真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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146:IF3/子供たちの警戒度が上がる日々①

198/一味違った世界とともに

 

 それからの日々を語ろうか。

 

「かずピーかずピー! けーらっちゅうの教えてー!」

 

 物覚えも順応も速い友人が都で暮らすようになってからの日々は、瞬く間に過ぎてゆく。

 

「と、父さま! 今お暇ですか!? よよよよろしかったら稽古を!」

「あー……ごめんな、丕。これから及川に教えなきゃいけないことが」

 

 そう、一風変わった日々が過ぎてゆく。気安く付き合える男……そう、男の友人が現れたことで。

 警邏で街を歩きながら買い食いをして、笑顔で駄弁ったり……素晴らしい!

 久しく味わっていなかったこの気安さ……素晴らしい!

 

「父よ! 美味そうなのを食べてるな! 私も欲しいぞ!」

「っとと、じゃあ、ほれ。無駄遣いするなよー」

 

 ドゴォと背中にしがみついてきた柄に、ぽんとお小遣いをあげられるほどに上機嫌。

 そして警邏に戻り、また駄弁りを続け……

 

「ん? 今あのちっこい子、とっても重大なこと言うてへんかった?」

「ん? 重大って? べつにふつーのことしか言ってないと思うけどな」

 

 久しぶりに味わう友人との時間に、まあそのー……浮かれていたんだろうねぇ俺ってやつは。

 で、そんなことが何日も続いたある日のこと……だったわけだが。

 

……。

 

 とある秋の日の昼のことでございました。

 

「なぁかずピー」

「ん? どしたー?」

「かずピーって……人間?」

 

 いつも通り鍛錬を終え、いつも通り仕事をこなしていた俺へと、及川が軽い質問を…………重いなおい。

 

「お前にだけは言われたくないんだけど……人間だぞ?」

「いや……俺の知っとる人間はかめはめ波なんぞ撃たんし座ったままの姿勢でジャンプもよぉでけへんし、なによりあんな速度で走られへん……! もしやかずピー! ジブンかずピーの皮を被った…………!! ……かぶったー……あー……、……誰?」

「考えてないなら言うなよ!!」

 

 などと、くだらないツッコミを入れている時にやってきたのだ。

 ……コンコン、と控えめなノックが。

 

「あ、ほいほいー、今開けますわー。おっ、かずピーなんか今の、秘書さんっぽくあらへんっ!?」

「人の部屋の開閉許可をお前が出すなよ……って、誰だろな。今日は誰かが来るなんて予定は……」

 

 一瞬だった。

 及川が扉を開け、何者かがその股下をスライディングで潜り、驚いて下を向いた及川の腹へと何者かが飛び蹴りをかまし、そのままの勢いで腹から肩へと駆け上がり、顎へ膝蹴り。

 ふらついた彼へ、次に襲い掛かった影が膝を踏み台にしてのシャイニングウィザード。その逆側から襲い掛かった何者かが及川の腕を極め、顎に膝をキメ、腕を捻って床に叩きつけた。

 ……虎王、完了。

 じゃなくて。

 

「ちょっ……なにやってんのお前らぁあーっ!!」

 

 お前ら。

 そう呼んだ先には自分の娘たちが居て、ふぅ……と額の汗を拭った登……子高が、こちらへと振り返り、

 

「父さま、やりました!」

「えぇええええっ!?」

 

 なんかもう大魔王でもコロがしましたって笑顔で言うもんだから、もうなにを怒っていいものやら。

 若干引いていると、及川をほったらかしにした娘達が一気にこちらへ。

 

「父! 最近の父はよろしくない! なにかというと眼鏡眼鏡と!」

「そ、そうです! お猫様とのモフモフを後においてまで優先させるほどのモフ度が、あの人にあるとでも!?」

「……へっ!? え、あー……そ、そっか、確かに最近は及川とばっかり……ていうかモフ度ってなに? あとなんとなく予想つくけど柄!? その言い方だと俺、眼鏡無くした人みたいだからな!? ちゃんと及川って言ってやろうな!?」

「せっかくの休みも毎度毎度あの眼鏡と遊びに行く始末……! 私たちは、どうしたらいいのかと……!」

「いや、子高? 俺言ったよね? 及川って呼んであげてって言ったばっかだったよね? ホヤホヤだよね?(ホヤホヤ=出来たて、言いたてという意味で)」

「そこで決めたのです。あの眼鏡が父上を独占するというのなら、私たちであの眼鏡を黙らせようと」

「眼鏡であることは確定なのか!? やめなさい! 某万屋のぱっつぁんみたいな位置に定着しちゃうから!」

「えへへぇ、とりあえず痛い目に合わせてあげれば、お父さんに近寄ることもあるまいと思いましてぇ」

「……きみたちはもっと子供らしい方法で対策しましょうね。洒落にならないから。きみたちの実力で叩き伏せられたりしたら、なんかもうやられた方が大変だから」

「お手伝いさんを独占なんて、する方が悪いのですよ。偉大なる母たちでさえいろいろと我慢しているというのにまったくあの眼鏡は……!」

「お前なにか眼鏡に恨みでもあるの!?」

「う、うん……それがね、あの眼鏡……あ、えと……名前なんだっけ。あ、うん、とりあえず眼鏡で話を進めるね? あの眼鏡がね? 子明かーさまの眼鏡のこと、片方だけの眼鏡って、意味あるん~? って」

「───」

 

 ああ、うん……えと……うん。

 いや、うん。…………そりゃさ、俺も思ったことはあるけどさ。

 でも本人を前にしてきっぱり言うとか……。

 

「いやいやちゃうねんで!? そら誤解や! 俺はただ、そんな眼鏡かけとったら視力が偏って大変やろーって!」

『………』

「……あれ? なに? なんで俺見つめられとるの?」

「っ……馬鹿な……! 校務仮面さまに伝授された虎王を決められて、なお立ち上がるとは……! と、登姉さま!」

「ああ……さすがは父さまの友人を勝手に名乗っているだけのことはある……!」

「いや勝手ちゃいますが!? なー!? 俺ら親友やもんなーかずピー!?」

「とりあえず亞莎の眼鏡は俺がプレゼントしたものなんだ。だから───眼鏡の文句は俺に言え!!」

「あれぇ!? 敵しかおらへん!」

 

 とまあいろいろ悶着もあったものの、とりあえずは着席。

 小さな卓に座った……いや、座らされた及川を中心に、娘達がぞろりと集った。

 ……うん、なんかまるで、極道の事務所に連れてこられて固まってる若者の姿のようだ。周りの娘たちもなにやら顔が怖いし。

 

「さあきりきり吐いてもらおうかこの眼鏡……! どうやって父の興味を引いたのだ……!」

「あ、あの、俺、及川祐言いますよって、眼鏡眼鏡言うんは堪忍してほしいなぁ」

「黙れ眼鏡」

「かずピーがそこで否定するん!?」

 

 いや落ち着け俺、及川がしたのは俺も気になっていたことなんだ。

 なのに相手を一方的に罵るのは桂花と同じだ。それはいけない。

 

「………」

「………」

 

 で、この状況でこれ以上なにをしろと?

 

「遊ぶか」

『了解!!』

 

 全員の心がひとつになった瞬間である。ちゃっかり決めポーズまで取ってらっしゃる。

 え? うん、及川も誰もかもが一斉に叫んでらっしゃった。

 

「お前らさ、喧嘩してたんじゃなかったのか……?」

「ん? 俺べつに喧嘩なんてしとらんけど?」

「叩きのめしてスッキリしました!」

「娘とはいえ呉の勢力からそんな言葉を聞く日がくるとは……」

 

 子高……孫登さんが輝いてらっしゃる。孫の姓を担うものがこんなにも凶暴だ、どうしよう冥琳。

 

「やー、しっかしかわゆい子ばっかやーん♪ なぁなぁかずピー? この子ら誰の子? 言葉からしてかずピーが育て役やってたーっちゅうのは想像つくけど」

『っ……!!』

「へっ!? あれっ!? なんでここで一斉に両手両膝ついて落ち込むん!?」

 

 そんな状況に俺と禅も大驚愕! ……あれ? 禅はいいの?

 

『そっ…………育てられてない……!』

 

 そういえばそうだったァアア!!

 いやでも途中までは育てたんだからそんなこと言わないで!? 父さん泣いちゃう!

 

「えっ? そんならなんでかずピーのことおとーさん言うとるのん?」

「え゛っ……や、だから……な? それはな、及川……」

「はっはーん? もしやこの子ら全員、かずピーの娘とかぁ?」

「やっ、ち、ちがっ───」

『!!』

 

 ア。

 思わず否定しそうになった途端、蹲りつつも俺を見上げていた娘達が物凄いショック顔を。

 ど、どうするバラすのか!? この娘たちは俺の娘ですと! それ=たくさん経験してますヨとか言うことにええい娘の涙と変えられるかバッキャロォオオ!!

 

「親ばかで何が悪い! 俺が父親だぁああっ!!」

 

 男とは。一度馬鹿に走れば無限に馬鹿になれる生き物である。

 ハンパな馬鹿など馬鹿に非ず。

 一度足を踏み込んだのなら……娘のためにこそ至高の馬鹿に!

 

「……へ? かず……へ? や、冗談やってんけど……へ?」

「おーおそうだよ俺が親だよ文句あるかぁ!」

「…………おお! せやったんか! 親の鑑やなかずピー!」

「え? ……あの、いや、それはないだろ。自分で言っておいてなんだけど」

「いやいやそーゆーのんはハッキリ言えるもんやあらへん! そーかそーかぁ! ちゅーか俺空気読めてへんかったなぁ、ごめんなぁみんな」

「え……、……別に謝ってもらうほどのことでもないわよ」

「おほほっ、これまたかわえーツンデレさんやな~♪ ん、けど解った! かずピーだけやといろいろ大変やろ、俺も力貸すで!」

「……力? へ?」

「や、この子ぉらそのー……孤児かなんかなんやろ? ほら、言いにくいねんけど……戦で親亡くした~とか、な……? しゃあからかずピーが親代わりになって───」

 

 ア。いや、及川サン?

 この子らの前で親のコトは───

 

「へえ……? 覇王たる母さまを勝手に殺すとはいい度胸ね……」

「呉で力劣るのは私であって、孫の名ではないわ……。その言葉、孫家への侮辱受け取った。覚悟しろこの眼鏡……ッ!」

「あらあらぁ……ほんとうに随分と勝手なことを言ってくださいますねぇ~…………どうしてくれましょうかぁ、この眼鏡……」

「呉ではなく都の父に降った母を、牙をもがれた獣とでも言う気か貴様……。いいだろう、ならば獣らしく貴様の喉笛を噛み切ってやろう……!」

「あの母が? 戦で死ぬ? ───いい度胸だ眼鏡、貴様は私の目標を侮辱した」

「顔にいたずら書きくらいじゃ許しませんよ? 知ることも気づくこともなく始末します」

「よくも……よくも貴様、偉大なる母を……! 偉大なる父が亡くなってから、独りで私を育ててくれた母を……!」

「戦ではろくに戦えなかったかかさまだけど、それからずっごく頑張ったって聞いたよ……? 最後に全然役に立てなかったって、どれだけ悩んでたかも知らないで……っ……! そんなかかさまをよりにもよって戦で亡くなったなんて……!」

 

 は、はああ……! 娘がっ……娘達から暗黒のオーラ的ななにかが……! ななななんという威圧感……!

 あと琮!? 俺生きてるからね!? 亞莎に任せっきりになんてしてないからね!?

 

「………」

 

 に、しても……。

 子供の頃からこれほどとは……もしこのまま成長したら、どれほど強く…………あれ? そうなると俺、どうなるの? ちょっとしたじゃれつきで首がボチューンと飛んだりとか……いやいやいや! そんなことよりその矛先が───!

 

「あ、あれっ!? 俺なんかまずいことゆーた!? 俺ただ心配しただけっ……かずピー!」

 

 あれ……でも、うん。なんだろう。

 こいつならどれだけボコられても、一息入れれば平然と起き上がってきそうな気がする。

 でも、待ってくれ娘たち。

 そんな謎の生命体でも俺の友人なんだ。

 実際、こいつが来てから随分と助けられた。(精神的に)

 だから───

 

「みんな」

『っ……』

 

 声をかけると、殺気立っていた娘達がびくりと肩を揺らす。

 そして窺うような目を向け、まるで“どうして止めるの?”とでも言うかのように……

 

「死なない程度にやりなさい」

『……! はいっ!!』

「うぇええええ!? そこ喜ぶとことちゃうゥウーッ!!」

 

 あ、でも子供相手でそんな怯えることー……なんて続けた彼がこの後、血祭りに上げられるまで……そう時間は必要ではございませんでした。や、血はでないけどさ。

 

「ぎゃああ強いこの子ら強い! かずピー助けてかずピィイイッ!!」

「フフフ愚かな。貴様が頼ろうとしている俺なぞ、この世界では小物。支柱になれたのが不思議なくらいの弱者よ」

「それ今聞かされて嬉しいこととちゃうんですけど!? いやほんまこの世界の女の子どないなっとんのーっ!?」

 

 別の場所から来た人ならきっと誰もが思うこと。

 でもね、及川。そんなこと……すぐに慣れないと心が保たないぞ?

 ああちなみに、本当にボコるのはいろいろと問題があるので、ゲーム的なものでのブチノメしとなった。

 現在は柄が腕相撲中。ずどーんと一瞬で負け……ることを許さず、メキメキとゆっくり倒してゆく柄のなんと残酷なことよ。

 いっそ一思いにやってしまえばいいのに、わざと男の子のなけなしのプライドを、その腕とともにメキメキと折りにいっている。ていうかコキリと軽い音が鳴って、彼は敗北した。

 

「あぁあああんかずピー! 腕が! 腕がけったいな方向にー!」

「はいはい~、任せてくださいねぇ~?」

「ギャア待って今掴まんといて痛い痛い痛───ホワッ!? 治った!? しかも痛ないっ!? お、おぉお……なんや優しい子もおるねんなぁ!」

「治りましたかぁそうですかぁよかったですねぇ~……では存分にブチノメしてさしあげますねぇ……!?」

「ヒギャアやっぱりこの子も怖い!! かずピー!? かずピー!!」

「すまん及川。俺ちょっとこのことで覇王さまに報告しなきゃいけないことが出来たから、ちょっと出るな」

「エェエエエエッ!!? おまっ……ここで置いてくとかあんまりすぎやんっ! お、おれっ……俺ぇえっ……! 死んでまうーっ!!」

「うふふふふ大げさですねぇ、指相撲で死んだりなんかしませんよぅ? ……指は折れるかもしれませんが」

「キャーッ!? いやぁああばばばばばば違う違うわこんなん違う! 女の子に言い寄られたい~思とったことあったけどこんなん違うーっ! いやぁあああ助けてかずピーッ!!」

 

 叫ぶ及川の声を扉で遮断して歩き出した。

 さあ、いざ覇王の元へ。

 俺達の戦いは……始まったばかりだ───!

 ……いやまあ、ただちょっと休みを貰えないか許可を取りに行くだけだけどね。

 しばらく遊んでやれなかったからなぁ……。

 及川……俺が戻るまで待っててくれ。今、休みを土産に……戻るから。

 

……。

 

 で、結果。

 

「へえ、そう。休みが欲しいの。ええいいわよ?」

「ほんとかっ!?」

「ただし私に付き合いなさい」

「───」

 

 ………のちに。

 (主に遊びに振り回されて)ボロボロになった及川が、俺の部屋で発見された。

 一人でも十分なのに、娘全員の遊びに付き合うとなると……そりゃあ鍛えていようがなかろうが、疲れるよなぁ。


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