真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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146:IF3/子供たちの警戒度が上がる日々②

 で、さらにその後。

 

「なに? また休みが欲しい?」

「こ、子供たちと遊ぶ時間がさっ! ほらっ、この前は華琳と一緒だったからっ!」

「……そうね。まあいいわよ、それほど仕事があるわけでもないし。というかここはあなたが支柱の都でしょう? 少しは自分勝手に休みを決めてみるとかしたらどうなの?」

「愛紗にどやされるから無理」

「……ぷふっ! あなたって、本当にっ……くっふふふ……!」

「うぐっ……わ、笑うことないだろっ!」

「笑われて当然でしょう? あなたは今、覇王たる私よりも愛紗が怖いと言ったのよ? 怒る以前に笑いを堪えるほうが難しいわよ。……はぁ、困ったものね、まったく。もう、武人として怒るよりも先に、女として笑えてしまうんだもの」

「しょーがないだろ……? 愛紗の説教長いんだもん……ええっと、なんて言うのかな。叱る要点を決めて罰を下す華琳とは違って、怒り方が違いすぎるんだよ」

「あらそう。どういう感じに?」

「そうだなぁ……一言で言うと“おかん”」

「おか…………え?」

 

 怒り出したら止まらない。

 変な方向に話が逸れる。

 関係ないことでさらに怒る。

 昔の怒りどころを引っ張り出す。

 そして最初に戻ってまた怒る。

 ループ。

 これぞおかん怒り。

 と、これらを実際の経験も込めて熱く説いてみた。……ら、引かれた。

 

「そ、そう。まあ……あの鈴々と一緒に長い間一緒に居たのなら、その説教の仕方もわかりそうなものだけれど」

「いや……うん、鈴々だもんなぁ」

 

 元気な子供のいい例である。

 そんな鈴々と旅を続けていたのなら、ああなっても…………

 

「───」

 

 ああ、うん……桃香が追加されることで、その振り回されようはパワーアップしたんだろうなぁ。

 

「今度愛紗にアイスでも贈ろう……」

「!?」

 

 そんなわけで休みを得ることが出来ました。

 あとなんか華琳にもアイスをねだられた。珍しいから即了承したけど。

 

……。

 

 で、そんな休みの日。

 

「かっずピ~♪ 今日───おごっ!? んぐむぐぐーっ!?」

 

 ……中庭が見える通路の途中、呼ばれた気がして振り向くと、誰も居なかった。

 

「……なんだろ。なんか鳩尾に一撃喰らって布でも被せられて、強引に体を曲げられて便利に収納されたような、謎の悲鳴が聞こえたような……」

 

 気の所為か。

 そういうことにしておこう。

 

「さてと」

 

 通路を歩き、辿り着いた門の前。

 そこで待ち合わせをしていた娘達は───っと、居た居た。

 

「ごめん、待たせたか?」

「い、いえっ! 私も今来たところですっ!」

「そ、そっか」

 

 元気に返してくれた丕は、何故か言ったあとに握り拳を軽く持ち上げ、遠い空へと「言えた……!」なんて呟いていた。なにがあった。

 

「はっはっは、まるで程昱さまが教えてくれた恋人の上等文句だな」

「へっ、柄っ! そういうことはわざわざ言わなくてもっ……!!」

 

 そんな言葉をきっかけに、わいわい騒ぐ娘たち。

 ……ああ、頬が緩むなぁ。

 ようし、今日は娘達のために一日の全てを使い切ると誓おう。

 ていうか、あれ? なんかさっきまで邵が居なかったような気が……あれぇ? 居たっけ?

 

「邵? さっきからそこに居たか?」

「ひうっ!? え、ええええエエト!? い、いましたよ!? 居ましたとも!」

「そ、そうだぞ父よ! 邵はさっきからここに居た! 間違っても邪魔者の排除になど行っていな───ふぎゅっ!?」

「柄……少し黙りなさい」

「ひょっ……ひょうふぁいふぁ……ふぃぃ姉ぇ……!」

「……丕。喋り途中の人へのチョークスリーパーはほどほどにな」

「? なんですか? ちょーくすりーぱーって」

「すりーぱー……ちょーくということは、あの黒板に書く白い棒と同じ……はっ!? まさか校務仮面さまの新たなる奥義!?」

「聞き逃せませんね登姉さま! きっと棒を使ったものか、真っ白ななにかがっ!」

「聞き逃して!? そういうのじゃないから!」

 

 子高と述のノリが華蝶仮面的ななにかに迫りつつある……いっそ星に勧誘でもしてもらったほうがいいんだろうか。

 

「かずピーなに悩んどるん?」

「んー? いや、子供の成長についてをいろいろ───って及川?」

『っ……!?』

「やっほ、かずピー。やー、ちょっと聞いてやかずピー、さっき急に腹が痛なった思ったら目の前が真っ暗になってなー?」

「お前、へんなもの拾い食いとかしてないだろうな……って、どうした? お前ら」

 

 にっこにこ笑顔で登場した及川を前に、娘たちが驚愕の顔でカタカタと震えだす。

 ハテ、いったいなにが?

 

「あ、ところでかずピー今日休みやねんな? これから俺とー───」

『───!』

「父さま少しお話がっ!」

「へっ? おぉわっ!?」

 

 丕が急に俺の服を引っ張って、顔を近づかせる。

 手を口元に添えているあたり、内緒話でもしたいのだろう。

 及川の話の途中だけど、心の中で謝罪しつつもとりあえずは耳を傾けて《フボッ》えあっ!?

 

「ちょっ、丕っ!? 話するのに人の耳を塞いでどうす───」

「あわわわわわ父さまのお顔が近いちかちかちかかかか……!!」

「赤ァアアーッ!? なんだどうした丕! 熱でもあるのかってレベルじゃないぞ!?」

 

 と心配はしても耳から手は離してくれず、なんかどこかからドカバキギャアアアなんて殴打音と悲鳴が聞こえたような聞こえなかったような。

 

「……それで、丕? 話って?」

 

 ……なんか耳を解放してもらえたから聞いてみれば、真っ赤な顔をした丕は、

 

「…………、!?」

 

 なんか急にハッとして、おろおろわたわたと手を動かしたのち……

 

「……いっ、いい天気ですね!」

「………」

 

 ……うん。

 テンパりすぎて目がぐるぐるな娘に、追求をする勇気は俺にはなかった。

 

「まあ、いい天気だから出かけるんだもんな。晴れてよかったよな、丕」

「はいっ!」

 

 おお、いい笑顔。

 そんな丕の頭を撫でると、さてと振り向いて……

 

「で、話の続きだけどな、おいか及川!?」

 

 あれ居ない!?

 驚いて呼び途中だった名前を改めて言い直すなんて、器用なのかどうなのかヘンテコなことをしてしまった!

 

「父よ、やつなら帰ったぞ?」

「帰った? なんだ、急ぎの用でもあったのかな……? 話の途中で悪いことしたかな……」

「───土に」

「へっ? 柄、今なにか……」

「いい天気だと、工夫も鎚を持つ手に力が入るなって言おうとしたんだ。噛んだことくらい見逃してくれ、父」

「あ、そっか。つちね、鎚……」

 

 なんか一瞬恐ろしい言葉が聞こえたような気がするけど、気の所為…………だよなぁ。

 

……。

 

 ご機嫌取り、と言ってしまってもいいのだろう一日が始まった。

 娘達が足を止めれば足を止め、希望があれば喜んで。

 そうして娘達の要望を聞いているうちに───

 

「よしっ、じゃあ次は服屋だな。次は本屋で次は眼鏡か。食事も少しずつ、いろんなところで食べるのでいいよな?」

『───…………』

 

 訊ねてみると、どうしてか娘達はぽかんと停止。

 その中で、おず……と質問を飛ばしてくる禅に、俺はフツーに言葉を返す。

 

「あの。ととさま? なんでしようとしてたこと、全部わかっちゃうの……?」

「んー? だってこの流れだとそうなるだろ? 父さんの案内歴をナメるなよー?」

((((((仕事人だ…………根っからの仕事人だ…………!))))))

「そうだなー……丕にはああいった服が似合いそうだし、子高にはあの服も……」

((((((似合う服まで想像されてるっ!?))))))

 

 乙女心は理解出来なくても、様々な人を案内したり見たりしてきたこの北郷。微笑む娘らをがっかりさせるようなことなど起こしてたまるものですか!

 そんなわけで服を───

 

「おぉ~っ! このメイド服めっちゃ凝っとるわぁ~! あ、こっちの服もええなぁ! やっぱかずピーにもこの道の才があったわけやな!」

 

 ……ハテ。自分がよく知る男の声が耳に届いたんだが。

 と、声の出所を探ってみれば……俺達が見ていた服屋とは対面に位置する服屋で、入り口前に飾られているメイド服を見て興奮する男が───

 

「あ、あれ? 及川? 急ぎの用ってもしかして───」

『!!』

「と、ととさまっ! 荷車が通るよっ! こっちこっち!」

「え? いや禅? あの速度なら、今からでも全然向こうまで渡れる───」

「ちゅういいちびょーけがいっしょー! ととさまが言ったの! いーからくるの!」

「あ、は、はい……」

 

 反対側の服屋まで、ぱっと行ってしまおうと思ったのだが……禅に引かれて、少し歩いた道を軽く戻る。

 そうして振り返ってみると…………服屋で騒いでいたはずの及川の姿がなくなっていた。

 えっ!? あれっ!? イリュージョン!?

 

「ど、どうしたの? ととさま」

「えっ、どう、って……いや、さっきあそこに及川が……あれぇっ……!?」

 

 俺……疲れてるのかな……。

 及川と久しぶりに(はしゃ)げて幻覚でも見たのかな。

 ああやばいな、それはやばい。

 そうだよな、大体俺は今日一日を娘達のために使うと誓ったのだ。

 及川のことは忘れよう。

 丁度荷車も通り過ぎたし、及川のことは…………おい……

 

「…………なんか今の荷車に、どっかで見た髪の色した眼鏡が乗せられていたような……」

「え、えー? ぜぜぜ禅は見えなかったけどー……?」

「……そ、そうだよな、気の所為だよな」

 

 そうだとしてもあんなズタボロ状態なわけがないよな、うん。

 きっとなにかの傷んだ荷物だったに違いない。

 

「さて、服を……って」

 

 ハテ。さっきまで周りに居た娘達が、禅以外居ないんだが。

 

「あれ? 丕? 子高? 延? 述、柄、邵? 琮~?」

 

 見えなくなった子供の名を呼んでみる。と、『ここに……!』という言葉とともに、背後に跪いて現れる子供たち。

 

「おぉわっ!? どこの忍者だお前らは! 何処に行ってたのか知らないけど、来るならもっと普通に来なさい!」

 

 何故か呼び出された忍者のようにシュタッと降ってきた子供たちに注意を。

 というか……なんでそんなにぜえぜえしてはりますの?

 

「………」

 

 …………。

 

(ああ、トイレか) *違います

 

 ここは踏み込んだことは訊くべきじゃないな。

 さて、娘に似合う服を探すとしますかぁっ!

 ああ、いいなぁ、休日のパパしてるって実感がある! じいちゃん……俺、今とってもパパしてるよ!

 

……。

 

 そうして……何度か娘達が忽然と姿を消すこと十数回。

 楽しんでくれているはずの娘たちが、時間が経つごとにぜえぜえと疲労を隠せなくなってきたあたりで、いい加減どうしたものかと思考に沈むわけで。

 

「あの……父さま」

「ん? どうかしたか? 丕」

 

 琮のリクエストでごま団子を食べている最中、軽く俯いた我が娘がおそるおそる声をかけてきた。

 なんというか。まぁ。

 こういう雰囲気って、相手が娘じゃなくてそーゆーお年頃だったら、恋人みたいに見えるのかなぁ。

 

「……あの眼鏡って人間ですか?」

 

 でも話題は恋人トークとはかけ離れすぎていた。

 

「いきなり失礼だな……人間だぞ? 決まってるじゃ───」

「父さまのように鍛錬をしているわけでもないのに、氣を学んでいるわけでもないのに、異常なほどに頑丈なあの眼鏡が、ですか?」

「───……いや……うん、まあその……ほら……な? に、にん……人間……?」

 

 すまん及川。断言は無理だ。お前絶対おかしい。

 そしてもう眼鏡で通ってしまっている。許してくれ。言っても直してくれないんだ。

 

「ま、まあ多少は頑丈なところもあるけど…………多少? いや相当……相当?」

 

 なんかもう相当どころじゃ済ませられないタフさを感じる。

 ちっぽけな根性どころじゃない、生命体としてのタフさというか。

 

「なるほど……父さまもあれを人間として認めていないと」

「いやっ! 一応人間ではあるはずなんだぞ!? 頑丈なだけで───……、……うん。ていうかな、丕。あいつの存在には俺も助けられてるんだ。友達を悪く言うのは、やめてくれ。な?」

「………で、でも男ですよ!?」

「ちょっと待とうか娘」

 

 お前はなにか、俺が女じゃなければ友人関係すら作らんとか思ってたのか。

 軽く頭を掻いてから、シツケの一環として丕の頬を軽く引っ張った。

 

「いふぁふぁふぁふぁ! いふぁい! いふぁいでふふぉーふぁま!」

「及川は友達だ。天での友達。こっちじゃ俺は支柱って立場で、気安く友達になってくれるやつなんて居ないの。……丕ならわかるだろ? お前が子桓さまって呼ばれる状況と同じなんだよ、俺の立場って」

「……あぅ……」

 

 グミミミミと引っ張っていた頬を離す。

 出るのは溜め息。でも、なんとなく相手がどうなるかもわかってたから、その頭を撫でた。

 

「ごめんなさいは無し。自分だけ寂しがって、っていうのも無し。どの道、こういう立場で友達ってのは難しいもんだよ」

「と、父さ───わぷっ」

 

 なおも謝ろうと見上げてくる娘の頭を、多少乱暴に押さえつける。で、わしわしと撫でる。

 

「まあ、だからって仲良くしろなんて、とーさん言いません」

「え……?」

「ただ、一方的に嫌うことはやめてほしい。ちゃんと相手のことも知って、その上で……まあ、だめだったら嫌ってくれ。……な、丕。もし俺とも華琳とも別れて、知ってる人がだ~れも居ない場所にいきなり飛ばされたら……どうする?」

「ど、どうするって…………わかりません。なってみなければ……」

「そうだよな。俺もそうだったし、多分……今、及川がそんな状態だ」

「あ……」

「ん。それだけわかればいいよ。それを知った上でぶつかってやってくれ。何も知らないで、知ろうともしないで嫌われまくる痛みは……あー……なんというか、存分に知ってるから」

 

 頭から手を離すと、丕はムームーと唸って……少しののち、こくりと頷いた。

 そして、散らばって燥いでいた妹たちを呼ぶと……何故か円陣を組んでヴォソォリと内緒話を始めた。

 ……で、ぽつんと残される俺。

 

「………」

 

 お、俺は混ざっちゃだめなのね……トホホ。

 父さん、のけもので内緒話かぁ……こうして大人になっていくんだなぁ……。

 

「やっほいかずピー、な~にたそがれとるん?」

「おわっと、及川っ? お前今までどこにっ……」

「どこって。やー、なんや知らんけど俺、今日は厄日なんかもしれん。なんや急に目の前暗くなってな? で、なにやら体中が痛みだした思ったら見知らぬ場所に転がっとるんや。首から下が地面に埋まってた時はどないしょ思たわ」

「むっ……夢遊病、か……!?」

「えっ!? これやっぱそーなん!? “夢見とるんやったら自然とそーなってもおかしないんちゃう!?”とか思っとったらまさかの意見の一致……! 痛覚のある夢や~ってだけで怖いっちゅうのに、神さんは意地悪やなぁ……俺にこないな試練を与えるやなんて……」

「そ、そっか。まあこの世界にも腕のいい医者は居るから、見てもらったらどうだ?」

「俺お医者さん苦手やねん……あ、もしかして女医さん!? この夢の中の流れからすると女医さんやろ!?」

「男だけど?」

「空気読めやコラそこは普通女医さんやろがぁあ!!」

「俺に言われたってどうも出来んわぁっ!!」

 

 あと顔怖いから! 顔っていうか顔色怖いから!

 などと顔を近づけてホギャーと叫ぶ及川をとりあえず押しやり、ハフゥと溜め息。

 と、そこへ娘達がやってきて、及川を見るや、何故かビクゥと肩を弾かせた。

 

「……呆れたしぶとさだなこの眼鏡……」

 

 かつてない異形のものを見るような目で、柄が引きながら言った。

 しぶとさ? ハテ。や、まあしぶといけどさ。

 


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