真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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142:IF2/今、ここにあるやさしさ②

 雨の音は一定。

 結構な時間が経っても、勢いは増しもせず減りもせず。

 やがて耳掃除を終えたととさまは、さっきの子明母さまと同じようにやさしくやさしく子明母さまの頭を撫でていた。

 

「……ととさま」

「んー……?」

「……ととさまって、歳……とらないんだよね?」

「………………うん」

 

 思い切って訊いてみると、少しの間があってから頷いた。

 表情はやさしいまま。ただそこに、複雑ななにかが混ざったように見えて、少し悲しくなった。

 

「体はずっとこのまんまなんだろうな。このままで、みんなだけが成長して……多分、俺だけ置いていかれる」

 

 子明母さまの頭をやさしく撫でていく。

 それこそ大切なものを大切にするように。

 

「さっきな、夢を見たよ。真っ白な世界に真っ白な猫が一匹。すぐに夢だってわかって……そこからが不思議でさ」

「うん……」

「暖かいなにかに包まれながら……ああまあ、その暖かさが亞莎のものだっていうのはすぐにわかったんだけどな。不思議なことに猫が喋ったんだ」

「猫さんが?」

「“やさしい顔で泣いている子が居るから、涙を拭いてあげなさい”って。よくわからなかったけど……直後に目が覚めて、気づいたら目の前で亞莎が泣いてた。もちろん目尻に涙があったってだけだし、欠伸してただけって言われればそれまでだろうけど……」

 

 どうしてだろうなぁ。

 そう言って、ととさまはやさしく笑った。

 

「笑顔だったのに、泣いてたんだってわかった。どうして泣いていたのかもなんとなくわかって……。わかったら、ちょっと……生きていくのが怖くなった」

 

 ……驚いた。

 生きていくのが怖い。じゃあ死んでしまうのか。

 そう思ったら、穏やかな空気のなにもかもを壊してでも否定したくなっ───た、瞬間には、もう頭を撫でられていた。

 

「ずっと先の未来で、どうしてもやらなきゃいけないことがある。俺はそればっかりを見て、他を見るのを怖がってたんだよ。ずっと変わらず生きるってことは、誰かの死を見届けるのと一緒だ。残されるほうも悲しいけど、きっと……大切な人を残して逝ってしまう人も悲しい……ん、だよな……」

 

 撫でる手が止まる。

 思わず見上げてみれば、ととさまは今にも泣きそうな顔で。

 けれど目が合うと、すぐに笑顔になった。……笑顔を、作った。

 

「死にたくない。きっといろいろな人が思うことだよな。普通は生きていたいって思うんだ。生きる方を選ぶんだと思う」

「うん……」

「でもな……でも……。ととさまな、初めて……“一緒に死にたい”って思った」

「───!」

 

 嗚咽が混じったような声が耳に届く。

 瞬間、雨の音さえ忘れたような静寂が訪れて、言葉を無くした私はなにも言ってあげられなくて。

 

「苦労して頑張って、一緒に生きて……一緒に笑って。そんな人達を見送るばかりじゃなくて……最後まで一緒に、死ぬことさえ一緒に成し遂げられたら、それは、なんて…………───は、ははっ、だめだよな、こんなんじゃ。やらなきゃいけないこと、あるんだから……な」

 

 寂しそうに笑う。

 ……みんなは……ととさまが一緒に天下を、と走ってきた人たちは、いったいいつまで生きていられるだろう。

 気づいた時には誰も居なくて、たとえばその時に私がととさまの傍に居たとしても、その気持ちをわかってあげられるのかな。

 まだ私たちが居るんだから、なんてことはきっと言えないのだろう。

 誰にだって、代わりは居ない。

 居ないからこそ、こんなにもやさしく、相手を愛しいって思える顔で、人を撫でられるのだろうから。

 

「……どうか。いつか静かに眠る日が訪れても。眠るみんなが……俺を心配せず、笑顔で眠れますように」

 

 ───……その言葉を聞いて、思った。

 ああ、そっか。この人達は……互いに大切に思いすぎているんだ。

 不器用なんてものじゃない。

 これが不器用ってだけの話なら、愛だ恋だなんて言葉だけの飾りだと思う。

 だから、“たとえ未来で自分が泣こうとも、相手が幸せであればいいな”なんて……そんな幸せを願えるんだ。

 もっと自分を大切にしてほしいって言葉は、きっと届かない。

 そんな場所まで届かない自分の幼さが、今は悔しかった。

 

「禅。今言ったこと、みんなには内緒な?」

 

 ……ととさまはずるい。

 そんな泣きそうな顔で言われたら、頷くことしか出来ない。

 ねぇ、延姉さま。延姉さまは“親の弱さを知りたい”って言ってたけれど……辛いよ。こんな弱さは、幼い自分には重過ぎるよ。

 なんとかしてあげたいのに、きっと私もいつか、ととさまを悲しませながら死んじゃうんだ。それは、ととさまがこの都で絆を増やしていけばいくほど広がる、悲しみの連鎖だ。

 街を歩けば声をかけてくるみんなも、いつかは死んでしまう。街で見かける動物たちも、もっと早くに死んでしまうのだろう。ととさまはそんなみんなを、どんな気持ちで見送るのかな。

 「おじいちゃんにならないだけで、寿命で死んだりはしないの?」って訊いてみても、首を横に振って、困った顔で笑うだけだった。

 

「もちろん、心臓を刺されれば死ぬし、自殺だってやろうと思えば出来るんだ。でもな、そんなのみんなは認めないし、そんな死に方で“一緒に死にたい”を叶えるのは違うんだよ」

 

 苦労してきたからこそ、笑い合ってきたからこそ───ともに老いて、ともに死にたかったと。ととさまはそう言って、もう一度私の頭を撫でた。

 

「なぁ禅」

「え……あ、言わないよ、誰にも」

「うん、まあそれもだけどな。……いつか……俺がどうしてもしなくちゃいけないことが訪れた日。俺は多分、この世界から消えてると思う。天に帰るんだ」

「───! ~……っ……う、うん。それで?」

 

 叫び出しそうになる自分を押さえて、先を促す。

 ととさまはくしゃりと少し乱暴に私の頭を撫でると、最後にぽんぽんと頭の上で手を弾ませて、言った。

 

「その時が来たら……それから先のことを、よろしく頼む。この世界の平和は、みんなが生きていた証になる。それは平和が続けば続くほどに眩しく輝くものだろうからさ。だから…………ははっ、そうだな」

 

 表情から寂しさを消すように、ととさまは笑った。笑って……言った。

 

「1800年後。その時代の日本に届くくらい、世界中が羨むくらい、平和で賑やかな国にしてくれ。姉妹仲良く……まあ、たまには喧嘩もするだろうけど、出来るだけ仲良く」

「……その1800年後に、ととさまは居るの? 頑張れば、ととさまに届くの?」

「頑張るよ。そうなるように、俺は未来に向かってる。この世界が外史で、俺が居た場所も外史だっていうなら……きっと叶うから。誰も願ってくれないのなら、俺がそんな外史を願うよ。……だから」

 

 だから。

 いつか戻った天の先で、どうか、自分たちが生きた証が……まだそこにありますようにと。ととさまはそう言って、私のことを引き寄せて、ぎうーって抱き締めた。

 ちょっと苦しかったけど、その分だけ勇気付けられた気がした。

 やらなきゃいけないことなんて、まだまだなんにもわからない。

 私たちがどれだけそれを願おうと、私たちの次の世代や、そのまた次の世代の人が、ととさまの思いを受け取ってくれるとは限らない。

 それでも……願うことは。努力することは出来るのだから、せめて……いつか消えてしまうであろうこんなぬくもりも、別のかたちで届けられたなら……きっとととさまは笑ってくれるだろうから。

 

「う、うん、頑張る。頑張るね、禅も」

「……ああ」

 

 ととさまがどんな方法でそれを叶えるかなんてものは知らない。

 多分、知っても私はどうすることも出来ない。

 ととさまがどんなものを背負って、どんなことをしようとしているのかも、きっと訊いても答えてくれないのだろう。

 そのくせ人には頼るのだから、ととさまはやっぱりずるい。

 

「ん、えと。ととさま。私、ととさまが何をやろうとしてるのかは知らないけどね? でも……それをするとどうにか出来るかもしれないんだよね?」

「そうだな。そのために、愛紗に打ち勝てるくらいになっておかなきゃいけないんだ」

「それってそのためだったの!?」

「へ? あ、ああ、うん……? そう、だけど……?」

 

 なんてことだろう。

 愛紗……うう、許されてても呼びづらい……ええと、愛紗がたまに悲しそうにしてたのを、ととさまは知らないのだろうか。

 急に打倒愛紗ー! なんて好きな人に言われて、嬉しいはずがないのに。

 

「……ととさま。いつか愛紗に謝ってね?」

「え? 俺なんかした?」

「したの! 打倒愛紗とか言ってた所為で、愛紗落ち込んでたんだからね!?」

「へ? ……えぇっ!? ななななんでっ……って、あ、あーあーあー! だからこの前、一緒に食事しようって時に妙におどおどしてたのか!」

「……ととさまぁ……」

「いや違う! そんなつもりで打倒愛紗って言ってたんじゃないっ! ……わ、わかった、ちゃんと謝るからっ……!」

 

 ……もう、本当にととさまは。

 でもよかった。きちんと事情を説明すれば、愛紗だって喜ぶはず。

 それなら安心だ。だから……言いたかったことを、言おう。

 

「あのね、ととさま」

「うん」

「もしね、私たちが頑張って、私たちの……えと、子供も頑張って、1800年後まで頑張って、こんな温かさをととさまの居る“日本”にまで届くくらいに幸せで居られたらね?」

「うん」

「……きっと、“ここ”に帰ってきてね? 日本がどんな場所かは知らないけど、きっと帰ってきてね? その時は、もうととさまを知っている人は居ないかもしれないけど……みんな死んじゃってるだろうけど……ずっと待ってるから。ずっとずっと待ってるから」

 

 だから。

 そんな日がもし来てくれたなら。

 琮お姉ちゃんじゃないけど……いっぱい誇ってほしい。いっぱいいっぱい褒めてほしい。

 どうして天に帰ることが、1800年後に繋がるのかなんて全然わからないし、訊きたいことはいっぱいある。でも、ととさまが頑張ってなにかをしようとしていることくらい、私にだってわかるから。戻った先で、ととさまのことを好きな人が誰も居なかったとしても、せめて想いは届くよう。

 だから、ととさまがみんなと一緒に死ぬことが出来ないのなら、私はそんな父を誇りながら精一杯生きて、死んでゆこう。

 

「……ああ、そうだな。きっと帰るよ。大丈夫、遠距離恋愛は慣れっこだ。家族に向ける愛だって、1800年の壁くらい越えられるよ」

「ほんと?」

「ああ、ほんと」

「うそついたら禅とお姉さまたちをお嫁にもらう?」

「なんでそうなるの!? い、いやっ……大丈夫だから、嘘はつかないから。琮の時もいろいろと誤解が凄かったんだから、娘を嫁にとかはありません」

「うん、そうだよね」

「そうそう」

 

 笑う。

 あれだけ騒いだのにすぅすぅと眠る子明母さまに遠慮もせず。

 ……するとさすがにもぞりと動いて、目を開けた。

 

「ふぁぅ……? あ、あれ……? 一刀様……?」

「まだ寝てていいよ、亞莎」

「ぁ……はぃ……」

 

 さっきとは逆。

 ととさまが言った言葉に心底安心を得たように、子明母さまはこてりと眠ってしまった。

 ……子明母さまって、油断っていうか……隙がある時ってととさまのこと、一刀様って呼ぶんだ……失礼かもしれないけど、かわいい。

 そんな子明母さまの頭を撫でるととさまの顔は、とても穏やかで……幸せそうだ。

 

「……悔しいなぁ。いつかじいさんになっても、こんな風に傍に居て……幸せ、噛み締めたかったなぁ」

 

 漏れたのは苦笑。

 でも、それは諦めのために出たものじゃなくて……悔しくても、目指すものに変わりはないっていう、開き直りみたいな苦笑だった。

 

「まあでも、たとえ歳老いてもやることは変わらないけどね。老いても老いなくても一緒に居るし、幸せなら……姿の問題なんて、二の次だよな」

 

 ───気づけば窓から陽が差していた。

 雨の音はもう聞こえない。

 それと同時にどたばたと走る音が聞こえて、やがて……扉がどばーんと開かれる。

 さて、また日常が騒がしくやってきた。

 ととさまの周りは本当に賑やかで、飽きることを教えてくれない。

 そんな日常が私は好きだし、そんな平和こそを……ととさまが日常と呼べる景色こそを、未来に持っていけるように。

 

「あははっ、はぁ~いか~ずとっ! やっと周期が来たから、今日は寝かさないわよ~?」

「へっ!? 雪蓮!? 周期って……む、娘の前でなんてことを! つか大勢でどうした!? 朝餉ならもう食べたよな!?」

「い、いえ、隊長。今日はその、周期が来た者たちで報告を、と……」

「あー、ええって凪。そんな堅っ苦しいのは無しにしよ。大事なのは雰囲気作りや。な~、一刀~?」

「おーっほっほっほっほ! 周期だか瘴気だか知りませんけれど、なにを為すにももちろんっ! このっ、わ・た・く・し・がっ! 先ですわっ!」

「よくわからんが、麗羽姉さまと一緒なのは怖いのじゃ……じゃ、じゃがの主様っ、妾頑張るゆえ、今日からよろしく頼むのじゃっ!」

「まあ、そういうことだ北郷。どういう巡りあわせなのか、この面子が周期に入った」

 

 でも。

 入ってきた人達の賑やかさを前にしたら、なんだかそれも、そう難しいことじゃないように思えてきた。

 ととさまは、入ってきたみんなを前に「冥琳……きみもなのか」って、驚きと困惑を顔に貼り付けた大変な表情になってる。

 

「あ、ちなみに遅れてくるけど愛紗と鈴々もだそうよ?」

「…………」

 

 あ、固まった。

 

「しぇ、しぇしぇしぇ雪蓮さ、ん……? あの、俺、ついさっきまでとっても暖かな平和の中に───」

「へー。じゃあ夜を待つのも面倒だし早速始めましょ?」

「最後まで聞いて!? つか今亞莎が眠ってるからっ!」

 

 振り回されていく。

 けれど子明母さまもみんなの気配に目を開けて、集まったみんなを前にぱちくり。

 直後に瞬間沸騰した顔を長い袖で隠して、物凄い速さでゴシャーアーと走り去っていってしまった。

 

「………」

「………」

 

 ととさまと目が合った。

 そして多分、同じことを思ったという直感があったので、我慢することなく口にした。

 

『平和って……儚いね……』

 

 それでも大切に思えるのだから頑張ろう。

 まずは知らないことを覚える努力から、だよね。

 

「ねぇ公瑾さま。これからととさまとすることで、なにが出来るの?」

「ぬぐっ!? あ、ああ……ええっと、それは、だな……」

「あははははは! 冥琳がこうまで狼狽えるなんてめずらっ……ぶふっ! 珍しいわねあははははは!!」

「ならお前が言えばいいだろうっ、雪蓮っ!」

「私? べつにいーけど。そうね、禅。───子供が出来るわ」

『直球すぎだぁーっ!!』

 

 ととさまと公瑾さま、絶叫。

 べしびしと叩いたりでこぴんしたりで、伯符さまがキャーキャーと痛がっている。

 でもそっか。子供が出来る……子供。

 

「禅もやる!」

『しぇぇえええれぇえええんっ!!!!』

「え、えっ!? これ私が悪いのっ!? 言えって言ったのめーりんじゃないのよーっ!!」

 

 頑張るって決めたから、じゃあ早速未来のために子供を作って……と思って、言った途端。ととさまと公瑾さまがまた絶叫して、今度は伯符さまの手首に指二本を添えて、びしゃんびしゃんと叩き始めて……

 

「いたいいたいいたいってば痛いーっ!!」

 

 あぁ、あれ、遊びの時の罰げーむで、しっぺとかいうのだ……痛いよね、あれ……。

 

「あー、ほら、な? 禅ちゃん? それをやるにはまだちぃ~っとばかし早いなぁ。もうちょいおっきくなってから、好きな相手にでもゆーてみ? きっと相手、骨抜きやで?」

「し、霞さまっ、子供に言うには早すぎますっ!」

「あら、べつによいではありませんの、えー…………と……楽進さん? 一刀さんなら誰でもいけますわ。なにせわたくしが、このわたくしがっ! ……認めた殿方ですものおーっほっほっほっほ!」

「……やっぱりこのねーちん、何をやるのかいまいちわかっとらんのとちゃう?」

「はい、恐らくは……あの、袁術殿は、なにをするかは……」

「うほほ、もちろんわかっておるのじゃ。七乃の嘘も見破った今、もはや妾に間違いなどありはしないのじゃ」

「見破ったっちゅーか、普通に七乃が自爆しただけやろ……」

 

 よくわからないけど、私ではまだだめらしい。

 ……そっか、お腹に出来るんだもんね、子供って。

 私まだちっちゃいし、子供が出来たら……お腹が破裂しちゃう!?

 

「う、うん、わかった、もっと大きくなってからにする」

「お~♪ 聞き分けのい~娘ぉは好きやで~? それに禅ちゃんやったら大人になれば男のほうから寄ってくるから安心しぃ」

「そうなのかな」

「はい。公嗣さまは大変可愛らしくあります。……隊長も気が気ではないでしょうが」

「あっはっはっは、それはそれで楽しみや~ん♪ 可愛い娘に言い寄る男に目ぇ光らせんのも、男親の義務みたいなもんやって一刀もゆーとったし」

 

 うう……あんまり言われると、どう返していいのかわからない。

 くすぐったいし照れちゃうし。

 

「えっと……そんで? このねーちんが一番っちゅーことやけど」

「え~ぇ、何をおいても一番はこのわたくし、袁本初であるべきですわ」

「……ちなみに経験は?」

「経験? なんですの?」

『………』

「あの、袁紹殿? 以前夜の会議に出ておられましたよね? あの会議がどんなものかは……」

「あああれですの? 猪々子さんと斗詩さんがこそこそと動き回っていたから、捕まえて案内させただけですわ」

『………』

 

 な、なんだか妙な雰囲気になってきた。なにこれ。

 ととさまもなんだか本初さまを見てぽかんとしてるし。

 

「あー……一刀のこの顔から察するに……」

「なるほど、まだか」

「それでいっちゃん最初~言う勇気……気に入った! ウチはべつにかまへんけど、他はどうするん?」

「わ、私はその、最後でも……愛していただけるのなら」

「妾もべつに構わんぞよ? それにしても……妾、知らぬ間に先んじておったのじゃなっ! うははははっ、麗羽姉さま、頑張るのじゃー!」

「頑張りなど必要ありませんわ~? 何事も出来てしまうからこそ、このわたくしは───」

「じゃあ早速準備しましょ」

「ちょっと雪蓮さん!? 最後まで言わせてくださる!?」

 

 そうして、“準備”が始まったみたい。

 ととさまはしきりに本初さまのことを心配していろいろ言ってるのに、本初さまは「何が来ても華麗に対処してみせますわ!」って、聞く耳を持ってくれない。

 

「おっと、こっから先はちぃと目に毒や。よかったら走ってった呂蒙ちんを追ってやってくれん?」

「あ、う、うん。えっと……よくわからないけど、頑張ってねととさま!」

「ぐっはっ! こ、ここも頑張りどころなのか……!? そりゃ未来的にはそうなのかもしれないけど、だってえっと……あぁああ麗羽!? 麗羽! 本気!? 本気でやるつもり!? 今ならまだ間に合うぞ!?」

「おーっほっほっほっほ! 臆することはありませんわぁ~? 一刀さんも認めるこのっ! 美しくも可愛い袁本初! ……どんなことでも華麗にこなしてみせますわっ!」

「いやっ、そんな胸張ってる場合じゃなくてさぁっ!」

「ほらほらいーからっ! 早くやっちゃいなさい一刀っ!」

「北郷。本人が“やる”と熱望しているんだ、断るほうが失礼だろう」

「ほ、他の者のまぐわいを見るのは初めてじゃの……うみゅ、なにやら緊張するのじゃ……!」

「一刀~? 一応やさしくしたってな~♪」

「隊長……。せめて、やさしく」

「止めてやるのもやさしさだと思うんだよね俺!!」

 

 部屋を出て、ぱたんと扉を閉めた。

 なんだかもう振り返ってはいけない気がして、何処に行ったのかもわからない子明母さまを探して、走ることしか出来なかった。

 う、うん、頑張ろう。

 出来ることをやっていけば、きっといつか平和な未来に……

 

「なっ!? ちょ、なにをなさいますの雪蓮さん! 急に服を脱がそうだなんて!」

「まーまーまーまーまー!」

「ちょっと張遼さん!? 何処を触っていますの!?」

「まーまーまーまーまー!」

「ま、まあ? 同姓さえ虜にしてしまうこのわたくしの美しい体が悪───ってだからなぜ脱がしますの!?」

『まーまーまーまーまー!』

 

 いろいろ聞こえてきたけどだだだだ大丈夫! 禅頑張るよ!?

 今は子明母さまを見つけることが先決だもんね! 頑張る!

 耳を塞いで走った。

 なんだか……これからちょっぴり、ととさまの部屋に行きづらくなってしまったように感じるのは、気の所為だよね……?




404話目。
404って数字って、なんだかソワソワしますよね。
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