真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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122:IF2/今を謳うもの②

 のちに、“やめろー! 芸能人は歯が命ー!”とばかりに顔面への攻撃(というか校務仮面)だけは意地でも避けた俺が、中庭に転がっていた。

 8年前はいろいろ言い合って喧嘩もして、それから知り合い、友達、親友みたいな立ち位置で随分と仕合ってきた不思議な関係。時には勝ったりすることもあって、燥いだものだけど……今では勝てなくなっていた。

 何故って、俺の戦い方は付き合いが長ければ長いだけ、覚えられてしまえば弱いからだ。

 鋭く速く攻撃が出来るものの、いわゆる大砲的な武器が“相手の攻撃を吸収、上乗せして返すカウンター”くらいしかなかった。予備動作として左手で吸収、右手か木刀で返すのだから、相手にしてみればテレフォンパンチのようなものだ。

 それが悔しくて氣の鍛錬を重ね、ようやく岩を砕けるまでにはなった俺。

 でもさ、考えてもみよう。

 それってさ、ええと。

 俺、ようやく“この世界の女性の強さの常識”に辿り着けたってくらいなんだよな。

 常識的に岩を破壊できる女性に囲まれての日々……その事実を改めて知った時、俺は呉の城壁の上でずぅっと沈む夕陽を見送ってました。泣いてはいない、本当だ。ただ、“青春のばかー! 愛してるー!”とキレデレを炸裂させて、女官に見られて、赤面しながら部屋に戻った。

 

(青春の所為じゃないさ……いっつもなんでもかんでも青春の所為にする人ばっかなら、たまには愛してるって叫んでもいいじゃないかって思っただけだったのに……)

 

 それよりも今の話だ。

 結局負けてしまった俺は、どうしたもんかなぁと悩んだ。

 これでは愛紗に勝つどころじゃない。

 むしろ愛紗……星もだけど、いや、はっきり言えば五虎将はなんというか人の動きを読むのが上手いから、どれだけ頑張ってもすぐに先を突かれてしまう。

 勝った側、焔耶はといえば、鈍砕骨をどすんと降ろして俺に手を差し伸べてくれて……素直にその手を取って、立ち上がる俺。

 

「こうされると、なんというか……負けたんだなぁって実感がすごいな」

「なんだ、起こさないほうがよかったか?」

「いや、ありがと」

 

 起き上がって、軽く背中などを叩く。

 こんな何気ない動作でも、紙袋を被った男がやると異様に見えるんだろうなぁ。

 まあ、それはそれとして。

 

「じゃ、もう一度頼む」

「…………へ?」

 

 手甲を胸の前でゴィインとぶつけて構えた。

 ふぅうう、氣が高まる……溢れるゥウウ……!!

 と、妙な言い回しは抜くにして、錬氣する箇所が増えると、枯渇からの復活も早くて助かる。基本、眠れば戻るRPGのMPのような氣だが、ようは身体が休まれば回復するし、絶対に寝なければ回復しないわけでもない。

 日が経つにつれ、開いた孔が氣脈に馴染んでいくにつれ、回復速度も上がったのだ。

 ……使用する量と全く合わないから、大体が戦っている最中に尽きるのだが。

 ひどいオチだ。

 

「も、もういいのか? 前までは結構休んでから……」

「ん、大丈夫」

 

 言って、錬氣、集中。

 俺が本気だと知るや焔耶も鈍砕骨を拾って、構えてからひと呼吸。

 キッと睨んだ瞬間には地面を蹴って、もう一度ぶつかり合っていた。

 戦い方は、防戦から攻戦へ。振るわれる金棒相手に左手を突き出し、懲りずに吸収かとニヤリと笑う焔耶を前に、広げていた五本指をきつく握ってそのまま殴る!

 

「なっ!? くぅわっ!?」

 

 拳に氣を乗せて、攻撃と防御───岩を砕く一撃のイメージと化勁のイメージを同時に行使して、相手の攻撃の威力を氣を使って無理矢理相手側へ拡散。

 普通なら多方向に散らして衝撃を減らすそれを、相手側へ一点集中。もちろん相手もこちらへ向けて振るっているのだから、そんなに都合よく相手側のみに散るわけがない。それを氣の使い分けで強引に押し込んで、押し込んだ瞬間に拳を引く。

 これは肩で引くのではなく氣を行使しての一瞬で。削岩機で岩を穿つように、重く、けれど素早く、相手側に衝撃全部が残るように、殴った拳の接触時間は極端に減らす。

 殴り抜けたほうが威力が高い印象はあるだろうが、生憎こちらの攻撃力の全部は氣によるものだ。対象に触れて(とう)した氣は、殴り抜けようがどうしようが、そこに俺の拳の威力がプラスされるだけだ。だったらその中間を取って素早く離す。

 衝撃を無理矢理押し込んだお陰で、こちらには痺れも怯みも無い状態からの踏み込み&右正拳。焔耶はすぐに身を退かせてそれを避けて、拳を突き出した状態の俺へと鈍砕骨を横薙ぎに振るう。

 

「ふっ!」

 

 それを、下から上へかち上げるようにアッパー。上というか、向かう方向斜め上へ。

 同時に自分も屈むものの、逸らされた金棒をくぐるようにすると、電車が目の前を通って言ったような風がゴヒャウと紙袋を掠めていった。

 

(ヂョッていった! 紙袋ヂョッていった!)

 

 などと、自分をツブすかもしれない寒気に身体が硬直するのを根性で抑えて攻撃。

 これを手甲で弾かれ、振り上げるかたちになった金棒を右手一本で振り下ろして……ってだからどれだけ腕力があるんだあなた方はァァァァッ!!

 

「とっ、ぉおおっ!?」

 

 今度は逆。

 振り下ろされるそれに氣をくっつけるように左手を添えて、自分から見て斜め左に逸らしてやる。ここまでくるといい加減、集中力しすぎで息も荒れてくるのだが、歯を……食い縛らずに、あくまで脱力でさらに集中。どんな行動にも反応できるように、身体は脱力、脱力……!!

 ああでも今回は攻撃型でいくんだった! 逸らしてどうする!

 おぉおお臆病になるな! ままま真っ直ぐに、相手を倒すことだけ考えてヒィイッ!? 無理無理無理怖い怖いってこれ! 踏み出した途端、左の手甲が突き出された! 逸らした反動で首が傾かなきゃ当たってた! あの状況で拳突き出してくるって、鈍砕骨を逸らしたときの反動とかって右手で支えきれるもんですか!? 払い逸らす時に加速も使ったから、右手にかなり負担がかかったと思うのですが!?

 

「んっ……のっ……!」

 

 もはや意地。こうなりゃ意地。

 敵の攻撃全てに自分の攻撃を合わせるように、加速や化勁などの氣を使い分けて挑み続けた。

 合わせる度に飛び散る汗と氣は相変わらず綺麗だ。

 衝撃は、逃がすか装填するかで攻撃パターンを変えて、焔耶が衝撃を予想して構えれば化勁で逃がして、そのまま突っ込んでくれば上乗せして返して。とにかく集中力を全力で使い続けるひとつの化物にでもなった気で戦い続けた。

 

「っ……おぉおおっ!」

 

 一撃。

 轟音とともに怯ませて。

 

「せいぃいっ!」

 

 一撃。

 己の行動の隙を削るために振るわれた拳を殴り返して。

 

「だあっ!!」

 

 一撃。

 金棒が戻される前に、戻そうとする腕を打ち、怯ませ。

 

「───効かんっ!」

 

 一撃。

 腹にめり込んだ蹴りの衝撃を化勁で逃がして、そのまま疾駆。

 

「これでっ───」

 

 ……一撃。

 片足のまま押される形になり、バランスを崩した焔耶へと、加速を行使した拳を……!

 

「決まりだぁああああっ!!」

 

 一気に放つ!

 

「!! く、あっ───」

 

 焔耶が身を捻ろうとするが、こちらの方が速い。

 直後、地面にも自分らの耳にも響き渡るような、寺の鐘でも鳴らしたかのような轟音が響いて───倒れるように身を捻った焔耶の横を、鈍砕骨が飛んでいった。

 

「───へっ!?」

 

 殴った。……のだが。当たった……のだが、どうやらタイミング悪く、金棒を振るおうとしたところへの腕への衝撃で金棒を落としてしまったらしい彼女。そして焔耶ではなくそれを殴ってしまったらしい俺は、吹き飛んでどごしゃーんと木に直撃する鈍砕骨を見送った。

 その飛び方……まるでドリアン海王に蹴られたドラム缶のよう……! じゃなくて!

 

「っ……はぁあああっ!!」

「うわやばっ!」

 

 吹き飛んだ鈍砕骨に気をとられた数瞬の間、体勢を立て直した焔耶が反撃に移る。

 鈍砕骨は飛ばした……来るのは右拳!

 浮いていた左足を地面に“だんっ”と叩きつけ、それを助走に走らせる拳は大迫力だった。普段からあんな重いものを握っているだけあって、ええもうほんと大砲でもぶっ放されるって迫力でした。

 けど。

 

(よく見て……! 手を添えて……───!!)

 

 焔耶の右手に加速で間に合わせた左手を添えて、焔耶の腕の中に氣で干渉。

 癒しの時のように氣の波長を合わせて、向かう方向を変えてから───!

 

「逸らすっ!」

「うわぁっ!? え、あ、な……っ!?」

 

 勝手に氣の巡りを変えられ、腕を逸らされた焔耶の表情には明らかな戸惑いが生まれる。

 当然その隙を逃せる筈もなく、というかこんな隙じゃなければ突けない俺は、かなり必死で集中を行使。散々と練習した氣の鍛錬をなぞるように身体を動かして、再び右拳を繰り出し───アレーッ!?

 

「おっ……あ……!?」

 

 繰り出した右拳が、焔耶の左手甲に弾かれた。

 次いでやってくるのは、逸らされた分を反動としてやってくる、焔耶さんの右拳なわけで。

 咄嗟に集中し直して、左手で……と思ったが、ここで額から落ちた汗が視界を奪う。

 焦りが集中を乱す。ほんの一滴が焦りとなって、ほんの少しだけ集中力を乱した。

 それでも身体を動かせないわけじゃなかったから、咄嗟に閉じてしまった瞳では見えないものを、氣で探るようにして───あ、あれ? 氣が見え───へぶぅ!?

 ……頬に、“ぱぐしゃあっ……!”と、衝撃。

 どしゃあと倒れ、見上げた都の空は、やっぱり蒼かった。

 

……。

 

 倒れたまま汗を拭……おうとして、校務仮面を被りっぱなしであることを思い出した。

 氣で包んでいたから吹き飛びはしなかったものの、汗と殴られた衝撃で結構ズタズタだ。

 思えば校務仮面をつけてると、タオルで顔を拭うことすらできん。

 今さらだなぁとは思うものの、無視してやってきたので呆れる他無い。

 実戦を想定してやるのなら、そりゃあ汗を拭う機会なんてないのだから、これはこれでとは思うけど。などと細かいことを思いつつ、負けた相手にひょいと顔を覗かれるのも、悔しいことに慣れっこだ。言われる言葉も“大丈夫か?”が大半。

 今回も例に漏れず───

 

「大丈夫か?」

 

 ……言われた。苦笑しつつ下半身を起こすと、反動をつけて起き上がる。

 

「よしっ、続きだっ!」

「もうか!?」

 

 シュバッと立ち上がって再び篭手をごつーん。

 ホアアア……! 氣が高まる……溢れるゥウウ……!!

 うん、まあその、氣の回復力が本当に速い。

 枯渇しても“7回くらいならいけるんじゃないか”とか思えてしまうくらい速い。

 それも、孔が氣脈に馴染めば馴染むほど、回復力向上の予感がするのだ……!

 

(……俺がこうやって予感を感じたり予想したりすると、大体外れるよね)

 

 考えないでおこう。

 そして再戦……の前に、一度厨房に行って校務仮面を新調。

 さくさくと包丁で穴を空けて、墨で校務の文字を書く……完成!

 誰か見ていないかを素早く確認後、スチャーンと流れるような速さで着脱。

 中庭に戻れば早速鍛錬……と思ったら、なんだか人が集まっていた。

 

「お兄ちゃん! 次は鈴々とやるのだー!」

 

 服装はそのままなのに、背はすらりと伸びた鈴々さんが蛇矛をぶんぶん振っておった。

 大人になっても口調が変わらないそのままのあなたが素敵です。

 

「いや、次は私の番だな」

 

 そんな鈴々の前にズイと出てくるのは華雄さん。

 髪が伸びて、随分と印象が変わった。なんで伸ばしたんだーとか訊いたら、“女の髪というのは、男を思い始めたら伸ばし、破れたら切ると聞いた”と。……誰から聞いたんだろう。

 しかも“死ぬまで切るつもりはないがな”、なんて言われた日には顔真っ赤。

 こういう時、真正面から気持ちをぶつけてくる人って怖いよね。

 髪はそのまま縛ったりもせずにストレート……どんな原理かは知らんが、横に広がってはいるが。あー、ほら、その、あれです。マンガとかゲームのキャラみたいに、何故か横に広がっている長い髪、みたいに。ウ、ウィングヘアー?

 

「……一刀。ちょっと付き合って」

「雪蓮? ってうおっ!? どうしたんだよその格好!」

 

 横からのたのたとやってきた雪蓮だったが、何故かところどころ服が傷ついていた。

 目も半眼で、なんだか悔しそう。

 冥琳にでもボコられたのかと思ったが、さすがにここまで出来るとは思えず……「ん」と促されるままに見てみれば、今気づいたが華雄も結構傷ついていた。

 ……えぇと、つまり?

 

「……負けた? いだぁあーっだだだだあがぁああーっ!!」

 

 脇腹を強引に抓られた。

 ていうかね! やめて!? 今一刀って呼んだだろ!

 今の俺は校務仮面であっていだぁあーだだだだだ!!

 

「わかったわかった! 何に付き合えばいいんだっ!? すぐ言ってくれ!」

「鍛錬。……ねぇ一刀? 私、別に熱はないわよ? ていうか額に手を当てるの、早過ぎない?」

「雪蓮……キミは今悪い夢を見てるんだ。大体私は校務仮面であって一刀とかいうナイスガイではないぞ?」

「へえ、そうなんだ。じゃあ真名を預けた覚えもないのに口にしてくれた校務仮面さんは、斬首しちゃっていいってことね?」

「カッ……カズトデェス……」

「えー? なにー? 聞こえなーい♪」

「おぉおおおおこのポヤポヤ元王はぁあああああっ!! ああもういい表出ろコノヤロー!!」

「え? なになにっ? 付き合ってくれるのっ?」

 

 ああ付き合ってやるとも! 校務仮面の正体は絶対に秘密!

 さっきちょっと屈しそうになったけど、相手があくまで聞こえないっていうならセーフ!

 そしてこの校務仮面! 逃げも隠れもせぬ!

 正々堂々ブチノメしてくれるわぁあああーっ!!

 


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