真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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147:IF3/普通の人の考え③

 笑みで緩ませた顔を少し引き締めて、けれどなんでもないように会話を再開させる。

 

「……はぁ。な、かずピー。かずピーにとって、故郷って何処や?」

「“(きた)”の“(さと)”。───何処だ、なんて決めなくてもさ、長いことそこで育って、短くても必死で生きれば、そこが故郷って名前になるだろ。まあ、この世界で言うんだったら……せっかくだから、やっぱり北の郷だ」

「…………どこ? なんやお相撲さんみたいな名前やな」

「……お前ね、そこで訊かれるとわざわざ遠回しに言った意味がないだろ……。北だよ北。地図で言うと、魏だ」

「あー、なるほどなるほど……といいつつグー」

「その手にゃ乗らん」

 

 きたのさと。合わせて北郷。いつかそんな故郷を守れる一振りの刀になりたい。

 そういうことを思うたび、名前ってのは大事だなって思うのだ。

 どれだけの時間が経っても、みんなが俺の前から居なくなって、土の下で眠ってしまった未来でも。今、みんなが頑張って作り上げている“生きた証”を……くだらない笑い話で馬鹿みたいに笑えた日々さえ思い出して、そんなものさえ抱えて歩けるみんなの覇道を、こんな名前とともに歩いてゆく。

 その道を守ることが出来たなら、その先でただ願おう。

 銅鏡に託す肯定はもう決まっている。

 きっとそこから歩いてゆける。

 アホのようなきっかけだったけれど、そんな未来の証明をこの悪友が持ってきてくれたから。

 

「そかそか。……な、かずピー」

「お前ね、一度で用件済ませられないのか? さっきから名前呼ぶの何度目だよ」

「まーま、えーやん俺とかずピーの仲なんやし」

「………」

「………」

 

 にかっとした笑顔で言われて、きょとんとしてから自然と笑んだ。

 椅子を動かして、卓の上にある存在感たっぷりの杏仁豆腐なのかフルーツポンチなのかわからないそれを挟んで座って。

 そうしてから少しの間を取って、俺も及川も静かに長い息を吐いてから、苦笑をこぼす。

 

「ごめんな、かずピー。それと……おおきに」

「いーよ。言いたいことはわかるから。俺も、ありがと」

 

 知らない世界へ降りたことがあった。

 耳に届いた名前らしきものを口にしたら、殺されても仕方がない世界だった。

 見渡す限りの荒野は、話しかけられれば“ものを置いていけ”と脅されるような怖い場所で。

 誰にも連絡出来なければ、誰も味方をしてくれない……言葉一つで、相手の受け取りかた一つで簡単に命が摘まれる世界だった。

 

  ───頑張って咲いた花が、簡単に千切られる光景を覚えている。

 

 摘み取った少女はにこやかに笑って、道の先で待っていた母親のもとへと笑顔で駆けた。

 摘み取られた花の周囲には、少女に踏まれた花があった。

 珍しくもない花々は、踏まれたことさえ気づかれずに……ふと思い出した頃には茶色く変色していた。

 そんなものと並べて考えてしまうくらい、命というものが簡単に蹂躙される……米の一粒のために、命を投げ出さなければ食べてもいけない世界だった。

 必死って言葉がひどく似合う世界で、ようやく少しくらい微笑むことが出来た街の隅で、隠れて兵と一緒に桃を食べて笑った。

 気づけば幾度も戦をして、笑い合っていた笑顔が戻らないことを知って、誰にも気づかれないよう、涙した。

 

  平和って眩しいね

 

 子供の俺が呟いた。

 そんな世界に最初から降りることが出来たならって、きっと誰もが思うだろう。

 ありがとう、ごめんなさい。

 そこに込める言葉の意味も、伝えたいやるせなさも、どうしようも出来ないのだから。

 だからこそ呟く言葉が、こんなにも胸に響く。

 “知っている人が居る”。それだけで、ただただ安らいだ。

 

「俺、なんもしてへん。戦に貢献したわけでもない。誰かを助けたわけでもない。なのにな、み~んな笑うんや。かずピーの知り合いやゆーこと知っただけで、眩しいくらい……眩しすぎるくらいにな」

「……ああ」

「孔明ちゃんの悲鳴聞くまで、孟徳さまのところで話きいてた。かずピーがどんなことしてここで頑張ってたか」

「……って、ことは」

「ま、ここ日本やあらへんし、本人同士がそんでえーなら俺が言うことなんてなんもあらへん。嬢ちゃんらのことで怒ったのも、“おとうさん”の一言で怒ったのも、まー理解したらおもろいもんやし。ただ、ご主人様については聞いとらんかったから引いたわー……」

「俺はな、嫌だって言ったんだよ……ちゃんと……」

 

 眩しすぎる景色には目を開けない。

 見届けなきゃいけない現実も、救えなかった影のことも、みんなみんな眩しさの中にあったのに。

 ……なぁ、みんな。一時でも俺を隊長って呼んでくれたみんな。

 俺は……

 

「胡蝶の夢なー……こんな世界があって、女の子にぎょーさんモテて、めっちゃ愛の経験積んで、子供まで出来て。そんでも───」

「………」

「な、かずピー。もう、終わらしてしまわん? はっきり言ってこれ、夢は夢でも“そこまで都合のええもん”とちゃうやろ。人は死ぬし歳も取る。けどかずピーは10年経ってもそのまんま。こんなんよっぽどアホやなけりゃ気づくわ。……かずピー、自分このままやと、下手すると子供の最期看取るかもしれんねやぞ?」

「………」

 

 ……俺は。

 俺はここまでこれたよ。これたのに……平和な世界に居るのに、先に進むのが怖くなってるんだ。

 贅沢だよな。

 このまま賑やかな景色に埋没して、ずっと笑えていられたらって、思わずにはいられない。

 ある季節がやってくるたび、何度桃を持って魏に戻っただろう。

 兵舎に行くたび、何度とっくに処分された名前を探しただろう。

 笑った日のことも、どんな話題で笑ったかも思いだせるのに。

 どうして……笑顔ばかりが、その表情ばかりが記憶から消えていってしまうのか。

 ……あれからたくさんの人と会ったよ。

 たくさん思い出が出来た。

 一度天に戻ってさ、自分でも呆れるくらいに鍛錬したんだ。

 サボってばっかりだった俺がだよ。

 そんな過去さえ思い出して笑えるのに。

 

「果てには行くよ。約束があるんだ。俺は、俺が歩いてきた道も……あいつらが生きてきたこの世界も、否定したくないから」

 

 心が冷たくなると、自分の頭を胸に抱いてくれた温かさを思い出すようにしている。

 道があるのなら歩まないと。

 覇道はまだ続いている。

 怖くても、辿り着きたい未来と、肯定したい世界があるから。

 

「……かずピーは、孟徳さまに願われたから降り立って聞いた」

「……ああ。そうだな」

「二度目はまた会いましょう、やったか?」

「……ああ」

「な、かずピー。かずピーは……自分のこと銅鏡のカケラがどうとか言うとったよな?」

「? あ、ああ……言ったな」

「銅鏡は願いを叶えるだの世界を変えるだのの力があるんやったな?」

「ああ……それがどうかしたのか?」

 

 らしくない真剣な目と自分の視線がぶつかった。

 らしくないのはきっと俺も同じで、出来ることならニヘラと笑って、こんな空気を壊したかった。

 でも、そいつの目があんまりにも真剣だったから。誤魔化すようなことはしないで、話を待った。

 

「かずピーの話を纏めると、この世界は一度役割を失ったけど、孟徳さまの世界になったお陰でカタチをたもてた……で、えーんやったな? なんや、自分までそういった世界の住人や認めるんは気味悪いけど……それはこの世界のみんなかて同じやしなぁ」

「……そだな」

 

 及川の質問に答えながら、杏仁豆腐を軽く掬ってみる。

 口に入れるとほのかな酸味と酸っぱさが口内を支配して───マテ。なんで杏仁豆腐から魚の生臭さが香ってくる。

 

「……かずピー。きっと、これで最期や。孟徳さまが願ったからゆーて、また何か願いが叶う、なんてことはまずあらへん」

「? どういう意味だ? ……ぐっふ! えふっ! おほっ!」

 

 杏仁豆腐の味と格闘しつつ、先を促す。

 及川もつられてほんのちょっとだけ食べて……顔を紫色に変色させながらも、吐くまいと堪えていた。

 

「げほっ……! ん、んんっ……えっとな、勝手な推測やし笑ってくれてかまわんけどな。世界は願われた数だけあって、その分だけ予想される銅鏡のかけらもかずピーの数も変化する。せやったら、最初の願いは御遣いを下ろして天下を取ること。そんでその世界の願いは終わってもーてる。天下統一されたあとの願いは御遣いやのうて、“孟徳さまがまた会いたいかずピー”の召喚や。んで、もうそれも叶ったな?」

「あ、ああ……そうだな。けど、これで最期ってのは?」

「存在意義が書き換えられた時点で、この世界は新しい世界ってことになっとったんやとしたら、最初の世界とおんなじで天下統一を目指すなんて願いが誰かによって叶えられて、それを孟徳さまがたまたまた拾った。まあ、これがかずピーやな」

 

 及川が自分の荷物からメモとシャーペンを取って、図を描く。

 

  一回目の世界の願い:天下統一という平和=かずピーの召喚

 

「あ、“かずピー”って部分は天の御遣いって感じで覚えたってや。最初の世界っちゅうのも、銅鏡ってのが割られた世界ってことやで?」

「ん」

 

 軽く返して、図の先を促す。

 

  一回目の世界の願い:天下統一という平和=かずピーの召喚

  二回目の世界の願い:また会いたいかずピーの召喚

  三回目の願い:~~、、……

 

「及川?」

 

 三回目の願い、という部分で、及川はメモに波線を書いたり点を落としたりと、躊躇しているようだった。

 

「んーと」

 

 途端、ばつの悪そうな顔。

 

「アニメのことやけど」

「へ? 今関係あるのか?」

「重要やな。……出てきていきなり去っていくキャラっておるやん? あれって意味あったんかなーとか思うよなー」

「……一応、なにかのきっかけにはなってるんじゃないか? そんなキャラを好きになる人だって居るわけだし」

「せやな。でも俺はあんまり好かん。出たからには、もっと活躍してほしー思う」

「まあ、そりゃそうだけどさ」

「でもな、召喚されてみて思ったわ。理想ではあるけど、現実的やあらへん。誰かが頑張って築いた世界に急に降りて許されるのんは魔王だけって思う。けどなぁ、俺に魔王なんて似合わんし……親友の“敵”になるのは、もう嫌や」

 

 シャーペンが走る。

 そこに書かれたのは……

 

  三度目の願い;かずピーの心労の除去

 

 ……一瞬、意味がわからなかった。

 心労? べつに俺は───と言おうとしても、どうしてか言葉が出なくて。

 

「孟徳さまにな、訊いてきた。俺が降りる前、どんなこと考えてたんや~って。散々話逸らされそうになったけど、かずピーに関することで、重要なことやからって言ったら教えてくれたわ」

「……及川、これって」

「女ばっかの場所で、周りに居る男は自分を友達とは見てくれない。そんな場所でずっと生きて、本当に心の底からの息なんて吐けるもんかい。孟徳さまの考えがどうあれ、かずピーの心を癒そ思ったら、世界がそれに反応した。それだけのことや」

「……この“三度目”ってのは?」

「銅鏡の数だけ世界があるなら、世界自体が銅鏡のかけらやろ? まあ予想やねんけど。んで、降りるかずピーも銅鏡のかけらの数だけなら、それに影響されとる。三度目のかけらは“かずピーの中のもの”や。最初の誰かの世界でかずピーはたまたま孟徳さまに拾われて、一回目の願いを叶えた。あとは孟徳さまを軸とした世界って感じで世界は上書きされて、そこに二個目のかけらが宛がわれた。二度目の願いでそれはのーなったってわけや」

「そりゃまた、“想像”すぎる話だな」

「こーゆーのは合ってなくても簡単な定義作って“頭に覚えさせる”のが重要やろ? 忘れるよりはマシや」

「………」

 

 文字と図が描かれてゆく。

 三度目。

 軸である華琳が願って、傍にカケラがあったから叶えられた小さな願い。

 世界に影響があるほどの願いなんて叶えられないけど、せいぜいで人ひとりの心が安らぐ程度の時間の夢を叶えるもの。

 

「……な、かずピー。ちっとくらいは楽しめた?」

「……そだな。遠慮することなく騒げたのは、久しぶりだったかもな」

 

 口調でも態度でも、人をツッコミで殴るのでさえ懐かしかった。

 今じゃ、やるとしてもデコピンくらいだから。

 

「そかそか。まあそんなわけやから……俺はそう長くはこの世界にはおられへん。天下統一した時点でかずピーが元の世界に戻ったなら、俺かてかずピーの心が癒されたら戻ることになるやろ。それに……この世界は、この世界で頑張ってきたみんなのもんや。俺みたいな、平和になってから急に現れたモンが笑い飛ばせるもんやあらへん」

「それ言ったら子供たちはどうなるんだよ」

「次代を担う子ぉらやろ? 俺はそんなんとちゃうよ。支柱になんてなりたないし、仕事の量かて目ぇ回るほどや」

「や、少ないほうだぞ? こんなの」

「あっははー、そら基準がおかしいわー」

 

 ズビシとツッコまれた。

 ……まあ、そうか。軍関係の仕事が減ってきたなら、それこそ量が減るのは当然だ。

 代わりに街づくりや野山を削っての開墾が盛んになっているから、そっちの処理で将らが遠出をすることが増えたくらいで。

 武器を手放す日はまだまだ遠いし、周辺国も合わせて武器を手放す日までは油断は出来ない。平和なんていつ崩れるかわからないのだから、それまでは街を作りながら、築かれていく景色を見守っていようと思っている。

 

  狡兎死して走狗煮らる

 

 戦で活躍した武将は道場を開いて学びたい人に武を教えている。

 学校で教えている人も居れば、それぞれの道場で軽い競い合いをしている場所もあったりする。もちろん殺伐したものにならないよう、やるとしてもそこはやっぱり運動会レベルの催し物だ。

 人が増えれば学を得ようとする人も増えて、増え始めた私塾で教鞭を取る文官も増えた。

 ……現状は少しずつ変わっていっている。

 見慣れた景色が削られていくたびに、そこで見た笑顔を思い出せなくなってしまって、新しい笑顔でそれらが塗り潰されてしまっても……。

 

「一度さ、相談されたことがあるんだ」

「相談? 世界のこと?」

「いや、戦いが終わってからのこと」

「あー……武将のみんなはそら、考えるわなぁ」

 

 霞には結局答えは出せなかった。

 羅馬に行こうと言ったけど、行ったとして解決には繋がらない。

 春蘭は道化になると言っていた。

 けれど彼女は華琳を楽しませる道化になると言っていたのであって、それでは稼げない。

 理想っていうのは思い通りにはいかないもので、そう在れたらいいなと思うことほど上手くはいってくれない。

 

「華琳は……孟徳さまは、言った通り戦いの場も知を振るう場も用意してくれたな。お陰で10年、お祭り騒ぎをずっと堪能したし、忙しさの中で武将の嘆きを聞くことも、そう無かったよ」

「……でも、そらただ言わんかっただけなんとちゃう?」

「ん、俺もそう思う。戦があった時ほど役に立ててないって、いつか恋……呂布が言ってたよ」

 

 ただでさえ動物をいっぱい傍に置いているから、何かで役に立ちたいと。

 けど、だからってなんにでも首を突っ込んだら、今度は民や兵の仕事が無くなる。

 今でこそ開墾や新しい街づくりで補っているけど、これから何年何十年と続けば、それはどうなってしまうのか。

 本当に平和になって、将からただの民に戻った時、呼び方も態度も気にせずに民達と笑って仕事が出来るか、といったら……それは多分違うんだと思う。

 結局は先送りにしているだけで、解決できていることなんて少ないものだ。

 

「けどまあ……んー、せやなぁ。難しく考えることないのとちゃう?」

「え? なんでだ?」

「いや、なんでて。あんなぁ、いくら強くたって、人間やろ? 一騎当千やゆーても、人一人にはかわらへん。仕事っちゅうんはなんや? 力がある~なんて理由で、他の人の数倍を一人に押し付けるもんか?」

「けどさ、能力の───」

「有効活用以前に人間や。将でなく人として考えればええねん。そしたら、仕事なんてそこらじゅうに落ちとるやろ。そんで給金もらってメシ食って、生きてけばええ。戦の場は孟徳さまが作ってくれるやろ。俺みたいな一般人から見たら、もはやかずピーの考え方は異常や」

「いっ……!? 異常、か……!? 常識的だとばっかり思ってたのに……!」

「相手を女の子として見とるくせに、仕事となれば将として見とるんやろ? 差別することあらへんやん。考えることの達人に力仕事任せたら自分、それまでと同じ量の仕事を力仕事として押し付けるん? ちゃうやろ?」

「…………うわー」

 

 それは確かにそうだ。

 文官の仕事量を、力仕事も同じように押し付ければ文官が潰れる。

 それと同じで、確かに無理にキツい仕事を任せる必要はないのだ。

 少なくとも、それで稼いでいけるのだから。

 ……まさかそんな単純なことさえ忘れるほど、この世界に染まっていたとは……。

 

「武将のみんなもな、戦がのーなって落ち込む前に、別ののめりこめるもんを探してみればええねん。今で言うなら~……せやな、子作りでも子育てでもなんでもええ。やったことのないもんに手ぇ出しまくってみればそれでええやん。そんなん出来るの、将である内だけやで~? 多少の自由が利く内になんでもやってみて、酒作りでも勉学でもやってみればええんや」

「…………そっか」

 

 難しく考えることはなかった。

 この三国だけでも、空いている場所なんて呆れるほどある。

 街を作って人を集めて、そこで仕事を用意すれば出来ることなんて山ほどだ。

 武人として立っていたから武だけしか出来ないなんて、そんなのは……うん、そうだ。やってもいない人の言い訳でしかないのだから。

 兎を追った犬だって、なにも兎を追うだけしか出来ないわけじゃないんだから。

 ……なんだ、それこそ“出来るまで教える”ってことじゃないか。

 自分で提案しておいて根本を忘れるなんて、なにをやってるんだか。

 

「……そ~……っと」

「ほい」

「そっと出したじゃんけんくらいそっとしといてくれん!?」

「おおダジャレか。つまらないな」

「狙ったわけやあらへんもん。それにな、ダジャレってのは畳み掛けるから面白いんや。つまらんものも積もれば一笑。その一笑に価値を見い出せるかどうかや」

 

 むんっ、と無駄にガッツポーズを取って見せる及川───の隙をついてグーを出した。

 慌てて出されるグーに、俺も及川も顔を見合わせて笑う。

 

「まあ、けどさ。武だけしか、って言ってた人だって、それを探さなかったわけじゃないと思うんだ。むしろ誰よりも探してたと思う。そういうところは俺には見せてくれなかったけど」

「見せなかったんやのーて見せたくなかったんやろ? かっこわるいとこ、好きな相手に見せるなんて恥ずかしいやん。や~、俺から見たらものっそいかわええ反応やで~? かずピー、やっぱ肝心なとこで鈍感やし」

「ぐっ……追求しなきゃわからないこともまだまだあるからなぁ……反論が難しい」

「なっははは、けどまぁ将のみんな見とったら、あんま心配なさそーやし。ちゅうかほんまに“戦”って10年も前の話なん? あの娘ぉらめっちゃ若いやん」

「いや、あれは俺にもわからない」

 

 元々小さかった将は相応に大きくなった。

 璃々ちゃんは特に。ねねもかなり。朱里と雛里もそれなりに……なんだけど、いつまでもはわわあわわ言っている所為で、あまりそういうものが伝わってこなかったりする。

 

「ま、ぜ~んぶ夢なら夢で、それはそれで言葉通り夢があってええねんけどなー。目が覚めてみて、ハッとケータイ見てみたら、そこには夢の中で見たみんなの姿がー! って」

「まあ、実際そうなるんだろうな。俺のケータイは……途中で壊れるだろうから、お前にデータ預けたわけだけど」

「ハッと目覚めた俺……かずピーのデータ入りのケータイ……。そっとシャワー室を開くと、そこには……かずピーがおらんかった」

「勝手に消すな」

 

 けど、実際どうなるんだろう。

 ささやかな願いなんていつかは消えてしまう。

 俺の心が癒されるとかこじつけはしてみても、気づけば及川も居なくなっているかもしれない。

 その場合、俺の心が疲れたらまたこいつは召喚されるのか。

 ……しないだろうな。

 そもそも俺の中に銅鏡のかけらが、なんて言うなら、もっと早くにこの世界に来ることが出来たんじゃないか? それこそ、俺の中のかけらで無意識に願って。

 ……あ、そっか。この場合、俺がこの“基盤の世界”に来なければ、かけら自体が存在しないのか。外史ってややこしいなぁ。

 でもマテ、俺、一度この世界に来てるよな? 帰りたくないってあの時に願ったなら、それこそ華琳の傍に居られたはずだ。

 つまり願いを叶えるかどうかは……やっぱり世界の軸の問題ってことになるよな。

 

「………」

 

 ようするに、天下統一って願いに比べたら、俺に会いたいなんて願いは簡単すぎたってことだろう。だから及川を呼べるだけの願いの枠が残ってた、とか……そんなところなんだと思う。

 


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