真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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140:IF2/約束って恐ろしい①

193/手加減という言葉がとても素晴らしいものだと感じて、ちょっと悲しかった男の子の昼

 

 左腕に込めた氣を右回転! 右腕に込めた氣を左回転!

 そのふたつの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間は、まさに歯車的……普通の嵐の小宇宙!!

 やがてその小宇宙は俺の両腕からミチミチと嫌な音を奏でさせ───

 

「痛ァアアアーッ!?」

 

 そんな小宇宙を前に叫んだ。

 穏に氣で作った風を浴びせたいつかを思い出して、なんとかして風を操れないかなぁと試してみた結果、腕がメキメキ鳴って痛いだけだった。

 腕っていうか、ほら、強風を浴びると顔とかが痛いアレみたいな。皮膚だな。風が出ている間、子供の拷問奥義“ぞうきん”で腕を絞られたような痛みに襲われた。地味に痛い。

 

「思いついたからってなんでもやってみるのはいいけど……無茶はしないようにしよう……」

 

 そもそも自分の関節は、“捻れて回っても平気”なんてものではないのだから。

 

「ふう」

 

 心に段落を持たせるために吐く息は、まだまだ透明だ。

 見上げれば夏の空。

 まだまだ暑い蒼の下、中庭に立って鍛錬をしている。

 ちらりと視線を動かしてみれば、秋蘭と祭さんと紫苑の指導のもと、琮が弓の練習をしていて……

 

「え、えと……こう、ですか?」

「うむ。その姿勢を体に覚えさせれば、とりあえずはどんな場所だろうと矢を射れる」

「おっと、待ってもらおうか妙才よ。その構えは子供には向かんじゃろう。子供の頃から覚えさせるのであれば、この構えがじゃな……」

「祭さん? それを覚えさせると成長してから癖が出てしまうわ。今教えるのなら、このほうが……」

「え? え? こう? こう?」

「違う。呂琮よ、こうだ」

「違うと言っておるだろう、こうじゃ」

「違うわよ、琮ちゃん。こうして……」

「えっと、こう……」

「いや、こうだ。腕は軽く構える程度で、すぐに動かせるように」

「どんな場面であろうと的を外さぬよう、腕はがっしりと構えておけい」

「いい? 琮ちゃん。腕からは弓を構える分だけの力。代わりに足腰は揺れないようにしっかりと───」

「こ、こう? こうですよね?」

「いや違う」

「ええい違うと言っとるじゃろうが」

「落ち着いて琮ちゃん。そうじゃなくて───」

「助けてぇえええええっ!!」

 

 娘も元気だ。元気に……絡まれてる。

 頑張れ、頑張れ琮。

 この都で強く生きるというのは、そういうことなんだ……!

 

「はふ。柔軟、終わりましたっ」

「よしっ」

 

 で、俺は現在なにをしているのかといえば。

 自分の鍛錬の傍ら、禅の鍛錬を見るということをしているわけで。

 監視ともまた違うものの、まああまり変わりはないのだろう。

 

「それじゃあ次は───おぉっと!?」

 

 じゃあ柔軟の次は、と鍛錬内容を告げようとしたところ、腰にどすっと何かが抱きつく衝撃。体を捻るようにして見下ろしてみれば、涙目の呂琮さん。

 

「お、お手伝いさん! あの人たちは鬼です! 悪鬼です! 自分が出来るからって人の型にけちをつけてくるんです!」

 

 ちらりと見てみれば、珍しくも秋蘭や紫苑を含めた三人が、揃って視線を彷徨わせる。……珍しくないのが祭さんしかいないのは、気にしちゃいけない。

 

「三人とも……始める前に手加減してやってって言ったばっかでしょ……」

「う、うむ……そのつもりだったが、思いのほか吸収が早くてな……つい急かしてしまった」

「素直に覚えようとしてくれるのが嬉しくて、つい……すいません、ご主人様……」

「武を学びたいというのであれば、この程度は当然じゃろう」

「うん、祭さんはそんな感じでくると思ってた」

 

 半眼で胸張って、フンスと鼻で息を吐く祭さんに、悪びれなんてものは一切ない。

 でもさすがに、泣く我が子をどうぞとは差し出せない。

 なので休憩と称して、弓使い三人衆の傍ではなくてこちら側で休んでいてもらうことにする。

 

「うう……助かりました。さすがはお手伝いさんです、なんと頼りに……」

「言いつつこちらを全然見ないのは何故ですか呂琮さん」

「だ、だだだだって、眩しくて見ていられませんっ! どうなっているんですかお手伝いさんの顔は!」

「俺普通に立ってるだけなんですが!? “見ていられない”って……! 見て……見ていられない……」

「わああととさま! 大丈夫ですよっ! 禅はっ……わ、私はちゃんと見れるよ!?」

「うう……ありがとうなぁ禅……」

 

 背伸びをしたいお年頃なのか、自分のことを禅と言ってしまうのを直そうとしている禅は、なんというか……うん、背伸びっぷりが可愛い。

 フォローが嬉しかったから「ありがとう」と改めて頭を撫でる……と、何故かその光景を見てぷくりと頬を膨らませる半眼のミニキョンシーさん。

 

「お、お手伝いさん! 私とてべつに見ようと思えば見れます! なので見れたらなでなでしてください!」

「え? お、おお……?」

 

 いつから人の顔を見るって行為は褒美が出るほど高難度になったんだろう。

 けれど“見ていられない”とまで仰った子が、見ようと努力してくれる。それは嬉しかったので了承。

 すると……

 

「~……そ、そう、できますよ、できるのです。ま、まずはそうっ……ちらっと見るだけでも。こう……ちらっ? ───あうぅううう! 目がぁああーっ!!」

「ちょっと何処まで輝いてんの俺の顔! チラ見しただけで目が眩むっておかしいでしょ!? 琮!? 琮ーっ!?」

 

 ちらりと見ただけで顔が真っ赤。

 たっぷりと余らせた長い袖で顔を隠すと、ふるふると震えだした。

 

「………」

 

 亞莎に眼鏡を買った時も、こんな感じだったよなぁ。

 明命に眼鏡のサイズを調べてもらって、二人で贈ったっけ。

 しみじみ懐かしんでいると、真っ赤な琮が袖の間からこちらを見てくる。……おお努力の子。ならばと見つめ返していると、一層に赤くなっていき、ついには───

 

「ひやぁあぅぅぅっ!!」

 

 ───逃げ出した。

 

「逃走は許さん」

「きあーっ!?」

 

 で、見張っていた思春にあっさり捕まった。

 そんな光景も当たり前になってゆく日々の中、笑顔を殺さずに生きていられることに感謝。

 みんなが笑っていられる天下は、目の届くところで叶えられていると信じたい。

 

「お兄ちゃーん!」

 

 平和な日常に……心は度外視すればとっても平和な日常に、思わず顔が緩みだした頃。ふと、禅に向き直った俺へと投げられる声に振り向いた。

 見れば、元気に駆けてくる鈴々さん。

 

「鈴々。おはよ」

「おはよーなのだ! というわけで勝負なのだ!」

「どういうわけ!?」

 

 目の前に到着した途端に勝負宣言が出た。

 ちょっと待ってくれ、耳は正常だよな? 何故にいきなりそんなことに?

 

「勝負って、いきなりどうしたんだ? あ、誰かと戦いたいならあそこに弓がとっても上手な三人が」

「約束を果たしに来たのだ!」

「約束? やくそ───く…………ワア」

 

 約束。鈴々との約束。

 その言葉が自分の中で渦巻いた途端、8年前……蜀に行った時に鈴々とした約束を思い出したのです。

 

  “じゃあ俺がもっともっと強くなれたら、その時は思いっきりやろうか”

 

 ……強く、なってるよね。少なくとも8年前よりは。

 鈴々がなにを基準に俺を強者と認めたのかは知らな───……ア。

 

(間違い無く恋に十回勝ったことですよねそりゃそうですよね!!)

 

 でもちょっと待とう!? 俺まだ無理させた氣脈が治りきってなくてね!? そんなボロボロの体なのに周囲に挑まれ続けるアライなジュニアさんとは違って、むしろ勘弁してほしいのですが!?

 

「よ、よし、やろう。体が本調子じゃないからって、敵は待ってくれないもんな」

 

 けれどそれがどうしたというのだろう。

 言った通り、敵も状況も待ってはくれないのなら、降り掛かるどころか雪崩を起こした火の粉は吹き飛ばさなければ!

 そんなわけで早速とばかりに秋蘭に立会人を頼んだ。

 彼女自身も「早速か……」と少々呆れていたけれど、了承してくれた。

 そうして戦うに到り───俺は、イメージトレーニングをした相手以外とは、そこまで上手く立ち回れない事実を…………空を飛びながら自覚したのでした。

 うん、つまり決着は早々についた。もちろん俺の負けで───

 

「むー! お兄ちゃん本気を出すのだ!」

 

 ───続行だった。

 

「ちょ、ちょっ……思い切り吹き飛ばしておいて本気で来いって、俺が鈴々相手に手抜きが出来るわけないだろぉおーっ!?」

 

 喋りながらも振り回される蛇矛から逃げ回り、説得を試みるも右から左。

 

「恋を思い切り吹き飛ばしていたのだ! あれ、鈴々にもやってみてほしいのだ!」

「簡単に言うなぁあああっ!!」

 

 鈴々の戦い方にはやっぱり型って感じのものはない。

 それこそ本能のままに動いて磨き続けた、“敵を倒しやすい動き方”をしているだけ。けどこれがクセモノなわけで。

 命のやり取りをする戦場でそれらをずうっと磨き続ければ、現代の“本当の敵が居ない場所”でする鍛錬よりもよっぽど成長する。なにせ失敗すれば死ぬのだから。

 お陰で隙らしい隙はあまり無く、見つけたと思った隙もすぐに次の行動の予備動作で消えていく。

 

「っ! そこっ!」

「甘いのだっ!」

「んなぁっ!?」

 

 横に振るってきた蛇矛。それを掴む柄の部分を下からかち上げようとした瞬間、あろうことか強引に力の向きを変えて、持ち上げてみせた。

 もちろん弾かれるのと自分の意思で持ち上げるのとでは隙が明らかに違うわけで。むしろ当たると思って思い切り振った俺こそが空振りに終わって、隙だらけな状態。

 そこへ、持ち上げる動作のままに上段の構えに入った鈴々が、蛇矛を一気に下ろすわけで───あ、死ぬ。

 

「危険には自ら突っ込む!!」

「にゃっ!?」

 

 だったらタックル。

 振り下ろす行動に力が入りきる前にタックルをかまし、その勢いのままに鈴々の横へと逃れた───途端、たたらを踏みながらも蛇矛を横薙ぎにしてくる鈴々……っておおぉおわっ!?

 

「いぃいっつ!? くっは……!」

 

 慌てて木刀を盾にするも、体勢が悪すぎて左腕に喰らってしまう。

 勢いの多少は殺せたものの、なにせ鈴々の一撃。あっという間に左腕は痺れてしまい、距離を取って構え直した頃には冷や汗ばかりが滲み出ていた。

 

「いっちちちち……! さ、さすが鈴々……! あそこからすぐに攻撃なんて……」

「お兄ちゃんが語りだしたのだ! もう騙されないのだーっ!!」

「キャーッ!?」

 

 痺れが消えるまで時間稼ぎを、と思ったら襲い掛かってきた。

 おおおおお! もはや勝つための小細工の大体が通用しない! からかう材料が日に日に無くなっていく七乃もこんな気持ちだったのかなぁ!

 

(───だが甘し)

 

 こういう状況になれば相手は焦って大振りでくる。

 現に鈴々も思い切り振り被りながらの突進だ。

 ふふ……鈴々、恋にやった吹き飛ばすアレを見せてほしいといったね。俺はね、その大振りの一撃を───待っていたんだ!

 

「痺れが回る前に受け止め───…………あ、あら? いやちょっ……既に完全に痺れてらっしゃるーっ!!」

 

 待っていた分だけ不利になった自分が居た。

 持ち上がって!? ちょっ……持ち上がらないとやばいって! ああそうだ氣で動かしてそのままギャアア無理無理こんな一瞬で集中なんてアーッ!!

 

 

  本日の戦いの結果

 

 

    ───空が蒼かったです

 

 

 

───……。

 

 

……。

 

 さて、一応の戦いが終わった現在。

 

「…………」

「やっ……ほらっ……鈴々、機嫌直して……」

 

 俺の胡坐の上に座って、頬を膨らませる燕人さんがいらっしゃった。

 なにが気に入らなかったのか、という疑問は無くて、恋と戦った時より俺がねばらなかったのが気に入らなかったそうだ。

 

「むー、鈴々のいめーじとも戦うのだ! そして強くなるのだ! 戦うのだ!」

「全然これっぽっちもやってないわけじゃないんだけどなぁ……」

 

 むしろあの日から今日まで、全然追いつけている気がしないのが泣けてくる。

 

「俺、あの日から成長してないのかなぁ……」

「きっとそうなのだ。あの時とあんまり変わってないからきっとそうなのだ」

「……ダメ出し二回もありがとう」

 

 遠慮無しに言ってくれるのは、これで結構ありがたいしね。

 などと、若干の悲しみを抱いていると、俺と鈴々のやりとりを見ていた6人がこちらへやってくる。

 秋蘭、祭さん、紫苑に思春、琮に禅だ。

 

「いや、変わっていないということはないだろう」

「ふむ、そうじゃろうなあ。ちっとも強くなっていないと感じるのなら、張飛よ。それだけお主の力も上がったということだ」

「そうよ、鈴々ちゃん。鈴々ちゃんだってずっと鍛錬を続けていたんだから、それに追いつこうとするご主人様が中々追いつけないのも、無理は無いわ」

 

 ……あ、そっか。

 自分を鍛えることばっかりで、周囲も鍛えているんだってこと忘れてた。なるほど、追いつけないよそれは。

 

「相性の問題、というのもあるだろう。この男は心から本気にならないと、基本は逃げ回ってばかりだからな」

 

 思春さん、指差しながら“この男”呼ばわりはやめてください。

 

「にゃ? 心からの本気? …………───あ、そういえばお兄ちゃん、戦う前に“かくごかんりょー”してなかったのだ」

「え? や、そりゃ……まあ、ねぇ?」

「今すぐするのだっ! そしてもう一回戦ってー!?」

「今すぐ!?」

 

 むしろやれって言われて割り切ってやれるほど、簡単なキモは持っていないんだが……!

 ほら、さ? やれと言われてハイって頷くような覚悟なんて………………

 

(……基本、言われて決めてるよなぁ俺……)

 

 誰かに何かを言われて理解することが多いこの世界だ。学ばせてくれる人が多いのだから仕方が無い。とはいえ、体の内側は結構疲れている。治りきっていない氣脈を無理矢理使ったからだろう。

 ではどうするか?

 

1:琮を生贄に捧げる

 

2:禅を生贄に捧げる

 

3:また今度ね

 

4:かかってこいっ!

 

5:足の上に居るんだから擽って勝つ

 

結論:…………3、いや───4!

 

「───」

 

 すぅ、と吸って、大きく吐く。

 鈴々を足の上から下ろすと、頬を二度三度叩いて、逃げようとする心に胸をノックすることで喝を入れる。

 そうしてから自分の道を振り返って、力を求めた理由を確認。

 いたずらに振るうために得た力じゃあないことなんて、ずっと意識の中に埋め込んであっても、時に忘れることもある。それでも胸を叩くたび、“いつかみんなを守るため”、“国に全てを返すため”という意志を思い出し、こうして覚悟は決まるのだ。

 経験を積むことで強くなれるのなら。

 重ねることで、叩きのめされることで、曲がってしまいそうな自分に喝を与えられるなら。へらへら笑って誤魔化すよりは、飛び込もう。……その、死なない程度に。


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