真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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139:IF2/誇ってくれる、眩しい人①

192/愛しさと切なさと心細さと

 

-_-/かずぴー

 

 刑罰・お尻ぺんぺんが、亞莎によって実行された。

 どうやら相当の“心配&怒り”を抱いたようで、琮のお尻を叩くその顔からも心配の色が滲み出ている。むしろ叩く方が泣きそうっていうのだから、口出しをしようにも出来ない。

 

「はぁ……疲れた……」

「うむ。しかし、呂布と戦う……か。無茶をするな、北郷」

「あ……秋蘭か」

 

 体全体が痛くて立ち上がるのもキツイところに、秋蘭がいつものように腕を組む姿勢で話しかけてくる。

 その横にはさっきから事情の説明を促していた華琳が居て、その隣に春蘭。……春蘭は目を合わせようとはせず、赤い顔のままで視線をうろうろと彷徨わせている。間違い無く夜の行為が原因だろうけど、声をかけたら暴走しそうなので……落ち着くまでは触れないでおこう。

 

「いやさ、俺もべつに好きで全力で戦ったわけじゃなくてね……?」

「だから、さっきからその理由を訊いているんじゃない。なにがあったの? 言いなさい、一刀」

「なにが、っていうか……急に恋が戦ってほしいって切り出してきて、で……俺も強くなりたかったから、よしやろうってことになって……」

「それで?」

「俺は氣が無いとまともに戦えないから、氣の消費を少なくして立ち回るためにも、ずっと避けて、隙をついて、ってやってたんだけどさ」

「ふうん?」

「呂布の攻撃を避ける……なんでもないように言っているが、とんでもないことだぞ、北郷」

「イメージトレーニングの相手はなにも雪蓮だけじゃないから。恋はこう、戦い方が“本能的”っていうのかな。雪蓮に近いんだ。本能……野生? 小細工無しの武力とか野生の勘みたいなやつ」

 

 やっぱり全力でやっても勝てたためしはないけど、逆に未来を目指すために頑張れるってもんだ。ってくらい、頑張ったつもりだ。

 それになんだかんだで加減してくれるしね、恋は。

 

「今のところ、7回まで一気に氣を溜めることが出来るから、それでなんとか6回吹き飛ばして、3回はなんとか立ち回って怯ませて……そもそも一回で終わるかと思ったら十回で、俺のほうがなんでこうなるって感じだったよ」

「そう。で? 何かに気づいて美以の名前を叫んでいたようだったけれど。あれはなに?」

「え゛っ……や、イヤー……ソノ」

「あぁそう、また女絡みなの」

「ヤメテヨ! 決め付けヨクナイヨ!」

「あら。違うの?」

「…………」

 

 違いません。

 

「う、うー……と、……美以に……ね? 強い存在の条件ってなんだ~って訊かれてね? で、俺が十回戦って十回勝てることじゃないかーって言ったから、恋はそれを聞いたんじゃないかなって」

「……はぁ。あなたね、ここまで騒ぎを大きくしておいてなに? 結局は自業自得?」

「こうなんじゃないかって話で誰が三国無双が挑んでくるって考えますかぁあっ!! 自業自得にしたって死ぬところだったよ! もうどれだけ涙で視界が滲んだか! 数えるのも怖いよ!」

「華琳さま……さすがに何気ない話題で呂布と十回も戦うとなると、自業自得の域を凌駕しているかと」

 

 体に力が入らず、崩れた胡坐状態の俺を見下ろして、華琳は溜め息。

 次いで、ちらりと暴れる恋を見やると、

 

「それで? 十回勝ったからあの娘はああなった?」

「じゃ……ないかと」

 

 やれやれ、といった感じで目を伏せて溜め息を吐いた。

 うう、毎度毎度騒ぎの中心でごめんなさい。でも毎度望んでるわけじゃないんです、信じてください。

 

「そう。さて、春蘭、秋蘭」

『はっ』

「最近、私に黙って会議を開いたそうね」

「……華琳さま、それは」

「い、いえっ! 華琳さまっ! あれは黙っていたわけではありませんっ! そ、そうっ、子を持たぬものの会議だったので華琳様は呼べなかっただけなのです!」

「……姉者ぁ……」

「ん、んん? なんだ秋蘭、何故そんな、頭が痛そうな顔をしているんだ?」

 

 秘密裏に行なった会議。それを自ら明かすことを、たとえ華琳相手でも良しとしなかった秋蘭みたいだったけど、春蘭さんがさすがですってくらいにあっさりと暴露してしまった。

 

「───そう。その、悪いことを訊いたわね、秋蘭」

「いえ。そう言っていただけるだけで十分です」

 

 さすがの華琳も、少しばつが悪そうな顔をしている。

 そりゃね、そういえばと口に出した言葉のあとに、全てがわかってしまうことになるとは誰も夢にも思うまい。

 きっとソレをネタに少しつつければいいなくらいの悪戯心だっただろうに……。って、華琳さん、悪いの俺じゃない。睨まないで。

 

「なんにせよ、一刀」

「ハイ」

 

 体がぼろぼろなのに、キリっとした声調で言われるとつい正座をしてしまう。そして痛みのあまりに涙する。嫌だ、嫌だよこんなパブロフ。

 

「なっ……べ、べつに泣くようなことを言うつもりはないのだから、聞く前に泣くことないでしょう!?」

「それ叱るたびに正座させてた人の言う言葉!? 華琳だけってわけじゃないけど!」

「だから別に叱るわけじゃないわよ! ……一言言いたかっただけよ、そう、一言」

「………」

 

 ついつい、ホントデスカ? とばかりに窺うように見上げてしまう。

 と、涙目の男の上目遣いなぞ気持ち悪いのか、顔を赤くしてフイとそっぽを向いてしまう。そりゃそうだ気持ち悪いよ。

 

「一刀。次に恋に挑まれる……いいえ? 誰かに挑まれたりした際には、立会人を用意なさい。そうすれば、相手が興奮してあなたの制止を聞かなかったとしても、その立会人が止めてくれるでしょう?」

「ア」

「……なによ、その“そういえばそんな方法が”って顔は」

「イヤアノアノ……!」

 

 思いつかなかった、とは言えませぬ。

 いや、そりゃ俺だってそういうことを考えなかったわけじゃないよ?

 でもさ、目の前の相手との仕合が終わったあと、立会人だと思ってた人が急に“次は○○の番なのだー!”とか言い出す世界……! 気づけば、そんな人を立たせたら余計に自分が危なくなるだけだと、心でなく体が理解してしまっていた……!

 しかしそれも、ちゃんと相手を選べばなんとかなった筈なのだ。それをなんというか早くも諦めていたということもあって、なんというかゴメンナサイ。

 

「そっか、そうだよなー……なんか、立会人だった筈の人が“次は私の番だー”とか言って武器を取る光景が当たり前になりすぎてて、そういうのを頼むことが頭の中から消えてたよ……」

「……北郷。挑まれたら私に言え。立会人になろう」

「え? あ、ほんと!? ほんとにか!? あとで“次は私だ”とか言わない!?」

「うむ。言わない、言わないから泣くな……こちらの方が泣きたくなる」

「~っ……あ、ありがとう! ありがとう秋蘭! ありがとう!」

「う、うむ……気にするな」

 

 喜びと安堵のあまり、秋蘭の手を取って感謝を続けた。

 そっか、秋蘭に頼めばよかったんだ! そうすれば一人が終わったあとに、その前に戦ったはずの人が“じゃあもう一度だ”なんて武器を手にすることもないんだ!

 や、やった! ハレルヤ! 俺、もうキャーとか叫ばなくていいんだ! おめでとうありがとう!

 

「………」

「……華琳さま」

「わかっているわよ……さすがにこんな姿を見せられては、一刀ばかりに注意を続けるわけにはいかないもの」

 

 ? あ、あれ? 何故か華琳にぽむぽむと頭を撫でられたんだが。なに?

 あの……秋蘭さん? そのとてもやさしいのに微妙に哀れみを込めた目はなに? そして春蘭さん、一層に視線があちらこちらに散っておりますが、大丈夫?

 などと疑問が浮かんだのち、この場に居る全員へと華琳から言が放たれた。

 それはさっき俺が心配していた立会人のことが大半であり、言われた言葉に力自慢の皆様が気まずそうにソッと視線を逸らしたのがとても印象的だった。

 

「以上。何か言いたいことがある者が居るのなら、挙手ののちに発言せよ」

「あ、はい、華琳さまー」

「季衣? なにかしら」

「仕合じゃなくて、遊ぶのだったらいいんですか?」

「………」

「……華琳さま」

「わかっているわよ秋蘭……はぁ。そうね、季衣。あくまで一刀の常識内での“遊び”だったらいいわよ。……一刀も、いいわね?」

「ああ、それはもちろん。全速力で走ってきて腹に頭突きをするだとか、競い合う二人に手を引っ張られた上で全速力で走られて地面を引きずり回されるだとか、鬼ごっこと称して仕事を抜け出したことで追ってきた美髪公から逃げるなんてことじゃなければ」

『………』

 

 ぽろりと出た本音に、集まった一同が深い深い溜め息を吐いた。

 

「……一刀。それは遊びなのかしら?」

「え? えー……と……本人は遊びだって言ってたから、そう……なんじゃないか?」

「誰か、などと訊いたところで、あなたは答えないでしょうね」

「ん、もちろん」

「そう。それじゃあ……季衣、鈴々、それから美以。前へ出なさい」

『はうっ!?』

 

 わあ、すごい。一発でお当てになられたよこの覇王さま。

 そしてそこから始まる説教劇場。

 ここで俺が“俺が言ってしまったばっかりに”なんて思って後悔するのは、いいことなのか悪いことなのか。

 そんな心配が顔に張り付いていたのか、秋蘭がフッと笑って言ってくれる。

 

「たまにはいい薬だろう。こういった時くらい心配を顔に浮かべるな、“一刀”」

「秋蘭……」

 

 一刀、と。そう言われただけで、普段の語調ではあったけど心配させてしまったんだなと受け取れた。……そりゃそうだ、さっきだって恋と戦ったことを心配してくれていたんだ、気づかないでのほほんとしているほうがおかしい。

 

「ほんと、ありがとう。いつまで経っても心配かけてばっかりでごめん」

「なに、それは構わんさ。あまり急激に変わられてもこちらが戸惑う。心配をかけすぎるのも問題だが、お前はそれくらいが丁度いい」

「……どうしていいかわからなくなる言葉だな」

「ふふっ……いや、すまんな。私も少々動揺しているらしい」

 

 ふっと笑って、さっきの華琳みたいにぽむぽむと頭を撫でてゆく。や、だからあの、なんなんでしょうか。もしかして今の俺、子供っぽく見えるとか?

 ……そういえば俺、もう姿が変わらないから、みんなからしてみればいたっ!? あたたたた秋蘭さん!? なにやら急に撫でる手がアイアンクローにギャアーッ!!

 

「うむ……いや、すまないな北郷。なにやら妙な視線を投げられた所為か、つい力が入ってしまった」

 

 女性って年齢的なものに敏感ですよね。いや、逆に男が口ほどに視線で語る生き物だからなのかも。女性って何処を見られてる~とか敏感らしいし、女性は男がそうするよりも“相手の目”を見るらしいからね……。

 でもつい力が入ると、撫でという行為がアイアンクローに進化するなんて初めて知ったよ俺。

 珍しくも悪戯っぽい笑みを浮かべて、秋蘭が春蘭を促して歩いてゆく。

 ほう、と段落を得られたと思うや出てしまう息は、状況に対しての溜め息なのか、ただ単に安心から出た安堵の塊なのか。

 

「父さま大丈夫ですか!?」

 

 動けないし、いっそぱたりと倒れてしまおうかと思った矢先、将の間をくぐるようにして丕がやってくる。その後ろには延も述も柄も居る。

 

「あ、ああ。大丈───」

「みみみみぃいいっみみみ見張り台から落ちたって! その上あの呂奉先さまと十回戦って七回吹き飛ばされてうわーん!!」

「落ち着いて!? な!? 落ち着こうな丕!! なんかすごいごっちゃになってるから!」

「うんん? いや、違うぞ丕ぃ姉。私が聞いたのは、父がこう……奉先さまに吹き飛ばされて大回転しながら見張り台の屋根に激突して、落ちてくるところを子明母さまの暗器で絡め取られて振り回されて、芝生にどしゃあと捨てられたと」

「私が聞いたのは……父さまが新たなる技、竜巻風陣脚で回転しながら奉先様を幾度も吹き飛ばし、ついに解き放たれた校務仮面さまの奥義がご自分もろとも奉先さまを……! あの轟音はそれが原因ですよね?」

「あらあら登姉さまぁ? 延が聞いた限りでは、大回転して突撃したお父さんが奉先さまに打たれて、それを子明母さまが暗器で受け止めて、伝説の“ぴっちゃーがえし”なるものを見せて、また打たれたとか……。述ちゃんもそうですよねぇ……?」

「い、いえ……私が聞いたものは、父上が校務仮面さまとなって、高いところから跳躍しようとしたところを子明母さまの暗器で引き摺り下ろされて、脇腹から落下して物凄い音が───」

「やめて!? なんかもう俺がひどい目に遭ったってことしか合ってないからやめて!? ていうか脇腹から落下してドデカい衝突音とか怖いだろ!」

「いやいや違うぞ父よ、もうひとつ合っていることがある。訊いたわけではないが、きっとこれは総意だぞ」

「えっ? ……いや、どうせぬか喜びだろうし、ろくでもないことだろ。ほら、恋相手に十回も戦って、よく生きてたなーとか」

「な、何故わかったのだ!?」

「どうせなら無事でいてくれて嬉しいって方向での総意にしてほしかったよ!!」

 

 見れば全員同じような驚きの表情。

 ……まあ、うん。実際俺も、よくもまあ手加減されたとはいえ無事だったなとは思うよ。

 最後は全力だったかもだけど、それにしたって恋が自爆したみたいな結果だ。

 ちらりと見てみれば、恋は季衣や鈴々、美以に続いて華琳に怒られている。無茶をするなって感じの説教らしい。いやほんと、もう無茶は勘弁してほしい。

 でもこちらをちらちらと……見ずに、堂々と見てる。目を逸らさない。そんな瞳が段々と潤んでいって、やがて暴れ出して───って、ああ、またみんなが押さえつけに……あそこだけでも大忙しだ。

 

「はぁ……」

 

 ともかくこちらはこちらとして、びゃーと泣く丕を引き寄せて胡坐の上に座らせると、泣き止め~とばかりに頭を撫でる。……おかしいなぁ、丕はもっと凛々しいと思ってたんだが。そりゃ、やろうとすることで悉くポカしたりとか、落としたものを咄嗟に拾おうとして机に頭ぶつけたりだとか…………あれ? あまり凛々しくない?

 おかしいなぁ、かつての嫌われていた頃を思い出してみても、ミニ華琳として考えてもなんらおかしくなかった筈なのに。

 や、そりゃね、急に父親が見張り台から落ちて……あれ? 考えてみれば順序がおかしすぎません? なんで見張り台から落ちたあとに恋と戦ってるんだ俺。しかも“俺が恋を”じゃなくて“恋が俺を”七回吹き飛ばしたことになってて……ああ、うん、泣くね。泣くね、これ。普通にやってたら死んでるよ。もしその当事者が俺じゃなくて丕だったら、俺も当然泣いてたよ。なるほど。

 

「ごめんなぁ、たくさん心配させた」

「い、いえ、いえっ……無事だったら……ぐすっ」

「はっはっは、丕ぃ姉は思っていたより泣き虫だなぁ。まあ、私は父がその程度で死ぬ筈がないと確信していたが。なぁ登姉ぇ」

「ええもちろんよ。校務仮面様たる父さまが、見張り台からの落下程度で死ぬわけがないわ。ねぇ? 述」

「はい、校務仮面さまたる父上がそんなまさか」

「あらぁ~? その割には、登姉さんも述ちゃんも当事者がお父さんと知った時、泣きそうな顔に───」

『なってません!!』

「うふふ~、お二人とも可愛いですねぇ~」

 

 どちらにせよ心配してくれた子供たちに感謝を。賑やかなのはいいことだ。

 ほんと、子供たちとの関係のために踏み出してよかったと、心から思う。


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