真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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13:呉/本の虫と鼻血と結盟①

33/説いて教えると書いて説教。教えになっていない言葉は説教とは言わない。

 

 で……次。陸遜の本の虫攻略の時間なわけだが。

 

「ねぇ一刀、大丈夫なの? 穏は冥琳に倉には入らせるな~って言われてるよ?」

 

 何故かシャオは俺の右腕に貼りついたまま、離れようとしなかったりする。

 あれからお姫様抱っこで町中を歩き回ったり、服屋でシャオに似合う服を見立てたり(代金はシャオ持ち)、空気が綺麗な小川近くの草原で膝枕や腕枕をしてやったり、周々や善々と散歩に出かけたり……本当に、時間の許す限りに無茶な命令を言われ続けた。

 今はこうして陸遜との約束の時間だから落ち着いてくれているが、これがもし俺の自由な時間だったらと思うと……は、はは……大丈夫、忘れよう。

 

「特訓のためだから、冥琳には黙っていてくれると助かる」

「へー……これが初めてじゃないんだぁ。じゃあさっき穏があられもない格好で倉の中で発見されたのは一刀が原因なの?」

「いや違ホワァッ!? 違いますよ思春さんっ!!」

 

 頚動脈あたりに冷たい感触! 居る! 気配は感じないけど振り向けばきっと居る!!

 思わず背筋を伸ばして絶叫する俺に、きょとんとした顔のシャオが口を開く。

 

「思春? ……どこに居るの?」

「あれ?」

 

 右腕をぎうー……と抱き締めた状態で、見上げてくる顔に逆に疑問。

 すぐ近くのシャオが気配を感じないとか、どれほど隠密に長けてるんだ……とも思うが、もしかしたら気の所為かもしれな───

 

「………」

「ヒィッ!?」

 

 居るっ! 絶対居る! 今“見ているぞ”って言った!!

 なのに姿は見えない! 怖っ! 滅茶苦茶怖っ!!

 

「はぁ……どうなるんだろ、これから……」

 

 手を繋いだあの日は遠く、少しずつだけど確実に、民や兵、将といった呉の人たちとの交流関係は良好という方向へと進んでいる。にも係わらずこうして脅しめいたことを言われるのは……。

 

(まあ、いいか)

 

 違うって言葉、ちゃんと受け止めてくれたみたいだし。

 いや、そもそもあのとき近くに居てくれたんじゃないのか?

 四六時中、姿隠して近くに居ることなんて出来ないとは思うが……うん、やっぱりいいや。

 見ているぞ、ってことは、危険なときは止めてくれるってことだ。勝手に“信頼の証”として受け取っておこう。

 

「それで、その陸遜は……」

 

 倉までの道のり、べったりと引っ付いたままのシャオとともに、歩み辛くも進んでいくわけだが、倉が見える位置にまで達しても陸遜の姿が見えない。

 ……変だな、倉の前で待ち合わせをしてたんだけど。と、首を傾げながら倉に近寄ったんだが。その歩みが途中で止まる。

 

「……聞こえた?」

「……ふぇ? んー……あ」

 

 俺の言葉に、シャオも気がつく。

 なにやら……なにやら倉の方から、ええと、なんだ、その……女性の艶のある声が……。なんだろう。俺の五体に宿る経験と知識が、今は倉に近寄るなと叫んでいる。叫びを無視すれば、マイサンに明日は無いと言うかのように。

 

「シャオ先生。逃げていいですか?」

「孫呉の旗の下に撤退の二文字はないのっ!」

「いやでも俺魏だし! ───うおお余計に撤退のニ文字が無さそうだ!」

 

 でも構わない、俺は逃げる。こういう時の悪い予感ってのは当たるものなんだ。

 そう、当たる、絶対に。そして、絶対に当たる予感から逃げることが出来ないことも、俺はよ~く知っていた。

 知っていたからこそ、まずはシャオを片手で持ち上げ、その口をもう片方の手で塞ぐと……気配を殺してそろりと倉の中へと入り、陸遜を探す。

 途中、シャオが暴れようとするが、なんとか拝み倒して黙ってもらった。

 

(そう、待ち合わせをした。弱点克服を手伝ってくれと言われた。それは一秒でも刹那でも、その場に立ち合えば果たされる命令だということに───とてもしたい! 今すぐしたい!)

 

 ふと見つけた陸遜さん───は、大変なことになっていました。

 一言で唱えるならば、モザイク無しでは語れないというか───っつーか本に囲まれてなにやってんだアンタァアアーッ!!

 

「ふやぁあ~ん……♪ ……あぁ、一刀さ───」

「あっ、やっ! ごめんっ! 覗くつもりじゃっ……あのっ……とととにかくごめんっ!!」

 

 勇気ある逃走! なんてことっ……女性の、しかも関係を持ったこともない人の自慰まがいの行為を見てしまうなんて! いやそれもそうだけど、なんだってあんなところであんなことを!? 待ち合わせしてたよな、俺!! それがどうしてあんなことに!? もしかして見せたかっ───いやいやいやいやそんな馬鹿な! 大体俺に見せてなにに───はっ!?

 

(……まさか)

 

 もしかして、だけど。……冥琳の言っていた言葉の意味って、これだったのか? そういえば初めて倉に行った時も、なにやら艶っぽい声を出していたような……うわぁ本気かっ!? そうなのか!? 本当にそうなのかっ!?

 うああ……な、なるほど……! 一途に魏を思うのなら、本と陸遜を合わせるべきではなかった……ってことか……!

 

(今でも目を閉じれば、脳裏に陸遜の肢体がうぉおあぁあああああああ消えろ消えろ消えろぉおおおっ!! 今の俺にはそんなの、生き地獄でしかないからっ! これ以上眠れぬ夜をもたらさないでくれぇえーっ!!)

 

 ───俺は走った。頭を振りながら走った。シャオの口を塞ぎっぱなしで走った。何故ってそりゃ、あの場に居ること、なんて命令をさせないために、

 

「んー! んんー! んー!!」

 

 日々猛獣を身の内に宿している俺に、あんなところに踏みとどまれとか言われたら……! だめだ! 絶対ダメ! そんなこと言わない可能性のほうが高いだろうが、それでもだめ!

 忘れるんだ俺! 俺は何も見なかった! 見な───だぁあああっ! これからどんな顔して陸遜に会えばいいんだぁああっ!!

 

「んむー! ん、んー……! ん…………!」

 

 い、いやしかし、随分と立派なものをお持ちで───ってだからそうじゃないだろ俺ぇえっ!!

 落ち着け俺! 俺が愛するのは魏のみんな! それもどうかなって思うときがやっぱりあるけど、俺は魏を愛している!

 いくら一年と一ヶ月以上も獣を封印しているとはいえ、おかしなことをすれば俺の首……どころかマイサンが……!

 に、逃げといてよかった……! もしあの場に踏みとどまっていたら、理性を保てていた自信がない……!

 

「……、……」

 

 いいか北郷一刀……お前は試されているんだ。

 あの華琳が、いくら同盟国とはいえ他国の女性と関係を持つことを心から許可するはずがない。

 たしかに風が言うように絆が深まるかもって考えは出来るけど、そんな方法なんて今さら取ることもないはずだ。

 

   ザサァッ───

 

 ……と、考えながら突っ走っていたら、いつの間にか外れの小川に立っていた。

 走り方なんか考えもせずに体を動かしていたためか、息切れがひどいし汗も相当だった。

 加えてタオルなんかもシャオとのデート前に自室に置いてきてしまっているときた。

 汗を流すのは無理か───……ふぅ、と溜め息ついでに頬をコリッと掻いた途端、「ぷあぁあっはぁああっ!!!」と、今にも窒息してしまそうでしたと言わんばかりの呼吸音が聞こえた。

 

「……あれ? ど、どうしたんだシャオ。走ってもいないのにそんな、息切らして」

「はっ、は……! か、一刀がっ……もぉおおーっ!! 一刀がシャオの口も鼻も塞ぐからでしょーっ!?」

「え? 俺? ……いや、俺は口だけを塞いで……」

「途中から鼻も塞いでたもん! 死んじゃうかと思ったんだからー!!」

 

 俺に小脇に抱えられつつ、ぱたぱたと暴れてみせるシャオ。

 人間一人を片手で持ち上げられるって……やっぱり、筋肉ついてきてるんだろうな。それとも氣が?

 

「じゃなくてっ! ごめんっ! 逃げるのに夢中で気づかなかった!」

 

 ひとまず小脇に抱えた尚香さんを地面に下ろし、土下座でもしかねないくらいに頭を下げ「はぴうっ!!」───火花が散った。

 

「あだぁっ!? ───……ぐお」

 

 ……人間、焦ったら負けだという状況が視界と心にざっくりと刺さる瞬間だった。

 距離も測らず物凄い勢いで下げた頭はシャオの頭頂に……そう、激突という言葉が似合い過ぎるほどの鈍い音とともに直撃し、呉が誇る元気娘さんを一撃で気絶に導いた。

 

「………」

 

 そして訪れる“やっちまった”感。

 はは……そーだよなー……。落ち着こうとする人間って、まず落ち着けないよな……うん……。

 

「……」

 

 頭をひと掻き、目を回しているシャオ背に抱えると、一度深呼吸をしてから歩き出す。

 何処へ、と言われれば、陸遜が今も悶えているであろう倉へ。

 あんな恐ろしい状況だったとはいえ、克服しようと頑張る人を放置して逃げるのは嫌だった。

 誓って言おう、彼女のあられもない姿が見たいからではない。

 大丈夫、大丈夫だ。理性を失わないために、こうしてシャオを背負っていくのだ。

 欲望なんかに負けるな俺……というか、本が好きなのは解るけど、何故淫らな方向に走るのだ、陸遜さん。

 

「ああいや……人の性癖に口出ししても、きっとろくなことにならないよな……」

 

 Sで女好きな覇王様が世に居るくらいだ、本で淫らになる女性が居たってなんら不思議は……───なぁ、及川。ここで“ない”って言い切れない俺は弱い男か……?

 まあそれはともかく。陸遜は“克服したい”って言ってたんだ。

 そしてそれに協力するって言ったのは俺だ。……その過程でなにが起ころうが、途中で投げ出すのはあまりに無責任だろ。

 

(無責任か……今さらって気もするけど)

 

 俺が果たせる責任なんてものが、果たしてこの国に存在するのだろうか。

 息子役を買って出たくせに時がくれば帰ってしまう。手を伸ばしてくれればその手を掴むと豪語しても、離れていれば掴める手などありはしない。

 その場その場でしかいい方向に働かないような言葉を口にしては、一時的に人の心を軽くしているだけなんじゃないか。……そうやって、小さく考えた。

 

「……華琳だったらもっと上手くやるんだろうな」

 

 考えても仕方が無い。

 人間一人に出来ることは限られているし、この国での俺の立場はただの客だ。

 王としての発言力を持っているわけでもなければ、将並みの権力があるわけでもない。

 ついてくるのは天の御遣いって二つ名と、魏から来た客って肩書きだけ。

 それ以外は兵……もしくは民とそう変わらないのが俺だ。

 あとは……うん、町のみんなとは、ほぼ誰とでも肩を組んで笑い合えるような立ち位置。……あれ? これって客以前にただの町人なんじゃなかろうか。

 そんなことを思いながら森を抜け、小川をあとにする。

 やがて城に辿り着いて、内部を歩いてもざわざわとした頭の中はすっきりとしてくれない。

 

「一時的にしか心を動かせない言葉じゃあ、いつか親父たちの笑顔も崩れるのかなぁ……」

 

 だからだろうか。倉への道を通りすぎる途中、そんな言葉が思わずこぼれた。

 

「───ほう? ふふ、面白いことを言うな、北郷」

 

 で、そんなこぼれた言葉を耳にした人が居たわけで。

 つい、と視線を動かしてみれば、通路の先からこちらへと歩いてくる影一つ。

 

「倉に用事か? やめておけ、今は穏が居る」

 

 長い黒髪を揺らしながら俺に声をかける存在……冥琳が、紐で硬く結い纏められた本を手に小さく溜め息を吐く。

 

「冥琳……あ、や、陸遜が倉に居るのは知ってる。むしろさっき見ちゃったから」

「……あすまない、見苦しいものを見せたな」

「いえ、こちらとしても大変結構なものをウソですごめんなさいっ!?」

 

 つい口が滑った途端、再びヒタリと首に冷たいものが!

 焦る俺を前に、訝しみを浮かべた表情で冥琳が言う。

 

「……北郷?」

「あっ! やっ! なななんでもないからっ!」

 

 だから落ち着けって俺……! 監視されてることを忘れるなぁああ……!!

 ……うん、冷静、俺冷静。冥琳に物凄く変な目で見られているが、気にしない方向で。

 

「……あ、そういえばさっき、“面白いことを言うな”とか言ってたけど」

「うん? ああ、あれか。……なに、少々呆れていただけだ」

 

 呆れ? ……ハテ、呆れるようなことを言っただろうか。

 ……いや、言ったか。心当たりがないわけじゃない。

 

「北郷。お前は自分の言を“一時的にしか心を動かせない”ものと言ったな。たしかにお前の言の全てが民に届いたのかと言えば、断言としてそうだとは言ってやれない。だが───」

「だが……?」

「人は悲しみには弱いものだ。子を亡くし、心が凍てついた民も居ただろう。しかし、うわべだけの……それこそ一時しのぎの言葉なぞで笑顔を見せてやれるほど、人の心はやさしくなどない。どれだけ奇麗事を並べようと、それが民の心に届かなければ意味が無いだろう?」

「……そう、だけど」

「お前は、きちんと民の心へ届かせられる行動と発言をしてみせた。やり方に問題はあったとしてもだ。問題があるからといって全ての行動を禁止すれば、人などなにも出来ないだろう。……お前が行なった、私たちでは出来なかったことの結果が民達の笑顔であり、我々の笑顔だ」

 

 冥琳はふっと小さく笑みながらそこまで言うと、一度区切りを挟んで……溜め息を吐いた。顔は一目でわかるほどの苦笑顔だ。

 出来の悪い弟を見るような様相で、今にもやれやれって言いそうで───

 

「やれやれ、これでも褒めているんだ、少しは嬉しそうにしたらどうだ」

 

 ……本当に言われた。

 

「……? なんだ? 話をしている相手を前に口を開けて呆けるのは、天の国の礼儀か?」

「断言するけどそれはないよ、うん。たださ、褒められてるって実感が湧かなかっただけだから。むしろ冥琳に褒められるなんて思ってもみなかった」

 

 人を褒めるタイプには見えなかったからだ。

 そんな人が急に褒めていると言うんだ、驚きもするし呆けもする。

 そして、やっぱり───この世界を生きてきたみんなと自分とでは、考え方のそもそもが違うんだと思い知る。

 どれだけ褒められても不安は残るし、胸を張ってみせるには自分が成したことが見合っていない気がしたんだ。

 民に届いたとしても、その思いはいつまで民の心に残ってくれるのか。どれだけ経てば、民たちは俺の言葉を忘れてしまうのか。

 そんなことをうじうじと考えてしまうあたり、俺は将寄りというよりは民寄りの人種なのだ。

 

「なぁ冥琳。俺は人に褒められるだけのことを、ちゃんと出来たかな」

「出来たか、というよりはこれからもしてほしいと願っている。お前の行動で民の笑顔が増えたのは事実だ。それによって騒ぎも確実に減り、今では届けられる報せに騒ぎについてのものが無いこともまた事実だ」

「でもさ、だからって今後ずっと騒ぎがないわけじゃないし……」

「ふむ。お前が魏に帰ることで悲しむ者や寂しがる者は当然出てくるだろうが……その者達が騒ぎを起こしてでもお前に会いたいと思うかどうかと言えば、そうでもないはずだ。……お前は既に、呉に来た理由を民に話したと聞いたが?」

「ああ、話した。驚いてたけど受け入れてくれたよ」

「ならば次は民が立ち上がる番だ。お前がやれる仕事は民に笑顔と手を差し伸べるまでだ。あとは民の心次第だろう。お前が居なければ立ち上がれないほどに弱いのであれば、立ち上がったところでなんの解決にもなりはしないだろう?」

「………」

 

 あまり俺が居すぎるのも、民のためにはならないって……そういうことだろうか。

 それは……そうかもしれない。自惚れみたいに感じるけど、依存しすぎて俺が居なくなるだけで親父達が笑えなくなる、なんて状況は嫌だ。

 そんなことにはなるわけがないって頭ではわかっていても、むしろ俺の方が依存してしまう。いつでも会いに来れるとはいっても、魏から呉への道は決して短くはない。

 俺にだって警備隊の仕事があるし、魏の民とだって話したいこと訊きたいこと、たくさんある。

 

(……補助輪、か)

 

 俺は、親父達が“息子”無しでも笑っていられるための補助輪だ。

 近すぎてもだめだし、離れすぎてもいけない。

 人の心を強くするのは、馴れ合いだけで出来るほど簡単じゃないんだ。

 

「お前が魏に戻ってからも、永劫騒ぎが起こらないとはもちろん断言は出来ない。だが、我々とてそれを黙って見ているつもりもない。お前がきっかけを作ってくれたのなら、私達はそれが崩れぬように支えていくだけだ」

「冥琳……」

「現実として、お前は“呉の騒ぎ”を鎮める手伝いを成し遂げた。雪蓮が頼んだことは、既に達成していると言っていい。……魏に帰りたい、蜀に行きたいと思ったなら、私達に遠慮はせずにここを発て。いつまでも呉に居るわけにもいかないのだろう?」

「………」

 

 あ……少しちくりとした。

 冥琳の言葉が、やることが終わったならさっさと出て行けってふうに聞こえたからだ。

 でも……違う。たった一ヶ月ちょいの仲だけど、冥琳は言いたいことはきっぱりと言うほうだと思っている。

 回りくどいとは言わないけど、今のは……やっぱり違うと思う。

 

「……ありがと、冥琳」

「うん? ……おかしなやつだな。私はお前に、出て行けと言っているんだぞ?」

「“好きな時に”でしょ? ……このまま依存して、仲良くなりすぎたら離れるのが嫌になる。多分、今の言葉は誰かが……いや、むしろ俺が言わなきゃいけないことだった。やることが終わったら帰る、いつまでもここには居られないって」

「……お前は。鋭いのか間が抜けているのか解らないな、まったく」

 

 言いながら、冥琳は俺の眉間に細い人差し指を押し付けた。

 

「……? 冥琳?」

「難しく考えるな。静かに受け取り、自分の思う通りに行動してみるといい。考えて考えてようやく出たものが間違いだと言うつもりはないが、お前は自然体で動くほうがよほどに似合っている」

「………そう、かな」

 

 眉間にシワでも寄っていたんだろうか。

 人差し指がやさしく動いて、俺の眉間をほぐす。

 

「……驚いたな。こうされることを嫌がると思ったが」

「まあ……以前だったら払い除けるか逃げるかしてたかも。でもさ、肩肘張ったり格好つけて無理するのは、もうやめたんだ。日本……天の国に帰った時、自分がどれだけ子供だったのかを教えてくれた人が居たから。自分じゃあ守れないうちは、守ってもらってもいいんだ、って。それは恥ずかしいことじゃなく、無理に守ろうとして守れないことのほうがよっぽど格好悪くて恥ずかしいんだって……そう、教えてくれた人が居た」

「そうか。その御仁は武の師にあたる人か?」

「えっと、そうなる……かな。俺のじいちゃん───祖父なんだけどさ。これまで生きてきて初めて、あの人が祖父でよかったって本気で思った。……勝手だよな、本当に。いろいろ世話にもなってきたはずなのに、世話になった気さえ持ってなかったんだ。それがこの世界から一度戻って、いろいろ考えて一年を過ごしたら……もう、感謝以外に言葉が無くなってたよ」

 

 本当に馬鹿な話だ。

 散々と稽古にも誘われていたのに向き合おうとせず、強制だけはしないじいちゃんからずっと逃げていた。

 父親に怒鳴られて渋々稽古をしたりして、多少は強くなった気で剣道を始めて……多少勝てたからって天狗になって、やがて……本物に出会って、愕然として。

 目標を見つけて稽古を乞てみても、その差を埋めるためには、それこそ自分が怠けていた分以上に頑張らなきゃいけなくて。

 結局はなにもかもが半端な自分だけが残って、この世界を生きて、覚悟を知って───土下座して、強くなろうと決意して。

 そうして始めた鍛錬の中で、ようやく俺は稽古を強制しなかったじいちゃんの真意を知った。

 どれだけ嫌々にやろうが、本人に強くなろう、学ぼうとする意思がなければ意味がない。

 そんな薄っぺらな“覚悟”を、あの人は自分の孫に持ってほしくなかったのだ。

 自分の意思で強くなりたいと本気で思うまで、ずっと待っていてくれた。だからこそあの日、土下座した俺を嫌な顔せず迎えてくれたんだと……そう思う。

 

「俺は天でもこっちでも、いろんな人に迷惑かけてばっかりだからさ。迷惑を全然かけないようにっていうのは無理だと思うから、せめてかける迷惑を減らしていきたいなって思う。それに……漠然とだけど、それを続けた先に“国へ返す”って思いの答えがある気がするから」

「国に返す、か……。そういうところも気に入ったのだろうな、祭殿は」

「へ? なんでここで祭さん?」

「ふふっ、いや……なんでもないさ」

 

 ここに来て冥琳は、初めて楽しげな笑顔を見せた。

 ちょくちょくと咎めたり咎められたりの現場を目撃したりしてるんだけど……もしかして冥琳と祭さんって結構仲がよかったりするんだろうか。

 そうじゃなきゃ、今みたいな素直な笑顔、滅多に見れるものじゃ……というか。

 

「……可愛い」

「っ……!? あ……北郷? 今の発言の意味を噛み砕いて説明してほしいのだが?」

「え? ───うわっ!?」

 

 え? ちょ、ちょっと待て!? 今俺なんて言った!? 頭の中で思ってただけのつもりだったのに、もしかして口に出てたか!?

 可愛い、って……うわわ可愛いって言ったのか俺!!

 

「ごっ、ごめんっ! 今の可愛いはそういう意味じゃ……そういう意味ってどういう意味だ!? え、えっと違くてっ……! あ、あー……いや冥琳が可愛くないってわけじゃなくて、むしろ今の笑顔がたまらなく可愛かったからつい口が滑ったっていうか、あああそうでもなくていやそうなんだけどっ! 普段は綺麗だとかそっちの言葉のほうが似合ってる冥琳なのに、今の無邪気な笑顔が物凄く印象強かったっていうか、だからその思わず可愛いって───! いやでもほんとウソとかじゃなくて本気でそう思ったことが口に出たわけで───」

「ま、待てっ、もういいっ! やめろ北郷っ……!」

「えぇ!? で、でも冥琳、説明してほしいって、眉間にシワよせながら……」

「説明を求めはしたが、そこまで丁寧に噛み砕けとは言ってないだろう……っ! 私が悪かった、頼むからもうやめてくれ……!」

 

 目を伏せた困り顔でそんなことを言う冥琳。

 ……もしかして、綺麗だとかは言われ慣れてても、可愛いとかは言われ慣れていないんだろうか。

 ちょっと納得。可愛いっていうより、本当に綺麗って言葉が似合う女性だ。きっと子供の頃から、こんなふうにピンと背筋を伸ばして寡黙で美麗な女の子だったに違いない。

 そんな冥琳を想像してみると…………

 

「……困った、本当に可愛い」

「かっ……!? ~っ……北郷? からかっているのなら、物分かりが良くなるまでその背を白虎九尾で叩いてやってもいいんだぞ……!?」

「へっ!? うわっ、また口に出てた!?」

 

 思わず口を押さえる俺を、冥琳は少し赤くなった顔で睨んでいた。

 けど待ってくれ、たしかに口に出てたかもしれないが、ウソを言ったつもりはない。

 考えてもみてほしい。小さな体でたくさんの書物を運んで、亞莎のように頑張って勉強をする姿を。呉のため雪蓮のため、寝る間も惜しんで頑張る少女の姿を。

 プライドが高いから教えを乞うことはせず、書物から学んで孤高に生きる少女……いつしか空腹に顔をしかめるけど、知識を得ることを優先するが……ふと部屋の外に気配を感じ、出てみると……足下には暖かな湯気をたてるたくさんの青椒肉絲が……!

 少女は辺りを見渡すが、すでに人の気配はなく。どれだけ意地を張って見せても自分は誰かに支えられているんだと感じながら、少女は暖かな食事で今日も頑張る……───

 

「………」

「……なぜここで泣くんだ、お前は」

「へあっ!? あ、あー……うあー……」

 

 指摘されてみれば、たしかに泣いている俺。

 冥琳から見た俺は、果たしてどれほどの百面相をしてみせているんだろうかなぁ。

 

「……冥琳は子供の頃、どんな子だったんだ?」

「お前がここに来てから今までで得た私の在り方を、そのまま小さくしてみればいい」

「………」

「だから、何故泣く」

「い、いや、ついさっき得た想像からの印象が深すぎて」

 

 小さい頃から眼鏡をつけていたとは限らないし、裸眼のままで本を両手にてこてこ走り回る姿を思い浮かべて───違うよ!? ロリコンじゃないよ!?

 

「えっと。つまり冥琳は昔っから冥琳だったってことでいいのかな」

「……。当然のことを言われたはずなんだが、頷くのが戸惑われるな。それはどういった印象だ?」

「冷静沈着で慌てることをせず、キリッとしてて頭が冴えて、青椒肉絲が好きで雪蓮に振り回されてて───」

「後半が引っかかるが、概ねそういった感じ───」

「───で、祭さんが好き」

「───」

 

 ……言った直後、俺はその場で正座をさせられ、みっちりと説教まがいに祭さんとの仲の悪さを説かれた。なんでだ。




「更新遅いぞコノヤロー! なにやってんだ! どーせモンハンでもやってたんだろコノヤロー!」
「……仕事です」
「……なんかごめん」

 モンハン? 買いました。あんまり出来てません。
 Xから引き継いで、☆7のクック先生を切り刻んだくらいです。
 ジェット噴射で飛ぶ古龍とか、迅竜のナルガさんが素早さで涙するほどの演出ですが、はい、出来てません。
 みんなもうG級に行ったのかなウフフ……。
 ぼっちですから常にソロです。ラオシャンロン楽しみダナー!

 もうちょい、もうちょいでいいから時間が欲しい……!
 え? 休日? …………家族サービスで潰れました。
 休みってなんだったっけなぁ……。
 それでも楽しんだんだろうって言葉は勘弁してください。ただの足です。
 移動して、車の中で待っているだけです。
 ありがとうございます、皆さまの小説が待っているだけの自分の心の支えです。
 だって途中で自分だけ帰ったら怒るんだもの! なにこの理不尽! 買い物行って、せっかくの休みに4時間以上待たされるだけのこっちの身にもなって!? その間家で小説の編集するくらいいいじゃ───あ、いや、げふんげふん。
 ……男ってそんなもんですよね、はい。
 そのあとも約束事があって結局時間も潰れて、わしは……わしはよォオオー!!

 そんなこんなで遅れています、ごめんなさい。
 だんまちのSSとかこのすばのSSとかオバロのSSとかFateのSSとか、待っている間に読んでは飛んで読んでは飛んで。最終更新が去年とかだとオーマイガーとかそんな気分になって、いえまあ自分だってそのくらい滞ってるのがごろごろあるので、なんかごめんなさいな気分になって。
 ……ハルメアス、まだカナ……《ボソリ》。あはっ、あはははは! 僕が言っていい言葉じゃないですねごめんなさい! ……ほんとごめんなさい。

 はい、というわけで気合い入れていきましょう。
 なんかちっとも休んだ気になれない休日も終わりましたし、また仕事漬けの日々ですが、頑張りましょう。

 本日も予約投稿。
 これが投稿されている頃には、僕は走って仕事場に到着している頃だと思います。
 片道3.5キロ。よい運動……なんでしょうかね。
 ではではみなさま、今日も元気に、花丸な日をお過ごしください。
 ただし花粉、てめーはダメだ。

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