真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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後日談1:辿り着いた今のお話⑥

 誰かがズッコケてもおかしくないような空気の中、一番にツッコんできたのは華琳だった。

 

「い、いかないって、何故よ!」

「え? だって俺学校あるしバイトもあるし」

「娘達との約束があるのでしょう!?」

「引き継いだばっかりでいきなり道場を留守には出来ないって。あっちへは自分で稼いで行くよ」

「………」

 

 苦笑混じりにそう返すと、華琳もみんなもそれはもう見事な困惑を顔に貼り付けたような表情を見せてくれた。

 うん、きっと帰るよ。でも今じゃない。人生の転機はいろいろあっても、今がそうかと言われたら……そうだとしても乗る気が無いならどうにもならない。

 

「一刀。あなたはそれでいいの? 道場を継いだとはいえ、管理する者が完全にあなた一人というわけではないでしょう」

「なんかね、向こう行ったらそう簡単には帰れない気がして。いや、教育がどうとか言ってるなら帰れないだろうね」

「んんー? お兄ちゃんは帰りたくないのかー?」

「んー……はは、そうだなぁ……鈴々は帰りたいか? 帰って……そこに住みたいって思うか?」

「むー……ちょっと難しいのだ」

「だよな。俺もそう思う。今さら帰って英雄ヅラして住めばいいのか、ただちょっと見て帰ればいいのか」

 

 戻って願われるままに教えて、叩き直せばそれでいいのだろうか。

 

「………」

 

 いや───……いや。

 そういうのじゃ……ないんだよな。

 ただ俺は、帰って……そして……───そして。

 

(あるのなら、墓に、“頑張ったな”って……言ってやりたい)

 

 過去に自分がなにをしたのかとか、そんなことは二の次でよかった。

 ただ俺は、家族として…………───そうだよな。

 勝手に難しく考えていたのは俺だ。

 

「悩むクセはいくつになっても消えてくれないな、まったく」

「本当にそうよ。そのクセは直しなさいと言ったでしょう?」

「馬鹿は死んでも治らないって言葉もあるんだし、ちょっとは見逃してくれると嬉しいかも」

「死んでも治らない? そんなもの───……あ」

「! なにか私にご用ですか、華琳さまぁっ!」

「そっ…………そう、ね。そうだったわね。死んでも治らないものも……あるわよね」

「ここで春蘭見て言うのって、相当ひどくないか……?」

 

 事情を知らずに目を輝かせている春蘭はきっと幸せだ。

 散歩前の散歩大好きお犬様のような様子で、おめめがとってもシャイニ~ング。

 

「麗羽だけでも十分よ。外史の記憶も若い頃の記憶の方が多くて引っ張られるところがあるとはいえ、少しは大人しくなってくれたらよかったのに」

「ん……混ざるの、嫌だったか?」

「冗談でしょう? ほぼ全ての外史で結局はあなたと一緒に居ることを考えれば、果てまで生きたことを自分の道に感謝するだけで十分よ」

 

 困ったことに、本当に全ての外史の記憶はここにある。

 えーとその。華琳と敵対してたことや、華琳が于吉たちに操られたことや、華琳を縛って後ろから……ゲッホゴホッ!!

 なんだろうなぁ。あの光景を思い出すと、縛られていた桂花の初めてを散らせた時のことを思い出す。

 外史って、やっぱりなにかしらの繋がりがあったりするのだろうか。

 

「娘たちもそうだけど、大喬小喬も居なかったしなぁ。あの頃の俺じゃあ、二人をイメージ出来なかった」

 

 冥琳にもだけど、雪蓮に会いたかっただろうに。

 仕方ないこととはいえ、やっぱり悲しい。

 そんな俺に、小さく笑みを浮かべた冥琳が言ってくれる。

 

「仕方ないさ。それに、なにかしらの辻褄合わせで現れないとも限らん。たとえばそうだな……記憶が混ざり合った今があって、今こそが外史に固定されたのなら、願う際にお前が思い浮かべない筈が無い、などとな。だめならだめで、仕方の無い事だ」

「ていうか一刀? その場合だと大喬小喬にとんでもなく恨まれることになるけど、それでいいの?」

「ああうん……むしろ小喬は喜ぶんじゃないかなぁ……」

 

 なにせ冥琳よりも姉の大喬のことが好きだったからなぁ……。

 

「けど、行くにしてもいろいろと準備は必要だよな。学園は休めないし……そうなると卒業前か後が一番安心していけるんだけど」

「何を言っているのよ、国からの要請でしょう? 一人の学生の都合に合わせて国全てにそれを待てというの?」

「それだって俺が行きたくないって言えば終わることだろ。人一人の都合に合わせろって、じゃあ上の一人の命令や都合に合わせる国民はなんなんだって話じゃないか」

「合わせたからこそ勝てた過去があるじゃない」

「……そうでした」

 

 いろいろなものには前例がある。

 良いことにも悪いことにもだ。

 だから俺がフランチェスカに休学届けを出して、中国に行ってしまうという前例を作るのだって、きっと今なんだろう。

 かつての故郷に休学届けを出して帰りますっていうのも、なんというか旅行気分で……休学届け出すのにも相当の勇気が必要そうだ。

 

「で……俺本当に休学届け出さなきゃダメ? 俺今、これから~って時なんだけど」

「わからないのならはっきりと言うわよ一刀。このままではこの道場は潰れるわ。他ならぬ私たちの所為で」

「うぐっ……」

「想像出来ないわけではないでしょう? 継いだとはいえあなたは学生で、学生から教わろうとする者などほぼ居ない。今来ている門下生も、私たちを見ては居心地悪そうに距離を取るばかりじゃない。こんな調子で続くと、本気で思っているの?」

「……簡単なことばかりじゃないっていうのは、わかってるよ」

「そう。ならさっさと向こうで実績を手に入れてきなさい。氣を扱わせれば右に出る国無し。いい響きじゃない。そんな国に氣を教えることが出来れば、この道場も安泰でしょう?」

「うわー……黒いこと考え付くなぁ」

「あら。こんなことは普通でしょう? 持っている力を存分に振るっているだけじゃない。氣を扱えるのはあなただけではないのだし、この場に居る皆を救う結果にも繋がるわ」

「………」

 

 考えなかったわけじゃないけど、転がりこんできた甘い蜜に手を出していいものか。そういう躊躇が生まれていた。

 けれど彼女はその蜜を鷲掴みして、心行くまで利用するつもりらしい。

 逞しいことだ。

 ていうか、継いだからってすぐに教えられるとか、そういうのじゃないと思うんだが。

 

「それで? その相手との連絡手段は?」

「一応名刺は貰ってる。連絡先も書いてあるから、ここに電話すれば……」

「そう。じゃあ貸しなさい」

「……エ?」

 

 ぴしり。

 その場に、冷たい空気が流れた。

 

「……? なによ」

「や、だって華琳、機械苦手じゃ」

「ぅなぅ!? へっ、平気よ。なによこんなもの、写真を見るのと変わらないじゃない」

「…………そか? じゃあ、はい」

 

 こんな短い期間で携帯電話を買い換えるなんてかずピーくらいやでー、と言われつつ、また新たに買った携帯電話を華琳へ。

 一緒に名刺も渡すと、それを見下ろしつつごくりと息を飲む覇王さま。

 

「か、華琳さま? 私が───」

「いいわよ秋蘭。私一人で十分だわ」

((((((物凄く不安だ……))))))

 

 普段ならば頼もしい覇王さまが、この時ばかりはこうも……!

 けれど何度も携帯と名刺とを交互に睨みながら番号を押す。

 そしてフンスと得意顔になる……ことしばらく。

 

「華琳、通話ボタン」

「へゃっ!? あ、し、知っていたわよ!」

 

 そして通話。

 携帯を耳の傍で構え、目を閉じながらそわそわする覇王の図。

 あ、稟が鼻血吹き出した。

 

「はいはい稟ちゃん~、とんとんしましょうね~」

「ふがふが……」

 

 なんともはや、特訓の甲斐もなく、稟はかつて以上に鼻血を吹き出しやすくなっている気がする。

 外史が合わさった所為なんだろうか。……なんだろうなぁ。

 そんな微笑ましくも不安が残る……残る? 君臨、だな。不安が堂々と君臨してらっしゃる道場の一角にて、ついに相手側へと電波が届いたようで、華琳の肩が小さくビクーンと跳ねた。

 

「おお主よ、どうやら繋がったようだ」

「わかり易いな」

「星、冥琳、言わないであげて」

 

 隣にいらっしゃる美周朗さんと、正面から華琳を観察しにいらっしゃった星の気持ち、わからんでもないですが……苦手なものの前では誰だってこんな感じだよきっと。

 言葉にしたら本人こそが大反論するから言わないけど。

 それにね、冥琳。通話状態にさえなってしまえば華琳は無敵だ。

 得意の話術であっという間にペースを掴んで───

 

「ひゃっ!? も、もひもし!? あ、やっ……! え!? あ、な、名前っ……!? 一刀っ、相手の名前っ……あ、ちが、訊くなら自分からでっ……わわわ私が曹孟徳であるーっ!!」

 

 ……。

 

 ───星さんや。誰でしょうなぁあの可愛い生物。

 

 ───はっはっは、主よ。孟徳だ。あれが覇王でありますぞ。

 

 ───落ち着かせてやれ。郭嘉が血を流しすぎて痙攣している。

 

 そんな会話がうっすらと笑顔を浮かべたままにされて、稟の鼻血が例の如く大変なことになった。

 それから、目が渦巻き状態の暴走覇王様からスイッとケータイを抜き取った雪蓮が会話を繋いだんだが……直後、覇王様が道場の隅でT-SUWARIをしだしたことにはツッコんじゃいけないんだと思う。

 

「え? そう? そうなの、へぇ~……あ、そうそう、呉って今どうなってるの? 連絡手段とかってやっぱりこのケータイとかいうものとか? ああ、いんたぁねっととかいうの? 及川が言ってたわよー? 楽しいんだってねー」

 

 “こういうことに素直に自分を合わせられる人”って居るよね。

 雪蓮はきっとその典型だろう。

 物怖じもせずに楽しげに会話をして、それでいて相手の方から情報を引き出そうとしている。

 俺の視線に気づくと“ニィイイマアァアアッ……!”っておもちゃを見つけた子供みたいな笑顔を見せるし。

 ……でも、なんだろうなぁ。インターネットと雪蓮……それは引き合わせてはいけないものってイメージがとても強いのだ。

 なんでだろう、と軽く考えてみる。

 

1:興味津々、情報収集楽しい

 

2:面白いサイト発見

 

3:もっともっと

 

4:そもそもあの時代から仕事をしない人

 

5:ぜったいに働きたくないでござる!

 

 結論:HIKIKOMORI

 

 軽く考えただけでこれなのだから、軽く頭を痛めつつ、冥琳にそのことを詳しく話して聞かせた。

 その直後に冥琳は弾かれるように疾駆して、雪蓮からケータイを奪って交代。

 驚きつつも文句を飛ばす雪蓮だったが、絶対零度の“黙れ”を込めた睨みをされ、黙るしかなかったのです。

 そんな雪蓮が「ちぇー」とか言いつつ唇を尖らせて、さっきまで冥琳が居た俺の隣へ。

 

「なんなの冥琳ったら。もうちょっとでいろいろい聞き出せてたのに」

「ああうん、ケータイでもインターネットが出来るんだぞって言ったらああなった」

「一刀の所為!? え!? なに!? 私いんたぁねっととかいうのやっちゃだめなの!?」

「……雪蓮」

 

 戸惑う小覇王様の両肩に手を置き、薄く笑みを浮かべる。

 そして心はやさしいままに、でも、しっかりと言うのだ。

 

「だめだ」

「なっ……なんでよー!!」

 

 あたかも核の炎に包まれた世界の世紀末愛戦士のように。

 絶対にだめとは言わない。ただ、きみにはちょっと前科というか前例がありすぎるのだ。

 

「楽しいこと見つけると、仕事もしないで没頭するから」

「うぐっ……!? だ、大丈夫だってば、仕事もその~……やるわよ? うんやる」

「本当に?」

「ほんとほんと!」

「絶対に?」

「ぜったいにぜったいに!」

「じゃあ今の言葉しっかりと録音させてもらったから、あとで冥琳にも聞かせるな?」

「一刀。命が惜しければ今すぐその機械をこちらに渡しなさい」

「なんでいきなり生殺問題にまで話が飛ぶんだよ!!」

 

 にっこにこ笑顔で“絶対に絶対に”って言ってた人の目ではありませんでした。

 もう虎だ。手負いの虎だ。無傷なのにさっきの一言でどれほどの深手を負ったんですかあなたは。

 

「北郷」

「うん?」

 

 話を終えたのか、冥琳がケータイ片手に……いや両手に俺に声を投げる。

 見ればケータイの通話部分は片手で押さえられていて、聞こえないようにしているようだった。

 

「来るのなら旅費は全て向こうが出すと言っている。というか既に来ることが国を通して決定しているらしい。私たち全員が無理でも、北郷だけは必ず寄越すようにと」

「いきなり話が飛びすぎてない!? 雪蓮といい、どうしてこう段階ってものを無視するんだよぅ!」

「まあ私も北郷の性格を考え、似たような質問は飛ばしたんだがな。段階は踏んでいるそうだぞ? きちんと手続きをした上でこの国に来て、北郷を探し、見つけ、国に報告。それから国の頭同士が会話をして、自国に来てくれ、と言った。間違いようがないくらいに段階は踏んでいるな。……たった一段だけ飛ばしてしまっているが」

「……これできちんと俺に確認を取るって部分があればなぁ……」

 

 そこが一番重要でしょうに、国が決めちゃったんじゃ断れないじゃないか。

 ていうかそんな重要なことをお国問題にされちゃ、道場から人が遠ざかりそうなんですが!?

 あぁああ……ますますきちんと実力を見せて、向こうでも教えられるほどって能力を見せ付けなきゃいけなくなっちゃったじゃないか……!

 失敗したらどうなるんだこれ。道場、本気で潰れる?

 

「………」

 

 逃げ場はありませんでした。

 きっと向こうには頭がいいけど人を追い詰めるのが好きな軍師っぽい人が居るんだろうなぁ。

 そんなことを考えたのち、早速家族に呼び出された俺は、届けを出すまでもなく学校側から休学を命じられたのでした。電話で。

 

 ……こうして、行かなきゃいけない状況で自分の周りを固められたわけだけど。

 向こうがもう完全実力主義になっていることとか、強い者こそ王になる、なんて状態になっていること。それに加えて……呉のとあることで、ジワリと怒りが滲んだ、なんてことは……教えないほうがいいよなぁ。

 あっちの王も、こっちを歓迎するっていうよりは半信半疑で呼び寄せたいだけ、って風だし、妙に期待を持ちすぎるのはやめておこう。歓迎してくれる人、してくれない人は随分と分かれる……そんなぐらいが丁度いい。


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