真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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145:IF3/騒がしさの大元①

197/歴史の基盤、銅鏡の欠片、そして

 

 そんなこんなでいろいろあって、我が自室へ。

 中庭の東屋に近い通路のさらに奥にいった先にぽつんとあるそこで、ようやく俺達は心から息を吐けた。

 

「たは~っ、こらいろんな意味でたまらんわぁ。なぁかずピー? これってば夢やな? 夢やないと俺いややで?」

「ああ夢だよ。間違い無くね」

 

 ただし胡蝶が飛んでる。言ってしまえば、それこそさまざまな“願って創られた世界”なのだから、夢以外のなにものでもないのだろう。

 

「なぁんややっぱ夢かぁ。そら、こない都合のええ現実なんてあるわけないわなー。ま、そんでも恐怖はホンモンや。かずピー、いろいろ聞かせてもらうで?」

「ん、わかってる。とりあえず前提として、これは夢である。OK?」

「おー、おっけおっけ、俺理解力だけはあるつもりやし。感覚鋭い夢も見たことあるわ。その延長やでこれ。そーに違いないわ」

「……“理解力”と“めんどいから適当に流す”のとじゃあ違うって、ちゃんと受け取っといてくれな」

 

 そうして説明開始。

 細かいところは適当に砕いて、大事なところをきちんと教える感じで。

 

「ほへー? つまりなんや? かずピーはこの世界に天の御遣いとして降りて? 孟徳さまと一緒に戦って天下統一して? 一年前に帰ってきた時のかずピーがそん時のかずピーやったと」

「ああ、そういうこと」

「なるほどなー。んでかずピー? 俺がこの世界に降りた理由はなんやねんな? 俺べつにそのー……最初のかずピー? とのことで関係なんてあらへんやん」

「それなんだけどな。お前が願ったアレな考えが、歴史にいろいろと影響を与えてる可能性がひっじょーに高いことがさっきわかった」

「えー!? なんでー!? 俺べつになんもしてへんやーん!」

「あー……そうだなぁ。あ、ほら。フランチェスカに歴史資料館が出来たよな?」

「あーあれなー。俺が誘ってもかずピー一緒に行ってくれんかったやつなー」

 

 お陰で作文大変やったんやでー、なんてぶちぶちこぼす及川に、一言質問。

 

「遺物とかを見てどう思った?」

「へ? そら……壷見た時、これにはメンマが大量に入ってた~とか、鎧を見れば、実はこれを着てたんは女の子で、そんな格好のままマニアックなエッチしてたんや~とか」

「やっぱりお前も原因かぁこの馬鹿ぁあーっ!!! おぉおおお思わぬところで別の原因が見つかったわァアアア!!」

「え!? なに!? 俺なんかやってもーたん!?」

 

 ……貂蝉さん、一刀です。

 俺と左慈だけじゃあありませんでした。

 どうしましょう、この事態。

 

「おかしいと思ったんだよ! 左慈が“歴史っていう基盤”、俺が“割れた銅鏡の欠片の軸”、じゃあ他の登場人物の像は!? って考えて、どうして女の子だったのかとか! どうしてメンマだったのかとか!!」

「え? 別におかしないやろ? なんやメンマやったら昔っからありそーなイメージあるし。登場人物もむっさいおっさんよかべっぴんさんのほうがえーし。頭の硬い軍師さんなんて、ちっこくて可愛いか色っぽい女教師さんみたいな人のほうがえーやん。むっちむちでー、黒髪でー、こ~……眼鏡なんかつけてやなー……♪」

 

 うわぁい殴りたいこの笑顔ー。

 ていうか最後の外見、思いっきり冥琳じゃないか。

 

「あ、ところでかずピー? さっき集まっとった人ら、なんや俺の理想のまんまの女の子ばっかやったんやけど、やっぱ彼氏とかおったりするんかなぁ。まだやったら俺、あの猫耳フードの子ぉに……」

「…………」(←ついこの間、罰としてアレコレいたしましたとは言えない)

「でもあの孟徳さまは~……あれやな? かずピーにぞっこんやな」

「……へっ!? そうなのか!?」

「はぁ……かずピーといいあきちゃんといい、なんでこう鈍感やねん……あんなぁかずピー? あないあからさまにちらっちらかずピーんことばっか見とったら、普通気づくやろ」

 

 いや、あれプルタブをどうするかで不安になってただけです。断言します。

 でも鈍感って部分は素直に受け取る。困ったことに、乙女心なんてまだまだわからない俺だから。

 

「……で、なんでよりにもよって桂花……文若なんだ? あ、文若っていうのがあの猫耳フードだから」

「ぶんじゃくちゃん言うんかー。かわえかったなー。あ、そんで理由やけど。……あん中でいっちゃんかずピーんこと嫌っとったみたいやから」

「うわーいわっかりやすーい」

 

 思わず口から棒読みな言葉がこぼれた。

 あんな状況だったのに抜け目なく見てるなぁ。

 余裕もなく人のことを盾にしておいて、実はいろいろ観察してたのか。呆れた観察眼だ。

 

「これでも人を見る目はあるんやで~? せやなかったら新しい恋なんて追えへんもん」

「……見る目があるならフラれ続けてないで一発でキメろよ……」

「ぐさっ……ひどい! かずピーひどい! 俺かて好きでフラれとんのとちゃうもん! 俺はただ、燃えるような恋が……過去を忘れられるくらいに熱い恋がしたいだけやもん!」

「や、だからさ。一回目で」

「……一回目が本気すぎたからいかんかったんやん……。親友殴ってでも手に入れたかったんやもん……」

「………」

「………」

「……え? 殴ってでもって、章仁相手に?」

「だー! もうこの話やめよ! な、かずピー! な!?」

「え、あ、お、おう……?」

 

 額あたりを紫に、目の辺りを赤く、頬辺りを青くするという相変わらず怒った顔が恐ろしい及川の迫力に負けて、つい頷いてしまう。

 ……まあ、そうだよな。だめだったっていうなら、思い返すのは辛いだろう。

 

「暗い気持ち払拭するためにも、なんか明るい話しよ! あんな大人数のべっぴんさんらに囲まれとんのやから、ちっとくらいアハンな話とかあるんやろ? かずピー」

 

 ちょっとというか…………うん。

 これ、馬鹿正直に話していいこと……じゃないな、断じてない。

 事後をカメラに納める以上にない気がする。

 

「い、いや、俺より……及川のほうはどうなんだ? 俺としてはむしろこっちでの生活が長すぎるくらいだから、久しぶりにそっちの話が聞きたいかなーって」

「聞きたいもなにも、俺かてさっきえーと、天? で、シャワーに行くかずピー見送ったばっかやし。情報なんてたぶん変わってへんよ?」

「それでもだよ。鍛錬ばっかで、情報なんててんでだったんだ。どんな話でも新鮮に聞けると思う」

「……そか? まあ、かずピーがそこまで言うんやったら」

 

 こほん。

 珍しくわざわざ咳払いから始め、彼は語りだした。

 

「なぁかずピー。アニメとか漫画の水着回ってなんの意味あるんやろなぁ」

 

 直後に殴りたくなる俺が居た。

 

「俺なー? 女の子の笑顔、好きやねん。でも一回目の痛烈な失恋のあと、わかったことがあるんねんけど…………俺、恋してる女の子の笑顔が好きやってんなぁ」

「恋する女の子の? ……へぇ」

 

 あ、なんかわかるかも。

 ほにゃって安心するみたいな笑顔を見ると、“あ、可愛い”って思うよな。

 ……それが恋する乙女の笑顔かどうかなんて、俺にはわからないわけだが。

 

「で、水着回に戻るんやけどな? あんな動き止めながらウフフ言うだけの回に、恋する乙女のウフフ劇場以上のどんな価値があるっちゅーねん。普段より多い肌の露出? いーや、そないなもんと恋する乙女を見守るハラハラ感は秤に合わん。もちろんこれを秤に出すんやったら外せんのは───」

「続けて温泉回とかぬかしたらグーで殴る」

「………」

「………」

「デコピンに負かられへん?」

「引き下がる選択肢を作れ」

 

 やっぱり及川は及川のようだ。

 ちょっと安心するとともに、妙に力が抜けている自分に気づくと……苦笑が漏れた。どれだけ頑張ってみても、馴染んでも、力というものは入ってしまうようだと実感。

 仕方ないよな、慣れれば慣れるほど期待される場所に居るんだし……みんなが上手くやっている中で、自分だけ失敗っていうのも嫌だし。それに何より……国に返したいって思いが全く消えないのだ。

 

「ほんなら別の話やな。ここに住んどんのやったら、ほれ、こー……むっふっふ、お風呂覗いたりとか~……やったことあるんやろ?」

「いや、ないな」

 

 覗くどころか一緒に入りました。

 はい、もちろん言いません。

 

「かーっ! このへたれっ! ジブンそれでも男かいっ! かずピーはまさかアレかっ!? オトコの園でごきげんようなんかっ!?」

「うん、時々思うんだ。俺、漢でいたかったナーとか」

「? 男やないんか?」

「や、漢な。こう、さんずいの方の」

「男と漢って……なにが違うねん。……ハッ!? やっぱりアニキ的なアレなんか!?」

 

 どうしてこいつはこう、妙にホモチックに走りたくなるのだろうか。

 早坂(兄)と一緒に居る時も、彼に向けて唇突き出していた時とかもあったしなぁ。

 まあ、例に漏れずBAQQOOUUUNと殴られてたけど。

 

「意識の違いだろ。ほら、男っていうのは女にだらしがなくて、漢っていうのは力強く守る~みたいな。もちろん男女差別せず守る方向で」

「りょっ……両刀使いっちゅうやつやなはぐぅんっ!?」

「そういう意味じゃねぇよ! ───ハッ!?」

 

 しまった口調口調!

 いやまずい、及川が相手だからか、どうにも前までの口調が……!

 ていうか結構強く殴っちゃったんだけど大丈夫か!?

 

「やー、せやったら俺、漢っちゅうんは無理やなぁ。俺、女の子好きやし」

「………」

 

 なんかケロリとしてました。

 

「……えと。殴られたところ、痛くないのか?」

「フッ……甘いなぁかずピー。そんな拳で俺を倒せる思っとったんか? 男のツッコミの拳なんぞ、女の子にビンタされてフラレた時の痛みに比べれば軽いもんやでっ!」

「………」

「………」

「……お茶、飲むか?」

「……おおきに」

 

 茶器を使ってお茶を淹れる。

 もう手馴れたそれで振る舞うお茶は、及川に長い長い溜め息を吐かせた。

 

「俺かて……俺かて好きでフラレとんのと違う。とっかえひっかえ言われようと、これでも真面目に付き合うとんねんで? けど、いっつも最後は“私を通してどなたかを見ていらっしゃるのね”とか言われて……。俺、そないなつもりも自覚もないのに、そんなんあんまりやん! だからかずピー! 俺……この夢の中で女の子と付き合ぅて、もっと経験積んで乙女心っちゅーもんを学んでみよ思うんや!」

「……えーと。出鼻挫いて悪い。あそこに集まってたの、ほぼ全員……えーと、人妻、でさ」

「んなぁっ!? ……あ、んあぁ……ああまあ、うん、せやろなぁ、なんか納得出来るわ……トホホイ。ほんならあのー……まだちっこかった子ォを今の内に俺に惚れさせて、将来的には~……」

 

 あ。なんか俺の中でスイッチがゴキィンって。

 口が勝手に動いた。こう、ヴォソォリと囁くように、殺気をこぼしながら。

 「───娘に手ぇ出したら氣も込みで全力で殴る」って。

 

「ウヒィッ!? やちょぉおおちょちょちょ何事かずピー!! なんか今めっちゃ寒気が! え!? なに!? 今かずピーなんて言ったん!? ねぇ!」

「あっはっは、なんでもないぞーぅ? ところで誰を誰に惚れさせるってー?」

「あぁ、あっはっは、ほらあの子やって。あの黒の混ざった金髪の、ツインテールのちっちゃな」

「よし。忘れずに墓碑に刻むから眠れ。迷わず……いや、迷ってもいいからとっとと眠れ。大丈夫、立派な墓を作るよ。ところで刻む名前はビッグタスクドリルでよかったか?」

「俺いつからマンモスマンになったん!? “たすく”は合っとるのに前後に余計なもんついとる所為で必殺技になってもーとるやないかい! ってかなんで殺す気満々やねん!」

 

 なんで? なんでって……及川が丕を自分に惚れさせるなんて言い出したからだ。

 もしそれが叶ったら、及川が俺の義理の息子に……!?

 

「なぁ及川。日本じゃ昔っから、娘を男に託す時って相手を殴るっていうよな」

「へ? あ、あー……そういうんもあったなー。あ、やっぱかずピーん家も古い家系言うとったさかい、そーゆーのあるん?」

「そうだな。託すわけでもないのに全力で殴りたい」

「うん。なんでかずピー、それを俺見て笑顔で言うんやろなー?」

 

 二人して笑顔。笑顔は威嚇の意味もあったという伝説がありますが、及川よ。その質問の答えなら、理由ならさっき言……───思っただけだった、すまん。

 

「なんか背筋ぞくぞくするから別の話、しよ。そんでえーと、文若ちゃんも相手がおるねんな?」

「……まあその、一応」

「へー……ほんなら孟徳さまの相手って誰やねん。かずピーんこと見る目、随分と信頼を置いた目ぇに見えとったんやけどー……それでも他に相手おるん? それともかずピーの独り相撲?」

「そうだなぁ。主に俺が空回ってる感じは、確かにあるかも」

 

 好きって言われた時の喜びはとんでもないものだった。

 それでも今も空回りをすることは度々あるのだから、なんとも上手くいかない。

 そうなる度に、やっぱり丕は自分の娘だなぁとニヤケるとともに申し訳ない気持ちになるわけで。こんな空回りファーザーですみません。

 

「ほふぅん? ま、女の子の話もえーけど、ちぃっと真面目な話もしよか。俺が原因の一部みたいなよーわからんことゆーとったけど、結局なんのことやねん」

「……及川。お前ってさ、普段おちゃらけてるのに、真面目な時ってどうしてそう核心にずずいと踏み込んでくるんだ」

「あほやなぁかずピーは。おちゃらけてるからこそ周りから情報を得られて、ここぞって時に真面目なこと言うから芯の方で信頼されるんやん。相手がほんまに困る軽口は言わん。変わりにそういうとこつついて、相手のもやもやを引きずり出して吐き出させる。“友達”っちゅーんはな、かずピー。そん時大事なやつを傍で見といて、相手が困った時に客観的な助言与えられるくらいが丁度ええんやって」

「あー……“自分で気づかなきゃ意味がない~”とかか?」

「あ、それ違う。俺もうそれ、あきちゃんの時で懲りたわ。あーゆーのんは言ってやらな最悪の状態まで落ちる。そっから助言出しても“俺は悪くねぇ”的な妙な意地張ってもーて話にならんから」

「……まあ、確かに早坂兄って妙な集中をすると、人の話を聞かないところはあったよな」

「普段はそこをつつくのがおもろいねんけどなー♪ けど、いきすぎると話は聞かない、人の所為にする、自分は動かない。そーゆーひどいことになってまうわけや」

「そういう時は?」

「そら、わからんアホや動かん機械は殴るに限るやろ」

「……なるほど」

 

 想像した通りだったわけだ、このばかものの生き様は。

 普段は重くないけど、いざって時は本気で向き合ってくれる。そういうタイプの馬鹿のようだ。

 

「で、俺が原因って話やけど」

「いや、そこ別に流してくれてもよかったんだが」

「俺が知りたいのに流してどないすんねや! ……そんで? いろいろ話してくれる約束やろ?」

「……まあ、うん。えっとな、この世界はな、あー……人に願われて作られた世界だ」

 

 頭をコリコリと掻きつつ頭の中で軽く纏めながら、言葉にする。

 どう説明したものか。

 これでも成績はいい及川だから、理解力は無駄にあるはずだ。

 それも踏まえてどんな説明を……と。

 

「おお、つまりこの世界には俺の願いも影響されとるわけやな?」

「“も”っていうか、ほぼだと思うぞ」

 

 反発することなくあっさり受け入れた。

 説明しておいてなんだけど、それでいいのか及川よ。

 夢だから、っていう前提としての受け入れやすさもそりゃああるんだろうけどさ。

 

「えっとな、さっきも説明したけど……まず舞台。左慈って存在が物語の基盤になっていて、一番最初にそいつと関わって、銅鏡を割っちまったらしい俺もそこに影響を与えた。まあ……いろんな軸から考えて、登場人物のひとつ、天の御遣いって存在に祀り上げられたわけだ」

「へー。っつーても俺、そのどーきょー? なんて知らへんで?」

「俺だって知るもんか。資料館には確かにあった気がするけど、それを“俺”が割ったわけでもないし」

「ともかくそのー……どーきょー? が、関係しとるっちゅーわけやろ? なに? それ、願いを叶える魔法のなんたら~とかそんなもんやったん?」

「らしい。なんでも持ち主の願う“世界”を創り出すとか……いや、単純に願いを叶えるっていったほうがいいか。でも、世界規模で影響するものだから、滅多な願いはひどい結果しか生まないっぽい」

「……あ、かずピー質問。かずピーはなんでそんなこと知っとるんや?」

 

 当然の質問がきた。

 なので、夢で見たことやそれを経て積み重ねた予想を話して聞かせる。

 

「へー……つまりこの世界は孟徳さまが主軸の世界やから、強く願えば、その願いが叶う可能性がある、と……?」

「多分俺と及川は、原因の一端だから呼び寄せることが出来たんだろうけどな。そんな誰でも呼び寄せられたら、なんか……俺の家族とか既にここに居るような気がしてならないし」

「あ、それ言えとるわ。それに俺の場合、かずピーのケータイにあった写真も影響しとんのやろーなぁ。いろんな人の願いで構築されとるんやとしたら、なにも俺だけが原因の一端ってわけやないやろ? 他の原因の誰かさんも呼べなぁおかしいやん」

「……俺達が知らないだけで、他の軸じゃあ知らない誰かとかいっぱい居そうだけどな」

 

 それこそ俺の代わりに御遣いしてたりとか。

 まあ、それこそもしもか。

 

「けど、随分とまああっさり納得したなぁ。もっと説明に梃子摺るかと思ってたのに」

「かまへんかまへん、楽しいほうがえーやん。こない貴重体験、夢の中でしかでけへんやろ? ほんならまごまごしとるより受け入れたほうが、楽しいこと逃さずに済むっちゅーもんやん」

「そりゃそうだけど」

 

 ……いや、ほんとまいった。口調が砕ける。

 でもたまにはいいか。いいよな。

 これから及川にいろいろ教えなきゃいけないんだし、今から気を張ってたら……というかこいつ相手に気を張ってたら、それこそ疲れ果てそうだ。

 

「じゃ、まず文字の勉強からな」

「おー、早速勉強なんてかずピーさっすがー! 最近やたら勉強しとる思たら、まあこんな世界知ってもーたら勉強せんわけにはいかへんよなー! ……あれ? 夢なんやから勉強とか……あれ? あ、ちょっと待ったかずピー、いろいろこんがらがってきたわー……」

「難しいこと考えるよりも、今のこと考えようぜ。な、及川」

「おー、わかっとるやんかずピー! で、勉強ってなんやねんな? ちゅーごくゆーたら……んん、ごくり……! ……ぼ、ぼーちゅーじゅちゅとかか?」

「文字だっつっとろーがこのエロメガネ」

「えー? 絵で学べる漢文講座~とかないの~? 俺、アハンな絵でならかつてない速さで学べる思うんやけどなぁ」

「あーそーだろーなー、そーゆーやつだよおまえはー」

「わーお、かずピーものっそい棒言葉」

 

 言いつつ、用意した本を取る。

 机に並べられてあるそれらは、及川用にと用意したものだ。

 

「まあ、絵本ならあるぞ? 俺も今でも読んでるくらい、受け入れやすい絵本とかもあるし」

「今でも学べるほどのエロ本やて!?」

「無理矢理“ロ”を入れるなドアホウ。絵本だ絵本」

 

 先行きは不安だった。


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