真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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150:IF3/過去形にはしない想い②

「せぁあありゃぁあああっ!!」

「ご主人様……! 下がる……!」

「今下がっても追いつかれるだけだ! 恋! 全力でいい! 敬意を払って立ち向かおう!」

「久しぶりに武が振るえると言うから来てみれば! 北郷! 貴様ぁああ……! 相手は人間ではないではないか!!」

「俺だってまさか、衣類材料に龍の素材を使うなんて思いもしなかったよ! って、衣類はついでだった! 薬を作るのにどうしても必要だって華佗が言うんだ、仕方ないだろー!?」

「その華佗のおっちゃんはどうしたのだー!?」

「別の材料探しに行くってさっき言ってたの聞いてたよな!? って、とにかく全力で行こう! 急に襲いかかっておいてなんだけど、俺達も死ぬわけにはいかない!」

「衣類の材料ねぇ……ねー一刀? いったいどんな服を作ってもらうつもりなの?」

「え? 水着ゲッフゴフン!! あの……雪蓮さん? 今はそれよりも戦うことに集中をげぶおあはぁああっ!?」

「はぅわぁああっ!? 旦那様が龍の尻尾で吹き飛ばされました!」

「だっ……だはっ……! だいじょっ……げっほ! い、一応衝撃は吸収……げっほごほげほっ!」

「大丈夫どころか生まれたてのお猫様のように震えてらっしゃいますけど!?」

「───! ご主人様の仇は恋が───!」

「よし! 霞! 私たちも一緒に出るぞ!」

「へっ……!? あ、愛紗……愛紗がウチに“一緒に”て……!」

「声を掛けるたびにいちいちうっとりするなぁっ!! ご、ご主人様! 霞に喝を!」

「いや、なんかもう愛紗が突撃すれば一緒に行く気がする」

 

 楽しい時間やハラハラする時間を共に歩む。

 それだけでとても幸せだというのに、そんな幸せの中で突然、心が目を覚ますみたいに冷静になることがある。

 待っているのは寂しい未来だから、今の内に離れたほうがいいんじゃないかとか、出来ることなら全員を見送らなきゃいけない日が来る前に、天へと帰ってしまえば……とか。

 もちろん帰り方なんてわからない。けれど、どうしようもなく待っている別れを思うと、心が泣いてしまうのだ。

 

「ありがとう、助かったよ北郷。これでより多くの人々を救える」

「そっか…………っ……はぁ~っ……! しんどかったぁああ……!」

「いや、しかし驚いたぞ。まさか討伐してしまうだなんて」

「いやぁそれほどでも───マテ。え? 討伐してしまうだなんて、って……え? 討伐せずにどうやって手に入れろって……」

「頼んだものは角と鱗と涙だったろう? 削ってもいいし掬い取るだけでも構わなかったんだが」

「……………」

「………」

「いや、その、なんだ。すまない。きちんと説明しなかった俺の───」

「材料フルに使おう! 薬を作るんだ! あと水着も! む、無駄なんかじゃないぞ!? 無駄なんかじゃないとも! とととととにかくいい戦いだったんだ! トドメ刺したの恋だけど!」

「そ、そうか……ああ、だが確かに無駄ばかりじゃないぞ? 北郷、龍の血液や、龍自体が持つ宝玉にはそれ自体に神秘性というものがあってな。氣や氣脈の活性化に役立つ。伸び悩んでいると言っていただろう? いい薬が作ってやれると思う」

「ほんとか!? お、おぉおおお……!!  ……あれ? でもそれってなんかドーピングみたいでズルくないか?」

「どーぴんぐ……ああ、以前聞いたことがあったな。お前は龍を倒して力を得るんだ、別に卑怯なことじゃない。それに安心しろ。精力増強にも役立つ!」

「ああもう精力=俺みたいな認識が染み付いちゃってるよドチクショウ!!」

「ん……要らないのか?」

「クダサイ」

 

 現在の段階で不治の病、というものにぶつかることも当然あった。

 五斗米道で治しても、治した矢先に病の形状を変えて転移するような……そう、まるで癌のような病に侵される人も居て、それを癒すのに龍の素材が必要だと言われ、北から南へ東から西へ。

 慌しい日々はむしろどんとこいだった。

 難しいことを考える時間がないくらいに、日々が忙しければと何度思っただろう。

 楽しさで忙しいくらいが丁度よかったのに、今ではじわじわと近づいてくる最果てが、怖くてたまらなかった。

 

「いやー、それにしてもあの水着っちゅうの、軽いし涼しいしで楽やったな~♪ なんっちゅーても愛紗の裸も見られたし……」

「少しは欲望を抑えようね、霞……」

「えー? あれは一刀が持ってきたもんやろー? ウチべつに結果的に見れただけやし、抑える必要あらへんもん」

「はぁあ……」

「けど……おおきにな、一刀。実際、もう羅馬なんて目指さへんのやろなーとか思っとった。ウチはもう、なんやそれでも構わへんとか思い始めとったけど……」

「約束したし、なんていうか……龍と戦ったら今さら羅馬の道中で何が待ってる~とか考えるのもどうでもよくなった」

「あはは、そらそうや。龍に比べたらちぃとばかしの数の人間なんて怖ないなぁ」

「まあ、羅馬に着いても言語がわかりませんとかじゃどうにもならない気もするけど」

「ん? そんなん普通に喋ればええんやないの?」

「………」

「?」

「あれ……なんだろ……。なんか普通に会話出来る気がしてきた」

「や、そら出来るやろ。喋っとんねやから」

「……そうだよなー、ここだって日本語で通じるんだもんなぁ……。難しく考えるの、やめよ」

 

 霞とは約束通り、羅馬を目指して旅をしたりもした。

 きちんと大型の休暇を取る形で。

 そうして片春屠くんで旅をして、その過程で呆れるほどの恐怖に見舞われてもまだ、なんというか龍と対峙した恐怖に比べれば、って……少し経つと笑って、危険ばかりのシルクロードの旅は続いた。人と会えば案の定普通に話が出来て、けれどそう簡単に仲良くなどなれる筈もなく、捕らえられそうになるわ奇声を上げられて襲い掛かられるわで散々だった筈なのに……やっぱり霞と一緒だからなのか、かつて無謀だとか思っていた大秦の旅は、随分と楽しいものとなった。うん、まあほぼが逃げの旅だったんだけどさ。

 勝手に侵入して、ヤバかったから殺しましたじゃさすがに人格としてどうなのか。ということで、機動性を生かして逃げた。そりゃもう逃げまくった。

 馬でも良かったんだけど、それだと時間の大半が休憩に取られそうだから、ということで。もちろんそれも理由なんだけど、珍しいことに霞が“男に任せっきりの、男に頼った旅をしてみたい”なんて言いだしたから、まあきっかけはそんなところで。

 

「一刀一刀! 相手女やで!」

「だからなに!? 女だからなに!?」

「や、口説いて懐柔して、のんびり旅を~って。一刀なら出来るやろ!」

「キミ人のことなんだと思ってんの!? ああもうとにかく逃げるぞ!」

 

 ……あと、俺が健康なら、疲れることなく移動出来るからというのが最大の理由だろう。実際逃げまくりの旅だったわけだし。

 この急な訪問がきっかけで、歴史的な交易路が戦場にならないことを願おう。

 

「なぁ真桜。前に稼動式絡繰華琳様造った時のことだけどさ」

「んえ? おわっ、隊長もう帰ってきてたん!? ああそれより土産は!? 大秦ってどんなとこやった!?」

「土産を手に入れる余裕は無かったなぁ……ほぼ逃げ回ってたし」

「へー……で、何人くらいに惚れられたん?」

「なんで逃げ回りの話を聞いて真っ先にそれを訊くかな?」

「やぁほら、隊長のことやから、よその国でも相手に惚れられて、そっから逃げる旅やった~とか」

「……絡繰華琳様のことだけどさ」

「わっ、流しよった。まあええけど……絡繰華琳様? あー、あの隊長が、隊っ長~がっ! 氣を送り込んで暴走させた絡繰華琳様な?」

「わざわざ“隊長が”を強調せんでよろしい。その時にさ、ちょっと思ったんだ。あれ、氣を流し続けたわけでもないのに動いてただろ? 氣を蓄積出来るなにかがあるなら、ちょっと作ってみてほしいんだ」

「あ~……なるほど、隊長の武器は氣やもんなぁ。それを体内以外に持っておけるなら、そら……」

「……なんでここで下半身を見るかな?」

「やっ、べつに、溜め込んだ分だけ氣ぃで体動かして夜の活動力にする~とかそないなことあいだだだだぁーっ!!? やめて! こめかみぐりぐりはやめたってぇ~っ!!」

 

 強くなるための努力も、自分の鍛錬以外にもいろいろと考えた。

 俺の食事が龍の肉とか血とか、なんか危険なものになった時期もあったものの、謎の発汗やら腹痛、頭痛に吐き気に寒気など、様々な苦しみを五斗米道の秘術で無理矢理癒しては苦しんでを繰り返して、氣脈拡張に臨んだりとか……うん、ほんといろいろあったけど、一応生きてる。

 ちなみに龍の肉は不味かった。

 血はまるで超神水を飲んだ野菜人な人のように苦しむ破目になったし、角と爪と鱗を削って作った秘薬(華佗が言うところの)は、きっぱり毒だとしか思えないくらいに絶叫&悶絶。

 散々と華佗に癒してもらっても、もう二度とやりたくありませんと言えるほどに苦しいものだった。

 ……それでも限界の一線を越えられた……かも? ってくらいの伸びしか得られず、相変わらずの鍛錬の日々だ。限界って言うからにはそんなもんだと、今は納得している。それでも伸びたのだから。

 

「北郷一刀ぉおおおおーっ!!」

「ホワッ!? え……ね、ねね? どうしたんだ急に。ていうか、なんでみんな俺の部屋の扉は思い切り開けるのか───」

「そんなことはどうでもいいのです! それよりも! り、りりり、璃々と夜をともにしたとは本当のことですかぁあーっ!!」

「…………」

「目を逸らすなですーっ!!」

「ねね……人にはね……? 逃げられない状況っていうのが……あるんだよ……」

「璃々が相手だろうと今のおまえなら逃げられるです! どんな理由があれば今のおまえが───」

「ふふっ……ねね? それ、紫苑と祭さんと桔梗に掴まって、さらに酒を飲まされまくったあとでも言える? さらに三人に押さえつけられてる状況でも?」

「………」

「………」

「……いい酒があるです。今夜は一緒に飲むですよ……」

「…………謝謝」

「あ、でも待つです。……押さえつけられたにしても、きちんと愛したですか?」

「なんでそういうこと訊くかなぁみんな!」

「あぁもうわかったのです。その顔の赤さで十分ですよ。けどそのままの勢いで娘を襲うのだけはやめるです」

「いや、本気でやめてくれ、それ。最近華煉───丕が怖い。ねねと焔耶くらいだよ……友達として気軽にこういうこと話せるの」

「…………。まあ、精々癒されるがいいのです。こちらとしても気安く付き合えて万々歳ですから。ただ───」

「? ただ?」

「…………いや、なんでもないのです。それより仕事は終わるですか? さっさとねねの部屋に行くのです」

「ああ、丁度休憩入れようと思ってたところだから」

「ならさっさと来るのです。酒と聞いて動く輩が、この都には嫌というほど居るのですから」

「そだな。よしっ、じゃあちょっと急ぐかっ」

「あっ……なにも走れとは───…………はぁ。まあ、あれですよ。いつまでも友人でと望まれているのなら、それはそれで良い付き合いというものです。だから……そうですね、生まれ変わりでもしたら、その時は……。好きという感情は厄介ですねぇ。そうありたくもないのに勝手に湧き出しやがるのです。そのことで焔耶に相談されたばかりだというのに、璃々のことや鈍感なあの男の友達発言…………はぁ。戦を終えても、“考えることが仕事”なのは変わってくれないのです」

 

 まったく、本当に、この空の下の騒がしさはいつも通りで、笑顔は絶えない。

 一歩歩けば話題が飛んでくるみたいな感じだ。休む暇がない。

 

「よぉっしご主人様確保ーっ!!」

「うぉおおわあぁっ!? な、なんっ……蒲公英!?」

「あー……悪いな、ご主人様。蒲公英のやつご主人様が最近こっちに来ないから、拗ねちまって」

「だからって自分の部屋の近くで宙吊りにされるとは思わなかったよ! ていうか……この前、関平に連れられて行った時、探しても居なかったんだけど」

「ああ、聞いた。丁度別の用件で出てる時で、それに関して蒲公英を誘ったのがあたしで……」

「……あの。翠さん? まさかとは思うけど、罪滅ぼし的な意味で、思春が居ない今を狙った……とか?」

「………」

「目、逸らさない」

「だって思春が別件で居ない時じゃないと、ご主人様を捕縛とか出来ないでしょー!? ってわけでほらほらお姉さまっ! 誰かに見つかっちゃう前に屋敷に運んじゃおっ!」

「この前また桂花が落とし穴で怒られたってのに、どうしてこの人たちはもぉおおおーっ!!」

「……悪い、ご主人様……。子供が出来てもほら、やっぱりさ、す、好きな人との時間とか、欲しいんだよ」

「お姉さまっ、もじもじとか今はいーから!」

 

 それでも、時間は普通に過ぎてゆく。

 誰かに声を掛けられて振り向くたび、何度笑顔を作ったのかも忘れるほど。

 ……日々は、時間は普通に過ぎていった。


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