真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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後日談1:辿り着いた今のお話④

 そういったこれからのことを相談したり想像したりしている、とある日、とある現在。

 俺と華佗は俺の部屋でのんびりしつつも時間を潰していた。

 本日。学校はあるが、すぐに向かうには少し時間が早いのだ。

 プレハブ生活だった日々が懐かしいけど、現在は自宅住まいだ、これは仕方ない。

 早寝早起きを心掛けているのはいいことだけど、たまに早く起きるとこうなる。

 そんなわけで、男ってことで俺と同じ部屋で寝泊りしている華佗と、現代で医師になるにはどうするか、を話し合っているわけで。

 

「医療免許か……我が五斗米道をどれだけ説こうと、この時代の者は受け入れてはくれなさそうなんだが……」

「かと言って、闇医者になるわけにもいかないしなぁ。まああれだ。針師の資格を取るにはいろいろ積んでおかなきゃいけない経験もあるし、やっぱり学園卒業からだろ」

「勉強だけを修了させて、試験に臨むことは出来ないか? こうしている間にも病に苦しむ者が居るんだ。そんな人達を見過ごすには、学園卒業は長すぎる」

「高校卒業程度の認定試験に合格してればいいって、どっかに書いてあったな」

「そうなのか! ならばそれに合格して───」

「で、定められた養成施設を修了すること、だったかな」

「結局学ばなければいけないのか……!」

「そう言わない。あの時代には無かった病気とか結構あるんだ、学んでおかないと対処法とかわからないだろ。なんでも(はり)で治せれば、そりゃあいいかもだけどさ。それじゃあみんな、次第に針治療しかしなくなるじゃないか。渡せる薬や自分で出来る軽い民間療法なんてものがあるから、病院が病人だらけになってないんだから」

「……そうか。救うことを考えるあまり、目先のことにしか頭が回らなかった。俺もまだまだ未熟だな。よし、ならばその養成施設とやらを一刻も早く修了し、不治の病などこの世から消し去ってやろう!」

 

 華佗は華佗で燃えていた。

 仕事を手に入れるって大変だ。

 そもそも学校卒業が前提となっている職だらけなので、様々な方向からどうやって望んでいる職種に就けるかが問題なのだ。

 大陸に行くのはもうちょっと生活が安定してからになるだろう。

 しかしまあ……医者なぁ。

 最近は怠惰な医者が増えたよなー。患者が来れば、少し聴診器当てて“じゃあ薬出しますからねー”で終わりだ。

 薬を売ればそれで終了、少し具合を訊くだけでも終了、で、“初回問診が○○○○円となります♪”なんてよくあることだ。俺はあれを医者と認めない。

 華佗が見たら怒り狂いそうな医者ばかりなのだ、現代社会は。

 

「はぁ。俺も、大陸側に傾きすぎた知識の基準をこっちに戻さないとなぁ」

「苦労しているのか? そうは見えないが」

「ふとした拍子にね。さすがに50年以上をあっちで過ごすと、こっちに戻っても基準が向こう側になる。……“別の常識的なこと”は、こっち側の方に向いてるのにな」

 

 みんなと再会するまで感覚を戻そうと頑張ってはみたものの、それも“ついやってしまうこと”にはまだまだ対応出来ていない。

 なんというかこう、人の流れを見るとその時点でどうすることが丁度いいのかとか、そういった流れが見えることがある。仕事の病といえばいいのか。こう、剣道で言うと筋のいい人を見るといろいろ教えたくなる、みたいな感じだ。

 相手にしてみれば何様だって話になるから、無理に首を突っ込むことはしてないんだけどね。後輩にこうしたほうがと教えた時なんて、いろいろ大変だったしなぁ……。一応は高学年ってことで言うことを聞いてはくれたけど、そもそもフランチェスカは女学園だ。男の言うことを聞くことに抵抗を持つ子だって当然居る。

 教えた相手が丁度そういう娘だったために、いやぁもう拒絶されるわいろいろ罵倒されるわ、その後日に何故かツンデレ怒り気味に謝罪されてもっと教えろと言われるしで、もう訳がわからなかった。

 “かずピーってほんま、天然のタラシやね”とは及川の言葉だ。

 

「北郷はこれから学校か?」

「ああ。過去の世界でどれだけのことをやったって、こっちじゃただの学生だからなぁ」

「そうか。この時代に生きる者にしてみれば、過去などはあくまで基盤でしかないのだろうな。残るのは伝説のみで、俺達がどんなことをしてきたか、なんてことは……向こうで死ぬ前に、痛いくらいにわかったつもりだったが」

「そんなもんだよ。過去の戦を束ねてみせたんだってどれだけ言ったって、それが真実だとわかっても相手にしてみれば“そうなんだ、すごいね”で終わる。……あの世界はさ、味わってみなきゃ、誰にもどうとも言えないし、多分……言ってほしくもないことだと思う」

「……そうだな」

 

 どう説明したって真実ごと届くことなどないのだろう。

 当然だ、想像するしかないのだから。

 だからといって映像として人の死を遺しておくわけにもいかない。

 記して遺すしか出来なかった時代の、それが精一杯だ。

 ありがとうな、琮。お前達が勝てたって知ることが出来ただけで、俺もようやく救われた。

 でも“シャイニング・御遣い・北郷”は書かんでよろしかった。

 華琳が涙するほどの腹筋崩壊劇場なんて、きっとそうそう見れないぞ……?

 “これはお前のものだ”と琮が残した書物をくれたのはじいちゃんだが、それを手に取り勝手に読んだのは華琳だ。そして泣くほど爆笑したのも華琳だ。

 雪蓮あたりならそうなるのも予想出来たけど、まさかなぁ、華琳がなぁ。

 

「………」

 

 書物には、都は発展させるけれど、出来るだけ原型は留めるつもり、という旨まで書かれていた。

 1800年もそんな願いが叶えられるものかな、なんて思ってしまうあたり、俺も案外現実ばっかりを見ているのかもしれない。

 そうであったなら、とはもちろん思う。

 でも、住む場所っていうのは今を生きる人が変えてしまえるものだから。

 死んでゆく者がどれだけ願ったところで、死んでしまった者の意志は生きている者の意志には勝てやしないのだ。

 

「……大陸の方はどうなってるのかな」

「名前は中国。紀元前からこの名前はあったと書かれていたな。現在もそのままで呼ばれているらしい」

「うん。ちょっと、怖くて歴史を紐解くことに躊躇してる段階だ」

「見てみればいい。なかなか面白いことになっているぞ?」

「面白いこと?」

 

 ハテ。

 面白いって、なにが?

 ……まさか中国とは表の名前で、裏の名前が北郷とか言い出す気じゃあるまいな。

 

「氣を扱わせれば右に出る国は無し。武道の大会に出れば確実に勝利し、様々な競技の頂点に立っている、と。むしろ世界的な競技への出場が見直され、中国は中国内で最強を決めてほしいと願われるほどだ」

「なんでそんなことになってるの!?」

「ははは、原因は大衆に氣を教え始めたとされる“天の御遣い”らしいぞ? 乱世において人々に笑顔と楽しさを教え、平和であることの素晴らしさを伝え、敵同士であった三国を見事纏めてみせた天の御遣い。彼が居なければ三国の同盟もあそこまで深いものにはならなかったとさえ伝えられている」

「ぬっく!? く、おお……!?」

「ちなみに御遣いの名前のほぼは“シャイニング・御遣い・北郷”で占められていたぞ」

「いっそ殺してくれよもう!!」

 

 ていうか誰!? 誰がその名前で後世に残そうとしたの!?

 と訊ねてみれば、どれも自分の娘の仕業であったことを知り、頭を抱えた。

 なお、呉には校務仮面の名前までもが残されており、もう俺にどうしてほしかったのやら。

 保存するために一定周期で写本を作ったのだろうが、書き写した人はどんな気分だったんだろうなぁ……いやほんと。

 でも原文も残ってたりするもんだから、俺、真っ赤。だって原文が残ってちゃ“それは違う”って言えないんだもん。

 

「えと……それで? 中国は今……」

「都を主体に、未だに魏呉蜀がある武闘派国家らしい」

「なんだってぇえーッ!? い、いやっ……だって……! 中国ってほんと、いろいろあったからこそあの頃の、って言われても知らないだろうけど、ああいう国に……!」

「お前が知っている中国とは何がどう違うのかは知らないが、敵となる脅威は全て討ち下し、力を高めてきた場所らしい。世界大戦とやらでもその“兵器”を持たずに“絡繰”を用い、世の戦を渡ってきたとされている。御遣いが周邵に漏らしたNINJAの話が広く伝わったようで、気配を殺して兵よりも司令塔を真っ先に始末する戦い方で、ほぼを勝ち残ってきたらしい」

「もうなんでもありだなぁもう!」

 

 でも絡繰って部分で少しじぃんと来たのは内緒だ。

 あー……でもあれかなぁ。片春屠くんで高速突撃して戦ったりとか、摩破人星くんで空から奇襲をかけたりとか……いや、そういったものももっと進化してるのかもなぁ。怖くなってきた、考えるのやめよう。

 

「当然そんな、過去にこだわりすぎる国に不満を持つ野心家も現れたには現れたらしいんだが……」

「らっ……らしいん、だが……?」

「ボコボコにされたのち、自分が行使している氣も過去から学んだものだろうと正論で論破され、なんか諦めたそうだ」

「なんか諦めたの!?」

 

 い、いやちょっと……なんかってアータ……!

 もうちょっと強い意志を持って頑張ろうとか思わなかったのか野心家さん……!

 

「血筋なのかどうなのか、どうにも“北郷”の血を持つ者たちは、先人に感謝する者が多かったそうだ。それが王や将の数だけ子を為していったんだ、そういう集団に至ることもあるだろう」

「先人に感謝って姿勢は頷けるよ……これで名前にシャイニングがついてなけりゃ、俺だってさぁ……」

「自分で名乗ったんじゃなかったのか?」

「ぽろっと口にしたことはあるよ!? けどそれが後世まで伝えられるって誰が考えるってのさ!」

 

 なんだろう……物凄く大陸に帰りづらくなっちゃった……!

 

「えと。ちなみにさ、その御遣いの情報って、どんなものが……」

 

 とんでもない誇張があったら、もう本気で帰れない。

 今でさえ恥ずかしいっていうのに、これ以上とか勘弁してほしい。

 

「曇天を氣の竜巻で吹き飛ばし、手からは光り輝く波動……光線を放ち、黒の木剣を構えればそれが金色に輝き、その剣からは光の剣閃を放ち、座ったままの姿勢で高く跳躍したり己の氣で空を飛んだり───」

「いやうんなんかもういいですごめんなさいぃぃ……!!」

 

 顔がちりちりと痛くて仕方ない。もう無理。絶対に真っ赤。

 帰るにしても、ちょっと行ってすぐ帰るとかでいいんじゃないかなぁもう。

 

「はぁあ……けどまあ、そこまで行くともう誰が聞いても誇張だ~とか思うよな。竜巻を発生させるなんて、普通に考えて出来るわけがないし」

「ははは、そうだな。ああちなみに、北郷の血を引く者からはどうしてか女ばかりが産まれ、ついには中国は女性天下の国家として確立したとか」

「それずぅっと昔から変わってない気がするんだけど」

 

 女が将で男が兵だった世界だし。

 

「まあそういった理由で、強い男を見てみたいという女性ばかりだそうだ。氣の扱いには慣れているそうだが、天の御遣い様のように異様と思えるほどの応用が出来ないらしい。北郷、お前は氣の応用については遺さなかったのか?」

「そりゃ、我がもの顔で借り物の知識を遺す気になんてなるもんか。かめはめ波とか操氣弾とか、鳥山先生ごめんなさいだろあれは」

「実際に撃てるんだから仕方ないと思うが。いや、いい漫画だな、あれは」

 

 家にあった漫画は皆様に大好評だった。

 ああ、漫画で思い出したけど、正史であった筈のじいちゃんの書物全般は、ほぼ全て外史のものになっていたそうだ。ほぼ、というのも、結局は曖昧な部分が多いためにそれが正しいかもわかっていないから、というもの。

 正史は全て除外したって意味でなら、俺達からしてみればそれらは間違い無く正しい歴史だ。……もっとも、過去の人々がきちんと伝えていればだが。

 

「っと、そろそろ時間がヤバいな。じゃあ華佗、俺行くな」

「ああ。貂蝉と卑弥呼によろしく言ってくれ」

 

 貂蝉と卑弥呼はその持ち前のいかつさを武器に、フランチェスカの警備員として落ち着いた。“いかつさって何ィ!”とか文句は言っていたが、言い続けてなどいられない状況なのでお願いしたっていうのもある。

 “かよわい漢女に警備員だなんてぇい!”とか言っていたが、むしろ悪さをしに入ってきた存在が男だった場合が心配だ。

 

「さてと」

 

 ぐうっと伸びをしたら行動開始。

 ちゃちゃっと着替えて準備を整えて、部屋を出て家を出て、そこからはジョギングがてらのダッシュ。……ダッシュってジョギングとは違うよな、うん。

 けど今さらこんなんじゃ疲れもしなくなったあたり、やっぱり氣ってすごいなぁと思うのだ。

 そうして走り終えた先はフランチェスカのプレハブ。

 ボロアパート、とでも名づけたほうが形が想像しやすいそこで、まずは及川を叩き起こす。

 

「朝は幼馴染が起こしてくれるもんとちゃうのー?」

「どこのゲームの世界だそれは。ほら、さっさと用意する」

「シャツ脱ぐ時ってさー、こう、右手で左脇腹側を、左手で右脇腹側を持って、ゆっくりと脱ぎたならない? そんで脱ぎ終わったらビューティフル」

「お前は何処の喧嘩師だ」

「ンやぁん、俺かてそんな、ズボンごとビリビリ破くとかでけへんて~」

 

 馬鹿話をしつつ、部屋を出て学園へ。

 

「せっかくだし章仁も起こすか?」

「やめや。あきちゃんはこれから恋人に起こしてもらうっちゅー大事なイベントがあんねや。それを邪魔したらジブン、馬に蹴られてレッスン5やで?」

「無理矢理ネタ混ぜるのやめなさい」

 

 今日も一日の始まり。

 勉強して部活して、存分に体を動かして、時間が取れたらこちらもバイト。

 学園側には事情を話して許可は得た。大丈夫、体力には自信がある。

 仕事は土木関係。氣を思う様使って働きまくり、仕事仲間と会話をして人脈も増やしつつ、日々を過ごした。

 仕事仲間と喋っている時、どうしても警備隊時代を思い出してしまうのは、仕方の無いことだと思う。

 


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