな。居なくなってからじゃ、どれだけ後悔してももう貰えないんだから」
「それは……まあ」
「……頷いてみせても、納得出来てないだろ」
「うぐっ!? ……はぁ。いえ、受け取ろうとはしているんですけど」
「そんなもんだよ。自分の心とも折り合いがつけられるようになれば、少しは自分を見直せるようにはなれると思うから。無責任に言うなら“頑張れ”」
「……いつもの“言うだけならただ”、というやつですか」
「応援だけなら誰にだって出来るし。ただ、重荷としては受け取らないでくれな」
「三国同盟の証に励まされて、重荷以外にどう受け取れと……」
「あぁ、はは、そうかも。じゃあこれだな。給金分は働こう」
「……どうしてでしょうね……さっきよりもよっぽど重いです」
「だよな。自分がそれに見合っているかどうかなんて、わからないもんな」
苦笑を漏らしつつも仕事を手伝っていく。
視察しながらの助言の時間は、文官の愚痴に付き合う時間でもある。
普通はそんなことを、なんて思うだろうが、吐き出す時間っていうのは本当に大事だ。
吐き出す相手が居ない場合は余計に。なのでこれは俺が提案したことであり、時間が作れればいろいろな将からの愚痴を聞いたりしている。
……それがまた、結構重いわけで。
代わりと言ってはなんだけど、俺も愚痴を聞いてもらっているからおあいこだ。
そんなわけで、互いに日々への不満や理不尽や、面白かったことからこれが辛いということを話し合っては笑った。
たぶん、おやじの店に行けたなら絶対にみんなと打ち解けられる人だろう。
将である時点で相手も線を引くかもだが、そんなものは慣れだ。
打ち明けてみれば、自分と大して変わらない悩みを持っていることに驚くに違いない。
むしろ俺なんて、“その外見で子供との付き合い方に悩んでるなんて”とか言われて、背中をポムポム叩かれるくらい打ち解けて…………あ、あれ? 打ち解けてるのかな、これって。
「しかし、御遣い様も大変ですね。もういっそご自分のことを話してしまわれてはいかがですか?」
「そうだなぁ、打ち明ける云々の前に、いい加減その堅苦しい喋り方をまずなんとかしてほしいなぁ」
「それは無理です」
「や、胸張らなくても」
でも、打ち明ける、かぁ。
子供たちに俺のことを打ち明けて、それでいろいろと遠慮することがなくなったら……
-_-/イメージです
ある日、シャイニング・御遣い・北郷は都の街を歩いていた。
空を見上げれば良い天気。
凪が新調してくれた同盟国正式採用フランチェスカ制服は、その眩しい太陽の光を浴びてゴシャーンと輝いている。
そんな、歩けばあまりの眩しさに誰もが振り向く中、街の一角に存在する私塾を発見。娘たちは元気に勉学に励んでいるだろうかと、そっと窓の柵越しに見てみると、なんとそこには曹丕と見知らぬ男の子が。
どうやら二人きりらしく、男の子は緊張を孕んだ面持ちで曹丕を見つめ、曹丕は溜め息ひとつ、その男を見ていた。
「し、子桓さま───いや、子桓ちゃん! 俺、ずっと言えなかったけど、そのっ、きみのことをいつも見ていて……! その、いつもいつも凛々しいところとかたまに怖いところとか、でもやさしいところとかもわかって、なんて言ったら良いのか今ちょっとわからないけど、ええっとつまりなにが言いたいかというと……!」
「…………あ」
恥ずかしさのあまり、俯いたままの男の子の手が伸びる。
その手が相手の手を掴んで、ぎゅうっと、力強く掴んで、離すものかとばかりに掴んで、それをこれから放つ言葉の力にするかのようにして顔を上げ、
「すっ……好きだぁあああっ!!」
放った! 勇気を以って! 告白をっ!!
「そいつは照れるな」
「!?」
が……手を掴まれた相手───シャイニング・御遣い・北郷は顔面をギニュー隊長もびっくりなくらいに血管ムキムキにして立ち、口からはどれほどの温度があるのかも想像がつかない白い息をモゴファアアアと吐き出していた。
「ふぅうううぅぅぅぅいいギャグ持っとるのォ茶坊主ゥウウ……!! この父の前で丕に告白するなぞ命が惜しくないようだのォォォォ……!!」
「えっ!? やっ! えぇっ!? ど、どうして御遣い様がここに!? あっ、いや! お、おおおおお義父さん! 僕に子桓ちゃんをくだ───」
「だぁあああれがお義父さんだブチクラワスぞこんガキャアアアァァァッ!!」
「ヒェエッ!? ヒッ……ヒィイイイイイィィィッ!!」
「逃がすかァアアッ!! 絶対イワしたる絶対イワしたる絶対イワしたるァアアッ!!」
「とっ、ととさまぁっ! 町内で木刀は! 木刀はぁああっ!!」
……。
-_-/一刀くん
……よし落ち着こう。
大丈夫、そんなことしないよ。
だだだだってそんな、三国の支柱たる者が長寿と繁栄のための第一歩になるかもしれないところで横槍入れるなんてさ、ハハ……。
「そうそう、せいぜいで氣を込めた全力ナックルをするくらいさ」(*注:死にます)
「えっ……な、なにがですか!?」
「へ? あ、ああいや、こっちの話」
塾から逃げ出して町内を駆けずり回る男を、木刀を構えて追い掛け回す自分が脳内で上映された。さすがにそんなことはと思ったものの、全力ナックルもまずいよな。
ていうか、知らず口に出ていた所為で、隣を歩いていた将に驚かれた。
……ちなみに“いわす”というのは“殴ってヒーヒー言わせる”的な意味らしい。
関係ないけどね。
……。
視察、アドバイス、のちに都に送る予定だった仕事などを済ませると、外は既に真っ暗だった。夕餉を食べていないことに気づいたものの、青椒肉絲でご飯を目一杯食べた所為かお腹は減ってはいなかった。
現在自分を襲うのは眠気ばかりであり、案内された部屋ではそのまますぐに眠れるように寝台も用意してある。というか、呉で世話になった時のそのままの部屋を使わせてもらっている。
あれから八年。持ち込む私物などろくにありもしないものだから、様変わりもまるでないそこは、第二第三の自室のようなものだった。ここならば何に遠慮することなく呼吸を整え、眠れることだろう。……野宿中でも十分熟睡だったが、気にしちゃいけない。疲れてたんだよ? ほんとだよ?
「………」
誰も居ない時は、氣脈の強引拡張の最大のチャンスといえます。
なので集中。氣脈を氣で満たし、さらにそのまま錬氣を続ける。
途端、まずは身体が痺れるような圧迫感。
苦しいと感じるところまでいったならば、そこからは微調整。徐々に錬氣して、痛みを感じたら停止。痛みに慣れたらじわりと錬氣、停止、錬氣、停止。
むしろ広げすぎて痛むならばと氣で繋ぐようにして、そこから無遠慮に拡張させて……あまりの激痛に涙した。無理はいけません。
しかしながら氣で痛みを和らげることは一応出来るため、誰も見ていない今こそ好機とばかりに拡張に励んだ。というか、他国に行った時くらいしか大きな拡張が出来ないのだ。なにせ、都に居たのではほぼの時間に自分以外の誰かが居る。
「ん───……んー……ん───んー……」
一定を広げ終えると、次は氣を体外に放出。
放つことはせずに掌にでも集めて、深呼吸したら再び氣脈へ戻す。
伸縮を繰り返すことで氣脈の柔軟性を鍛えているのだ。
まあ……今さら確認する意味もないくらいにはやっていることだ。数えればもう8年。
お陰で氣だけは凄い北郷さ。……氣だけは。
扱い方や応用は今でも手探りだし、氣無しで真正面からぶつかったって誰にも勝てない。相手の攻撃を注意深く見て、それに合わせた動きをして、相手がその狙い通りに動いてくれて初めて勝てるってくらいだろうか。それでも褒めてくれる人は居るものの、正直“あなたに褒められても、褒められている気がしません”と言える人物が居すぎなんだよなぁ。だってみんな強いし……。
「……ふぅ」
拡張が終わると、痛みが引くのを待ってから丹田の強化。
カラッポな氣脈を何回錬氣で満たせるかを試してゆく。
これも立派な鍛錬のひとつだ。
ちなみにカラッポにするために、氣は体外に球体にして浮かせてある。
摩破人星くんを飛ばす際に使った方法の応用だ。
それを続けて、錬氣出来なくなったら、寝台に座りながらも錬氣のイメージを続ける。
途端に気持ち悪さとけだるさに襲われるけど、呼吸を整えて続行。
……しばらくして意識が飛びそうになったところで止めて、少しずつ宙に浮かせた氣を身体に戻してゆく。身体の中を氣で満たしてやったら、体の中の不調な部分を氣で活性化。多すぎる氣の球体を地道に消費してやりながら、再度氣脈を広げるイメージをしつつも吸収していった。
「丹田の栄養素ってなんなんだろうな。やっぱりたんぱく質?」
いまいち氣を作るのに必要なもの、というのがわからない。
寝れば練れるようになるし……いや、駄洒落じゃなくて。
休めば使えるようにはなるのだ。しかしその条件がわからない。
なにを以って生成されているのだろう、この不思議なものは。
カロリーを消費して、とかだったら、ダイエット戦士には嬉しいものだろうけど。
でもそうなったらいろいろと大変だな。演奏者のように砂糖を舐める日がいつかはくるのだろうか。というか、その場合は砂糖を舐めるだけで足りるのか?
(……14キロの、砂糖水)
……とある中国人が14キロの砂糖水を差し出す場面が頭に浮かんだが、忘れよう。無理です、身体から湯気が出る奇跡とか俺には無理です。
飲む前までは腹がぽっこり膨れるくらいに飲食したものが、砂糖水を飲んだ途端に消えるとか無理なんです。
「…………はぁ」
うーん…………静かだー……。
都だったらこうはいかないよなー。
こうして“たはー”って息を吐いたら誰かしらがドヴァーンと扉を開けてさ?
“いやあの僕もう眠ろうと”とか言っても聞かずに酒に付き合わせたり(雪蓮と霞と祭さん)、夜の鍛錬に引きずり出そうとしたり(華雄)、寝る前にお話をねだってきたり(美羽)、終わってない仕事を持ち込んできたり(沙和と真桜)、毒物っ……もとい料理を運んできたり(春蘭と愛紗)。
……どれも夜中に虫の雨を降らそうとするどこぞの猫耳軍師よりはマシだと思えるあたり、俺も相当順応しているのだろうか。あ、死神が鎌を手にご降臨あそばれる料理とかは、さすがに虫の方がマシだぞ?
「………」
身体が癒され、落ち着くのを感じるままに目を閉じた。
このけだるさを受け入れたまま眠るのは気持ちがよさそうだ。
一度落ち着いてしまうとどうしても都のことが気になってしまうのは、もう遠出した時の癖のようなものだけど……出てきてしまったなら今は呉のことを気にしよう。
そして、休める時に休んでおこう。
……などと、休めること自体がとても大事な都のことを思いながら、息を整えた。
アニメ:オーバーロード2を見ていた際、ザリュースが名乗りあげるたびに頭に過ぎったこと。
『俺は緑爪族のザリュースシャシャ!』
「ウォールローゼ南区ダウパー村出身! ブラウス・サシャです!」
『………』
「……間違えましたサシャ・ブラウスです!」
もし名前がブラウス・サシャだったら、語呂が似ているってだけのお話。
あとザリュースシャシャの名前が、案外発音しづらかったりしました。
エー……すいません、他のお方の小説を読んだり、宝石姫をやってみたりしておりました。
読み始めると止まらんのです……!
宝石姫は正直、事前登録ガチャの延長といいますか。
レアリティ6あっても、それ以下のステータスのキャラにあっさり負けられるステキゲームです。
属性や状態異常がここまで影響するゲームも久しぶりな気がします。
さあ、書きませう!