真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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136:IF2/お猫物語②

-_-/周邵

 

 地を駆ける。

 時に跳び、時に滑り。

 そうして追う者の姿は、何度見ても素晴らしい。

 見ているだけで幸せですが、捕まえたら……もふもふしたらとても気持ちがいいのでしょう。

 

「お猫様お猫様お猫様ぁあーっ!!」

「みぎゃぁああっ! しつこいにゃーっ!!」

 

 追いかけっこを始めた日より一日。

 昨日は結局捕まえることが出来ず、さらに帰ってきた時間が時間なだけあって、父さまももう部屋に戻っていました。ちょっと寂しく思いましたが、その代わり一緒に眠ることを許可されたので嬉しかったです。……母さまにはお説教されてしまいましたが。

 いろいろなことを話しました……お猫様の逃げるお姿、お猫様の滑るお姿……。

 途中、木で爪を研いでいるお姿など、もう機会を窺っていたことなど忘れ、飛びつくくらいでした。

 ……もっとも、簡単に避けられてしまいましたが。

 

「待ってくださいべつにひどいことなんてしませんから! ぜぜぜ是非! 是非そのお腹にすりすりを───」

「変態にゃぁああああーっ!!」

「うぇえええ!? ちちちぃいいちちち違いますよ!? 変態さんじゃありません! 純粋にそう願っているだけで、変態さんじゃないのですよ!?」

 

 今日も今日とてお猫様……孟獲さまというそうですが、そんなお猫様を追っています。

 食べ物にも顎すりすりにも動じない恐ろしいお猫様……さすが“だいおーさまです”。

 でも私は変態さんなどではありません! これは純粋な願いなんです!

 お猫様と戯れたい……そんな粉雪のような純白の想いです!

 そんな“純粋”を胸に、今日も今日とて走ります。

 昨日は帰ってくるのが遅かったこともあり、中庭限定の追いかけっこですけど。

 

「いくぞ柄ー!」

「どんと来いだ父ー!」

 

 そんな私を余所に、中庭にはもう一組。

 柄姉さまと父さまが、“きゃっちぼうる”なるものをやっている。

 手に持った球を相手に投げて、相手は“ぐろおぶ”なるものでそれを受け取って、それを相手に投げ返すというものだそうです。

 ただ、その速度というのが───

 

  ヒュゴドバァンッ! ヒュゴドバァンッ!!

 

 ……だったりする。

 風を切る音がしたと思えば、大きな音を立ててぐろおぶに納まる球。

 

「はっはっは! 父! これ面白いなぁ!」

「ちょっ……いいから真っ直ぐなげなさい! 妙なところに投げ……うぉおわっ!?」

「おお! よく取れたな父! さぁ次は私の番だ! 何処にでもこーい!!」

 

 ……柄姉さまが、犬さんのようにはうはうと父さまが投げる球を待っている。

 尻尾があれば、きっと千切れんほどに振っていたでしょう。

 たまに奉先さまのところの犬さんとも球を投げて遊びますが、あれはまさにそんな感じです。

 

「こんのっ……分身魔球ゥウーッ!!」

 

 はうあっ!? 父さまが投げた球が分裂した!?

 

「なっ……なんと!? 父が投げた球が火の球と普通の球に分かれた!?」

 

 ……そして、驚きとは別に普通に取られていました。

 そうですよね、氣で作った火の球と普通の球なら、普通の球を取れば済む話ですよね。

 

「やるな父……! 危うく二つとも取らなければ私の負けなのではという謎の緊張に飲み込まれるところだったぞ……!」

 

 そうだったんですか!? 今の球にはそんな意味が……!

 

「妙な勘違いをしないっ! 子供に火の球本気でぶつけるわけないだろー!」

 

 違いました!?

 も、もうもうもう! 柄姉さまはわざわざ勘繰りすぎなんです!

 そのくせ自分のことはすぐに人任せにしたりして……!

 

「ではこちらも……と言いたいところだが、むぅ。私は父のように変則的な氣の使い方はまだ出来んしなぁ。まだ。うむ、まだ出来ないだけだ。いつか出来る。まあともかくそんなわけなので、ただただ全力でぇえっ……投げるっ!!」

 

 ……! 柄姉さまが本気で投げました!

 対する父さまはただ静かに左手を翳して……

 

「まず左手で衝撃を吸収します」

 

 ひうっ!? す、素手で受け止めるなんて、父さまっ!? ぶあっちぃいんってすごい音が鳴りましたよ!? 無茶は───え?

 

「次に吸収した氣と衝撃を自分の色に変換しつつ、体外を走らせて右手へ。この際、左手にある球は右手に放り投げまして……翳します」

 

 ひょいと右手に投げられた球を、驚いている柄姉さまに向けて翳す。

 丁度その頃に右手に自分の氣と衝撃が集ったのか、翳しているだけの手に軽く挟まれていた球が───

 

「ええとええとなにか適当な名前とか言ったほうがいいのかこれ。え、あ、あー……! リリリリジェクトォオオッ!!」

 

 ───向いている方向。

 つまり、柄姉さま目掛けて、氣と衝撃の集束の分、物凄い速度で撃ち出された。

 

「えわ、うわぁっ!? うぃっ、いいっ!?」

 

 物凄い音を立てた、柄姉さまが咄嗟に構えたぐろおぶの中。

 そこには、ざしゅうう……と未だ回転を続けている球が。

 

「ほ、あああ……!」

「ふわ……」

 

 お猫様を追うのも忘れて、ぴうと駆け寄った柄姉さまの隣で、一緒になってぐろおぶの中の球を見た。

 次いで、こんなことをやってのける父さまを見てみると───

 

「……! ……っ……~くあっはッ……ぁぃぃいっ……!!」

 

 …………もう、これでもかってくらい痛がってました。

 やっぱり素手で受け止めるのは無謀だったみたいです。

 

「すごいな父! 今のどうやったんだ!? 父!? 父!! しっかりするんだ父! 苦しむのはやり方を教えてからにしてくれ!」

「無茶言うねお前!!」

 

 最近思ったんですが、父さまと柄姉さま、急に仲良くなった気がします。

 前までは跳び蹴りをしてばかりだった柄姉さまも、跳び蹴りではなくて飛びつくだけになった気がしますし。

 ……まあ、飛びついてから攻撃にかかることもしょっちゅうですが。

 

「ああほら、なんというかあれだ。左手で受け止めた衝撃を右手から、自分の氣と一緒に撃ち出したんだよ。氣を思いっきり回転させてやって、加速も混ぜて。で、ただ撃ち出すんじゃなくてこう……爆発させるみたいに。覚えてるか? 仲直り前に丕にやったあれ」

「あ……お腹にこうやって拳を当てて……」

「そ。あれを強くしたのが今の。今回のは内側じゃなくて外側にぶつけたんだけど」

 

 それであれなんですか。

 なんだか氣って、本当に不思議です。

 

「父は面白いなぁ。どうすればそんな発想が出来るんだ?」

「天ではね、そういったことの先駆者が笑えるくらいいっぱい居たんだよ……。……紙の中に

「笑えるくらいにか!? 本当にすごいな! 父、父! 私はますます天に興味が出てきましたぞ!」

「だから口調がヘンだって。どうしてお前は興奮すると口調が……うん、なんかごめん」

「へわっ!? い、いきなり謝られたぞ邵! どうすればいい!?」

「私に訊かれましても困りますですっ!!」

 

 騒ぐように話し合っている私を、お猫様……もとい、孟獲さまが注意深く見つめてきます。遠くから。

 樹の陰に隠れるようにして見つめてくるお猫様のお姿……! 可愛すぎます……! もふもふしたいです……!

 

「で、具体的にはどうすればいいんだ父!」

「具体的って……いや、だからな? 受け止めた衝撃を……こう……」

「ふんふん……! で、具体的にはどうすればいいんだ父!」

「ちょっとしか試さないで通販モノにケチつける迷惑客かお前は!! 結果だけを先に求めない! これが出来るまでどれほどかかってると思ってるんだ!」

「大丈夫だ! 父はなんでも出来る! なにせぐうたらに見せかけて実は影の実力者だったくらいだ! 今回もきっと私の想像の上をいくに違いない……! ふふ、父は恐ろしい男ですな……! さ、というわけですぐに出来る方法を教えてくれ」

「祭さん呼んでくる」

「やめて許して私が悪かった母はやめて呼ばないで!!」

「柄さん……きみ、どれだけ自分の母親苦手なの……」

「話していると酒臭いところと胸が大きいところと片手で人を持ち上げられる馬鹿力と空を飛ばされるところが」

「どこの宇宙海賊に恐怖する柾樹さんですかキミは」

 

 真顔で淡々と語る姉さまに、父さまも真顔で返しました。

 うちゅーかいぞくってなんでしょう。

 

「しかし父、父も言っていたではありませぬか。経験した者が次の者に方法と結果を説くからこそ、次の者はより早く上達するものだと」

「へ~いぃ~……? 鍛錬を積むのと楽をするのは、違うからなぁ~? ……な?」

「……わ……わかったぞ、父……。わかったから、その恐ろしい笑顔をやめてくれ……」

 

 物凄い笑顔でした。

 笑顔なのにこう、璃々姉さまがするみたいな黒い氣のようなものがめらりと……!

 それでも柄姉さまが納得すると、よしと言って普通の笑顔で頭を撫でてくれました。どうしてか私まで。

 

「むう……しかし、説かれただけでは上手くできんぞ……。邵、お前は出来るか?」

「氣の扱いならおまかせですですっ! えぇっと、」

「ん? ああ、俺は練習の時、蒲公英に棒っきれで叩いてもらってたな」

「おお……父に意外な趣味がいひゃーっふぁふぁふぁ!? ひふぁい! ひゃめふぇふふぇふぃふぃ! ふぃふぃーっ!!」

「あと桂花から教えてもらった俺に関することは信じなくてよろしい。いいね? 邵」

「は、はい……」

 

 頬を引っ張られる柄姉さまをよそに、私は私で構えてみる。

 と、父さまがお手本を見せてくれるというので、じっくりと見ることに。

 

「いいか? こうやって相手からの攻撃を左手に集めた氣で受け止めて……」

「は、はい……」

「ひゅふ…………」

 

 頬を引っ張られながらも頷く柄姉さまは無駄に強いです。

 というか父さま、右手役を姉さまにやらせるくらいなら、手は離してあげてくださいです。

 そんな視線を受け取ってか、父さまはにっこり笑うと柄姉さまの頬から手を離しました。

 

「おお痛い……! 少し手加減してくれると嬉しいぞ、父……!」

「お前はなんでも鵜呑みにするのをやめることを覚えてくれ」

「む? いやしかしだな、目で見て覚えることは大事だと、孫権母さまが仰っていたぞ?」

「いやいやいやっ! 見たとしても覚えるものとそうでないものくらい選びましょうね!?」

「む、むう……すまない父。当時の私は、少しでも父のことを知ることが出来るのならと、躍起だったのだ……」

「え───あ……そっか。そうだな…………そもそも俺が妙に隠し事なんてしなければ───」

「そして私は父が縛った女性を無理矢理襲う卑劣漢だととある猫耳ふぅどの軍師から知らされた」

「もうなんでもいいから某軍師に罰を下してほしくなったよ……」

 

 ほろりと笑顔で涙する父さま。

 そんな父さまを心配してか、遠くに居たお猫様が走り寄ってきて、その背中に抱きつきます。

 背中というか、後ろから首に抱きついて負ぶさるような形にはうあぁああああっ!?

 

「お猫様いけません! その首は私のものですっ!」

「落ち着きなさい邵! その言い方なんか怖い!」

「美以は猫じゃないにゃ! みんめーの娘でもそれだけは譲れないじょ!」

「いいえお猫様! 私は父さまのお話で真実を知っているのです! 猫の中には特殊な存在が居て、長生きをすると“ねこまた”なる変化になれると……!」

「それただの即興作り話だからね!? 言ったよね!? 俺ちゃんと言ったよね!?」

「父……もうだめだ。ああなると邵は話を聞かないのだ……」

「え? そうなの?」

 

 柄姉さまが何かを言ってますがこれは譲れません!

 そこは私がぶらさがる場所です! あの丕姉さまだってやらないでいてくれているのに、お猫様のように愛らしい存在がそれをやってしまうなんて……!

 

「あ、あの! 父さま!」

「あ……話は聞かないのに自分は言うのね……───あれ? ……ああ、はは、いつものことだった。ああなんだ、俺自然の中に居るじゃないか、ヤッター……」

「父さまっ!!」

「ああ、うん……なんだい邵……。父さんもう次に出てくる言葉が予想出来るんだけど……」

「はい! お猫様もろとも抱き締めていいでしょうか!」

「予想の斜め上を行った!? い、いやいや、普通そこはぶら下がっていいでしょうかって昨日みたいに……!」

 

 昨日? ……言いましたね。

 あの時の私は愚かでした。

 真実に到達しようともせず、嫉妬にばかり揺らされる未熟者です。

 ……しかしです!

 

「……父さま。私……周邵は一つ、とても大切なことに気づいたのです」

 

 心の決意を胸に、普段では胸に秘めたままにするであろう自分の意見を、真っ直ぐに父さまへとぶつけるつもりで見上げました。


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