真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

338 / 454
119:IF2/擦れ違いの胎動②

 

 一日二日と経って、俺の体はついに───……うん、まだ治ってないんだ。

 気を抜くと穿った氣脈の澱みは元の形に戻ろうとするもんだから、その度に穿っていた所為で身体が余計にだるい。自室の寝台でうんうん唸る姿は、人には見せられません。

 ……思うに、最初から開いている氣を練る場所が丹田として、他6つを一気に開いたのなら……氣が充実するまでにかかる時間は今までの約六倍ということにッツ!!

 

(………)

 

 無言で頭を抱えた。

 ただ氣を練る速度が異様に上がったのは確かだ。

 安定していないから六倍とまではいかないものの、軽く集中すれば今まで鍛えた氣脈の大きさくらいはすぐに満たしてくれる。……つまりだ。氣を練る速度は上がったが、最大量を増やしたいなら相変わらず、祭さん直伝の業でなんとかしろってことらしい。

 ……やりすぎると本気でお迎えがくるから、出来ればやりたくないんだけどな。

 辛い分、実感があるのはいいことなんだけどさ。

 

「さて……」

 

 息を吐いて、思考を切り替える。

 帰る時間も考えると、この身体だ……そろそろ出た方がよろしいのですが、どうしたものか。都を離れて……むしろ娘たちから離れて、少しは自分を取り戻せた気はするものの、都に戻るとまた親ばかな自分に戻ってしまう。

 睡眠時間を削って仕事を片付けて、娘たちと遊ぶための時間を強引に作る親。

 なのに時間が出来ても娘たちとは遊べないで悶々とする親。

 ……余った時間を鍛錬に使いたいけど、娘達が居るから鍛錬が出来ない親。

 なんかもういろいろとマズイ。

 もはや娘にバレるとかそんなことを言っていられる状況じゃあないのだ。

 なんとかして愛紗と戦えるようになって、なんとかして愛紗に勝てるようにならないといけない。そのためには、“親が野蛮に武を振るう姿”がどうとかを気にしている自分なぞ殺すべきだ。

 国に返すと決めたならな、一刀よ。親の尊厳よりもまず、国に返すことに生きてみよ。

 この世界を守ることが国に返すことに繋がると信じるのです。

 だって、そもそもこの世界が否定されれば、国どころの話じゃないのだから。

 

「……むっ……む、むむむ娘立ちか……! 一人立ちならぬ、親ばかからの脱出……!」

 

 無理、と叫びたいところだが、そうも言っていられない。

 ああ、いや、待て? そもそも俺、娘立ちどころか……この場合は娘断ちか? ああいやそれはいいとして、そもそも俺、娘たちから嫌われているんだから、俺がどーのこーの言う以前に解決してない? 娘断ちどころか既に娘から離れられてるぞ? 親離れがとっくに成立してらっしゃるよ?

 

「…………」

 

 静かに涙が零れました。

 うむ。もはやなんの憂いも無し。安心して愛紗を目指せる。

 俺は既に親として失格だったのだろう。

 ならば一人の男として……国へ、世界へ返す修羅となろう。

 嫌われているのなら、今さら相手にせずともみんな……きっとみんな、“やっとあの鬱陶しい男が付き纏わなくなった”とか思うに違いない。

 あ、あーっ! なんだー! いーことだらけじゃないかーっ!

 あはっ! あははははは! あはははっ……ウワァアーッ!!

 

「大人になるんだ北郷一刀……っ……娘の成長を喜ぼうじゃないかっ……!」

 

 子供とは親の手から離れるもの。それが、普通より滅茶苦茶早かっただけじゃないか。

 キャッチボールの夢とか料理を作ってもらう夢とか全然叶ってないけど、もう親離れなんてとっくに終わってるんだからしゃーないさー! うわははははぁーん!!

 心で叫びながらさめざめと泣いた。

 泣いて泣いて、落ち着くと……もはやこの北郷に迷いはなかった。

 親の北郷は今死んだ! 今よりこの北郷! 御遣いとしての最後の戦を勝利せんために血で血を洗う修羅道を突き進むものなり!

 故にこれより、たとえなにか不思議な力が動いて娘が“ととさま大好き”とか言ってこようとも、この北郷は迷うことなく

 

「メガンテ!」

 

 自爆!? いやいや落ち着け! そこは普通に突き放そう!? なんで自爆!? 拒絶できないくらい嬉しいのに拒絶しなきゃいけないからって、娘もろとも自爆って何を考えてやがりますか俺!

 そう、なにも自爆することはない。そこはやさしく、死んだ親北郷にメガザルを……ってだからどうして自爆に走る!? 親北郷は復活しても御遣い北郷が死ぬよ!? ……親ばかが復活するなら結局そうなるのか。なるほど納得。じゃなくて。

 

「───」

 

 あ、あれー……? なんだこの“死んだ親北郷が蘇生してほしそうにこちらを見ている”的な状況。ほんと、なんだこれ。だが無視だ。とりあえず娘のことを考えることをやめるところから始めてみよう。

 親ばか卒業。

 俺はその道を歩むと決めた。親北郷……お前は親らしく娘の成長を喜んでいなさい。

 その剥き出しの親ばかなぞ捨てて、話しかけられても普通に返すだけの“ただの親”であれ。それ以上でもそれ以下でもない、ただの親に。

 

「…………《……ィイン……》」

 

 集中して、感情を抑える。

 愛娘ではない、ただの娘と思えと自己催眠をかけるように。

 そしてひたすらに未来を願う亡者になれ。

 誰かに力を隠していて目指せるほど、愛紗が立つ位置は低くない。

 華琳が目指した覇道を、華琳が歩んでいる覇道を、今でこそ皆で歩んでいる覇道を、ただの枝の先の、時が来れば崩れるだけの世界で終わらせないために。

 

(そうなんだよな。勝てなきゃ否定されて、この外史も他の外史のように壊れて終わる)

 

 “その人の世界”が、“その人”が亡くなった状態からどれほど保つかなんてことは当然知らないが、だからって否定を許せる自分じゃないし、最後に俺だけが残るのだとしても……みんなが大往生できる素晴らしい覇道だったと肯定したい。

 だから勝たなきゃいけない。勝って、役目を終えて……自分の世界に戻ったら、そこで待っているであろう貂蝉に銅鏡をもらって───……

 

(……貰って、どうするんだろうな)

 

 とんでもない願い事をする、と言ってみたものの、正直纏まっていない。

 ただ、何も決まっていないからって否定を許せるとも思えない。

 じゃあ、なにを願うのか。

 苦労して銅鏡を作って、連鎖の終わりを願った彼を、何も知らなかったとはいえ邪魔してしまったらしい俺が……今さらなにを。

 

「……なにって。否定を拒絶するなら、肯定しか出来ないじゃないか」

 

 だから。そう、だから。

 

(せいぜい、とんでもない肯定を願ってやろう)

 

 そう考えたら、本当にとんでもない願い事がポンと頭に浮かんだ。

 たぶん、それは最高の願い事。

 肯定を願うのなら、そうだ。とんでもない肯定をしてやればいい。

 そのためにも勝たなきゃ。

 否定されないためにも、勝たなきゃ。

 

「すぅ…………ふぅ」

 

 胸をノックする。

 途端、体中に激痛が走ったけれど……それを噛み締めて、刻み込んだ。

 この痛みは忘れない。

 目が覚めるような痛みに、親ばかを鎮める躊躇も吹き飛んだ。

 

「……よし。いくか」

 

 キッと前を見て歩き出す。

 数歩進んで……がくりと膝から崩れ落ちた。

 

「いっ……痛っ……いたっ……痛い……!」

 

 氣脈がひどいことになってるのに強めのノックはやりすぎでした。

 む、無理っ……歩くだけでズキズキって震動が……! よもや歩けなくなるほど痛いとはァアッ……!!

 い、いや。これからあの愛紗に勝つための鍛錬の日々が続くんだ。

 骨の一本や二……さ、三? 四かもしれない……ご、五以下だといいなぁ。

 ともかく、いろいろな部位破壊を覚悟しなくては。

 え? 空? 空は飛ぶこと前提ですが?

 やだなぁ、俺が将と戦って、空を飛ばないわけが───落ち着け。

 

「……はっ……はははは、ぷっ……くっくっく……!」

 

 負ける未来しか思い浮かばん。

 でもまあ、じいちゃん相手でもそうなんだから仕方ない。

 せいぜい頑張ってみよう。“愚かなりに素直に”と書いて、愚直に。

 

「まあそれはそれとして、そろそろ手甲が出来てる頃だよな」

 

 後回しでいいって言ったのに、鍛冶職人の皆様がやる気を出してしまった。

 “最高の手甲を作ってやろうぜェエエ! ウオオオオオッ!!”って感じだった。

 止めたよ? 俺。もちろん止めた。

 でもね、熱くなった男ってね、人の話なんて聞かないんだよ。俺も含めて。

 何かに夢中になって熱くなる……熱中って言えば一言なそれの時は特にね。

 熱中している時に話しかけてくる者に対して鬱陶しいと思ってしまうのは、ある意味勝手な話しなわけだが……自分もそうだからあまり強く言えない。

 まあその。集中はいい。ただ、熱中はほどほどに。

 熱くなってるから、昂ぶった感情を相手にぶつけてしまうことが多々ある。

 そういう時に自分をコントロール出来る自分でいよう。

 ようするに、奇跡が起きて子供に話しかけられても、熱くなった心のまま怒鳴ったりしないようにしような、俺。

 ……いや待てよ? 冷たく突き放すことで、失って初めて親への愛に目覚めるなんて奇跡も───

 

「ないな」

 

 妙に冷静に言えるあたり、もはや涙も枯れ果てたわ。

 いい加減受け入れろ、北郷一刀。そして諦めるんだ。

 立場ってものを受け止めて、ただの親としてそこに在ればいい。

 自分が親だなどと公言して回るまでもなく、俺が居たから彼女らが生まれた。

 それでいいじゃないか。

 彼女らにとって、俺の価値はそのあたりだって思えばもう諦めもつくだろう。

 そ、そうだよな。禅だけでも慕ってくれるなら、もうそれでいいじゃないか。

 どっ……どーせ禅だけ俺に甘えても、他の娘は全然甘えてこなかったしー!? 抱っこしたって私もーとか言ったりもしなかったしー!?

 

「……考えれば考えるほど覚悟が決まるのってナツカシー……」

 

 ようはあれだ。いい加減に子離れしなさいってだけの話だろう。

 8年だ。8年一緒に居られりゃ十分だったろ。

 がっ……学校の友達だって、何処に進むかで別れるわけだし、8年一緒ってのは結構長いもんだ。長いもんだから…………

 

「………」

 

 すぅはぁ。息を吸って吐いた。

 目を閉じてそれを何度か繰り返して、やがてゆっくり目を開くと、心は随分と落ち着いていた。

 今さら希望は抱かん。乱暴な口調のままに受け入れちまえ。

 俺はきっと、子供とも付き合い方を間違えちまった。

 隠し事をしたのがまずかったとか、慌しい姿を見せたくなかっただとか、そういうのはなんか違った。よく見たり聞いたりした言葉があっただろう。それに気づけなかっただけなのだ。

 

  “子供は親の背中を見て育つ”

 

 俺には……そんな立派な背中を見せてやることが出来なかったってだけの話だ。

 いや、ほんと……まっこと尊敬。

 お父様お母様、育ててくれてありがとう。いろいろと親不孝でごめん。

 でも言い訳をさせてもらえるなら、俺、もっと子供の頃に二人に遊んで欲しかった。

 

「さぁて、子供たちはどういう反応見せるのかね」

 

 急に鍛錬しだして、仕事しだして、今さらだとか言うのだろうか。

 ……それも面白いかもな。その視線ももう気にしないで頑張ろう。

 今さらどんな目で見られようと、指差されて笑われようと、向かう場所は決まっているのだ。その先に行くためなら、氣脈の痛みだって受け入れて順応していこう。

 そういう意地が生まれてしまった。

 この世界を……否定なんてさせてやるもんかと。

 

……。

 

 結論から言うと、その日の内に建業を発った。

 手にはしっかりと手甲をつけて、結構ずしりとくる重量に引かれて痛む体を庇いつつだ。よたよた歩く姿は実に奇妙に映ったことだろうに、某女官はいつまでも手を振って別れを惜しんでいた。

 ……なんか、いつか枕元に立ってそうで怖い。

 なんてことを考えたらいつかの思春を思い出したわけで。

 思春も落ち着くまではすごかったもんなぁ……軽くストーカー化してたというか。内側に入った人への気安さというか遠慮の無さは異常だったなぁ……。

 娘に俺のことを訊かれても、そっぽ向いてあることないこと言うもんだからすっかり悪者な俺が完成したし……事実も混ざっていたから何も言えなかった俺も悪いか。事実が混ざるような生き方をしている時点で、誤解への細かな否定すら出来ないとは……。

 

「はぁ……」

 

 今日の一人反省会は長い。

 いざ子供を気にせず思い切りと考えると、今まで子供のために割いていた思考回路がいろいろと考えるべきを探しているようで……どうもすっきりしない。

 や、切り替えは叶ったんだ。ただ、考え事をしないで来た道を帰るには、ちと長い。

 

「……集中すれば、余計なことは考えずに済むのは利点って……今は考えていいか」

 

 好かれようと手を伸ばし続けた。だめだった。

 料理で誘おうとした。普通だと鼻で笑われた。

 仕事をしていると言ってみたことだってあった。……白い目で見られた。

 もう十分頑張ったよ俺。避けられてからの数年間がどれだけ辛かったか。

 もういいじゃないか、もう解放してやろう、自分を。

 だから───

 

「集中」

 

 言葉にしてキンッと意識を集中させる。

 当然、強くなるための集中。

 他の一切など気にしないで、ただ只管につよくなるため。

 それでいいだろ? ………………いいよな。

 重要な使命がどーとか、そんなことを言いたいんじゃない。

 守るためだとか、未来を掴みたいとか、大げさに言うんじゃなくてさ。

 もうさ、俺だけの話じゃ無くなってる。それはもちろん最初からで、“もう”だなんて言える立場でもないんだろうけどさ。

 平和にかまけて強くもなく弱くもない場所に居続ける自分なんて捨ててしまおう。

 拾った覚えもないそんな自分だけど、娘のことを考えなければもっと鍛錬できたはずだ。娘と仲良くしようと思わなければ、もっと出来ることもあった。

 ほら。結局はそうなんだ。

 俺は娘たちとの付き合い方を間違えた。

 頑張れば今からでも修正できるんだろうな。それは経験から言って絶対に絶対。

 でも……今はそれでいい。

 強くなろう。他のことを一切忘れる勢いで。

 

「まずはこの痛みに耐えつつ、都に戻ることから始めよう……」

 

 道は長い。のんびり行こう。

 のんびりと……のんびりと………………歩くだけで痛い……!

 でもほんと、早めに出ないと相当遅くなりそうだし、到着がいつもより遅れたら華琳になにを言われるかっ……! なので帰る。帰ると言ったら帰るのだ。

 

「………」

 

 ………………なんだろう。

 こう、青空の下、広い草原を歩いていると、無性に人恋しくなる。

 一人だからかなぁ。

 やっぱりどっか行く時は誰かと一緒がいいな。

 8年前にも華琳に怒られたのに、俺も懲りないなぁ。

 なんて思っていた時だった。

 

「お~い、一刀~っ」

 

 後ろから聞こえる声。

 振り向いてみれば、荷馬車を揺らしてやってくる……行商のおやじ!

 

「よかったよかったまだ居やがったかぁっ! 俺もこれから都に向かうんだがよ、一応なんというかこう、護衛が欲しくてな? なんでも山の途中に虎が巣を作ったとかいう噂があってよぅ。まあ、ねぇとは思うが良かったら護衛代わりを務めちゃくれねぇか? 代わりに乗せてってやるからよっ」

 

 傍から見れば、御遣いを護衛に付かせる無礼者~とかなんだろう。

 しかし今の俺にとっては救いの神だった。

 なんか早速挫けているような気分だが、このまま進むのは辛すぎる。

 なのでお言葉に甘えよう。

 大丈夫、虎の巣の位置も覚えているから、そこを避ければ問題ないだろう。

 なので喜んで乗せてもらうことにした。むしろこっちから頼みたい。

 

「ははっ、随分とまあふらふらじゃねぇかよぉ一刀。ま~た無茶なことでもしたんだろ」

「うう、返す言葉もない……」

「だっはっはっは! まぁよ、おめぇはそれくらいな方がおもしれぇやなぁ! 支柱になろうが親になろうが一刀は一刀だ! ……俺達の、大事な変わり者の子供だよ」

「……おやじ」

 

 なんだか、じんときた。

 照れるとかじゃなく、素直に感謝が浮かぶ。

 荷馬車に乗りつつありがとうを言うと、おやじこそが照れて慌て出したりしたが、なんか……それが“家族”みたいに思えてくすぐったかった。

 傷つけ合うようなきっかけがあって、親父と呼んで一刀と呼ぶ関係が出来た。

 そんなおかしな関係の俺達だけど、悪い気がしないうちはいつまでもこうして笑えたらって思う。呉は、なんだか暖かい。もちろん他の国もだけど、魏では隊長さんと呼ばれ、蜀では先生と呼ばれたり……将のみんながご主人様と呼ぶからか、御遣い様と呼ばれたりだ。

 でも呉は違う。変わらず一刀と呼んで、息子に接するみたいに気安いし……俺も、そんな気分のまま気楽に居られた。

 ……やっぱり、親ってすごいなぁ。子供に安心を与えられる親は特に。

 俺はそこまで出来なかったなぁ。

 やろうと思えばまだまだ頑張れるだろうけど、それをして……果たして愛紗の強さに辿り着けるのか。それが不安で……自分でも“ああ、これは逃げなのかな”と思ってしまうあたり、まだまだ自分は弱いんだなって思う。

 

(大人になったつもりでも支柱になっても親になっても、人は急には強くなれないんだなぁ)

 

 そんな当たり前のことを、当たり前として受け止めていられなかった。

 人は順応出来る生き物だけど、順応には時間がかかる。

 俺みたいな若造がわかった気でいるのと実際にわかるのとでは、十数年どころか数十年は必要なんだろう。もしくは、受け止め方も知らないままに死んでゆくのだ。

 ……そんなのは嫌だと思う。知る努力をしたのなら、たとえ今際の際だろうと知ろうとしたことを知ってから逝きたい。そんな願いさえ簡単に砕いてくれるのが“この世”ってことも、まあ知っているわけだけど。

 

「難しい顔してやがんなぁ。もっと笑っていけって。空元気も元気のうち、だろ?」

「……ん。そだね」

 

 ゆったりと進む荷馬車の上、おやじの隣で、青い空を見上げながら苦笑した。

 

 ……なにかのきっかけでめっちゃくちゃ強くなれる。

 そんな状況に憧れなかったわけじゃない。

 漫画、小説、アニメ。見ていて“俺だったらこうして”とか“なんでこうしないんだか”とか溜め息を吐くことだってあり、自分が強くなった瞬間っていうのを想像する。

 

  “鍛錬? 必要ねぇよ、だって俺ならすぐ強くなれるし”

 

 そう思う人もきっと居るんだろうなぁとか思う。

 思ったとして、それは本当に叶うのだろうか。

 叶ったとして、鍛錬もしていない力を心から信頼して、思いのままに操れるのだろうか。

 俺だったら無理だ。

 試してもいない力を無遠慮に行使するのは怖いと思う。

 力があったとしても、鍛錬してきちんと“自分の力だ”と受け入れてからじゃなくちゃ行使を躊躇するだろう。

 “俺だったらこうして”も、“なんでこうしないんだか”も、その鍛錬の様を見られている主人公は俺達と同じ思考回路を持っていないのだから、当然通用するわけがない。

 俺じゃない誰かなら……今の俺を客観的に見ることが出来る誰かなら、もっといい方法を選べたのだろうか。子供とも仲良く、鍛錬も満足に。

 

「……前提の問題か」

 

 隠すことなどしなけりゃよかった。結局話は最初に戻るわけだ。

 今から全てを曝け出して変わった何かを見て、果たして最果てを思って焦っている自分がやさしく受け止められるのかどうか。

 最初から正解の全てを引いて、誰も彼もが笑っていられる状況───そんな願望に、今からでも辿り着けるのかどうか。

 

「………」

 

 今があるからいいと受け入れて、気が緩んで、最果てで否定に敗北して後悔することになったらと思うと……そんなものは頷けそうもなかった。

 




マウスが壊れましたが、同じものを買って事なきを得る。
ワイヤレスの光学マウスなんですけど、同じものを買ってもセンサーは別だったりするんですね。
USBに前のマウスの受信側のものをつけていたんですけど、きっちりと今回購入したものじゃなくちゃ反応しませんでした。
いやいや丁寧。

 ▲ページの一番上に飛ぶ