真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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122:IF2/今を謳うもの①

174/騒がしきは日常が如く

 

 -_-/黄柄

 

 蒼空の下、今私が思っていることを心の中で唱えたいと思う。

 父は馬鹿なのか? ……馬鹿だな、うん馬鹿だ。ただし、いい意味で。

 

「さて」

 

 父が帰ってきて、紙袋を被ってから結構経った。

 何故か急に鍛錬を始めた父(仮)だが……父でいいんだよな? 見慣れない服を着ているから確信は持てないが、きっと父だ。身長も身体のつくりも……た、多分父だ。くそ、いつものようにあの白くて青くてつやつやしている服を着ていればいいものを。

 なんといったか……ふらんちぇすか? 制服がどうとか言っていたあれだ。

 ともあれ鍛錬に励む父……“校務仮面だ”と自己紹介をされたが、父に違いない(と勝手に思っている、むしろそうだと私が嬉しい)存在が鍛錬をする姿を追った。

 ここ最近、禅がそんな私を不満そうなというか、不思議なものを見る目で見てくるんだが……これはあれか、私の判断力を疑っているのか。

 

「禅はだめだなぁ」

「黄柄姉さまに言われたくないよ!?」

 

 たわけ、お前の中で私はどれほどのたわけだ。

 だがこれでいいに決まっているだろう。

 考えてもみるのだ。あの孫登姉が。あの登姉がだぞ? 素直ではない、甘えたがりなくせに父を蹴ってしまう登姉が、憧れの存在を見る目で、変装しているとはいえ父を見上げ、追っているんだぞ?

 ここで“あれは父だ”などと言ってみろ、全てが台無しじゃないか。そんなのはいけない。

 だから私は知らない振りをする。周邵だってとっくに氣の在り方で気づいている。

 このまま憧れが進み、校務仮面という存在に慣れたところで、そっと教えてやればいい。

 今はだめだ、きっと父を蹴る登姉に戻るだけだ。

 述も登姉に(なら)うところがあるから、蹴るってところに戻るだけに違いない。

 難しいな。もっと素直になればいいものを、まったく。

 

「ところで禅、延姉はどうした?」

「寝てるよー? 一応昨日の夜は起きてきて、一緒に鍛錬したんだけど」

「その時、あの袋は?」

「袋!? とっ……こ、校務仮面さんって呼んであげようよ……」

 

 ふむ。やっぱり禅は正体がわかっているか。ととさまって言いそうになっていた。

 だというのに何故あの二人はわからんのだ……。

 

「で、その校務仮面はどうしていたんだ?」

「しっ…………ね、眠ってたと思うよ?」

「ふむ」

 

 鍛錬はしていなかったと。

 し? しっ……仕事か? それとも“し”は子桓とか子高に繋がるのか?

 そういえばいつ頃からだったか、てっぺん姉がおかしいな。

 私たちに鍛錬をするところを見せたがらなかったのに、今では紙袋と一緒に走っている。

 まあ、いい。

 てっぺん姉にどんな心境の変化があったのかとかはどうでもいい。

 家族なのだ、出来る限り一緒に、同じことをしたいと思う。

 ……私だけだろうか、こんなことを考えているのは。

 延姉は絶対にこんなことは思わんだろうなぁ。

 禅には甘いが、それ以外には……なんというか普通だ。

 琮は言うまでもない。勉強以外に興味がないからな、あいつは。

 

「おーい、邵~」

「へふっ!? はーい!」

 

 てっぺん姉とともに紙袋を追っていた邵を呼ぶ。

 すぐにぱたぱたと城壁の上から下りてきて、息を弾ませながらも笑顔で「なんでしょうっ」と元気元気だ。元気ひとつじゃ足りやしない。

 

「いや、ふと気になったんだがな。ほら、あれだ。鍛錬に付き合うのはいいんだ。ああ、それはいい」

「? はい?」

「問題はあの紙袋と同じことをして、私達の実力が伸びるかどうかだ。ああほれ、あの男、体術と木剣しか使わんだろう。弓矢もたまには使うが、他の武器となるとなぁ」

「私は投擲武器と短刀ですが」

「そうだな、私は父が言うところの大剣だ」

「………」

「………」

『禅は?』

「へぅっ!? え、えと、ぜ───わ、私は……」

 

 む? 違和感を捕まえた。

 

「なんだなんだ、もう自分を禅って呼ぶのはやめるのか?」

「大人ぶりたい子の第一歩ですねっ!」

「ち、違うよっ? ぜ……私は前からそのー……! べつに最近かかさまが失敗ばっかりしてるから、ぜ……私がしっかりしなきゃとかそういうのじゃなくて……!」

「ああ……劉備母さまか……」

「劉備母さまは……ええその……」

「そこで急に微妙な顔して目を逸らさないでよぅ!」

 

 劉備母さまはなぁ……ほら、その、なあ……。

 いや、とても大らかでいい人だ。あんな人はそうそう居ないだろう。

 ただ、ここぞという時に失敗の道を歩んでしまう、こう……言えはしないが、“残念さ”はなんとかならないものか。禅も張り切ると失敗するから、似た者親子というものなのだろうが……ううむ。

 

「まあ、うむ。話を戻そうか」

「……柄姉さまだって、子龍さまの口調を真似ているだけのくせに」

「ぐっ……! い、いや、これはだな……!」

「あのー……ところで私、鍛錬に戻ってもいいのでしょうか……」

 

 禅の言葉が胸に突き刺さる中で、邵が軽く手を上げて言ってくる。

 ……お前ら私のこと嫌いか? 確かに自分のこと棚に上げていたかもしれないが。

 ええい、嫌な気分など身体を動かして忘れてしまえ!

 

「話はあとだ! 鍛錬をしよう! 誰が一番ついていけるか勝負だ!」

「えぇっ!? 私さっきまで走っていたのに、それはずるいですっ!」

「そうだよっ! ずるいよっ!」

「ずるっ……!? べ、べつに勝負に勝ったらなにをする、とかそういうのじゃないんだぞ!? それにだな、そんな、過ぎたことを何度も言うものでは……」

「過ぎたことどころか、今まさに走らなくてはいけないのですが」

「…………すまん」

 

 珍しくじとりと睨んできた邵に、素直に謝った。

 そうだな。勝ったら何が貰えるとかそんなものを抜きにしても、負けるのは嫌だな。

 なので「勝負なんて無しで鍛錬頑張るかー」と言ってみれば、「それはそれで張り合いがないです」と邵。……このたわけの頬を引っ張ってやりたいんだが、いいだろうか。

 ともあれ鍛錬だ。

 城壁を飽きることなく走っている父(仮)を追って、ひたすらに走った。

 昨日は筋肉を使ったから、今日は氣だ。

 筋肉を使うのは三日に一度。あとの二日はとことん氣で(おぎな)って、また筋肉。

 完全に休めたいなら四日に一度がいいらしい。が、私達は他の者より回復が早いとかで、二日でも問題ないそうだ。と、禅が言っていた。誰から聞いたんだと訊いてみても、目を泳がして言おうとしない。なるほど、父か。

 ふむぅう、いいな、父。信じて待っていた甲斐があったぞ、やるな父!

 これであの紙袋の下が父の顔ではなかったら、私は叫ぶぞ。絶望を腹の底から叫ぶぞ。

 

(ようやく父が期待していたような父だったかもと思えているんだ……! これであれが父ではなかったら、もう母に私を産ませた存在なんて異常者だろう)

 

 母は機嫌のいい時など、ほぼ父の話を私にしてくる。

 強さ云々のことは見事にはぐらかしてくるが、あの時の北郷はああだったとか、あの時の北郷は実に笑わせてくれてのおとか。これで父がどんな存在かを知りたがらないのは、どうかしているだろう。

 酒を飲まない代わりに話を聞けとばかりに、随分とされた。

 そのくせ、父を見つければいろいろと無茶を押し付ける。

 いっそ父に、私と二人きりの時の母のことを教えてやりたいくらいだ。

 ……まあ、そんなそぶりを見せると、物凄い笑顔で母に見つめられ、何も言えなくなるわけだが。母は強いな、父よ。だからこそ私は、あの母に私を産ませたあなたを心底尊敬する。

 ただ子が欲しかったから、ではあんなにも娘にのろけたりなどしないだろう。

 あれこそがきっと、男に惚れた女の顔というものに違いない。

 ……なのに、呼び方が北郷なのは何故なのだろうな。父も“さん”をつけて呼んでいる。

 一度、陸遜殿に訊ねてみたら、“それは初々しさを忘れないためですよぅ? 穏も旦那様とは呼んでますけど、二人きりの時は未だに一刀さんと呼んでますからねぇ~”と嬉しそうに言っていた。

 それを言われた時の私の心境はといえば……“わかったから、いくら私の背が低いからって、前屈みになって言うのはやめてくれ。その二つの肉の塊は嫌味か”……だった。

 まあいい。今は鍛錬だ。

 

「なぁ邵。さっきの武器の話なのだがな」

「? なんですか?」

 

 走り出した私は、同じく隣を走った邵へと言葉を投げる。

 なんというか、邵は身軽な動きをするなぁなどと、どうでもいいことを考えながら。

 

「なんか、どうでもよくなった。今使っているものがどうであれ、その内に今より慣れるものもあるだろうな、と」

「はいっ、私は指から氣の雨を出してみたいですっ」

 

 ポムッと胸の前で手を合わせての言葉。走りながらだとやりづらくないのだろうか。

 

「氣の雨? ……面白いことを言うなぁ邵は」

「いえいえっ、出そうと思えば出来ないことはないのですっ、現にほらっ!」

「うん?」

 

 促された先には、さらに先を走っていたはずのてっぺん姉と紙袋。

 はずの、というのも既に立ち止まっていて、

 

「む? 紙袋がどうかしたか? べつにおかしな───出してるーっ!!」

 

 言葉の途中で驚愕!

 なんと、紙袋が空に手を掲げ、そこから線のように細い氣弾を指からいくつも出しているではないか!

 お、おおおお! なんだあれは! なんだあれ! すごいな!

 氣、氣か! 氣を指から出せばいいんだな!?

 氣……氣ぃいい………………はーっ!!

 

「………」

「………」

 

 邵と二人して集中してやってみた。

 ……出なかった。

 

 

 

-_-/かずピー

 

 ……おかしい。

 なんでだ、どうしてだ、どういう理由があって、子供達がどんどん増えていく?

 俺、ただ鍛錬してるだけだよな? やっぱり鍛錬なのか? 遊ぼう、と声をかける父よりも、鍛錬していて強い父がよかったのか?

 

「………」

 

 ホロリと涙が出た。が、いつものことなので気にしない。

 ……泣くのが日常化してきてる、少し頑張ろう。

 

「はぁ」

 

 溜め息ひとつ、意識を引き締めて鍛錬続行。

 準備運動と呼んでいるそれらをじっくりとこなし、それが終わったら……

 

「ふっ!」

 

 どごぉんっ、と重苦しい音が中庭に響いた。

 視線を向けた矢先にそれだ、どうやら待っていてくれたらしい。

 

「準備運動は済んだのか、お館様」

「鍛錬の時は北郷か一刀で頼むって、焔耶」

「桃香さまや桔梗さまの手前、そんなことが出来るか」

「敬語使わない時点でもういろいろとアレだろ」

 

 むしろ手前もなにも、ここに二人は居ないわけで。

 ……ぐったりした子供たちなら居るけど。

 

「むしろ子供達も居るから、お館様も勘弁してほしいくらいだ」

「いや……そうは言うが」

「何度言わせるんだよ……友達の間で遠慮無しっ!」

「それを言うなら星はどうなんだ。あいつはいっつも主って呼んでるだろうっ!」

「や、や……。だからな? どっちかがやめてくれれば、仕方もなしって譲ってくれるかもだろ?」

「ワタシが先にそれをするのは癪だから断る」

 

 断られてしまった。

 普通に考えて、星と焔耶、どっちが先にとかはなさそうなので俺が諦めるしかなさそうかなぁ。なんてことをいつも考えている。

 

「じゃあ……それは置いておくとして……すぅ、はぁ……んっ、お願いします」

「ああ。鍛錬だろうと、戦うからには手加減はしないぞ」

 

 ドズンと置いてあった鈍砕骨をごぼりと持ち上げて、軽々と振るう焔耶さん。

 ……これ、見るたびに“帰りたい”って思うんだよなぁ……だって当たれば軽く骨とか砕かれそうだし。なんて名前の通りの武器なんだ。レプリカでも意味ないだろ、これ。

 

「……人の武器を見るたびに、泣きそうな顔になるの、なんとかならないのか?」

「見えるの!?」

 

 馬鹿な! 校務仮面に覆われた俺の表情が、まさか……!? なんて的外れなことを考えていたら、「雰囲気だけでわかる」とあっさり言われた。……ああ、まあ……そうだよね……。

 明らかに視線だけじゃなくて頭ごと、鈍砕骨をチラチラ見てるし。

 強くなると決めたからって、都合よく恐怖が消えてくれるわけもない。ていうか怖い。

 想像してみましょう。上手く立ち回り、“これは……いける!”と確信したところで、桂花が作った草と草を繋ぐトラップに足をとられて、バランスを崩したところに上から振り下ろされた鈍砕骨が…………もう、モゴシャッ、とか鳴って頭どころか身体も潰れるだろ、この鉄塊。勝利の確信が“これは……逝ける!”に変換されたよ。

 

「───」

「───」

 

 耳で確認する合図なんてものはない。

 ただ、お互いが構えを完了させて、鋭い目つきで睨み合ったらそれが合図。

 地面をトンと軽く蹴り弾くと、お互いの武器が衝突していた。

 

「っ……おぉおおおおおっ!!」

「はああああっ!!」

 

 振るわれた鈍砕骨を左手の手甲で受け止めて、化勁で衝撃を逃がす。けれど武器自体の重さによる圧力は消せないから、その重さは方向を逸らすことで耐える。

 同時に右手で突き出した木刀は、焔耶の手甲で弾かれる。

 武器と手甲。

 焔耶を鍛錬相手に選んだ理由は、実はこれだったりした。

 手甲なら凪でよかったんだろうけど、実際に振り回す武器と手甲。その条件に合う人を探していたら、そこに焔耶が来たと。そういうこと。

 これでせめて、武器がもっと大人しいものだったらなぁぁぁあ……! と、どうしても考えてしまうのは自分が弱い証拠だろうか。……弱くてもいいから、アレでマッシュは勘弁だ。

 そういう意味で言うなら、明命でもよかったんだけど……あの篭手は、攻撃を受け止めるには特化していない気がして。むしろ篭手使わなくても全ての攻撃を避けられそうなイメージがある。だから焔耶。素早いイメージよりも、“我は砕を極めし者。目の前に在る者全て、潰さずにおれん!”って感じだから。武器がアレじゃなければ、戦い方の相性はいいと思うんだ、本当に。

 

「おぉあぁっ!!」

「っ! しぃっ!」

 

 振り被られ、振り下ろされた鈍砕骨を左手で受け止めて、威力を化勁で足に流す。

 流した威力を震脚の要領でズシンと地面に逃がして、その反動を利用して加速を開始。

 振るわれた右手の木刀が速度を増して焔耶を襲うが、焔耶はそのまま鈍砕骨を振り切って木刀を弾いてみせた。

 

「まずは一回、だな」

「───」

 

 一回。焔耶が言った言葉には意味がある。

 俺が相手の攻撃を受け止めて散らすのには、制限がある。

 もちろん氣が尽きるまで可能だけど、その回数は既に焔耶相手ではわかり切ってしまっている。対象の衝撃に合わせた氣が毎度削られていくのだから、数えられてしまえば終わりなのだ。

 ……けど。

 それが二回三回と続き、今まで限界であった回数を超えると、焔耶の表情に明らかな動揺が浮かんだ。“どういうことだ”とばかりに。それはそのまま言葉に出て、その動揺を突いての一撃は───焦りながらも弾かれてしまった。……って、ええぇっ!? あたっ……当たるって確信してたのに! なんでこういう時でも完全に油断してくださらないんですかあなた方は!

 人がどれだけ苦労してあなた方の隙を探して突いているとお思いで!? なのにようやく突けてもあっさり弾くとかあんまりじゃないですか!?

 

「うっ……うぉおおおおおおおっ!!」

 

 もはや隙を突く術を無くしたこの北郷! 枯渇を待つは男に非ず!

 自分の氣が枯渇する前に全力で挑んでくれるわぁああーっ!!

 

 

  ドゴゴシャベキゴキぎゃあああああああぁぁぁ……!!

 

 

 ……はい。ボコボコにされました。


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