真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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我が愛と青春のチャーハソ②

 コンビニに行けばブタメンだけで済ませるつもりだった追加の朝食は、すっかり朝昼兼用のガッツリ飯になってしまった。ああでも、幸せ。B級の幸せがここにある。

 こういう料理のなにが嬉しいって、自分で作って自分で満足出来て、文句言われる筋合いもなければ他人に作る理由もないところだよなー。

 作れと言われればもちろん作る。ただし文句は受け付けません。何故って、この味だからこそのこの満足感。B級はA級になっちゃあいけないんだよ。B⁺級でもダメ。B⁻級でもだめ。このいつもよりちょっぴり美味しいかもしれない、今日の俺、グッジョブ、みたいな小さな喜びこそが男の料理を美味くする。

 

「は~…………満足……!」

 

 まさかなぁ、あの時代からここに戻ってきて、みんなと一緒になって、まさかまさか。誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われる調理と食事が堪能できるだなんて思わなかった。

 しばらくは動かず、この余韻にひたっていたい……けど、怠惰は脂肪になります。動かねば。

 

「まあ、吸収されて血や肉になるのには三日くらいかかる~とはよく言うけどね」

 

 つまり、人よ。ダイエッターよ。三日だ。食べたものは三日以内にエネルギーとして滅ぼそう。

 ちなみに俺の運動量と食事の内容を詳しく妹に話したら、“……お兄。よく脂肪、っていうかお肉残ってたね……”と心底呆れられた。俺の運動量はどうやら、不老のあの時代だったからこそ可能なものらしい。

 今の状況でそれを続ければ、近いうちに肉も筋もコケていくからやめて、だそうで。いやー……まあ、最近やけに体が軽いなーとは思ってたけどさ。そりゃね、支える筋肉とか結構度外視して、氣で支えたりしていた俺だからね、気づくのも遅くなるよ。そのくせ鍛錬は続けていたわけだから、脂肪は削げるけど筋肉はまだまだあった、というわけで。

 でもこれ以上続けるとヤバイ。

 なので……今日の気力充実のOFF日は、本当の意味で気力充実になりそうだ。ようするに“食っちゃ寝しよう!”な日になりそう。

 

「……あ、そだ。試しに氣を全部消してみよう」

 

 俺の体の現在が氣で支えられているのなら、氣を消した時にこその自分の状態がわかるってものだろう。

 なのではい、氣を消し───とさり。

 

「おや?」

 

 ん? んんー? 何故か足がかくんと崩れて、尻餅をついてしまったぞう?

 しかもなんだか急に体が震えてきて、いやそれよりもお腹がおかしい! なんか凄いごろごろ鳴ってる! え!? 下した───とかじゃない! これ空腹方面のアレだ! え!? 今食べたばっかりですが!?

 もしかしてそこまで栄養不足でしたか俺の体!

 

「ヤヤヤヤヤバイなんかヤバイすごいヤバイ! なにか、なにか食べないと! いや食べるとかじゃなく直接栄養とか欲しい!」

 

 すぐに氣を体に纏わせて立ち上がる。その行為ですら、今まで体を支える力を忘れていた筋組織には相当な負荷だったようで……なんか足がメリリっていった! メリリって!

 

「~っ……や、やばっ……やばい! なにがどうこうとかじゃなくてやばい!」

 

 食卓にある、妹が美容目的で買ったとか言ってたスティック型の粉末青汁をごさりと掴み取って、封を切れば口にザヴァーと流し込み、少し前までスープが入っていた器に水を注いではガヴォガヴォと流し込む。喉に詰まりそうになったけど知らない。

 むしろ同じ要領でマルチヴィタミンの錠剤も口に放っては、グビグビと水で流し込んだ。

 消化吸収を早めるためにも軽い運動とかしたいものだけど、今の自分じゃそれすらもやばい、絶対やばい。

 試しに氣を消してみれば、どかんと来る身体的超疲労。立っていられなくなって、流しの前に蹲ってしまった。

 あぁあああああ……!! 重力装置を前に這い蹲るヤムチャ=サンの気持ちがわかるぅうう……!!

 

「きづっ……気づけてよかった……! 妹の言う通りだよこれ……! よく肉とか残ってたもんだ……!」

 

 餓死寸前の浮浪者に重い荷物を運ぶ仕事をしたらメシを恵んでやる、なんて言うような仕打ちを自分の体にしていたのだ。氣ってすごい! でもそれに慣れすぎると自分が死ぬ! いや普通は慣れないんだろうけどね!? これ絶対あの時代で不老だったから出来た“慣れ”の果てだから! 普通こんなんなれっこないから!

 体の不調を自覚出来た途端に、ギュグゥウウウと悲鳴を上げるお腹。腹のどこが鳴っているか、なんてわからないけど、多分コレ、物凄い勢いで消化吸収が開始されてる。散々鍛えられてきた体が、死んでたまるもんかって活性化しまくっているのだろう。

 なのでこう……血管とか血の巡りとか、胃の運動とか腸の運動とかを意識して氣を込めてみたら、ドゥッファアと汗が噴き出て、喉がメリメリと渇いてきてキャーッ!?

 

「んぐぐごっふっ!? ごっふごふごふっ! んぐっ! はっ……はぁっ! はぁっ!」

 

 慌てて水を飲むと、今度は腹が空腹方面でグウウと鳴って……俺の体どんだけヤバかったんだ!? いやちょ待って待って!? そんなすぐに料理とか作れない!

 今はとにかく栄養! 固形物じゃなくても、肉体を作る方面のなにかを───!

 

「うおおおおおお!!」

 

 冷蔵子を開けて、ありったけの卵をゴパキャアと割っては器に空け、それを生のまま飲む。次いで再びマルチヴィタミンさんを数個飲み込んで、次にプロテイン(最近の女性にはたんぱく質が足りて無い! という番組情報で買ったものらしい)を無断で頂いたり、やがてすぐさま摂れるものが無くなったところまでいっても、俺の腹は、喉は、体は、栄養を求める。

 

(どどどどうする!? どうする!? このままだと……!)

 

 ていうかこんだけ水飲めるってやばくないか!? 普通喉が受け付けなくなる筈なのに、いくらだって飲めるぞ!?

 飲んだ先から吸収されているようで、老廃物にすることさえ惜しいのか、便意も尿意も一切無い。

 それどころかもっと栄養を、と言うかのように空腹や眩暈が……!

 

「───」

 

 ごくり、と喉を鳴らした。

 最終手段……だったんだけど、この際うだうだ言っていられない……!!

 覚悟を決めた俺は“それ”を予備ごとどさりと食卓に並べ、封を開けるたびに大きな新品のバケツへと空けた。

 そこに水をたっぷりと注ぎ、軽く混ぜて……完成。

 

 

  ───14キロの

 

              砂糖水───

 

 

「奇跡が起こる」

 

 たぶん起きません。

 でもカロリーとかそういうものを一気に吸収するにはこれしかないと思った。主に糖分。

 あとたぶん14キロもないです。

 

「んぐっ───」

 

 けれどもこれしかなかったのだ。

 砂糖こんなに使ってごめんなさいだけど、無理! もう栄養摂取を求める体に心が勝てない!

 なので飲んだ。こんな量の一気飲みなんて絶対無理だ! バキボーイは頭がイカレてやがるんだ! なんてアレを見た時は思ったものだけど───

 

「───……っはぁっ!!」

 

 なんか……出来ちゃいました、一気飲み。

 バキボーイのように体から湯気が出たりするのかなー、なんて思ったりもしたけど、全然そんなことはなかった。

 代わりに呆れるくらいのカロリー摂取のためか、体がエネルギーを欲することもなくなり、ようやく体を襲っていた謎の重力めいた脱力も無くなった。

 でも……やっぱり体はだるい。

 こりゃ素直に自室でぐったり寝てたほうがよさそうだ。

 

「あー……せっかく着替えたのに」

 

 すぐに寝巻きに着替えなきゃいけなくなるなんて、とんだOFF日だった。

 


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