真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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133:IF2/形を求める人々①

186/成長した先でどうなるのかは、きっと本人も知らないしわからない

 

 今さら言うが、怖いものは怖い。

 この場合の“今さら”は、何度も言っているから今さらなのと、怖くて当然なのだから今さらなのとが混ざっている。

 場所は中庭。目の前には華雄。

 黒の空の下、見張り台の松明を灯りに、俺と彼女は武器を手に対峙していた。

 というのも華雄が食後の腹ごなしに鍛錬をしていたので、それにつき合わせてもらっているだけ……なのだが。

 軽く動かすつもりの体を全力で動かさなければならないハメになり、戸惑いつつも───

 

「くぅあっ───ここっ!」

「むぅっ! また弾くか!」

 

 おかげで、手甲での受け流し(パリィ)の練習は随分と捗っている……って言っていいのだろうか。

 デカイ斧だからこそ軌道がわかり易いと大半の人は言うだろうが、この時代のお方の腕力で言えば、あまり他の武器と速度が変わらない気がするのです。

 しかもデカいだけあって真上からの振り下ろしの威力の高いこと高いこと。

 パリィと言えば聞こえはいいが、腕で払うだけなのではなく、腕で逸らしながら体を逃がしているような状態だ。

 つまり斧怖い。

 

(は、はっ……はぁっ……! いくら氣を流しやすくなったからって、怖いもんは怖いって! レプリカだからってあんなもんまともにくらったらどうなることか……!)

 

 切れ味云々以前に潰れます。普通に鈍器じゃないか。

 “デカくて速くて強いこと。これだけ揃えば負けはない”とは誰のセリフだったか。

 いや、覚えてるけどさ。

 

「ならばこうだ!」

「───!」

 

 逸らし、その勢いに俺の氣を加えて弾いた先。

 華雄はその反動を利用して大きく振りかぶり、それこそ俺の胴体を両断せんばかりの勢いで金剛爆斧を横凪ぎにしてきた───ってこらぁああっ! ほんとに死んじゃうだろぉおおおってキャァァアアーッ!?

 

(しゅしゅしゅしゅしゅ集中!)

 

 まずすぐに体を傾けて、振るわれる斧に自分の氣をくっつける。

 常時力に変換している氣へと自分の氣を混ぜ合わせて、力の向く方向を上へと逸らしながら、なんとか加速で追いつかせた手甲を添えて───上へと弾く!!

 

「ひぃいっ!?」

 

 一息のうちにやった行動の直後、傾け中だった身体の先、逃がし遅れた髪の毛をヂョリっと掠め、金剛爆斧が見事に逸れた。

 俺はといえばその迫力と、やってのけた行動に一気に気が緩んで、傾けた勢いそのままに尻餅をついてしまう。

 ……で。

 逸らされた華雄はその勢いを利用してその場で回転。

 遠心力を味方にした次なる一撃が、尻餅をついた僕へと思いっきりってキャーッ!?

 

(いやだめこれ逸らすっていうか触れたら篭手ごと砕けそうなんかいろいろでもでもギャアアたすけてぇえええ!!)

 

 刹那、俺の脳裏には今までの思い出が高速で流れてって走馬灯じゃないかこれ!!

 ええいもういいだったらこの刹那の集中を利用する!

 って意識した途端に普通の速度に戻る世界。

 

「うぉぉおわぁああーっ!?」

 

 慌てて逃げた。そりゃそうだ。直後に、本当に直後に俺が尻餅をついていた場所に金剛爆斧がドゴォンと落とされ……その部分の地面が綺麗に裂けました。

 

(うん……死ぬ……死ぬよね、あれ……)

 

 もっと集中しないといつか死にそうです。

 走馬灯って意識しないからそういうことが出来るんであって、きっと意識したら脳の速度なんて普通に戻るに決まってる。

 なので普通の速度しか出せない意識下の脳で、今自分の身に降りかかっている火の粉を分析する。

 まず自分。金剛爆斧から慌てて逃げる勢いで起き上がり、華雄と対峙する形で構えている。

 対する華雄。

 金剛爆斧を手に、地を蹴って俺へと激走───ゲエエエーッ!!

 

「れれれれ冷静に! まずは───」

 

 構え! 華雄の構え……斧は両手で前に構えている!

 振り被る様子はまだ無し! なら……

 

(散々目に焼き付けて刻み込んだことを思い出せ! 金剛爆斧を振る距離まで、あと……)

 

 ぐっと重心を下ろす。この場で攻撃を受け止めようとしていると見せかけるため。

 氣を木刀に流し込んで、受けるだけじゃなく攻撃もすると見せかけるため。

 やがて華雄が金剛爆斧を振り被る動作に入る……その一歩前。

 

「おぉおおおおおっ!!!」

 

 木刀に集めていた氣は切り離して、瞬時に足へと氣を装填。

 地面を蹴り弾くとともに華雄との距離を一気に縮めた。

 

「!? っ、なっ」

 

 華雄はここで金剛爆斧を振り被ったわけだが、既に俺は目の前に。

 動作を何度も見て、それでも真っ直ぐに行って相手を潰すという、とことんまでに真っ直ぐな華雄にだからこそ通用する方法。言い方は悪いかもだが、それでも勝ってみせる華雄だからこそ続けている行動なのだろう。

 

「せぇええあぁあああっ!!!」

 

 一気に距離を縮めての、氣だけで行う加速居合い。

 篭手の重さが木刀に乗ったそれは華雄目掛けて

 

「ふっ!」

「───うぇっ……!?」

 

 振り切った。

 が、ぶつかるような対象はそこにおらず、華雄は振り被った体勢のままに跳躍。

 それこそ俺の太刀筋なんぞ見飽きているのだろう、本当にギリギリの高さで跳躍して、木刀を躱してみせた。

 その上で金剛爆斧から片手を離すと、俺の肩に手をついて、トンと弾むように後方へと降り───て、振り向いたら絶対に斧を突きつけられて終わりだ。

 そう直感したら行動は速い。

 肩から手が離れるや、振るった木刀を戻す反動を利用しての加速居合い。

 振り向き様に振るわれたそれは着地する華雄へと吸い込まれるように弧を描いて、しかしその華雄こそが構えていた金剛爆斧によってあっさりと防がれ、仕切り直しに到る。

 無理な体勢からの居合いを放った俺は次の行動に移るのに時間を要したし、着地を狙われた華雄もバランスを崩したまま着地することになって、動けたのはほぼ同時だった。

 

「……うむ。日々を重ねる毎に追いつかんとしてくるその在り方よ、実に見事だ。私の武を受け止めてなお立ち上がれる男など、やはりお前だけだ。実にいい」

 

 どずんと斧を地面に突き刺して、華雄さんは語る。

 いつもの顎に指を当てた格好を見ると、とりあえず戦いは終わったのだろうかと息を吐く。

 でもまだ目が鋭いから、油断はしないようにしましょうね。

 

「ごほん。時に北郷」

「ん? なんだ?」

 

 随分とまたわざとらしく“ごほん”とか言った。

 咳払いじゃなくて、本当にごほんって言った。

 言ってからは何故か目の鋭さは無くなって、あちらこちらへ視線を泳がせている。

 ハテ、なんだろうか。なんだ、というかどうかしたのだろうか。

 

「お、お前との付き合いも……その、もう随分になるな」

「そうだなー。思えばあの宴の時、初めて戦ったのも華雄だったし」

「むう……負けた時はどうしてくれようかと思ったが、結果から見れば……負けてよかった……とは言いたくないが、だがしかし負けねば……うぬぬ」

「えと……なんの話? 勝った負けたの話なら、あれは引き分けってことになったじゃないか」

「そ、そうだな。そうだったな。うむ。その後の戦いで負けたのだからな。負け……うぬぬ」

「………」

 

 どうあっても負けというのは清々しくはいかないらしい。

 まあ仕方ないのかもなぁ。俺って真正面からぶつかるっていうよりは小細工が多いし。

 でもわかってください、小細工無しで勝てるような次元じゃないんです、あなたたちの居る世界は。

 けれども男には、たとえ負けるとわかっていても立ち向かわなくてはならない時があるんだ。でも……いつか勝てるようになってやる。って前にもやったよこれ。

 ジョナサンは努力の人だね、俺はなかなかそれを叶えられないよ。……主に周囲が強すぎて。

 

「ともかくだ。お前の女になると言った言葉に嘘はない。そもそも嘘は好かない」

「そうだね、華雄ってそういう性格してるよ」

「そうだ。だから、だな。うぬぬ……」

 

 ……さっきからうぬぬと唸ってばかりの華雄さん。

 俺はどうしたら? もしかしてまたか? また乙女心とやらを察しなければならない場面に立っているのか俺は。

 

(よし考えよう)

 

 なんだっけ。華雄は俺との付き合いも長いなーと言ってきた。

 昔を懐かしみたい? に、しては負けたことを悔やみまくっているわけで。

 ……ハッ!? もしや今こそその雪辱をと切り出すところ!?

 そ、そうか。武のことばかりの彼女が言いそうなことじゃないか! 言いづらそうにしているのは、その行為が過去の敗戦をぶちぶちとこぼすような女々しい行為と思っているからか!

 そこへ俺が“じゃあこうしようか”と言うことに、乙女心への勝利が───!

 

「わかったよ華雄」

「え、なっ!? ななななにがだっ……? わわ私はまだ何も───」

「いっぱい、長い時間をもやもやさせたんだよな、きっと。大丈夫、俺……もう決めたから」

「う……そ、そうなのか。私としては、その、お前とそういうことをするというのは、いざとなると……。確かめ合うだけでなく、何かを生み出すための行為と自覚するのとでは、いろいろと違うというかなんというか……!」

 

 口早に喋る華雄の目がぐるぐると回っていっている。

 い、いったい何事か? 顔も赤いし……ああ、そりゃそうか、武人として過去の敗戦をあーだこーだ言うのは、それほど恥ずかしいことなのかもしれない。

 負けてばかりの俺にはきっとわからないことなのだ。

 そこまでをわかって受け止めてやらないで、何が乙女心か。きっとそういうことなのだ。きっと。

 でも生み出すってなんだろう。

 

(ハッ!? ……勝利か!)

 

 なるほど納得!

 

「じゃあ華雄。早速だけど───」

「なっ……さ、早速か!? ゃっ……そのっ……戦い、昂ぶっているのはわかるがっ……! い、いや待て、私はまだその、周期というかだな、まだなんだ」

「? しゅうき?」

 

 しゅうき? まだ? 秋季……秋? 秋になると本当の実力が出せるとか? な、なにそれすげぇ! じゃなくて。

 臭気……じゃあないよな。

 終期……なにかが終わる? もしかして暑い日には力が出なくて、やっぱり秋は最強になれるとか、ってだからそれは違う。たぶん。

 昂ぶっているっていうのは……普通だよな。さっきまで戦ってて、いい具合に体も温まっている。

 今なら無茶な動作でも出来そうな気がする。やるなら今でしょう。

 

「よくわからないけど、華雄は今すぐはまずいのか?」

「う……ああ。敵前逃亡のようで悪いが、これも約束だ。皆で誓いを立てた以上、それを私情で崩すわけにもいかん」

(……反董卓連合で突出したこと、やっぱり悔やんでるのかなぁ)

 

 言わないでおこう。余計なことだ。

 ともあれ、どうやら何かをみんなで誓ったらしい。

 みんなとの誓いと俺となんの関係があるのかはわからないが、きっと大事なことなのだ。

 こういう時の女性の……えーと、連帯感? っていうのは強い気がする。

 それこそ男の俺には理解できないことがたくさんあるのだろう。

 そこのところは毎度のことながら、ちょっと寂しく思う。

 もし俺が乙女心というものを正しく理解出来たとしても、そういったものの輪には入れないんだろうなぁ。

 入れたら入れたで、かなり壊そう……もとい、怖そうではあるが。

 

「でもさ、そんなに急いで生み出すものじゃないんじゃないかな。華雄がその気になれば、いつでも出来ることだと思うし」

 

 実際、仕合で勝つのも死に物狂いな俺なんだ。

 華雄が本気でこちらを潰す気でくれば、あっという間だろう。

 ……なんてことを口にしたら、華雄さん顔真っ赤。ホワイ!?

 

「ま、待て。それはそれで男らしいと思うが……! お前はっ……お前はそんな、いつでも平気だとでも……!?」

「え? あ、えと。うん、出来るだけ時間は作るよ。おかしな話だけど、誓いとか約束を守ってまでの何かをしようって話なら、後回しにはしたくないし」

「───」

 

 うんと頷いて、グッと拳を握ってみる。

 ノックはしなくても決まる覚悟もある。

 こんな覚悟くらい、胸に刻まなくても決められなきゃ男じゃないっ!

 とか、清々しい気分で覚悟を決めていると、華雄がどうしてか赤い顔……なのはさっきからだけど、ポー……と、なにやら目を潤ませてこちらを真っ直ぐに見ておりました。え? なに? 瞬きしてなくて目でも乾いた? そ、そんなんじゃないよな?

 

「そうか……そ、そうか……。後回しにしたく───あ……こほん。……なるほど。器の大きいことだな。初めて会った時の、どこかおどおどした男とは到底思えん。これが男か」

「いや……なんだろう。華雄の話を聞いて、俺自身……そこまで変われた気がしないんだけど……むしろ全然」

(お……男か……。初めて抱かれた時以来、こうまで女であることを自覚させられたことはなかったな……。これが男の……ほ、包容力? とかいうものか。武はまだまだだというのに、寄りかかってしまいたくなるこの気持ちは……うう……)

「………」

 

 なんだかさっきから華雄の顔色が大変なんだが……大丈夫なのか?

 

(訊いてみたところで問題ないって頷かれそうだし、顔色以外は全然平気そうだし……うん、様子を見よう)

 

 と……それはそれとして。変われた気、というのは本当にしない。

 今でも武器を向けられればヒィイとか叫んでしまうし、危機からは逃げ出したくなる心ももちろんある。

 そこらが多少変わった程度で“男だな”と言ってもらえるなら…………その一歩ってのは、男にとってはとんでもなく大変な一歩なのでしょうなぁ……としみじみ思ってしまった。

 いや待て、そりゃそうだ。武器(武氣)向けられて怯えないところからの一歩なら、もう十分すぎるだろオイ。

 待て待て待て! なんかもう俺、いろいろな基準がおかしくなってないか!?

 ぶ……武器、コワイ。OK? 武氣……相手からの戦う意志、コワイ。OK?

 あ、相手が武器を持って向かってきたら、それはもう戦う意思と見なしてブチノメーション……ってちょっと待て! 基準がおかしい! やっぱりおかしい! 話し合いだろまず! なんで相手が武器を持ったら嬉々としてぶちのめさなきゃならんのだ!

 あぁっとと、口調口調……!

 

(……いろんな人との鍛錬の日々に、もはやまずは話し合いという部分すら抜け落ちたか……)

 

 主に華雄とか春蘭とか祭さんとか雪蓮とか華雄とか春蘭とか春蘭とか春蘭とか華雄とか。

 おじいさま……人は変われる生き物ですね。変わった事実に今まで気づかなかった自分に、自分が一番驚いております。

 ……と、それはそれとして華雄だ。

 武人っていうのはやっぱり自分には厳しいものなんだなぁって、改めて思う。

 約束と誓いを前に、自分の目標のための一歩を、一時的にだろうが止めてみせる。

 そんな生き方って、素直に凄いと思う。そう簡単に出来ることじゃない。

 

(きっと散々悩んでの答えなんだろうな……)

 

 そこにどんな約束や誓いがあったのかは知らないが、“武に生きる者として”を根っこから認めている華雄が踏みとどまるのだ。相当なことだ。

 武人って……格好いいなぁ。(*いろいろ間違っています)

 そうだな、こういう潔さとか格好良さに、俺は憧れたんだ。

 そんな憧れも半ばに勝手に天狗になって、叩き折られて見失ってしまったけど……真っ直ぐで居られたら、俺もこんな風に潔くも真っ直ぐな存在になれていたんだろうか。

 

「なぁ華雄」

「! う、うんっ? なんだっ?」

 

 なにやら金剛爆斧の長柄をぎゅうっと胸に抱くように握り締めたまま、俯いて考え事をしていたらしい、ぶつぶつと呟いていた華雄に声をかけると、ハッとした様子で顔を持ち上げる。真っ赤だ。

 呟きは言葉として全く拾えなかったものの、これから伝えることを考えていた所為かあまり気にならず、後で訊いてみることも忘れて声を出していた。

 

「俺でも力になれることがあったら、いつでも言ってくれな。もちろん今悩んでる何かのことでもいいし、約束や誓い以外のことでもさ」

「………」

 

 ぽかんとした顔。

 ハテ。

 妙なことを言っただろうかと、自分の言葉を頭の中で繰り返してみるが、別に……ヘンじゃないよな? と思っていたら、華雄はフッと笑って「なるほど、これも男か」と呟いた。

 

「あぁ……その、なんだ。大きく出るのは構わないが、そういうことを言うから後に後悔をするのだ。お前は少し、無警戒がすぎるぞ。……ん? 後に後悔? 後に悔い? ……うむ!」

 

 いや、うむじゃなくて。意味被ってるから。

 って、後悔? 無警戒?

 

「……えっと、そうかな。そうは言っても、俺に出来ることって限られてるし、みんなだってそう無茶は言わないだろ。春蘭とか桂花は遠慮のタガが外れてるからご遠慮願いたいけど」

「な、なんだと……あの二人、妙に北郷に突っかかっていると思っていたが、私たちの知らない場ではそうまで積極的に……?」

「え? 積極? ……あ、あー……そうだな、ある意味相当積極的だよな」

 

 急に鍛錬に付き合えって、こっちの都合も関係無しに首根っこ掴んで引きずったり、人が疲れて熟睡している時ばかりを狙って部屋に侵入、虫が詰まった籠をぶちまけるとか。嫌な方向に積極的な所為で、もう随分と深い意味でご遠慮願いたい。

 ……そんな想いを込めた言葉だったのに、何故か華雄さんは再び俯き、顔を赤くしながらうんうんと唸っていた。いつもの顎に手を当てるポーズも、どこか恥ずかしがっている乙女を彷彿とさせる格好を連想させるほど。ア、アレレー……? いつもは堂々とした姿勢に見えるのに、おかしいなァ……。

 

「お前はそんな状況にも対応出来ているのか……(*訳:急に迫られても受け入れ、抱き締めているのか)」

「そりゃあ、うん。対応出来ないとまずいだろ(*訳:対応できないとボッコボコだし、虫まみれだし、必死だよ)」

「む……そうか……逞しいんだな」

「逞しいとかそういう話でもない気がするけどね……。早く満足させてやれるようにならないと」

「まぁっ!? まっ……満足出来ないほどに持て余しているのかっ!?」

「そりゃ、春蘭相手はまだまだ難しいよ。桂花はまあ……最近じゃあやられる前に押さえつけるくらいは出来るようになってきたけど」

「押さえつけっ……!?」

「や、これがまたすごい暴れるんだ。夜遅くに睡眠妨害しに来ておいて、殴るわ噛み付くわ。そうなれば力技しかないだろ?」

「な…………なる、ほど……力ずくか……。自分が認めた男に、力でというのは……武ばかりを誇っていた者としては、ある意味で幸せなのかもしれん……」

「え?」

「え?」

 

 やあ、なんだか今日の華雄は聞き上手だなぁ。

 熱心にうんうんと頷きながら、時に顔を赤くして聞いてくれる。

 ところであのー……ところどころで僕と彼女の理解に温度差を感じるのですが、気の所為ですよね?

 っと、温度で思い出した。

 

「あ、話は変わるけど、華雄も風呂、入るよな?」

「うん? ああ、そういえば今日は風呂の日だったか……うむ、いただくとしよう」

「そか」

 

 それじゃあ俺の番は結構あとになりそうだ。

 他のみんなも入るだろうし……うーん、俺は俺で、兵のみんなと一緒にドラム缶風呂にしようかなぁ。あっちはあっちでなんというか、妙に心くすぐるものがあるんだよなぁ。

 足が伸ばせないのは辛いけど、そこには男心を擽るなにかがあるのです。

 普通に風呂を待ってたら相当時間がかかりそうだし……かといって、一緒に入る気はさらさらございません。

 ああいうことをいたしたことがあるからといって、女性と一緒に風呂に入るのとは……やはり違うのだ。というか基本、一人で風呂に入ることをしない皆様だ。

 大勢の女性の中に男が一人…………考えただけで怖い。

 羨ましいと思える人は、まずはその状況を深くイメージしてみてほしい。

 常に意識され、常に誰かに見られ、行動のひとつひとつを監視され続けているような心地。さらにはその視線や女の中に男が一人という状況が、リラックスしたいのに出来ない状況を生み出す……! リラックスしに来て余計に疲れてちゃ意味がないだろう。

 それでも羨ましいと思える人はきっと居る。居るんだろうなぁ……。

 傍から見ることが出来たなら、俺だってきっと羨んでいただろう。

 ……その果てに過労で倒れてりゃ、世話ない。そういう話なのだ。

 休憩は大事です。リラックスはとても大事です。

 好意を抱いてくれる大勢の中で、休むことの出来る時間というものがどれほど大事か……これを、どうか忘れないでほしいのだ。

 想像出来ないなら、その周囲全員が自分を嫌っている人だったら、という方向でイメージしてみてほしい。気が休まる時間があるかを考えてみてくれ。常に警戒し続ける、緊張し続けるというのは、本当に楽じゃないのだ。

 

「そんなわけで、俺は兵舎に行こうと思うんだ」

「話がまったく見えんのだが」

 

 思いのたけを纏めて、結論だけを華雄に届けた。

 ……呆れだけが残った。


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