真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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後日談1:辿り着いた今のお話③

 誰かに囲まれてばかりの日々を続けると、ふと一人になりたくなる時がある。

 そんな時には思考の海に放り投げられてばかりで、面倒なことをよく考えるもんだ。

 そのくせ、考えなんて纏らないから、どれだけ生きたってどこまで行ったって、今の自分は孺子にすぎないんだなって溜め息を吐く時がある。

 

「な~に空なんかボーっと見てるのよ」

「んあ? ああ、詠」

「ああ、詠、じゃなくて。なにかあったの? 最近のあんた、ボーっとしてるか騒動に巻き込まれてるかのどっちかじゃない……って、それは前からね、悪かったわ」

「それについて謝られると泣きたくなるからやめてくれ」

「で? なにかあったの?」

「なにかあった、っていうかなぁ……あのさ。ここ屋根の上だぞ? たまたま通りかかって来られる場所じゃあないんだが」

「なによ。たまたま通りかからなきゃ声もかけちゃいけないの?」

「ほら、よくあるだろ? 詠みたいな性格の子が言う常套句。たまたま見かけたから声をかけただけよー、とか。先読みして言ってみた」

「まあそうね。月と一緒に夜空を眺めてたら、屋根の上でくしゃみをする馬鹿が見えたから、ちょっと引きとめに来ただけよ」

「引き止め? なんで?」

「月がお茶を淹れてるから、持ってくるまで待ってなさい。無駄にしたら突き落とすわよ」

「おお、そしたら氣を使って着地するな」

「……いよいよ返事が変人じみてきたわね」

「俺もそう思う」

 

 とはいえ、当たり前のことだけど考え事をしながら生きる日々に終わりはない。

 あれがああだったら、なんて誰もが考えることだろう。

 そこに老若男女は関係なく、長い時を経て一つの外史に到った俺でも、それを思わない日なんてない。

 誰だってきっと、“最高の現在”を望みたい筈だ。

 それが叶う世界に辿り着いてもまだ、手に入れられなかったものなんてたくさんあるのだ。

 誰かが言ったね、この世は後悔ばかりで構築されてるって。

 後悔があるから改善のために誰かと何かが動いて、動く度に別の後悔が生まれる。

 人は何度“やり直し”が出来るように作られても、満足には至らないってじいちゃんが言った。

 生きていれば必ず後悔に突き当たり、こんな筈じゃなかったと過去を懐かしむのだそうだ。

 それはそうだ。後悔の無い自分は“新しい自分”だ。新しいものに前知識なんて存在しない。何処へ到れば幸福なのかという例もないのなら、想像もつかない世界など……到ってしまえば後悔だらけだ。

 そうして新しいことばかりの世界で、自分は“もっとああ出来た筈だ、こう出来た筈だ”と後悔する。

 そんな自分ばかりが浮かぶ───のだけど。

 

「北郷一刀ぉおおおっ!!」

「左慈ぃいいいいっ!!」

「ちょっと付き合え! 拒否権は無い!」

「いいやお前が付き合え! 公園なんかじゃなくて道場来い! 暴れるぞ!」

「望むところだ! ……まったくなんだこの世界は! 生きづらいったらありはしない! 貴様本当にこんな世界を望んでいたのか!?」

「なにからなにまで自分の思い通りに統一できるわけがないだろうが! それくらい考えろこの馬鹿!」

「なんだと貴様ぁあっ!!」

「否定を選ぼうとしてたお前が自分を否定されて怒るなって言ってるんだよ!」

「だったらまずこの世界の在り方をなんとかしろ馬鹿野郎!! ただ怒るだけでろくに仕事もしない男が、社長の息子だから上司!? それだけを理由に人を見下す世界なぞさっさと統一して変えてしまえ!」

「無茶言うなったらこの馬鹿!」

「なんだとこの野郎!!」

「なんだったら今ここでやるかこの野郎!!」

「のぞっ───……いや待て。大変受け取りたい提案だが、俺自身やっておかねばならないことがある」

「へ? ……珍しいな、お前がノってこないなんて」

「いいから聞け、北郷一刀。俺は貴様にどうしても言っておかなければならないことがある」

「? なんだよ、それ」

「貴様……いつになったらこの国の王になるんだ。さっさと一夫多妻を認めさせ、国の在り方を変えろ。それをするなら俺も于吉も協力してやらんでもない」

「……お前どれほど今の世の中生き難く思ってんのさ……」

「指示するだけでろくに働かん上司が俺よりも給料がいい世の中が、どれほど生き易いと言える」

「どの世界もそーゆーところって同じだよなー……」

「殺してもどうにかなっただけ、過去の方がまだ楽だ。力が振るうべくを善しとされた時代の終わりが、こうも窮屈だとはな。呆れすら朽ちる世だ。貴様らはいったい、こんな世界になにを求めた。何を願えばこんな世界に希望を抱ける。何を目指せばこんな世界を肯定出来る」

「……まあ、散々と“難しいことなんて”~って考えてきたんだけどさ。こういう時はたったひとつだよ。こういう時だけは難しく考えちゃいけないんだ。深刻になるな、なんて言葉があるだろ? “考えすぎっていうのはそれだけで難しい”んだよ。願うことも目指すものも単純なほどいい。馬鹿馬鹿しくたって、ただそれだけでホッと息を吐ける瞬間があることさえ知っていればさ、あー……その。えっと」

 

 生きる理由が“笑いたいから”ってだけでも、この世界はまだまだ楽しいのだ。

 “難しい”は要らない。“楽しい”を掻き集めて、馬鹿みたいに笑ってみればいい。

 この世界をやめる時なんて、全く笑えなくなった瞬間か、この世界を手放したくなった時か……自然に死ぬ時だけでいいんだと思う。

 目指した位置には辿り着けたんだ。

 もうお釣りばっかりで、支払うものなんて覚悟だけで十分だって……誰かに言ってほしい。これからも命懸けじゃなきゃ目指せないものばかりだというのなら、世界ってものは本当に……やさしくない。

 

「肯定否定を合わせて願ったこの世界だけどさ。それは願われたものであって、叶ったものとは違うんだよな?」

「? どういうことだ」

「ほら、俺はこうあってほしいって願っただろ? で、世界は統一された。でもたとえば、俺が“この人はこうだったらな”なんて考えた相手が居たとして、その人がそんな風に変わるとかはありえるのか?」

「さあな。人の在り方まで強制的に変える力がアレにあったかなど、俺は知らない。そもそも使っていたのはほぼ貴様だけだろう。俺に訊くな、お門違いだ」

「うぐっ……それ言われると辛いな……。ええと、何を言いたいかっていうと、願った世界ではあったけど、人の性格までもが俺が願う通り改善される、なんてことはないわけだよな? だから俺に世界の在り方をどうにかしろ、なんて言われたって無理だぞ?」

「そういうことか。ああそうだな、その点に関しては確かに無意味だ。だが俺がスッとする」

「お前ほんといい性格してるな!」

「フン、俺は貴様と違って、思ったことは相手に遠慮せず正直に言っているだけだ」

「時には必要な性格だろうけど、常時ソレだと俺に“生き難い”って言うことこそお門違いだぞこの野郎」

「……ああそれとだな。貴様が願ったことで世界に影響があるか、という部分だが、あるとだけ言っておこう。今を変える方法が全く無いわけじゃない。今この世界は束ねられたもので、他の“もしも”がひどく希薄だ。過去にでも戻ることが出来たなら、現在をいじくることくらい容易いぞ」

「へえ……って、そうは言うけど、過去に行ったりとかはもう出来ないんだろ?」

「俺達は既に不可能だ。が、何事にも例外は存在する。例えば于吉の話に出た猫だが───って、なんだその目は」

「いや。左慈もさ、話に夢中になると普通に話せるよな~って。会うたびに喧嘩腰なの、なんとかならないか?」

「貴様人の話を真面目に聞く気があるのか!」

「言ってから黙ってりゃよかったって思ったけどいつかは言わなきゃだろ今のは!!」

「~っ……馴れ合いはしない! 俺が言いたいのは、求めるものが平和ばかりでは後悔するぞということだけだ!」

「え? それってどういう……」

「知らんついてくるなもう知らん!」

「知らん二回言った!? ってちょっと待て! こういう時に説明不足で去るのって、絶対にあとでよくないことに繋がるだろ! 俺もうそういうのいいから話していってくれ!」

「貴様の都合なぞ知ったことか!」

「それ言うなら俺だって知るか!」

 

 やさしくはないけど、やっぱり世界はいつも通りだ。

 滅多な変化を望まない限り、訪れた変化のきっかけに誰かが手を伸ばさない限り、世界はこんな調子のまま進むのだろう。

 

(……俺が願った世界かぁ……)

 

 外史に託した願いなんてきっと様々。

 俺だけがどうこう願ったからって、過去から続く辻褄が俺の思うように動くわけがない。

 それでも、多少の可能性ってものはあったんだと思う。

 外史の結合を願って、“左慈と戦った俺”の意識が一番前に浮かぶなんて現状。もしかしたら別の俺が一番前に立っていたことだって……ああいや、それも結局もしもか。

 結合を願うことが出来た“北郷一刀”が、あの時は自分だけだった。だから結合しても自分が前に出ることが出来た。全部及川が于吉や貂蝉から聞いた通りなんだろう。あとで説明されても、及川の説明だとちんぷんかんぷんだったけど。

 けどまあ。

 

「お~ぅかえりなっすぁいご主人様ァン。ンごぉ~はんにします? おぉ~風呂にしますぅん? そ・れ・と・もぉん、貂ぉお~ぅ蝉ちゅわんっ?」

「チェンジで」

「そんなシステムなぁ~いわよん!?」

「じゃあ警備システムはあるんだから、不法侵入で警察に突き出しても文句はないだろ! どこから入ったんだよ!」

「あらぁん、普通にお客さんとして来ただけよん? 最近物騒だから、こうして家庭訪問も兼ねて近辺で怪しい人を見てないか、親御さんに聞き込みをしているところにゃ~にょよんっ♪」

「……。あ、もしもし警察ですか? 今家にウィンクで突風撒き散らすビキニパンツと白衣だけのモンゴルマッチョで物騒の塊みたいな存在が」

「どぅぁあーれが物騒という概念を密集させて完成した美少女ですってぇーん!?」

「そこまで言ってないよ!? 特に美少女!」

 

 悩むことはあっても、日常は日常。

 程よい……程よい? 刺激もまあまああって、退屈はしていないなら……願った甲斐も、目指した甲斐もあったのだ。

 物語にありがちなハッピーエンドの先は、幸せだけなのかって小さい頃に考えたことがある。

 散々と苦労をして、やっと魔王を倒して世界を平和にして、王女様と結ばれて胸を張れた勇者が居たとする。

 そんな彼はエンディングのあと、果たして幸せに生きていけたのだろうか。

 魔物と戦えたから応援された勇者だ。平和になった世界で、果たしてどれだけ役に立てるのか。

 華琳にも話したことだ。

 

  命懸けで戦って、世界を平和にしてさ。

  その後にやることが世界平和の維持、って。

  命懸けで戦うだけじゃ足りなかったのかなって。

 

 勇者はきっと、今度は人の争いに巻き込まれる。

 そして思うのだ。こんな筈じゃなかったって。

 倒した魔物よりもよっぽど黒い何かを見せられて、いつか……“倒してしまった魔王”を思うこともあるのだろう。

 ……こんなこと言ったら左慈は絶対に“気色悪い、殺すぞ貴様”って返すだろうけど。

 “勇者だって人間だ”。

 天の御遣いとして、支柱として立ってみたからわかることって、結構ある。

 そうして、多分……物語で言うエンディングのその後に立っている今の俺は……やっぱり、幸せ、ってだけの場所には立っていられてなかった。

 苦労のあとに来る幸せの方が嬉しいものだっていうのは、まあわかるけどね。


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