少しののち。
あまりに引っ張られたために一部が破れてしまった校務仮面を被りつつ、顔だけはやはり隠したこの北郷は……
「………」
「大体! ご主人様は無茶が過ぎます! 恋を相手に真正面からなど!」
……美髪を揺らす雲長さまに、ガミガミと怒られておりました。
え? 姿勢? ……言わなくてもわかるでしょう?
ただその横に恋が居て、しがみついたまま離れません。
しがみつく箇所は腕だったり腰だったり首だったりと、場所を選ばぬ引っ付きっぷりです。
何故ですかと唱えてみれば、返事は特になく……ただ顔を赤らめて俯いて、くっついてくるだけでございます。
さて問題です。
子供たちの前で、親以外のおなごとくっついている状況を見られるのって、どんな気分だと思いますか? ええ、僕は今とっても気まずいです。これで実は校務仮面がきみ達のパパだったんだぞーとか暴露が始まったら、なんかもういっそ死んだほうがいいんじゃないかなって思えそう。
だから愛紗さん。お願いですから“ご主人様”って言うのやめてください。
「デ、デモネ? 僕ニモ目標ガアッテ」
「ほほう、目標、ですか」
ていうかさ。いつから俺ってこんなに愛紗に弱くなったんだろう。
初めて蜀に行った時はもっとこう……ねぇ? そりゃあ嫌われていたけど、仲直りしてからはここまでじゃあなかった気がするんだけどなぁ。
それがいつの間にかずるずると来て……大体が桃香関連で巻き込まれて、とばっちりを受けていたらいつの間にかって、そんな感じ?
(…………俺、悪くないんじゃないかなぁ! とばっちりで怒られ癖がつくなんて初めてだよ!)
ところで話は変わりますが、子供たちの俺を見る目が、英雄に向けるソレっぽくて怖いです。結果として呂奉先を倒した、という事実に目を輝かせているのでしょう。
……実際に戦ってみた自分にしてみれば、恋のこれは真剣勝負とは違うと思う。
負けたくないのであれば、馬鹿正直に袈裟の一撃だけを仕掛ける意味もない。
前も思ったことだけど、アレだ。強すぎると、自分の常識を吹き飛ばすような存在が恋しくなるっていう、漫画や小説内の強者が思うようなアレ。恋もきっとそれで、偶然とはいえ一度は負かせてみせた俺に、そういう理想を抱いている……と思われる。勝手な想像だけどさ。
そうじゃなければ一撃を躱されれば終わりな俺の一撃を、わざわざ受け止める理由もないのだろう。…………もっとも、全部を受け止めた上で押し切ってこそ勝利、と彼女が考えているのであれば、これは間違いようのない勝利と言えるのだけど。
なまじ強く在る人だと、躱すことさえ敗北って考えがあるからなぁ、この世界。
「と、とりあえず、さ。愛紗さん」
「なんですか」
じろりと睨まれると、思わずヒィとか言いそうになるのは変わらない。
目にこれだけの圧力をかけられるとか、異常でしかないでしょうに。
しかし北郷負けません。今まで様々な人に睨まれ、対峙してきたこの北郷……もはやこの程度の眼力には屈さぬのです。
「ん……ご主人様、震えてる」
「汗ね!? 汗が冷えてサムイナー!」
前略おじいさま。恋にツッコまれたりもしたけど、僕は元気です。
「それで、なんだけど。紙袋を交換することを許可してもらいたいなーと」
「だめです」
「なんで!?」
えっ……いや……! なんで!? ほんとなんで!?
いいじゃないか紙袋くらい! これがないと校務仮面が校務仮面じゃなくなってしまう! そしてそんな大事なものなくせに“紙袋くらい”とか言ってすいませんでした!
さあこの北郷は猛っておるぞ! 我を止められるものなら止めてみせい!
「なんでもなにも、紙袋がありません」
「ごめんなさいでした」
物凄い説得力だった。これ以上ないってくらい。
思えば鍛錬のたびに汗まみれにして台無しにして、仕合があればボロボロになってと、無駄に使いまくっていた。そりゃ無くなるわ。
ならばと懐からお金を取り出し、これで紙袋が貰えるほどの桃を───と言おうとした途端、愛紗さんに「無駄遣いは許しません」と睨まれた。……にょろーんな気分だった。
「いい機会でしょう。いい加減、素顔で子供たちと接してください」
「そうは言うけどさぁ愛紗ぁ……」
「情けない声を出さないでください。大体何を恐れる必要があるのです。胸を張れこそすれ、ご主人様がしていることは立派すぎるほどです。その上、武も上達してきたというのに何故嫌えましょう」
「いや、よく考えてほしい。ほら愛紗」
あっちあっちと子供たちが座っている大きな樹の下を指差す。
そこではこちらを見守っているお子めら。
愛紗はそんな子供たちを見て、「……? なにか?」と首を傾げている。
「いいか愛紗。子供たちはな、俺じゃなくて校務仮面を英雄視しているだけなんだ。今さら俺が正体を明かしたところで、もう結局“よくも騙したァァァァ!!”ってなるだけだろ」
「そういうものはやってみてから諦めてください。確かに少々親の心を知ろうとしない子も居たようですが、そもそもの問題として、ご主人様がご自分のなさっていることを隠していたことが問題だったわけでしょう」
「や、だけどさ」
「だというのに子供に嫌われただのぐうたら言われるだのと、そもそもご主人様は───」
(助けてえぇえええええっ!!)
説教再来。
正座をして、愛紗の説教の波が治まるのを待つしかなさそうだった。
そりゃわかるよ!? 俺が馬鹿だったってほんとに思う! でもそれもうわかりきっていることで、改めて言われると泣きたくなるわけでして!
……ああいや、違うよな。本当にわかっていて、変える切っ掛けを待っているくらいなら……いっそ自分からやってしまえばいいのだ。
子供の行動を待つ親じゃなく、子を迎えにいける親を……俺は目指したはずだろう? 一度挫けてしまったけれど、目指した親の像は……そんなものの筈だった。
だって、俺は……道場の仕事よりも自分に構ってくれる親を、一人で野球の球を持ちながら待っていたのだから。
「~……よしっ!」
もう一度胸をノック。
立ち上がり、一緒に立ち上がることになった恋の頭をぽむぽむと撫でて、「話はまだ終わっていません」と言う愛紗にお礼を伝え、いざ……!
休むことで普通に回復した氣を行使して、座っている子供たちの前へと走って、深呼吸。
急に目の前に来た謎の紙袋男に、ビクリと肩を震わせる子に、今こそ……!
「少女たちよ。今から伝えることを、しっかりと聞いてほしい」
「おお父よ! ついに正体を明かす気になったか!」
「───」
深呼吸して落ち着かせた心が裸足で逃げていった。
口の端から吐血した気分で、言われた言葉を噛み締める。
“おお父よ!”……父よ、父よ!? あれぇバレてる!?
「え、ちょっ……柄姉さんっ!?」
「ん、んおっ? どうした邵………………あ」
『………』
どうやら間違えて言ってしまったらしい黄柄が、周邵にツッコまれてハッとする。
他の娘はといえば、孫登が呆然、甘述が目を瞬かせていて、陸延が「あら~」なんて頬に手をあてて笑っていて、呂琮が「わかってないですね、この人はお手伝いさんなのに」なんて呟いていた。や、だからお手伝いさんって誰?
で……曹丕は。
「……、……? ……!」
「……!」
しばらくは俺の顔をポ~っと見ていたんだが、やがて俺に見られていることに気がつくと、思い切りって言葉がぴったりなくらいの速度でそっぽを向いた。
やっ……やっぱり嫌われてるなぁああ……!!
「え? え!? 黄柄姉さま、ととさまのこと気づいてたの!?」
「だから言っただろう、禅はだめだなぁって。私は最初からわかっていたぞ。もちろん邵も」
「は、はい。氣がそのまま父さまでしたし」
「気づかなかったのは登姉と述くらいじゃないか? 延姉と琮はどうなのか知らんが」
「いえいえ~、延は知ってましたよぅ? どう見ても父さまが紙袋被っただけですしねぇ~」
「みんな間違っていますよ。この方はお手伝いさんです。偉大なる父は死にました」
「死んでないよ!? え!? 俺いつ死んだの!?」
『………!!』
「あ」
死んだことにされた事実を目の前で言われて、ついツッコんだら……登と述が真実に辿り着いてしまった。俺は…………観念して、ちらりと一度だけ丕を見つめたのち、ボロボロの紙袋を取……ろうとしたら、手を掴まれた。
何事かと見てみれば、俺の手を掴んで止めている……丕の姿がそこにあった。
あまりに長かったので細かく分割。
④と⑤は一緒でもよかったかなぁと思いつつも、もっと細かくてもいいとツッコミが届いたので。
自分が思う一万文字の量と、誰かが思う一万字の量は、どうにも違いがあるっぽいです。
関係ないけど、頭の中が少しでも休憩し始めると、ほぼ、何故か、誰かが、頭の中で龍虎乱舞してます。
主にタクマが。次にロバートが。リョウは何故かない。
なんで龍虎乱舞なんだろう。あ、ちなみにKOF仕様です。
94とか、行動と音が合ってなかったりしましたよね。それでもあっちのほうが好きでしたけど。
リョウやロバートの前進しながらの乱舞ってあまり好きじゃないんですよね。やっぱりその場で、しっかり無言で、攻撃に集中してますって感じのゴペテテテテって乱舞が好きです。
さらに関係ないけど、ウマ娘にハマってます。最初はアイドル馬スター……とかクスクスしているだけだったのに、夢中になって見てました。
最近はアニメを見る際はエアロバイクを漕いでいたりしますので、一時間とかあっという間です。キーボードを置ける台とかがくっついていれば、小説編集とかも出来たんですけどね……買うならそれにすればよかったかもです。
や、でもいい運動になります。
雨の日でも運動できるのがいいです。今までは雨の日は「オゥマイガァ(おかしすぎるわよ)」と諦めるしかありませんでしたから。
さてさて、ゴールデンヌウィークですが、こちらに休日は一日しかありません。
週休二日? 大型連休? ああ、あの都市伝説の。あるわけないじゃないですかそんな奇跡アッハハハハハ!!
……仕事いってきまーす。