真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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123:IF2/バレているのに正体というのか否か④

 自分のやり方は間違っていると気づいた時、それまでの行動を思い返すと恥ずかしいと感じること、ありますよね。

 現在、軽い休憩も終わって冥琳も星もべつの場所へと歩いていったところ。

 この北郷こと校務仮面は、娘らと接するタイミングを計っておった。

 しかしこう、いざ構いましょうとすると、進めなくなるわけで。

 そんなことが出来たのなら、今までも苦労はしなかったわけで。

 じゃあどうするのさとなると、やはりこうして悩むわけで。

 

「………」

 

 …………もう、いいんじゃないかな。

 俺……もう、いいよね?

 頑張ったよね、俺……。

 娘達のもとへと向かおうとする足がビタァと地面に根付いた。

 そうして思い返してみれば、娘達が懐いているのは北郷一刀ではなく校務仮面で。

 そう考えると結局なんにも変わってないんじゃ!? と悲しみが溢れてくる始末。

 だったら正体を明かして、力強い父の姿を見せ付けてやればいいのでは? とも思ったのだが……変身ヒーローは正体を明かしたらいけないのです。子供の夢、壊す、ヨクナイ。

 なのでやることは変わらない。

 ただ校務仮面として、お子めらに夢と希望を与える存在となりましょう。

 ああでも正体がバレた時、下手すると“よくも騙してくれたな”みたいな状況に……あ、あれ? 何故そんな状況を、“それも面白そうかも”なんて思っている自分がいるのでしょうか。

 冗談半分でなら、相当に面白そうなんだが……うーん。

 

「うん」

 

 まあ、いい。

 ともかく俺は、どちらの道も選ぶことにした。

 みんなとの時間を大切にしつつ、鍛錬もする。

 最果てが何年後かなんてわかるわけがない現在を、精一杯に生きるのだ。

 なにかしらで後悔をすることが前提で生きる道には、きっと華琳が……じゃないな。三国の王が望むような未来は存在しそうにないから。

 

「いくか」

 

 うだうだ考えている暇があるなら、少しでも時間を作ろう。

 鍛錬の時間と、みんなと一緒の時間。

 8年かけて多少強くなれたなら、これからの時間をそうして過ごしていけばいい。

 大丈夫。8年だって出来たんだ、伸びが悪ければ鍛錬の密度を上げればいい。

 

「よ、よよよよしっ!」

 

 ザムシャアと子供たちの傍へと立ち、いざこの校務仮面とともに───ややっ!?

 なにやら袖を引かれる感触……誰? と振り向いてみると、目をきらっきら輝かせて俺を見つめる……───三国無双様。

 

(あ、あれっ……おかしいなっ……あれっ……あれっ……!!)

 

 ぐにゃああああと視界が歪む。

 なんだか前にもこんなことなかったっけとか思いながら、ともかく歪む。

 俺を見つめる恋は例の如く方天画戟を持ってらっしゃって、びしりと固まった俺の袖をくいくいと引っ張ってなにかを促している……!

 ええ、なにかもなにも……

 

「わあ」

 

 ちらりと見れば、やっぱり倒れ伏して動かない将のみなさま。

 さっき見た時はまだ動ける人も居たのに、今度ばっかりは皆様ぐったり。超ぐったり。

 それを確認すると、一層にクイィっと引かれる道着の袖。

 

「───」

 

 脳裏で孟徳さんがハンケチーフを振っていた。

 なんか言って!? いつもみたいになにか言ってよ!

 などと脳内漫才をしている間も期待を込めた目で見られるこの北郷。もとい校務仮面。

 

(神様……)

 

 俺はあと何回遠い目をすれば、強くなれるのでしょうか。

 そうは考えても、きっとこの娘も自分が吹き飛ばされるくらいの衝撃に憧れているだけなんだろうなぁ、なんて思ってしまうと断る理由は消えてしまって。

 軽く苦笑を漏らしながら頭を撫でると、もうきっと犬だったら尻尾を千切れんばかりに振ってますって顔で頬擦りしてきた。なんといえばいいのか、ええと……耳を伏せて首を伸ばしてくるアレだ。あんな感じ。

 そうして、子供たちとの時間をと臨んだはずの一時はしかし、三国無双さんのやり場の無い全力を受け止める機会に変わってしまったわけで。

 しかし俺自身、増した氣の全てを使えば、吸収しきれたりしないだろうかとわくわくしている部分もあって……そうなれば木刀を握る手にも力が入る。

 対峙する中で何度胸をノックしたかは数えるのも面倒、というか数える余裕がありませんでした。

 だが、もはや逃げられぬわ。

 試せるものは全て試す。全力の全力で挑み、負けることを前提にはしない。

 その先に立てなければ、愛紗に届こうなどと夢のまた夢!

 意識を鋭くしろ、目を瞑るな、逸らすな。木刀という名の相棒を手に、いざ勝負!

 

「いくぞ! 恋!」

「……!」

 

 声をかけると物凄い速さで頷かれまくった。

 俺との戦いの何がそんなに嬉しいのか、まるでご褒美を待つお犬様のような期待の目と、それとは裏腹な地を這うような疾駆。

 一気に詰められた間合いに息を飲む───ことはせず、待ってましたとばかりに突進に合わせてのフルスウィング。恋はそれを縦に構えた戟で受け止めて、疾駆の勢いのままに俺の体勢を崩しにかかる。丁度鍔迫り合いに似た格好になった。

 腕にかかる衝撃はとっくに化勁で逃がしており、恋の体重くらいは支えられるようになった俺にとっては、残った重みなどは可愛いものだった。意味はちょっと違うけど、将である存在を受け止められるのってなんか嬉しい。

 とまあ、そんなことを考えつつも体では行動。

 散らした衝撃を、“氣を体外放出⇒吸収⇒溜める”といった行動の応用で自分の氣と一緒に溜めて、それを鍔迫り合いの体ごと押し込む行動に上乗せしてぶつける。

 普通なら押し勝てない俺だが、これを以って強引に押し退けるや氣を充実。

 木刀に装填させた全身の氣が金色に輝き、途端に恋がそれはもう瞳を輝かせて方天画戟を───両手持ちで構えなすった! うわぁ思い切りで来るつもりだ! 打ち負ければ氣や木刀ごと北郷一刀って存在が消し飛びそう!

 コマンドどうする!?

 

1:男ならやってやれだ!(7回分の氣を全力解放で受け止めて装填)

 

2:真正面からぶっ潰す!(7回分の氣を全力解放でそのまま攻撃)

 

3:無難に躱してから攻撃(拗ねた恋にネチネチ潰される覚悟がありますか?)

 

4:一歩進んで抱き締める(愛に勝る強さなどあるものかとオリバ風に)

 

5:輝く瞳にステキな毒霧(ヒールレスラーのようにブシィッと)

 

 結論:……1!

 

 2でそのまま攻撃に移ったとして、それって愛紗以上ですか? ……想像つかない! 受け止められて終わりな気がする!

 なので1! 受け止めてッ! 全力で返すッッ!

 あと5! 毒霧なんて仕込んでないよ俺!

 

「っ……───!!!」

 

 来る。渾身。

 風を巻き込む音と、振るう者の迫力が、自分が肉塊になるイメージを容易くさせてくれる。

 そうなる恐怖を簡単に抱かさせてくれる相手はしかし、困ったことに“俺だからそうする”という妙な信頼の下に武器を振るう。

 それを受け止めずに逃げ出した日には、彼女は落ち込んでしまうだろう。というか、信頼を裏切られたと感じて離れていってしまうかもしれない。いやいやむしろ俺を傷つけるところだったとか自覚してしまって、目も当てられないくらい落ち込むんじゃ……!

 いろいろな思いが一瞬で頭をよぎって、よくここまで集中出来るなーなんて考えた途端、

 

(……あれ? これってもしかしなくても走馬灯?)

 

 人はその一瞬、今までの人生を振り返るとイイマス。

 ……あれ!? 俺死ぬ!? 本気でやばい!?

 

「おっ……おぉおおおおおおおおおっ!?」

 

 全力解放!

 7回分の全力を体外放出させたのち、左手に集中装填!

 普通に考えれば受け止め切れない氣の量に、左手の氣脈がミチミチと嫌な音を立てたけどハッキリ言おう! 死ぬよりマシだ! 覚悟は決めたんだから、全力で受け止めて全力で返す!

 走馬灯の集中力が持続している内にそれらを完了させると、直後に袈裟の一撃。

 “触れれば砕かれる”を具現化したような恐怖の塊に手を伸ばして、恐怖ではなく信頼を抱き締めるつもりで受け止める!!

 

「───」

 

 戟が手甲付きの左手に触れる。

 力強い氣が込められている所為か、赤に染まっているようなそれを手甲に覆われた掌で。

 一番最初に感じたのは破壊のイメージ。次に、ズシンと体中に響く重さ。氣で受け止めた所為か一気に全身にかかったそれを吸収、ミシミシと骨や筋が軋む音を聞きながら実行し続けて、ミキリと嫌な音がした時点で───7回分でも足りませんか!? という結論に到った。

 衝撃を吸収させるために働かせた金色の氣の全てが赤に染まる───そんな光景をすぐ目の前で見た。

 感じたのは恐怖か? それとも……

 

「いがっ……つぁあああああああああっ!!」

 

 以前のように腕が折れる前に、衝撃を木刀に装填。

 氣で吸収したお陰か、人を潰すほどの威力も無くなったらしい一撃を手甲でなんとか逸らし、彼女の口が“え”と軽く開いたところへ───振り抜けるっ!!

 

「!!」

 

 ろくに氣の残っていない左手で逸らしたからだろう。

 軽く押し退けられた程度の距離をあっという間に戻した恋は、振るわれた真っ赤な一撃を方天画戟で受け止めて…………以前のように、吹き飛んだ。

 

「…………~っ……ぶはっ……!! はっ……はぁあっ……!!」

 

 吹き飛んだって言葉がこうも似合う状況って、あまり無い。

 この世界でならそりゃあ、将に頼めばいくらでも飛べるんだろうけど……。

 

「いっ……つぅう……! ……うあっ、手甲が歪んでる……!」

 

 さて。

 恋が吹き飛んで、本当に吹き飛んで、中庭側の城壁の壁に激突したのを確認しつつ、歩く。

 漫画みたいな表現だが、本当に吹き飛んでいく人を見る、というのはこれでかなり怖いものだ。俺も随分と飛んだものだけど、あれの表現はどちらかというと……“浮かされた”って感じだろう。

 自分の全力と俺の全力を合わせたそれを受け止めた恋は、それはもう見事に吹き飛んだ。

 大砲で人を飛ばしたらあんな感じでしょうか、なんて在り得ない比喩表現を出したい気分だ。

 

「………」

 

 なんとか彼女の一撃に届けた、己の氣の総力を振るってみての感想をひとつ。

 “受け止めるだけ”なら上手くいきました。それでも足りなくて、強引に逸らしましたが。

 そうなってみて見えてくるものはといえば、彼女はいつでも全力を振るえます。何度でも。対する俺、それを受け止めて全力で返しただけで、目が回る思いです。たった一回だけで。

 

(…………俺って……)

 

 遠い目リターンズ。

 やっぱり俺って弱いなぁあ……いろいろな場所で兵のみんなが励ましてくれたけど、これじゃあまだまだすぎて慰めてくれたみんなに申し訳ない……。

 強くならねば……! みんなの期待に応えられるくらい、強く……!

 たった一度を受け止めただけでコレな俺なのだ……次の目標は、せめて全てを受け止めきれる俺になること……!

 

「はぁ……───はぁ……っ……はぁああああ……!」

 

 息も荒く、しかし歩く。

 吹き飛んでいった恋を追って、なんとか。

 疲労感が強すぎて、気を抜くとそのまま倒れる自分が容易に想像できた。

 

「………」

「………」

 

 果たして、恋はそこに居た。

 壁の下、落下した地点にそのままちょこんと座るように。

 どうして立たないのかと思っていると、受け止めた際に砕けてしまったらしい方天画戟のレプリカをそっと持ち上げて見せてくれた。

 

「………」

「………」

 

 俺を見上げる瞳は、なにやら期待に満ちている。

 自分の中で結論は出ているのだろうに、俺にそれを期待している目だった。

 なので、そっと持ち上げた木刀で、彼女の頭をこつんと叩いた。

 で、合言葉のように言うのだ。

 

「はい、俺の勝ち」

「……!!」

 

 それだけで、彼女は喜びに満たされたようだった。

 ババッと立ち上がるのと同時に俺に飛び付いてきて、首に両腕を回すと頬擦り。……当然校務仮面な俺だから、頬擦りでも紙袋がゴソモシャと鳴るだけだったが、その感触が気に食わなかったのか、なんと彼女は校務仮面を脱がしにかかった!

 

「いかん! 校務仮面の正体は絶対に秘密……おぉおわっ!?」

 

 片腕を首に回され、片腕で紙袋を奪われようとする。圧し掛かられる結果となって、飛びつかれた勢いもあって……当然氣も体力もあの一撃にかけてしまった俺は、そんな軽い衝撃にさえ耐え切れずに転倒。押し倒されるカタチになった先で、頬部分まで紙袋を持ち上げられた状態で頬擦りされたり顔を舐められたりって……やっぱりマーキング!? これってマーキングなのか恋さん!!

 もちろんこんな状況に、静観してらっしゃった皆様が勢いよく立ち上がり、恋と戦った疲労と急な起立に立ち眩みを起こす者続出。しかしながら根性で集まる皆様に拍手を贈りたい。俺の体、もう動きそうにないけど。

 

「こ、こらっ、恋っ! 公嗣さま……というか子供が見ている場で、なんてことを……!」

「にゃははははっ、愛紗顔が真っ赤なのだー!」

「わたっ……私の顔の赤さは今は関係ない!」

「兄ぃ、美以も舐めるのにゃー!」

「やめて!? それよりなんとかしてほしいんですが!?」

 

 正直腕力じゃ勝てません!

 正体を明かさないためにも両手で紙袋を守っているのに、彼女の片腕にすら勝てない北郷です! あ、あぁああ! 紙袋が、紙袋が取られてしまう! 助けてぇええ!!


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