真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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後日談2:いつかの約束①

番外のに/大陸。もはや彼の記憶に残る原型は、別の意味で存在しない

 

 ───それからは、怒涛のごとくと言うべきか。

 

 大陸への出発が決まり、移動手段は空。

 恐れ多くもお国が旅費を用意してくれたこともあり、飛行機を時間指定で既に予約されていて、それに合わせるためにドタバタ劇場。

 そして現れる問題、問題、問題。

 外国行くのに足りないものがごっちゃり。その大半も国が用意してくれたこともあって、余計に様々を断り辛くなったことを追記。

 さらには、いざ出発って時に“こんな巨大な塊が空を飛ぶわけがないじゃない!!”と悲鳴にも近い声で叫ぶ覇王様や、馬は大丈夫なのに車酔いしてぐったりな翠や蒲公英や白蓮、ちょっと目を離した隙にナンパされて気安く触られたことに激怒、相手をブチノメした華雄さんや、科学を前に興奮しっぱなしの真桜や……片時も傍を離れず、なにかというと世話をやいてくる思春さんとか。

 問題って言っていいのかは別として、そりゃあもう余裕はなかったと声を大に出来る。

 

 真っ青な顔で「飛ぶわけがない落ちるんだわきっと死ぬのよそうなのよ」とかぶつぶつ言ってる華琳と桂花、それを見て笑い死にしそうなくらい苦しんでいる雪蓮や、そんな雪蓮に散々と振り回されてぐったりしている冥琳……そしてそんな全員にあれはなにこれはなにあれを見ようこっちへ行こうと振り回されまくってアルティメットぐったりな俺。

 飛行機の中ではゆっくり寝ようって思っていたのに、周りが寝かせてくれない。

 なんの偶然か、どういう何がそうしたのか、隣になった思春が周囲に“黙れ”と喝を入れてくれたお陰でようやく眠れそうになった……のだが。

 ピキャーというなんとも奇妙な悲鳴に心底驚き、目は冴えた。

 だってね、叫んだのが覇王さまだったんですもの。てっきり美羽かと思ったくらいの悲鳴が、まさかの覇王様。もうどうしろと。

 遥かなる空から見下ろす世界に恐怖し、きっとすぐに落ちるんだと思ってしまったからにはもう大変。その隣だった桂花は既に泡を噴いて気絶している始末で、ああもう本当にどうしたらいいやら。

 俺の顔を見るなり抱き付いて来たかわゆい生物を前に、頭を撫でつつ「なにが起ころうとも天命で済ませるかと思ったのに」って言ってみたら、えーと……その。

 天命を唱えて目を閉じるには、大事なものが増えすぎてしまった、って。

 かつての黒の下、自分の臨終の際に泣きすがる俺を見たら、天命だからと生きる努力さえ放棄することなど許せなくなったって。

 なんかそれだけで俺も真っ赤になっちゃって。当然眠れるはずもなくて。

 

「……あぁ」

 

 疲労を蓄積させながらも、これが自分の日常だって思えてしまえること自体、案外これはこれで幸せってものなのだろう。

 いつか、夕暮れの教室で味わった、あんな孤独感と一緒の幸福とは違う、滲み出るみたいに微笑むことが出来る幸せ。手を伸ばせばそこにあるものこそが幸せの象徴だっていうなら、自分は確かに幸せなのだろう。

 なんでもないものに感謝を。

 無くして初めて気づける“なんでもないもの”が、こうしていつまでも手の届くところにありますように。

 そんなことを静かに思いつつ、

 

「愛紗愛紗ー! 雲が下にあるのだー! “あにめ”でやってたみたいに乗っかれるのかー!?」

「なぁなぁきょっちー! 雲の上ってのは竜とかが飛んでたりするんだよな! 前は出来なかったけど、今回は全員で戦えるぜぇっ!」

「文ちゃんっ! 戦うなんて言ったって武器もなにもないでしょ!?」

「主様主様ー! あの雲はまるで綿菓子のようじゃの! もしや食べられるのかの!? のう主様!」

「おうい、そこな女~。酒は売っとらんのかー?」

「申し訳ありませんが、お酒は……」

「ならばメンマはあるだろうか。いや、あるな? 無ければおかしい」

「メッ!? い、いえあの……メンマはさすがに……」

「このじゅーす美味しいのにゃー!」

「にゃー!」

「にゃうー!」

「うわこらっ! 勝手にジュースをだなっ……」

「お客様困ります!」

「あぁああごめんなさいごめんなさい! ……美以ぃいいっ!!」

「み、みぃ悪くないのにゃ!? 置いてあったから飲んだだけだじょ!」

 

 今は無事、あちらへ辿り着けることを祈っておこう。

 いや、墜落とかの心配じゃなくて、精神的に無事でいられることを願う方向で。

 墜落の心配は……ほら、無駄に運の強い王とか勘が働きすぎる王とか、常に天命の先を歩いてそうな王とかが居るから。……天命の人、今ガタガタ震えてらっしゃるけど。

 

「………」

 

 どうしたものかと考えて、どうにも出来ないことを早々と悟った俺は、もうやかましくても寝ることにした。

 

 

───……。

 

 

 それからのことを……割愛する。

 空港に降り立ってからの道のりは……長いとかそんなことがどうでもよくなるほど、その……やかましかった。それだけわかってくれればいい。それだけ……そう、十分なんだ……それで。口にしても疲れるだけなのだ、華琳の言葉じゃないが、察してほしい。

 衣服は皆、この時代で買ったものを装着。

 俺だけは李さんの強い希望でフランチェスカの制服に落ち着いたわけだが……せっかくの旅行なんだから、私服で行動したかったのは、きっと言っちゃいけないことなんだろう。

 と、まあ、そんなわけで。

 

「冗談でしょう?」

 

 まず最初に聞いたのが華琳の言葉。

 それも当然。俺達の目の前には、“あの頃の”都の姿があったのだ。

 三国の中心にあるのだから、当然他の国の様子も見てきたのだが、随分と大きく発展していた。緑豊かで綺麗な場所ばかり。

 未来を心配して書き残した書物が頑張ってくれたらしい。

 何が環境にとって毒になるのか、何が環境にとって薬となるのかを口酸っぱく……は出来ないから、筆酸っぱく書き殴っておいたのだ。

 ここまで来るのに車も無ければバイクもない。

 空気を汚染してしまうようなものは無く、ひたすらに絡繰に氣を通しての運用となっていた。

 で、辿り着いたのが都……なんだが、何度見てもあの頃のまま。

 1800年って時間があったにも係わらずだ。

 もちろんところどころに修繕の痕はあるにはあるが、その修繕も綺麗なもので、じいっと見なければ気づかないほどだ。どんな技術があればこんな───あ、ハイ、僕が教えた未来の知識を、1800年掛けてもっと昇華させたんですよね。

 三国1800年の歴史ってやつですね。語呂悪い。

 

「これはっ……すごいなぁああ……!!」

 

 語呂は置いておくにしても、素直に凄いと思った。思った瞬間には素直な感想が口からこぼれていたほど。

 発展していてほしいって願望はもちろんあった。あったけど、それはかつてを削ってまでしてほしいことだったか、と訊かれればNOだろう。遺産が遺産のままで残っているのは嬉しいものだ。思い出が当然ある。

 

「昔より、極力手は加えず、形を残す方向でとのお達しがあったそうで。むしろ住んでいた者が競うように、どちらがそのままの状態を保っていられるかというゲームをしたんだとか」

「それ考えたの祀瓢───あ、いや、黄柄だろ」

「えっ……よ、よくわかりましたね。確かに文献にはそう書かれておりましたが」

 

 案内から説明まで、ガイドをしてくれている女性……あの日、銭湯の前で会った李さんが驚きに表情を崩す。

 普段はキリっとした顔だが、どうにも感情が表情に出やすいらしい。それを隠すためにキリっとしているんだろうけど……ああうん、なんか、アレだ。この人もいつかの華煉みたいに、悪い部分ばっかり受け継いじゃった人なのかもしれない。

 というのも彼女、やっぱりというべきかみんなの血を継いでいるらしい。言った通りの状況でもあり、いろいろな恋があっていろいろな結婚があって、国同士は当然仲良く、他国に嫁に出た……えーと、王族って言っていいのだろうかこの場合。ともかく、他国に嫁に出た王の血筋もあったようで、そういう関係がずっと続いて今に至る。

 言うまでもなくそういうことが兵との間にも民との間にもあったようで、困ったことに……現在この大陸に住まうほとんどの人の中に、俺の血が含まれてらっしゃるそうで。え? 家系図? やめてください見たくありません。

 もちろんその血だっていい加減、滅茶苦茶薄い筈なのに……どういうわけか産まれてくる子の大半は女性ときたもので、現在の三国と都はほぼがアマゾネス状態。昔っからだけど、女性の天下って感じらしい。

 いやもちろん、不必要に男性を見下したりしている者は居ないが、困ったことに男性の方が“女性に勝てないのは当然”というのを受け入れてしまっているらしい。

 そうなれば、“そんな軟弱者の子など産みたくない!”と言う女性も増えるってもので、現在は結婚をしたいという女性が減ってきているのだとか。

 だからといって、男女間に恋愛感情が生まれないわけじゃないので、悶着はあってもこの国は動いている。

 

「ええっと、つまり? 俺に、この大陸に住む女性に男性の強さを教えてやってほしい、と……?」

「はいっ、ご先祖様!」

「あの。そのご先祖様っていうの、やめて?」

 

 秘書っぽい姿なのに、俺を見上げる彼女は珍しい者に目を輝かせる若者そのものだった。……マテ、若者ってなんだ。俺だってまだまだ若い……って、こんなこと考えている時点で若くないぞ、俺。

 あぁもう……無駄に長生きした所為で考え方が老人臭くなってるかも……。

 

「でもさ、別に俺の血がどうとか言わなくても、女性が強かったのは昔からだろ? 雪蓮や春蘭や愛紗みたいに、呆れるくらいに強い女性が相手じゃ、俺なんてすぐにやられて終わるぞ?」

「……そこです。そここそを、ご先祖様に期待しております。今の時代と違い、死ぬことのない仕合と、かつての死に接していた戦い。その違いを、今の女性に見せてあげてほしいのです。……いいえ、見せてほしいのはむしろ、男性にでしょうか。文献を見る限り、ご先祖様も鍛錬を始める前はとても弱かったと」

「ええそうね。逃げ足だけは無駄に速かったけれど」

「あの、華琳さん……? 急に話に入ってきて、言うことがそれって……」

 

 そうだけどさ。本当にそうだけどさ。

 軽く落ち込む俺をさておき、華琳は李さんに向き直ってこれからのことを話してゆく。

 おお、飛行機でガタガタ震えていた人と同一人物とは思えない、物凄い迫力だ。

 ただ立っているだけなのにこの威圧感……さすが───ひょいとな。

 

「…………~」

「人の足、踏む、ヨクナイ」

 

 覇王様が人の思考を正確に読み取って、人の足を踏もうとした。

 それを冷静に避けると何故か睨まれる。

 ……つくづく思うけど、どうしてこういう時の女性ってここまで勘が鋭いんだろうな。飛行機で震えていた~って考えていたなんて、人の思考を読まなきゃわからないだろうに。「……北郷。華琳様を見るお前の顔が、どうしようもないけど可愛い娘を見るように緩んでいたぞ」……あ、どうもすいません秋蘭さん。あとごめん華琳。

 

「そんなわけで早速、誰かと手合わせをしていただければと」

 

 そして思考の海に逃げ込もうとしていたら、突如として李さんが当然のようにそげなことを仰った。

 ……待ちなさい李さん。あなたはなんですか? 連れてきたばかりの人にいきなり戦えと?

 

「困ったことに過去から現在まで、この国では男性が女性に勝ったという歴史が無いのです。その歴史を塗り替え、少しでもこの国の男性が“強き”を目指す者になってくれれば、というのが私たちの考えです」

「あ、なんかわかっちゃったんだけど……当然さ、男なんてそのままでいい、なんて思ってる人も居るわけだよね?」

「……その。……は、はい」

 

 ワア、今この人明らかにどこぞの猫耳フードさんを見た。一瞬だったけど、確かに見たよ猫耳フードさんを。

 むしろ桂花はどうして意地でも猫耳フード付きの衣服の装着を願ったのか。

 さすがにそういうのは無く、現在は猫耳っぽいトンガリがついた帽子を被っているわけだが……。

 

「確かにそういった女性は居て、男性ではなく女性に恋をしている、という者もおります」

 

 ここで全員の視線が猫耳フードさんに集った。

 本人は「なによ……わ、私が原因だって言いたいの!?」と言っているが、血がどうとかは本人がどれだけ言おうと責任なんて取りようがないものなぁ。

 だから俺はソッと桂花の前に立ち、その肩にやさしく手を置い……た途端、ベシィと即座に払われたが、ともかく微笑み、言ったのだ。

 

「そうだよな、血なんて……関係ないよなっ」

「女ばっかり産まれるてくるのは絶対にあんたの所為だから勘違いするんじゃないわよこの後継血液白濁男」

「なんか血液にまでいちゃもんつけられた!」

 

 そして一息でなんとひどい。

 いつものこととはいえ、桂花も本当に遠慮や容赦が無い。

 外史統一に到り、様々な外史の記憶を手に入れてからは余計な気がする。

 今でも何処から取ってくるのか、虫を籠いっぱいに詰めて夜中に部屋に侵入しようとするし。……その度に思春に捕まって華琳の前に突き出されているそうな。お約束といえばそれまでなんだろうけど、彼女はその~……そういうことを続けて身籠ることになったのを、もはや忘れてしまったのだろうか。

 

「………」

「な、なによっ、孕むからこっち見続けるんじゃないわよっ!」

 

 アアウン、懲りてないだけだよこの人。

 むしろ他の桂花さんの記憶も混ざった所為で、余計に懲りることを忘れちゃったんでしょうね。

 小さくトホ~と息を吐いて、案内されるままに李さんに続いた。

 いっそ自分たちで自由に見て回りたいって意識の方が強かったものの、かつて住んでいたとはいえ、今じゃ俺達の方がお客さんだ。案内は大事だし、こうまで完璧に遺されちゃ文化遺産も同然だ。迂闊に突撃なんて出来るわけもない。

 案内される中、華琳、桃香、蓮華に話を通して、自国の将に迂闊にものに触れないようにと伝え合う。春蘭とか鈴々とか美以には特に。……そう考えてみて、呉ってやさしいなぁ……とか思ってしまったのは、やっぱり仕方の無いことだと思うんだ。やんちゃな破壊者様がいらっしゃらないだけで、なんともありがたい。

 

「面白いものじゃのう、こうまであの頃の在り方を遺しておけるとは。北郷の家でこの時代のことは学んだが、儂にしてみればこちらのほうが落ち着───おお、酒屋がそのまま残って」

「祭殿。他国の将が勝手を我慢しているというのに、あなたが真っ先に団体行動を乱すつもりですか」

「ぐっ……! 相変わらず硬いのう公瑾……! 儂はただ、あの頃と味が変わっていないかを確かめるためにじゃな……!」

「必要ありません」

 

 ばっさりだった。

 そんな祭さんに続き、雪蓮がこっそりと突撃しようとして、冥琳に捕まった。

 いや、捕まったっていうか、パブロフっていうか。

 一言、冥琳が「雪蓮」と声を掛けただけで、“ビックゥウウ!”と動きが止まった。さすが、一番怒られているだけのことはある。

 パワーバランスって、やっぱりあるよなぁ。

 呉は軍師……もとい、冥琳が強くて、蜀は武将……もとい、愛紗さんが強くて、魏は華琳様絶対主義。

 それはどの外史とくっつこうが変わらなかったらしい。

 だからこその安定なんだろうなぁ。他の誰かが主導を握ろうとしても、きっとだめなんだろう。つくづくそう思った、とある日の出来事でした。


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