真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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 活動報告内でプロットも無しに適当に書いたものの纏めです。
 行き当たりばったりの内容なので、期待は無しの方で……。
 続くかは謎です。


外史欄外編
ギャフター小話①


 人が一生の内に真剣に何かを願い、その願いのために“その時ばかりは”と懸命になる。

 一生懸命と一所懸命の違いを胸に刻んだのはいつだっただろう。

 心に勇気を持って、心に刻んだ覚悟を以って。

 これはそんな、そうならないために懸命になった、一人の男のお話。

 

 

 

 

 ───それは、まだ俺達が、李さんに出会い、大陸へと飛ぶ前のお話だ。

 全員が過ごすには少々足りない道場で、けれど工夫を凝らしては全員が寝泊りし、食事も取れる状況を続ける日々。

 寒くなれば全員で寄って固まり暖を取り、現代の暖房に慣れ過ぎた軟弱さなど知らんとばかりに元気なみんなは、今日も今日とて元気だった。

 

  時は2月。

 

 予報で雪が降るかも、なんて言っている近頃は、降るやも、どころかちらちらと雪を降らせる空がちっとも青を見せてくれず、洗濯物が乾いても太陽の香りなどちっとも含ませてはくれない日々が続いていた。

 そういえば俺みたいな境遇の場合、自由登校とかどうなるんだろう、なんて思い始めたのもこの辺りだ。ていうかフランチェスカってそのあたりどうなんだ? 大体は2月末あたりから始まると思うんだが、そういえば不動先輩とかは───……あ、あー……いいか、今は。

 

「……ふむ。こんなものか」

 

 洗濯物をパンッと広げ、洗濯ばさみがいくつも並んだソレへとテキパキと吊るしているのは、いつからか“おかん力”を発揮しだした思春である。

 正式に財布を預けられたその責任から燃え上がり、常に節制と節約を胸に、北郷家の家計を支えてくれている。

 于吉が用意してくれた日雇いの仕事などを皆がこなす傍ら、俺は学生としての本分をこなしつつ、日々のこれからをよく考えていた。

 そりゃあ将来に不安はある。あの時代と違って、この世界の俺達はただ過去から現代に飛ばされたってだけの、いわば肩書きの無い一般人のようなものだ。

 大陸に行けばなにかがある───なんて期待はあっても、この時の俺たちはまだ大陸がどうなっているのか、なんて知りもしなかったのだ、仕方ない。

 

「……んっ」

 

 どぱぁんと炸裂音。

 何事なるやと気にすることもなくなったそれは庭から聞こえ、本日も恋が布団叩きを手に、よそ様の布団を叩いていた。

 どういう原理なのか、あれをやると布団が新品同然になるんだから不思議だ。

 普通はほら、二時間干して裏返して~なんてことをしなくちゃいけないそれが、恋の一歩足打法で撃たれると埃がボシュウと弾け飛び、目立たなくとも溜まってしまう皮脂なども弾き飛ばし、新品のように輝いたりする。

 俺の母親の口から奥様ネットワークで広がったこの事実は、恋にペットショップとは別の仕事を齎した。

 “布団一式をクリーニングに出すよりは安い価格で新品同様に!”をウリに出しているため、布団叩きを振るえば振るうほど儲かる謎機関の完成である。

 なにせクリーニングに出すだの、買った会社に連絡してあーだこーだしてもらうだのの手続きもなく、当日に持ち帰り可能! なんて謳い文句だ。「まっさかぁ」なんて思いつつも、“ダメだったらつっついて言い触らしてやるザマスわドゥホホホホ”といじわる奥様根性丸出しの先人さんが、逆に素晴らしさを広める役になってくれたことに感謝。

 自分が学生とバイトをこなす中、皆様が本当にたくましい。

 

  ───そうして、ひとつ、またひとつと日々を刻む。

 

 そのたび、毎日毎日何かが起こって、それを余裕の気持ちで受け入れられている今に、時折苦笑。

 静かな日がほぼ無く、気づけば母と紫苑がはちゃめちゃに仲良くなっていて、子育てについてを話し合ったりして、その傍らで誰かが騒ぎ、訪れる門下生にちょっかい出す春蘭を慌てて止めたりと、まあ……うん。ほぼこれと似たような日々を過ごしている。

 学業順調。バイトも問題なくやれて、みんなも仕事をこなせている。仕事の内容が肉体労働ばっかなのに、むしろそれが一番楽ってどうなんだろう。

 

  さて。そんな2月にいったいなにがあって、こんな振り返りを始めたのかというと。

 

 いや、まあ、さ? 買い物とかは思春や、時に荷物持ちとして、その時手の空いている人に同行を願ったりするわけなんだが───ああほら、人数が人数だから普通の量じゃ足りなくて、そのために力持ちさんを一緒に連れて行くのだ。で、ともかくそんな買い物に出た思春さんが、2月に入ってから思い出し、俺が最も警戒していたそれを持ってきてしまったわけで。

 

「北郷」

「ン、っと、思春? どうかした?」

 

 ガッコも終わり、これから着替えてバイトだーと自室に居た俺に、開けっ放しだった扉をノックした思春。

 振り向いてみれば、妙なチラシを持ち、部屋へと入ってきたのだが……え? なに? また特売のチラシを手に、家族ご一行で“お一人様一個まで”の卵でも買い占めに行くの?

 近寄り、チラシを見せてもらう。なんでも店の前で配っていた若い女から受け取ったものらしい。

 たまに割り引きクーポンとかついているものもあると知ると、思春さんはそういったチラシを逃さず受け取るようになった。

 そんなことを聞くまでは明らかに気配を消して、“そのような怪しものなど誰が受け取るか”といった感じだったっていうのに、今ではむしろウェルカム。実におかんである。

 けど。

 ああ、けど。

 今回もらったそれは、お財布にやさしい割引やセールのお報せのチラシではなくて。

 

  ───バレンタインフェア!

 

 と書かれた、赤と黒が目立つ色としてある、バレンタイン特集や予約のチラシだった。

 

「───」

 

 ぶしゅりと鼻血が飛び出そうな気分だった。

 おお神よ、あなたひどい神。あなた私に死ねとおっしゃいますか。

 ただでさえ、生活費が安定するにはまだまだ掛かるっていうのに、よりにもよってバレンタインって。

 見栄で一番高いのを買いそうな人が居て、手作りしようとして業務用チョコを買い占めそうな人が居て、盛大に失敗してどっかの誰かのように“外道:スライムチョコ”を作りそうな人が居る中にこんな爆弾を。

 作らないにしたって、好きな人にチョコを送る、なんて風習を知れば、きっとここにお住まいの方達は他のヤツより高いものを! とか無茶な買い物をするに決まっている。

 手作りしない人なら余計で、麗羽なんてその筆頭だろう。むしろ手作りされたら俺が死にそう死にたくない助けて。

 手作りという言葉に思考を揺らし、“俺のために頑張って……ウフフ”なんて思える人は本当に幸せだろう。

 俺の頭の中には、もう“チョコレート?”から顔を出す魚の姿しか無かった。

 違う……違うんやで雲長はん……。魚はチョコレートの材料には使わんねや……。

 

「ばれんたいん……で、よかったな? このかたかな、という文字はまだ苦手だが、これは特売などとは違うのか?」

「───」

 

 笑顔のまま真っ青であろう俺は、こふっ……と軽く咳き込み、口の中に鉄の味を感じるとともに、ソッと彼女に教えた。

 ウァレンティヌスっていう人の誕生日なんだよ、と。

 ああ、正直に生きるってなんて素晴らしいんだろう! 神様、俺決めたよ! これからは正直者として生きるよ!

 

「誕生日か。……その、なんだ。ここに、恋人に贈るのなら、と書いてあるが」

「こほっ……こ、恋人達の守護聖人として崇敬されてたから、殉教の日……2月14日をバレンタインデーとして扱ってるらしいよ?」

「……なるほど、それが理由で恋人の日、といったふうに書かれているのか」

 

 お団子状態ではなく、さらりと流した長髪な思春さん。

 真面目な顔でバレンタインデーのチラシを読む姿も綺麗なのだが……ああ、早く立ち去りたい……! ヴァヴァヴァバイトの時間までまだ少しあるけどいいかなぁもうこのまま行っていいかなぁ!

 

「ところでだがその、北郷」

「ナンデセウ」

 

 極上の穏やかな笑みを表で伝え、内心では“来たァアアアん!”と、こうして改まって声をかけられた時のそのー……末路的パターン? を想像して泣いた。

 

「恋人達の守護聖人、とやらの殉教の日に、こんな……ちょこれーと、といったか。の写真がついたチラシを配るということは───」

「いや、守護聖人ウァレンティヌスとチョコレートは関係ないよ?」

「なに? いや……、え……、……なに?」

 

 誓って嘘はありません。俺が知らない情報とかがあるならそれこそ余計に知りません。だから俺はウソはついてない。これやで工藤! これが完全犯罪やで工藤! いやそれ工藤って名前つけて言っちゃいけないことだろ落ち着け俺。

 

「ア、アット、僕モウ仕事ノ時間ダカラ行クネ?」

「……すまない、時間を取らせた。“あとはこちらで調べておく”」

 

 ……喉の奥からギャアという言葉が飛び出そうになった。代わりに軽く振り向いて、サワヤカにニコリと笑う傍ら、思春からは見えない方の口の端からコホリと血を垂らした。

 




4話分割で、次は45分になります。クイックセットありがたいです。
その次は10時、10時15分、といった感じでございます。

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