真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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133:IF2/形を求める人々➁

 なにかが動き始めていた。

 それは間違いなんかではなくて、俺を見る女性の目が、日に日に怖くなっていた。

 ……とある日のことだ。

 その日は柄と一緒に鍛冶工房を見学したり、隊ごとの調練の様子を見学したりしていたのだ。

 鍛冶工房では目を輝かせ、調練では兵の動きに目を輝かせ、本当に楽しい日だった。

 が、些細なことというのは、些細であろうとそこに存在するからには感じてしまうものなのだ。

 

「違和感だ」

「違和感?」

 

 見学も一通り終わって、街をのんびりと歩いていた。

 昼の頃ってこともあり、街は活気に溢れている。

 適当な店に寄って肉まんを買ったり果物を買ったりして、もぐもぐしゃりしゃり。

 柄は買い食いが好きらしく、給金の大半はそちらで消滅するらしい。

 だから以前話したバイトめいたものに積極的に申し込んでは、小銭を稼いで買い食い。

 酒が苦手なのに対してそっちで浪費しているとくるのだから、趣向での散財って点ではあまり変わらないのかもしれない。

 まあ、そんなわけで違和感。柄とは関係ないが、違和感を語ろう。

 

「最近視線を感じないか?」

「これだけ人が居るんだから当然だと思いますぞ、父よ」

「その妙な星口調はやめなさい」

「直ってくれないんだ、助けてくれ父よ」

 

 その落ち込み様は凄かった。

 そんな柄の頭をぽむぽむと撫でて、話を戻す。

 

「視線っていってもただの視線じゃないだ。なんというかこうー……狙われているって感覚に近い。桂花が俺を狙うソレとは違うんだけどな? たとえばほら、」

「お、おおっ……? よくわかったな父……私が手を繋ぎたがっているって」

「まあ、そんなとこ。こうやってさ、手を繋ぎたい~とか、そういうものの延長の何かを強くしすぎたような視線を感じるんだ」

「手を繋ぐことの先? …………に、握り潰すのか!?」

「怖いよ!! そうじゃなくて!」

 

 父としてそれはどうなのかとも思ったものの、恋人としてのアレコレを軽く説明する。

 手を繋いだり、指を絡ませ合って握ったり、腕を組んだり抱き締めあったり、まあいろいろ。……チ、チスまでは言ってない。気にしないでくれ。キスとか思い描いたら殺意の波動に目覚めそうなのでチスという表現にしているとかそんなことは心底どうでもいい。

 だがそれを言わなければ、柄がチスの話題を出すことなど───

 

「なるほどっ、そういったことのあとに接吻をするんだなっ」

 

 ───子供の知識の量を見誤っておりました。この北郷も老いておったわ。

 そして娘からそういう話題が出てくると、心にめらりと黒い感情が……!

 

「あ、あー……その。柄? 柄はー……あー、なんというかその、えー……なんだ。おー……」

「いないぞ。男は皆軟弱だ。私は私の相手と認める存在は強い存在がいいっ」

「察しがいいなぁ俺の子なのに!」

「父は私たちの相手とか、そういった話になると途端に“あー”とか“おー”とか言って、ちらちらこちらを見るからな」

 

 よく見てらっしゃる……こんな頃から女って怖いのかもしれない。

 ……女にしてみれば、この頃から男は暴力的で怖いのかもしれないが……この時代の男がどれだけ暴力に走ろうが、潰されそうな気がするのは俺だけじゃないよな……?

 今やあの心優しかった璃々ちゃんも、“氣を操って武に生きることが出来る人”な現在ですものなぁ……。

 

「そう言う子ほど、あっさりコロリといきそうな気がするのはどうしてだろうなぁ」

「むうっ……失礼だな父は。私は私より強いか、一緒に強くなれる相手とじゃないと嫌だぞ」

「俺が言うのもなんだけど、我が娘たちはちゃんと結婚できるんだろうか」

「いざとなったら父がもらってくれ」

「もらいませんやめなさい」

 

 恐ろしいことを言わないでくれ。ただでさえ最近、丕と登の様子がおかしいんだから。

 なんだかやたらとヤキモチというのか、嫉妬みたいな視線を向けてくるのだ。

 脇腹抓ってくるし。

 

「? 何故だ? 璃々姉ぇは父の娘だが、父の子を産むつもりでいるのだろう?」

「璃々ちゃんは紫苑の娘であって、俺の娘ではありません。前にも言っただろ」

「な、なんと……では父は黄忠さまの夫から妻を寝取って、今まさに娘までをと……!」

「俺もうお前たちを桂花の私塾に通わせるの嫌になってきた」

 

 言った途端に“何故わかったのだ!?”みたいな顔をされる。わかるわ、いい加減。

 

「いやまあ、それはいい。あ、いいっていうのは俺が寝取ったとかそういうことじゃなくて。……言っておくけどな、紫苑の旦那さんは」

「あ、待ってくれ父よ。なんとなくわかる。死んでしまったか、蒸発したのだろう? 父が人からなにかを奪うような人じゃないことくらい想像がつく」

「だったら寝取るなんて言葉をまず使わないように」

「はにゅっ!?」

 

 デコピン一閃。

 いたずらっ子な顔をしてニシシと笑っていた柄は驚いていたが、額をさすりながらもやっぱり笑った。

 

「まあ、そんなわけで。俺としても璃々ちゃんは娘っていうよりは妹みたいに見てきたから、子供をとか言われてもな……っつか、え? それ、璃々ちゃんが言ってたのか?」

「え? ああ、うん。璃々姉ぇ、いつかはそうしたいって恥ずかしそうに言ってた」

「───」

 

 璃々ちゃん……キミならもっといい男を狙えるだろうに……。

 あ、でもそうなると、紫苑がどんな反応するのかは気になるな。

 俺は妹として見てきたつもりだから、娘を嫁にやるよりは多少は、多少~は冷静になれる筈……。

 

「なぁ父よ。もし璃々姉ぇが他の男のもとへ行ったら、父はどんな反応をするんだ?」

「璃々ちゃんが自分から行ったなら、それはもう祝福するだけだろ」

「むう。じゃあ男が言い寄ってきたら?」

「まずはそいつのことを調査だなっ! なによりやさしさと包容力がないとなっ! 外面だけがよくて、恋人とか妻になった途端に私物化みたいにして、逆らえば叩くとかそういうやつだったら───」

「だったら?」

「産まれてきたことを祝福しつつも生きていることを後悔させてくれるわグオッフォフォ……!!」

「父!? 笑い方がおかしい!」

「おおっ!?」

 

 い、いかんいかん、悪魔的な想像が膨らみすぎて、ついサンシャインスマイルが……。

 あれ? でも擦れ違う町人たちには微笑ましい顔で「あっはっは、またですか御遣いさまー」なんて言われてスルーされてますが?

 …………俺、“また”とか言われるくらいにサンシャインスマイルなんてしてるのか? あ、いやいや、子煩悩がって意味だよね? サンシャインがじゃないよね?

 

「けどまあ、あれだな。柄はその“父”って呼び方、変えてみる気はないのか?」

「? おかしいのか、父よ」

「おかしいっていうか……祭さんが小さくなったような容姿でその喋り方って、結構違和感あるぞ」

「むう、私は私なんだが……それに私は母には似ないよう生きると決めているんだ。むしろ父の故郷である……天? だっけ? に生きる人のようになってみたい! にほんーとかいう場所なんだよな!」

 

 どうなんだー! と訊いてきなさる。

 興奮すると口調が乱れるのは遺伝ですかおじいさま。

 

「まあ、そうだな。ケータイの写真で見せたような服とか建物がある」

「おぉお……よくわからない角ばったものがいっぱいだったあれか」

「日本を好きになるのはいいけど、それよりも故郷を好きになろうな。俺も故郷だからこそ好きなわけだし」

「故郷への愛か。父、私は都になにを求めればいいんだろうか」

「ん? んー……買い食いが好きなら、買い食い出来るものの種類を増やすとか? 牛乳も地味に広まってきたし、クレープやアイスの店を作ってみるとか……」

「あいすは知ってる。父のあれは美味いな。でもくれーぷってなんであるか?」

「口調がおかしくなってるぞー。えっとだな、薄く焼いた生地に果物とかアイスとかクリームとかまあともかく美味いものを包んでだな……」

「父、私はラーメンが好きだ。包めるか?」

「無茶言わない!」

 

 輝く瞳で見上げられ、そんな瞳に残酷な返事。そりゃ汁さえ度外視するなら包めなくも無いが……ク、クレープにラーメン……!? ああいや、タマゴトッピングのラーメンみたいなものなのか?

 と、そんな思考の前で、がーん、と聞こえそうなほどに仰け反る娘に、彼女が誰に似たのかをよく考えてみて、鈴々と星を足して、それを春蘭で割ったかのようだと結論づけた。

 姉妹の前では割とまともなのに、俺の前ではどうしてこうも抜けているのか。

 あれか。

 祭さんも誰かの前ではキリっとしてるけど、冥琳が絡むと失敗が目立つアレなのか。

 

「なんていうか……似てないなぁとか思っても、妙なところで娘なんだなぁお前って」

「し、失礼な!」

 

 あ、今のは自分に似てる。なんて思ってしまった。

 

「私は母のようにのんだくれではないし、誰かを巻き込んで、その誰かを理由に酒を飲んでいたーなどという言い訳はしないぞ!」

「行動のたびに邵を巻き込んでるお前が言うか」

「邵とはきちんと“りえき”を認めた上で協力し合っているのだ! 大丈夫、問題はない!」

「利益……へぇ……」

 

 そんなことを考えて行動してたのか。

 子供だとか思ってたら、結構考えて行動してるんだなぁ。

 俺が子供の頃なんか、他人の利益というよりは自分のことばっかりだったもんなぁ。

 

「邵にとっての利益って?」

「父の匂いは動物を引き寄せるから、父の服を拝借して邵に渡すと、邵はその日はお猫様天国で───はう!?」

「前に洗濯に出した服がズタズタになって返ってきたと思ったらお前か! お前だな! お前なんだなぁああっ!?」

「およゎぇあぅえぇあぁああっ!!? すまっ、すまなんだ父よっ! 謝るから揺らすのはやめやぅえぁぇえええっ!!?」

 

 犯人が解ってるのに“お前か”もなにもないものだが、それだって凪が新調してくれたからこそフランチェスカ学園制式学生服【レプリカ】としてここにある。

 恐らくは猫に引っかかれたのであろうあの制服も、随分と思い出深いものだから捨てたりなんかしていないが……いや、あの時は目の前が真っ白になったもんだ。

 つい美以たちを疑ってしまったりもしたが、真犯人はここに居たのだ。

 

「柄……天ではな、子への制裁には昔からの伝統奥義として、お尻ぺんぺんというものがあるんだが」

「ぬ、ぬう……尾死裡貶変……!」

「無理に男塾風にせんでよろしい」

 

 教えたの俺だけど。

 しかしさすがに娘にやるのは残酷だろうか。

 ほら、一応まだ町に居るわけだし。

 

「………」

 

 “この世界で男女差別なぞ笑いの対象では”と思った俺……べつに悪くないよな?

 溜め息ひとつ、掴んでいた柄の肩を離すと、頭を乱暴に撫でた。

 祭さんのように軽く結ってある髪がほどけて、はらりと広がるのもお構いなしに。

 

「うう……なにをするんだ父……。髪を綺麗にまとめるのは、あれで難しいものなんだぞ……? 乱暴にやると妙なところで引っかかって、固結びになったりするし……」

「俺の思い出の詰まった制服はズタズタになったら直らないけどなー」

「ひ、卑怯だぞ父! それを言われたらもはや言い返せないではないか!」

「無断で人の一張羅を取引材料にしてくれた上にたわけたこと言ってんじゃあございません」

「むびゅーっ!?」

 

 両の頬を引っ張ってやりました。

 最初こそ暴れたものの、さすがにやりすぎたと反省していたのか、抵抗もなくなる。

 その抵抗が無くなった時点で俺も息を吐いて、頬を引っ張っていた手を離して……頭をぽむぽむと撫でてやった。

 

「なんていうか、子供だよなぁお前らは。子供、なんだよなぁ……? 当然なんだけど納得出来ないのは、妙なところで子供らしくないからなんだろうな」

「こ、子供なんだから子供なのは当然ではないか。あ、いや……というか、父? 人が見ている……あまり頭を撫でないでくれ、恥ずかしい……」

「魔のショーグンクロ~……!」

「ギャーッ!!」

 

 頬を赤らめ、俯きつつもちらちらと周囲に視線を泳がせていた柄。

 そんな娘の頭蓋にアイアンクローをプレゼントした。それを含めての説教だばかたれ、とばかりに。

 

「お前は痛いよりも恥ずかしいほうが罰になるだろ。ほら、とっとと歩く」

「うぅ……父、他の姉妹らと比べて、私の扱いがぞんざいじゃないか……? 私はやさしい父が好きだぞ……?」

「甘やかしたらとことんまで甘えるだろーが。それこそ俺に迷惑かけるって意味で」

「今まではずっと誰かに迷惑をかけないようにと言われてきたんだっ! それが、今は父が庇ってくれたりするんだぞ! 嬉しいじゃないか!」

「ええいほんとどうしてくれようかこの馬鹿正直娘」

 

 どうやら自分が無茶をした結果で、誰かに庇われるのが嬉しいらしい。

 気の強い柄のことだ、きっと将来も自分を守ってくれた誰かに惚れたりするのだろう。

 その時は……そ、その時は。

 うん、まずはブチノメ……じゃなくて、鍛えてあげようなっ! うん!

 この世界の女性を守るっていうのはとんでもないことなんだから、鍛えないと!

 大丈夫! 愛があれば鍛錬なんてどうってことないさ!

 あの曹孟徳をして無茶と言わせる我が鍛錬の真髄……その全てを叩き込みましょう!

 あと南蛮に連れていって、野生の勘を身に付けさせて、春蘭とか華雄と対峙させても逃げ出さない勇気を持たせて、恋の本気モードを前にしても前を向く勇気を…………───

 

「!? ち、父!? 何故泣いているんだ!? 私が悪かったのか!?」

「へ? あ、あれ?」

 

 なんか泣いてました。

 イヤ、僕ベツニ、今までよく生きてタナーとかしみじみ思っただけで、悲しいことがあったワケじゃないヨ?

 

「あ、ぁあああ……すまない父、すまない……! 泣かせるつもりなどなかったんだ……! 私はただ、甘えてみたかっただけで……!」

「こういう時くらい男らしい口調はなんとかならないのか娘よ」

「涙を流しながら真顔で言われると、それはそれで凄く胸に突き刺さるぞ、父よ……」

 

 改めて振り返ると、なんとも親子らしくない会話である。

 でも親に対する口調がこんなで、妙に態度が大きいのは祭さんの娘らしいのかなぁ。

 ……祭さんっていうよりは、やっぱり鈴々や星や春蘭っぽさが盛りだくさんな気分だ。

 

「ところで父よ」

「話題の切り替えが早いのは母親譲りだよな、絶対」

「いや、反省はした。父を泣かせてしまうなど自分が情けない。だが話したいこととそれはまた別なので、気持ちは切り替えたほうがよろしいではないですか」

「その微妙に敬語みたいなのが混ざる口調はなんとかならないのか」

「じゃあ父が口調を決めてくれ。泣かせた非礼は態度で示そう!」

「ワーイ男らしー」

 

 どうにも性格なのか、柄と接するときは娘と、というより悪友のようなノリでいってしまう。口調や態度に遠慮がないからだろう。

 そしてそれを、俺が受け入れてしまっているからだ。

 しつけをしっかりとする人ならば叱ったりもするんだろうが、一度、まともに接することすら出来ない状況を味わってしまっている俺としては、強く出すぎるということに躊躇を持ってしまっている。

 母親相手ならいざしらず、俺相手ならべつに砕けた口調でもいいかぁ、なんて考えが出てしまっているのだ。だって俺の扱いって、御遣いで支柱なのにいろいろとアレだったし。慣れってやつだ、どーしようもない。

 胸を張ってフンスと鼻息も荒く、「さーこいー!」なんて言っている娘を前に軽い頭痛を覚えた。戦士の力と血が滾ってタックルでもかますんだろうか。

 

「じゃあ試しに。祭さんみたいに喋ってくれ」

「!?」

 

 あ、固まった。

 まさかこうくるとは思っていたなかったのか、視線が泳ぎ放題だ。

 というかさっきから歩いては止まり歩いては止まりで通行人の邪魔になってるな、俺達。

 

「え、あ、えー……そ、そうじゃのう父。わ、わわわ、わー……儂は、あー……酒が好きじゃー!」

「落ち着け」

 

 上手くイメージ出来なかったようで、結局祭さん=酒に行き着いたらしい彼女は、両手を天へと突き出して真っ赤な顔でそう叫んだ。

 ガオーとでも言いそうな、なんとも可愛い迫力しかなかった。

 

「ふはははははは儂は黄蓋であるぞじゃー! 酒を持ってこーい! じゃー!」

 

 そして語尾に無理矢理“じゃ”をつけて、あとは酒を欲する謎の生命体が光臨しなすった。

 こんなところを祭さんに見つかるか、誰かに見つかって祭さんに報告されたらただではすまないだろう。

 なので───

 

1:共犯って素晴らしいよね。(一緒に叫ぶ)

 

2:口を塞いで黙らせる。(手で……手ですよ? 口なわけがない)

 

3:説き伏せる。(祭さんに見つかったら危険だ等の説得)

 

4:チョークスリーパーで落とす。(得られる静寂、生まれる後悔)

 

5:マッスルリベンジャーで叩き潰す。(落ち着け、俺)

 

結論;1

 

 ───え?

 あ、いや……その意気や良し!

 受身ばかりの馬鹿者であったこの北郷、今こそ捨て身に辿り着かん!

 

「酒が好きだぁーっ!!」

「酒が好きじゃぁーっ!!」

 

 天下の往来で叫ぶ親子の姿よ、なんと潔い。

 そしてなんのノリなのか、もはや軽い騒ぎなどいつものことと認めている都の住人は、これもいつものことだとばかりに……一緒に騒ぎだした。

 

「おー! 俺っちも酒が好きだぜぇーっ!!」

「仕事の後に飲む酒は最高だぁなぁ!!」

「だっはっはっはっは! こんなこと、普通堂々と言えねぇわなぁ!」

 

 なんだかよくわからないうちに広がる輪……酒好きたちによる集い。

 騒げば騒ぐほど心が勇気とノリで満たされ、気づけば酒好きのおっさん達と肩を組み足を上げ、「ジョーダンじゃなァーいわよーう! ジョーダンじゃなァーいわよーう!!」なんて騒ぎ合った。

 熱く、厚い絆は自然と酒好きの本能をくすぐり、酒を愛するものはその鼓舞にも似た叫びを耳ではなく心で聞きとめ、この場へと集ったのだ……!

 

「ほおう? 随分と楽しそうなことをしておるのぉ北郷」

『ひぎゃいっ!?』

 

 ……そう。

 きっと誰にも負けないほどの酒が好きな、あの人まで。

 お約束? ええお約束ですとも。

 

(なぁ柄。こんな時……こんな状況に題名をつけて絵にするなら、なんてつける?)

(はっはっは、父はよくわからんことを言うなぁ。私にはもう難しすぎてなにがなにやら)

(そっかそっかぁ。こういう時はね、重要なことを題名にするのが一番なんだ)

(そうなのか。それじゃあ───)

(ああ、それじゃあ───)

 

 サブタイ:振り向けばそこに。

 

「おかしなこともあるものじゃのう。確か我が娘は、酒が大層嫌いであった筈だが……」

「はっ……は、ああ……!」

 

 胸の下で腕を組み、にたりと笑う姿は恐怖の塊。

 なんかもう柄が、武論尊さん漫画のモブっぽい引き攣った声をもらしている。俺もだけど。

 

「酒の味に目覚めたのか? んん? どうなんじゃ?」

「は、はうっ……はうう……!」

 

 軽く腰を折り、自分の顎に手を当てて値踏みするような視線で柄の表情を間近で覗き見る祭さんは、もうわかっててやっているのが周囲の誰もが理解できるほどに楽しそうに柄をからかっていた。

 で、そんな柄はチラチラと俺に、視線で助けを求めてくる。

 

「よし、では酒を飲みに行くとしよう。ああ心配はいらん、儂の奢りじゃ」

「!? だっ───んぐっ!」

 

 あの祭さんが奢り!? 酒で!?

 思わず懲りずに誰だ貴様とか言いそうになるのをなんとか抑え、ともかく驚愕。

 そんな様子を、祭さんがじとーっとした目で見つめてくる。

 ああ、うん。俺もだなぁ。こういうところでの失敗がいつまで経っても少なくできないから、いろいろと苦労を重ねるんだろうなぁ。

 娘に偉そうなことをてんで言えない父親でございますが、今後ともよろしく。

 そんな思いを込めて、ササッと柄の後ろに回り、「うん?」と祭さんが訝しむのに合わせてニコリと微笑む。

 

「祭さん。俺はね、祭さんやみんなと鍛錬をしてきて、わかったことが結構あるんだ」

「ほう? こんな状況で言うということは、重要なことか」

「うん。祭さん、賭けをしよう。俺が勝ったら柄も一緒に見逃してくれ」

「はっ、勝負ときたか。お主が儂に勝負を仕掛けるなぞ、珍しいこともあるものじゃのう」

「どうする? 勝負方法を聞いてから受けるか、このまま受けるか」

「見くびるでないわ孺子。勝負を挑まれれば受けて立つのが武に生きる者よ。戦が無くなったとはいえ、腕を鈍らせるようなことなぞしてはおらん」

 

 当然とばかりに、勝負に乗ってくる祭さん。

 そんな事実に柄の体が強張るが、まあ心配しなさんなとばかりにポムポムと頭を撫でる。

 

「じゃあ勝負ね。俺と柄が城の部屋に戻るまでに、祭さんが捕まえられなかったら俺たちの勝ちで! んじゃゴー!!」

「なっ!? なんじゃとっ!?」

 

 言うや、柄を抱えて全速ダッシュ!

 もちろん氣を弾かせて加速するのも忘れない。

 一歩で相手との距離を殺す歩法に身体への加速効果も合わせ、人が溢れる街の中を駆け抜けていった。

 

「くうっ! やってくれるわ!」

 

 すぐに追いかけてくる祭さんだったが、フフフ……甘いぞ祭さん!

 街、そして祭さんとくれば、上手く身動きが出来ない理由は存在する!

 

「おーいみんなー! 黄蓋様が遊んでくれるってさー!」

「ぬあっ!? 北郷貴様っ!!」

 

 遠慮することもなく叫ぶ。

 するとどうでしょう、丁度その場に集まっていた子供達や、親と一緒に歩いて居た子供たちが、一斉にバッと振り向きその表情を輝かせた。

 

「あー! 黄蓋さまだー!」

「黄蓋さまー!」

「黄蓋さま! 遊んでー!?」

「ぬあっ!? こ、こらっ! 道を空けいっ! 今はちと立て込んでおってじゃなっ……!」

 

 あっという間に街の子供たちに囲まれる祭さんの図。

 そんな光景を自分の肩越しに見つめ、さてととばかりに先を急いだ。

 

「くううっ……おのれ北郷ぉおおっ……! よくもこの儂を出し抜いて……ってこらっ! 誰じゃ今胸を触ったのは!」

「ご、ごめんなさい……わたし、こうがいさまみたいにおおきくなりたくて……」

「こんなもの、大きくても邪魔になるだけじゃっ! 重い上に走りづらい……くっ、なるほどのう、走るという時点で勝利を確信しておったか、北郷め……! って、だから胸を触るでないわ! ええいいつの時代も何故子供はこうなんじゃ!」

 

 いろいろと躊躇がないからだと思います。

 ハンケチーフでも揺らしたい気分だったけど、そんなことをして別の誰かに捕まるのもアレなので、早々にその場から離れ、部屋を目指したのでした。


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