真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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137:IF2/嗚呼、愛といふものよ③

 しゅうううう……。

 

「うぅううう……」

「いや……うん……正直すまんかった……」

 

 氣を全力で使って、加速で取って加速でぶっ叩きました。

 じゃんけんの際にも雪蓮の指の動きに集中して、薬指と小指が動いたら俺はチョキ、何処にも動く感がなかったら俺はパー、人差し指と中指が動いたら俺はグー。

 それらを正に全力でやった結果……落ち込んでいる呉王さんのお姿。

 ……が、なにやら急にキッとなって俺を睨んだ。

 

「娯楽は楽しむためのものって言ったのは一刀でしょー!? なのに全力でやるなんて、一刀ってば大人げないわよー!」

「その娯楽を冥琳の激怒を浴びせることから始めようとしたヤツがそれを言うかぁあっ!!」

「言うだけなら“ただ”でしょー!? いいわよっ!? こうなったら遊戯室に行って片っ端から勝負といこうじゃない!」

「やらいでかっ! 全部で勝って思い知らせてやる!」

「私だっていつまでも勘だけで勝てるだなんて思ってないんだからね……? 後悔させてあげるわよ、一刀!」

 

 いざ、扉を開けて外の世界へ───!!

 

 

 

「───…………なにをしている」

 

 

 

 ───行った先に般若が居ました。

 雪蓮と二人、燃える遊び魂が一気にコキーンと凍りつく音を聞いた。

 

「は、はああ……! しっ、しししっしし思春さん……!?」

 

 蛇に睨まれたカエル、という言葉を思い出しました。

 ああうん、終わった。なんかもうこれダメなパターン。

 ならばと、そろっと逃げようとする雪蓮さんの首をやさしくやさぁ~しくネックロックして引き止めると、僕は静かに天を仰ぐのです。

 

(片親に重要なことを任せて、片方は遊ぶ。…………激怒でしょう)

 

 雷が落ちた。

 本日快晴、雲のない綺麗な月の夜に、それはもう盛大な雷が。

 静かに怒るタイプの思春にしては珍しく、いや……もう本当に珍しく、顔を真っ赤にしてガーミガミガミと怒られました。

 え? 僕と雪蓮? ええはい、正座です。いつものスタイルにございます。

 眼力だけで自室に戻されて、眼力だけで正座をさせられて、眼力だけで怒られるがままのぼくら。

 これで一応三国と都を合わせての重要人物な二人だというのだから、なんとまあ……そりゃ怒るよなぁ。

 

「貴様私がどんな気持ちであの部屋に踏み入ったか……!! 気配を消して、他国の衛兵の目を潜り抜ける行為までさせておいて、き、きさっ……貴様ぁああ……!!」

 

 ギャアア予想の遥か天空を貫いた怒りをお持ちでいらっしゃるぅううーっ!!

 

「いいぃいいいやあの大丈夫雪蓮からはちゃんと今回の会議の話も聞けてネッ!? そほっ!? そっ……そんなことからいろいろと言い合ってたら、なんか勝負だってことになっちゃってだだだだからあのそのごごごごめんなさぃいいいっ!!!」

 

 必死の言い訳。

 途中から声がひっくり返ってしまったりと余裕もなしに口早に。

 しかし思春さんはきちんと聞く姿勢は取ってくれて、

 

「ほう……? ならばその会議の話とやらを事細かに話してみろ」

(エエエエエェェェェェエエエエエエ!!?)

 

 いやあの事細かって!

 今俺頭真っ白で……! あ、あれ!? なに言われたんだっけ!?

 雪蓮さんなんて言ってたっけ!? あぁああでもここで雪蓮に訊くのは物凄いアウト臭が……!

 

「エ、エート」

「ああ」

「ソノ……」

「ああ」

「………」

「………」

「お、美味しいオムレツを作る時はタマゴは三つじゃなくて二つ───」

「───」

「ギャア待ってやめて鈴音抜かないで現状の恐怖で思い出せなくなってるだけだから話し合ったのほんと話し合ったの信じてお願い!!」

 

 おぉおお回れ俺の思考回路! じゃないと本当にヤバイ本気でヤバイ!

 なななんだったっけ関係者の顔を思い出せばピンと来るはずだ! ていうか雪蓮さん!? この状況で人の慌てっぷり見て大爆笑ってアータ!

 えーとえとえとそうだ華雄! 華雄で……周期! そう! 思い出した!

 

「周期の話! そうっ! み、みんなが夜にやってこないで、俺に精のつくものを食べさせてる理由とかがわかったんだ! ってこれは美以の話を聞いた時点でわかってたことだった! あぁでもそこらへんのことに確信を持てたって意味では決して無駄ではなかったわけで! えーとえーとつまりそのぅ! 結論から言いまして、やっぱり皆様子供が欲しかったというところに落ち着くわけで……!」

「……そうか。わかった、それはいい」

(……ほっ…………ほぉおぅぉおおおぁあああ……!!)

 

 腹の底から安堵の溜め息。

 あからさまにやると睨まれそうなので、長く静かに吐き出しました。

 そんな俺を余所に、思春はちらりと笑っている雪蓮を見て一言。その一言は予想がついたので、即答できる準備をした。

 

「で? 雪蓮さまと遊んでいた理由はなんだ」

「この人が述に負けたのが悔しくて勝てるようになりたいからって僕に遊べって言ってきたんです」

「ちょぉっ!? 一刀!?」

 

 先ほどまでの慌てっぷりが嘘のように、キッパリでいて淡々と説明出来ました。

 そして、説教中だというのに笑い転げていた所為で、思春さんから物凄く鋭い眼光で睨まれる雪蓮さん。

 

「え、えと……うわー……? 思春、なんだか前より怖くなってない……?」

 

 雪蓮さん。知りなさい。

 母は強し。

 それ以外に教えてやれる言葉はないけれど……女性というのはそれだけでも十分なのです。

 

「さて、雪蓮さま。いろいろと唱えたい言もございましょう。しかし一歩踏み込み、私は“母として”言を放たせてもらいます」

「母として!? へ、へぇえ……あの思春が言うようになったわね~」

「うわバッ……こういう時の思春にからかうような言葉はっ……! ぁああ思春さん!? 今のはキャーッ!?」

 

 目を向けた刹那、俺は般若を見た。

 ええ……落雷は直後でした。

 それから説教は続いた。……それはもう続いた。

 あの雪蓮が半泣きになるほどの正論攻め。

 ”~……っ! そのような在り方でっ! 子を欲しがるとは何事かぁああーっ!!”、から始まった彼女の言葉は、返す言葉もない雪蓮さんをとことんまでに追い詰め───

 

「な、なんとかなるわよっ! 私の勘がそう告げているわっ! ふきゃーうっ!?」

 

 勘ばかりがどーのこーの言っていた雪蓮さんがそう仰った瞬間、俺はハリセンを落とすのでした。

 

「ちょ、なにするのよぅ一刀ーっ! い、今そんなことすると泣くわよ!? ほんとのほんとに泣くわよーっ!?」

「ああ、うん……雪蓮……。俺には見えるんだ……。俺か冥琳に子供の世話を任せて、身籠っていたために遊べなかった分を存分にと駆け回る元呉王の姿が……」

「うぐっ……!? わ、私だってさすがに子供が出来ればそんなことっ………………」

 

 …………。

 

「………」

「………」

「………」

「……あ、でも、いつか成長した子供と遊ぶためにも、そういうのは必要いぃったぁあーっ!?」

 

 攻撃用ハリセンと防御用メットが、俺と思春の手によって一閃ずつ放たれた。

 

「よし思春、ちょっと雪蓮押さえてて。今、冥琳先生を召喚するから」

「わかった」

「うわわちょっとやめて!? ここまでやっておいてさらに冥琳はないでしょ!?」

「雪蓮さま。北郷から教わった、教育に向けて語る言葉にこのようなものがあります」

「うぅ……なによぅ」

「───痛くなければ覚えません」

 

 訪れる沈黙。

 その隙に俺は外へと出て、直後に聞こえてくる喚き声。

 俺はゆっくりと呉側の屋敷へ向かい、呉が誇る対雪蓮説教用パーフェクト呉国軍師さまを召喚。

 ……我が部屋が、修羅場となりました。

 

……。

 

 部屋が修羅場と化した俺は、冥琳に何処か適当な場所で寝てくれと頼まれまして、なんだったら私の部屋でも構わんと言われたものの……気になったので邵の……というよりは明命の部屋へ。

 しっかりとそこで寝ていた邵と明命……に、囲まれて息苦しそうに寝る美以をよそに、うわぁい寝るスペースないやー、と結局は冥琳の部屋で寝ました。

 ノックに気づかずに眠り続けるなんて、明命もやっぱり猫の傍じゃあ気が緩むんだろうなぁ。……美以、猫じゃないけど。

 で。明けて翌日の現在。

 

「それで旦那様は冥琳様のお部屋に居たわけですね。驚きました」

「うん、ごめんな。軽く起こしてでも事情を説明しておけばよかった」

「いえいえですっ、こちらこそその、雪蓮様が……その」

 

 呉の屋敷の明命の部屋。

 その寝台に腰掛けて、同じく隣に座る明命と話している。

 邵は……うん、昨日は散々と燥いだせいもあってか、疲れているようで寝惚け眼。なのにしっかりと背中側から俺の首に抱きついていて、時折「うぇぅるぁ~……」とよくわからない声を出してはこっくりこっくりと船を漕いでいる。寝なさい、そんなに眠いなら。

 ちなみに美以は、俺が冥琳の部屋を出てこの部屋を訪ねた時点で逃走。応対してくれた明命もさすがに引き止めることはせず、その時は眠っていた邵は、当然ながら追うことは出来なかった。

 

「けれど、そんなことが実行されていただなんて知りませんでした」

「俺も驚きだったけど……当然だよな。みんな、自分が得たなにかを誰かに……それこそ自分の子供に残したいって思うもんな」

 

 状況説明の都合上、明命にはあのことを話した。

 多少驚いていたものの、やっぱり頷けるところがあったのか、俺を見上げてくる瞳。

 そんな顔をしなくてもきちんと受け止めるからと頭を撫でて、これからのことを少し話した。いえ、房中術の話ではなくて。

 

「朱里様と雛里様にはもう話は通してあるのですか?」

「うん、思春がなんとか説得してくれたらしい。早速今日にでも会議を開くらしいよ」

「……そこでまた、奇妙な誤解が広まらなければいいのですが」

「だよね……」

 

 ちなみに結盟条約違反の話については、コトがコトなので俺に相談出来るはずもなく、朱里も雛里もそのことでは随分と罪悪感を感じていたらしい。

 会議があった日から今日までだ。随分と胸を痛めていたことだろう。急に知った俺も随分と焦ったんだ、その重さを想像すれば、まあ……許そうって思うのは当然だった。

 むしろ……“周期”の話になるけど、全員が全員都合よく別の日に来るとは限らず、むしろ今までが静かだった分、一気に来るんじゃないかって……その場合はもちろん全員相手にしろとのことなので、余計に我が身が無事でいられるかが心配になってきた。

 

「皆様の子供がどんな子になるのか、今から楽しみですっ」

 

 胸の前で手を合わせる明命さんはとても楽しそう。

 俺もそれは楽しみだけど…………その前に自分が無事でいられるかが心配で心配で。

 

「朱里と雛里は誤解を解きますとは言ってくれたみたいだけどさ……。もし春蘭や華雄がそれを余計に曲解したら……」

「…………」

「そっと視線逸らさないで!?」

 

 やっぱりそこは、明命も心配の種ではあったらしい。

 うん、まあ……縄や蝋燭プレイが誤解だったと知らされても、“使い方が違うのか!”とか妙な誤解を誕生させそうなんだよなぁ……特に春蘭。

 ……みんなで食事、行けるといいなぁ。

 昨日は乗り越えられたけど、果たして俺は……春蘭が周期になった際、無事でいられるのかどうか。

 まあ……今は今出来ることをやったり楽しんだりしようか。

 難しいことは難しい時に考えよう。

 

「よしっ、それじゃあ散歩にでも行こうか」

「はいっ! って、仕事は平気ですか? 私は夕刻からですが……」

「ん、大丈夫。少しくらい溜まってからやるのも、たまにはいいよ」

 

 探せばある仕事。たまには探さずに溜めてみましょう。

 もちろん溜めてたら他が進まないっていうなら優先的にやるけど。

 

「ほら邵~、散歩いくぞ~」

「はゆぅ……」

「あ、あはは……“はい”すら言葉に出来てませんです……。では、僭越ながら私が」

 

 珍しく得意顔で、トンと胸を叩く明命さん。そんな彼女が、俺の首に腕を回してまどろみの中に居る娘を───

 

「あ、お猫様です」

「どこですかっ!?」

 

 ───予想出来なかったわけじゃない起こし方で、起こしてみせました。

 なんか、親子って感じでつい笑ってしまう。

 

「は、う、はえっ……? お、お猫様は……」

「邵。散歩に行くから起きよう? お猫様は散歩の時に見つければいいから」

「え? は、はい……? あ、父さま、おひゃよごひゃふぁふふ~……あぅ」

 

 随分とまあ可愛い欠伸だった。明命もくすくすと笑っている。

 顔を真っ赤にする邵だけど、俺の首に回す腕は離すつもりはないらしく、背中というよりは肩に寄りかかるようにして、赤い顔で俺の顔の隣で俯いている。器用だ。

 

「じゃ、行こうか」

「はいっ」

「は、はい」

 

 首に抱きついたままの邵をそのままに、ハンズフリーなおんぶ状態で歩く。

 明命はやっぱりにこにこ笑っていて、邵はなんだかツッコまれないことに首を傾げている。

 そんな時に思い浮かべるのは、門番との会話。

 

(そうだよなぁ、俺ってあまり、人に好きだ愛してるとか言わないよなぁ)

 

 だからまぁ。

 たまにはこんな、当然とも思えるような家族サービスくらいは。

 

「よかったですね、邵。こうして好きな時に抱きつけるようになって」

「はうわっ!? かかかか母さま!?」

「そうだな。俺も飛び蹴りよりはこっちの方がいいかも」

「父さまっ! 蹴っていたのは柄姉さまですっ!」

「そうそう、そうやってもっと、自分の考えを口に出せるようになろうな?」

「はぅうっ!? う、うぅう……父さまも母さまもいじわるです……」

 

 美以を前にしたキミほどではないよと、にこにこ笑顔の裏側でツッコんだのは内緒だ。

 そうやって笑いながら部屋を出た。

 

「うん」

 

 さて、今日もいい天気。まずは朝食を摂って、それから散歩を楽しもう。

 街をぶらつくのもいいし、川へ行って魚を捕ってみるのもいい。景色を楽しむってだけでもいい。

 たまには心を癒して、日々の温かさに癒されよう。

 

 

 ……なんて思っていた俺が、町の片隅で縄と蝋燭を買う春蘭さんと華雄さんを発見、笑顔のままに立ちながら気絶したのは……これから少しあとでした。


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