真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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128:IF2/彼が自分を認めたら、きっと彼自身が紹介される②

=_=/さらにその後

 

 さて、お父さんが倒れてから幾日の朝。

 そう。真っ先に看病をすると言い出した大人の皆様と、丕姉さんと登姉さんやらが出入り禁止を受けて幾日。

 丕姉さんと登姉さんは、会うたび会うたびに“父さまは!?”とか“窓を破壊してでも侵入して看病を……!”とか恐ろしいことを言っています。

 さすがに笑い話にもならなくなりそうなので、そこは各お母さん方に雷を落としてもらい、静まってもらいました。

 けれど、こうして看病するようになってからわかったことが幾つか。

 お父さんは、皆様が居ないと物凄く油断します。

 こう、容姿に見合った……というのでしょうかねぇ。

 ひどく子供っぽい言動を口にすることがあって、ハッと気づくと顔を赤くしています。

 

「お父さんは病気になると子供っぽいですねぇ」

「そうか? 父としてはこう……常に凛々しい自分を目指しているというか」

「前言を撤回します。常に子供っぽいです」

「そうなの!?」

 

 驚いた顔で「おぉおお……そんな……!」とか言ってます。

 寝台で上半身だけ起こして、自分の両手を見下ろして唸る父の姿……凛々しくはないですよねぇ。

 

「なんと言えばいいんでしょうかねぇ~……大人のみなさんに囲まれている時は、自然体なのにどこか意識を尖らせていると言えばいいのでしょうか。それが、私ひとりの時だと、たまに……本当にたまにですけど~……こう、緩む時があるといえばいいのでしょうか……ねぇ?」

「いや俺に訊かれても」

 

 でも、なんでしょう。

 私はいつものお父さんを見ていたこともあって、そんな弱さにほっとします。

 立派であろうと、だらしなかろうと、父は父だと思っていました。

 それが、実は中間であったと知ったらどうすればいいのか。

 だらしがないというよりは、“あと一歩が足りない”人。

 立派というよりは、やっぱり“あと一歩が足りない”人。

 だからか、見ているとほうっておけない、どうにかしてあげたくなっちゃうのです。

 それこそ、“だから”なんでしょうかねぇ、お父さんの周りにあんなにも女性が居るのは。いえ、もちろん男性にも親しくされていますけど。

 足りている、満ちている人には“手伝う人”は必要ない。

 足りないからこそ補う人が必要で、けれど相手が持っていないものを満たそうともしない人に手を貸す人は少ない。

 ……その点で言ってしまえば~……みなさんから見たお父さんは満点に近いのでしょうね。頼る前に努力をしますし、失敗しても自分の所為にしかしようとしませんし、むしろ他人の失敗を自ら被ろうとして怒られるくらいですし。“自分の行動は自分の所為に”と決めているのに、何故他人の失敗は被ろうとするんでしょうね。理屈が合いません。

 

「あー、えと。なんだ。子供っぽいってことは、なにかわがままとか言っても許されたり……するのか?」

「はいぃ、もちろんですよぅ?」

「そ、そうなのかっ! じゃあ───」

「仕事と鍛錬以外ならと、お母さんに釘を刺されていますけどねぇ?」

「………」

 

 楽しみにしていたものを台無しにされた子供のような顔をされました。

 

「じゃあ料理!」

「侍女さんの仕事を奪ってはいけませんよぅ? そんなことを言い出したら、孟徳お母さんに報告するようにと言われていますから~」

「ひどい! なんてひどい! あ、じゃ、じゃあっ……散歩! 外の空気を吸いにっ!」

 

 無言で部屋の出入り口と窓を開けると、朝の空気がふわりと流れてきました。

 

「美味しいですか?」

「五つ星ですドチクショウ……」

 

 意味のわからないことを泣きながら言われました。

 

「なぁ延……? なんで俺、療養してまで娘にからかわれてるんだろうな……」

「娘にからかわれるのは、良い家族の証明だと公覆お母さんが」

「祭さんいったいなに教えてるの……。自分がからかわれたら拳骨するくせに」

「えぇ~、その言葉を聞いて、早速からかった柄ちゃんが拳で泣かされていましたねぇ~」

「うわぁーぃ大人げねぇーっ!!」

 

 からかい方の問題とも思えましたけど、確かにそうですね。

 「おわっと、口調口調……!」となんだか慌てているお父さんをよそに、延も苦笑をもらさずにはいられません。

 

「……ところで延。みんなが……あ~……将のみんなが事情があって来れないというか、来させてもらえないのはわかってるけどさ。穏はどうなんだ? 穏は別に人の看病で騒いだりしないし、病人が気絶するような食事も作らないだろ」

「仕事だそうですよぅ? お父さんが動けない状態は、みなさんに大分迷惑をかけているようですからぁ。まあ、それ以前に仕事の量自体がそんなに無いらしいですけど、だからってなにもしないわけにはいかないので」

「笑顔でひどいなこの娘」

「誰に対しても平等でありたい延ですから。お父さんとて容赦しません」

 

 ふふんっ、と胸を張ってみれば、「そうやって得意顔をすると失敗するのがお前のお母さんだから、あまりそれはしないほうがいいぞ」と言われてしまいました。

 ……延はまたひとつ賢くなれたようです。複雑ですが。

 

「まあ、そうあってくれるのは安心できるよ。あ、別にこれから悪いことをするからとかじゃなくてさ。……なんか、周りの期待とか……“俺がやらなきゃいけないこと”に対する妙な使命感とか、そういうのに押し潰されそうでさ。厳しくもなく優しくもなく、そういう中間が欲しかったんだ。華琳は……いろいろ距離を取ったり縮めたりしてくれるけど、やっぱ基本がSだからなぁ」

「えす?」

「いやなんでもない忘れてくれ。ていうか娘になに弱音吐いてますか俺……」

 

 そしてまた、たはぁ……と溜め息を吐いて頭を抱えるお父さん。

 ……どうしてこう打たれ弱いのでしょうねぇ。自分の言葉にまで打たれ弱くては、いろいろと苦労すると…………してますねぇ、主に対人的な意味で。

 

「はぁ。もっとしっかりしないとなぁ。あ……ごめんな、延。なんか俺、ここ最近は弱音吐いてばっかりだな」

「そういうのはお母さんに話してあげたほうが喜ぶと思いますよぅ?」

「呉側のみんなに笑顔で言いふらされそうだからやめとく」

「……お母さんは、あれで結構口が滑りやすいですからねぇ」

 

 にっこり笑って、小さな丸眼鏡をくいっと直す。

 べつにそこまで目は悪くありません。気づけばいつの間にかかけられていたものです。透明の板が埋め込まれたもので、“だてめがね”と言うらしい。

 ……悪くないですよね? 比較する人が居ないのでなんとも言えませんし。

 

「………」

「………」

 

 考え事をしていたら、ふと会話が途切れました。

 べつに無理をして話すこともないのですけど、お父さんが少しそわそわとしています。

 ちらちらとこちらを見たり、何かを言おうとしてやめたりと、挙動が……。

 

「お父さん? 言いたいことはちゃんと言いましょうねー」

「うぐ。……いや、言いたいことというか。……そういうのが思い浮かばないから困惑しているというか」

「…………お父さんは、恐ろしいほどに正直ですね」

「感情をごまかすのをやめにした時期があったんだ。時期っていうか、まあ訊けることは訊いて、言えることは言おうって意味で、今もそれは続けてるつもりだ。たとえばこう、なにかを呟かれて、“なんか言ったかー”とか訊くとさ、ほら」

「あー……なるほどぉ。大抵の人って誤魔化しちゃいますよねぇ」

「うん。だから、そういう時には多少強引にでも訊くことにしてる。逆に、訊ねられた時にはきっぱりと───! ……き……きっぱり……あれ? ……きっぱり答える前に、あーだこーだと詰め寄られて……無理矢理吐かされてるなぁ……」

 

 そしてまた頭を抱えるお父さん。

 頑張って誠実であろうとしているのに、周りがその意識より先に動いてしまうようです。

 こういう時、周囲のほぼ全員が自分よりも上というのは……男の人にとっては辛いことなのでしょうかねぇ……。

 

「………」

 

 考え事をしながら、そんなお父さんを見る。

 あれこれとこれからのことや今までのことを考えているのか、覚えのあることを呟いては「あぁ、でもなぁ」とか「いや、これは絶対に華琳に……」とか、時に気になることを唸りとともに搾り出して、最後に溜め息。

 ここ数日のお父さんは、本当にこんな感じです。

 

「あ、なぁ延。俺っていつ復帰していいかとか、華佗から聞いてないか?」

 

 顔を上げたお父さんと目が合う。

 少し情けないような、不安がいっぱいの顔。

 こんな顔で心配ごとを訊かれるのは何回目でしょうね。

 この間までは妙に距離を取ったりしていたのに、不思議です。

 

「あと三日は休むようにと言ってましたよぅ?」

「三日!? え、あ、え……!? 俺そんなに弱ってたのか!? むしろなにかの病気!?」

「いいえぇ? お父さんが倒れたことで、各国の皆さんが“自分が力にならなくては”~って張り切りすぎて、現在仕事がないそうなんです」

「な、なんだってーっ!?」

 

 驚愕。

 急に叫ばれたので延も驚いてしまって、けれどその反応にハッとしたお父さんが慌てて謝ってきます。

 うぅん、べつに驚いてしまっただけなので、そんなに謝らなくてもいいんですけどねぇ。

 

「仕事がないって……! ただでさえ各国の若い人たちじゃ手に余る仕事を回してもらってるのに、みんなが本気出したらそりゃ仕事も無くなるよ……! むしろ“それでは次代の者たちのためにならないわ”って言ってたのに……華琳、きみってやつはいったいなにをやってるのさ……。あれ? でも穏は俺の分の仕事で忙しくて……あれ?」

「仕事が無くても、なにもしないわけにもいきませんからねぇ」

「あー……なるほど。仕事を探す仕事をしているみたいなもんか」

 

 たは~……と溜め息。

 この数日、お父さんは本当によく溜め息を吐く人だということを知りました。

 けれどそれは皆さんを案じてのことばかりで、自分の事柄で吐く時は自分の力不足に向けての溜め息ばかりです。

 自分のためと言いつつも、人の心配ばかりをしているんだなぁということがよくわかりました。

 そんなお父さんは、もう自分自身で元気だと理解しているようで、けれど看病に来ている私を気遣ってか、おそるおそるお願いをしてきます。

 それはとても簡単なもので、水差しを取ってほしいとか、着替えを取ってほしいとかそんなところです。着替えた衣服を手に部屋を出ようとすると、「いやっ、いいからっ! 父さん自分で洗うから!」と言ってきます。

 「いえ、延が洗うわけではありませんよぅ?」と言ってみると、顔を真っ赤にして「え、あ、そ……そうなのか、そっか」と俯いて頬を掻く。

 

「………」

 

 なんというか、お父さんは……。

 やっぱり、お父さんは……。

 

 

 

-_-/一刀くん

 

 なんのかんのと三日経った。

 部屋の中に缶詰状態で息苦しい……とは、まあ延が居た手前言えないものの、厠と風呂以外は本当に缶詰だったから、思うだけならタダってことで許してほしい。

 ともあれ約束の三日後、ようやく俺は外に出ることが出来た。朝っぱらから部屋の前で、ぐうっと伸びをして“部屋の外の空気”を堪能するわけです。や、もちろん大して変わりはしないんだけど……大事なのは部屋の外に出れたという事実なわけで。

 

「ん」

 

 歩き出す。歩む音は二つ。……気にしない。

 思えば体力も早々に回復したんだから、回復した時点で散歩くらいいいだろうに。

 延がしきりに“寝てないとだめですよぅ?”とか“無断で出たら、孟徳お母さんに言いつけちゃいますからね~”とか言い出すもんだから…………イ、イヤ、別に華琳さんが怖かったとか、ソンナンジャナイヨ?

 

「………」

 

 うん。

 まあ、うん。

 それはいいんだ。

 延は本当に普通に接してくれたし、多分俺も、南蛮に行った時以来の長期休暇みたいなのが取れたってことで、ようやく手とかも完全に痛くなくなったし。

 やっぱり氣ってすごいなぁ。

 痛みを緩和できるってだけで、本当にありがたい。

 うん、それはいい。

 

「………」

 

 看病中、延は普通だった筈……なんだけどなぁ。

 なんでかしきりに俺を見て、“お父さんは、延が居ないとだめですねぇ”なんてこぼすことが何回かあって。

 いや、本当に普通だったんだ。普通だった筈……なんだけど。

 な、なんて言うんだろうか。

 以前、天で見た人生相談ドラマみたいなやつ? を、思い出してしまったわけで。

 だらしのない夫、しっかり者だけど自ら不幸の道を歩んでしまう妻、みたいなアレだ。

 そう、延は……普通だった筈なんだけど、なんというかこう……なぁ?

 頼みごとを言ったら、その……なんでも了承するんだよな。

 その度ににこーって笑って、「しょうがないですねぇ」とか「すぐにやりますからー」とか。……あれ? なんか俺、だらしない夫役? なんてことをふと思ってしまって、これはいけないと娘の認識を改めてもらうためにと立ち上がった。立ち上がったら……

 

  “お父さんは延に看病されるのがお嫌なんですねぇ!?”

 

 って言われた。

 もちろん“違いますよ!?”と即答したらじゃあ寝ていてくださいと……そんなループ。

 傷つけるつもりは全然無いから、嫌々じゃないなら……って任せていた。

 延は普通にこなしていたから。

 


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