真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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16:呉/えほんのきずな②

「───錬氣、集中!」

 

 意識を沈めていく。未熟で、完成もされていない氣を以って。

 自分の形として確立できてもいない、中途半端な氣を以って。

 一ヶ月やそこらで誰かに追いつけるほどの実力もないままに、頑張って頑張って覚えようとしたところで、自分よりもっと前から鍛錬を続けていたものに追いつくこと……それは全然まったく容易じゃない。

 でも……今はそんな未熟に感謝しよう。未熟だからこそ、完成されていないからこそ、“俺”の氣はイメージにも景色にも溶け込むことが出来るのだろうから。

 

(っ……)

 

 イメージは、空気になろうとした自分、水になろうとした自分、熊を真似ようとした自分、様々だ。

 しかし鮮明に呼び起こさんとするのは、思春の気配を真似ようとした自分。

 誰かの氣を真似ることでその人に近づけるなら、俺は俺の全てを行使して冥琳の氣を真似きってみせる。

 真似て、そして内側から冥琳の中に存在する“淀み”を見つけ、そこへと……華佗の鍼、を……!

 

「かっ……ぐ、……」

 

 まず初めに感じたのは鋭い頭痛。

 次に、“自分”がばらばらになるような、なにも掴めない場所で溺れるような、ひどい孤独感。

 それは、そうだ。自分であったものの全てを、冥琳に書き換えようとしているようなものだ。

 冥琳の手を握る自分の手から一番遠い場所から、じわじわと溶かされていっている幻覚めいた痛み。

 幻覚のはずなのに確かに痛みとして走り、座るという格好を保てずに“崩れた”。

 

「北郷……よせと言っているだろう……! 今日明日に死ぬというわけでも───」

「じゃあ明後日は! 一週間後は生きてるのかっ!? そんな血を吐いて! 真っ青な顔をしてっ! こんな場所にまで来なきゃ苦しめないヤツを、死ぬ瞬間まで見て見ぬフリをしろって言うのかよ!」

「っ……北郷、お前は……」

 

 そんなことを頷けるわけがない。受け入れられるわけがない。俺は、そういうことを見過ごさないために強くなろうって思ったんだ!

 それを、運命だからだとか天命だからだとか……そんなことで諦めたくない!

 天命がなんだ! 冥琳がそんなにあっさり死ぬことが天が決めた“正史”だっていうなら───華琳が望んだ天の御遣いである俺が! そんな運命を捻じ曲げた未来を、この世界の“正史”にしてやる!

 

「───北郷! 目で見るんじゃない……心の目で見るんだ! 氣を集中させ、相手の氣の流れを手で、目で、心で感じろ!」

「っ……簡単に言ってくれるなよ……!」

「……おい貴様。よくわからんが貴様は、今北郷がやろうとしている方法を知っているような口ぶりだな。何故すぐに実行に移さなかった」

「この方法は酷く集中が必要となる。氣での治療は知っているだろう? 己の氣を対象の氣へと変化させ、傷口に当てることで傷を癒す。氣の力で治癒能力を高めてやるんだ」

「ああ」

「今、北郷がやろうとしていることは、そのさらに上を行く方法……己の中にある氣を相手の氣脈へと流し、その中から氣の淀みを探知するといった、いわば自殺行為にも等しい方法だ」

 

 いや……そりゃわかってるけど、こういう場面ではっきりそういう言い方をだなっ……! くはっ……しゅ、集中、集中……!

 

「これは相手の傷のみに、相手の気の波長と同じように変化させた氣を当てるといった……そんなやさしいものじゃない。相手の氣脈に自分の氣を変化させたものを満たしてやる必要があるんだ。なぜ満たす必要があるのかといえば、そうしなければ淀みが何処にあるのかを調べようがないからだ」

「淀み……だと?」

「ああ。目で見えないのなら目以外で見つける。俺や北郷はそこに目をつけた。だが一人ではどうやっても解決はしない。淀み……病魔を見つけたところで、その病魔を殺さなければ意味がないからだ。だから───ここに俺が居る!」

 

 視界の隅で、華佗がババッと妙な構えを取り───一度閉じた目に片手を翳すと、横にザッとずらす───のと同時に開かれた目は、薄ぼんやりと奇妙な輝きを持ち……その眼光が冥琳と俺とを睨むように射抜く!

 

「周瑜の氣を辿ることが出来ないのなら、北郷が流してゆく変化した氣を辿る! 我が身、我が鍼、そして師に教えられし技を以って───俺は! 誰も死なせはしない!!」

(……暑苦しい男だな)

 

 なんだか、話を聞いていた思春の心の声が聞こえた気分だった。

 

「北郷! お前の覚悟、お前の勇気、そしてお前の努力を……俺の全て、五斗米道の全てで支えよう!」

「っ……信頼してくれ、るなら……! 一刀、って……呼び捨てにしてくれ……!」

「そうか───わかった。だったら俺のことも華佗と───」

「いや、それもう言ってるから……!」

「そ、そうか……? くっ……そうだったか……!」

 

 ……こいつ、何処か抜けてないか……? なんだか俺が言えた義理じゃない気もするんだけど、

 

(~っ……)

 

 気づけば、冥琳はもうなにも喋らなかった。

 諦めたのかと思えばそうじゃない……彼女は苦しげに息を荒げながら、気を失っていた。

 口からは血の滲みが小さく零れ、顔はもう真っ青だ。

 急がなければいけない───なのに、どういう冗談なのか───!

 

「っ……? まずい、雨だ……! 一刀、急がないと周瑜が体を冷やす! そうなれば体力も低下し、病が進行してしまう……!」

「わかっ……て、る……!」

 

 ズキズキと体が痛む……が、城へ移動をするなんて悠長なことは出来ない。

 それに城に移動したとしても、集中してみせるには人が多すぎる。

 だから、冷えるだろうけどここでやるしか……、……?

 

(あれ……?)

 

 ふと、雨が途切れる。

 何事かと思ったけど、冥琳だけを見ている自分の視界の隅に、先ほど俺の肩の上に乗った白黒のコントラスト。

 それだけで、戻ってきた彼らが屋根代わりになってくれたのだと理解する。

 ……時間はかけられない。雨に濡れなくても、空気が冷えれば一緒だ。もっと、もっと集中して氣を……、氣……を……っ……!? あっ……!

 

「よし、いいぞ一刀……! その調子で───……はっ!? し、しまったぁっ!」

 

 気づいた事実に重なるように、華佗の叫びが聞こえる。

 ……なんてこと。予想してはいたけど、ここまで早く……!

 

「……なんだ、どうした」

「っ……」

 

 思春が疑問を投げかけると、華佗は一度息を飲むようにして、今が最悪の状況であることを話す。

 そう……ちょっとシャレにならない。

 冥琳の中にある淀みを調べるために、冥琳の体に通る気脈を俺の氣で満たさなきゃいけない……それはいい。

 だが、肝心なのは俺の氣の絶対量と、冥琳の氣の絶対量の問題。

 大体一ヶ月程度しか氣の開発をしていない俺にとって、たとえ前線で戦わぬ冥琳であっても、この世界の武人の氣を満たすには至らない。

 

「……つまりせっかく変換しても周瑜の氣脈を満たすには至らず、それでは数ある病魔の中から“重要な一つ”を見極めることが出来ない。まして、一刀は五斗米道が使えるわけじゃない。気脈の中から害になる淀みだけを特定するなど───不可能だ」

「なんだと……!?」

 

 そう……いつも、一歩も二歩も足りない。

 こんな後悔をしないために鍛錬をしたっていうのに、それでも足りてくれないのだ。

 移し身みたいなことが出来る未熟な氣だからいい。が、その絶対量が足りなければまるで意味がない。

 冥琳の氣脈が細いことを願ったんだけど……ダメ、だった。

 

(じゃあ……仕方ない、よな……)

 

 ……本当に、仕方ない。出来ればやりたくなかったけど……ごめん祭さん、またちょっと無茶をする。

 

「っ……く、ああああっ……!!」

 

 自分の意識を、繋ぐ手と丹田とに分ける。

 歯を食い縛り、“錬氣”と“変換”の繰り返し───丹田で氣を作った先から変換、冥琳へと流していく……!

 

「───! よせ一刀! そのやり方じゃあお前の体が先に壊れる!」

「いっ……が、はっ……ぁあああ……!!」

 

 以前、祭さんに教わった絶対量の拡大と同じ理屈だ。

 自分の体を錬氣工場として意識して、氣を練り続け、変換し、流し込む。

 けれど錬氣する速度も遅ければ、変換する速度も流す速度も遅すぎて話にならない。

 

「壊れるだけならまだいい! 氣を練ることが出来なくなり、満足に動くことが出来なくなることはおろか、最悪死ぬことにっ……!」

「……!」

 

 華佗が身を案じてくれている。その隣では思春が息を飲み……でも。

 やめろと言われたってやめられない。それは固めた覚悟を捨てて、自分が辛いからって理由で相手の命を諦めるのと同じだ。

 崖に落ちそうになっている人の手を、自分が疲れたからもういいって理由で手放すのと、状況は違えど理屈は同じ。

 ……俺は離さない。

 手が痺れようが自分まで落ちそうになろうが、死なせたくないって思ったら最後まで一緒に生きるための突破口を探してやる───!

 

「っ……は、ぐ、う……!」

 

 俺が今やっているのは、“確立したこの世界”の軸を狂わせることだろうか。

 散々曲げてしまったからこそ、今この世界が確立しているっていうのに……俺はそれを、また捻じ曲げようとしている。

 自分がそうであってほしくないって理由ばかりで“理”(ことわり)を捻じ曲げ、自分にとって都合のいい世界を作ろうとしている。

 この捻じ曲げが成功したとして、そのために誰かがまた苦しんだりするんだろうか。彼女が生きることで、別の誰かに不幸が訪れたりするんだろうか。

 ……いや。仮説に怯えていたって進めない。今は、なによりも彼女の無事を願───

 

「がっ───!? あ、ぐあぁあああっ!!」

「一刀!?」

「北郷!」

 

 ───う、より先に……きてしまった。

 祭さんに教わったやりかたで無理矢理気脈を広げていた時と同じ。

 鋭い痛みが全身を襲い、先ほどまでの痛みとは比べ物にならないくらいの苦しみが全身を支配。

 痛覚がおかしくなったんじゃないかってほど、痛みしか感じられなく───……なってもまだ。

 

「っ……は……! め、いりん……! …………っ……冥、琳……!」

 

 握った手は離さず、息を荒げ、痛みのあまりに吐息が嗚咽に変わろうとも、彼女の気脈を満たすために氣を練ることをやめはしなかった。

 

「一刀……お前って男は……! 俺達も負けていられないな……甘寧、あんたはたしか、自分の気配を周囲に溶け込ませることが得意だったな」

「あ、ああ……」

「だったら、一刀がやっているのと同じように、一刀か周瑜の氣に合わせて流してやってほしい。……いや、ここで周瑜に氣を混ぜるのは危険か。病魔不可視の病に侵されたことのある一刀だからこそ、今の状態が保てていると、慎重に考えたほうが良さそうだ。となれば……できるか?」

「……やってみよう。多少の付き合いだ、北郷の氣の在り方くらいは理解している」

「なに? ……ふっ、どうやら一刀は他国の者にも想われているらしうわっ!?」

「それ以上口にすれば手が滑るぞ、己の首は大事にしろ」

「……、わ、わかった、すまない……!」

 

 ……ていうか、あの……? 人が苦しんでいる横で、いったいなにを……!?

 思春さん……!? 今は曲刀で人を脅してる時じゃないんじゃ……っ……づぐっ……だ、だめだ……! 集中、しろ……!

 痛い……! すごく、痛さ以外のことがどうでもよくなったみたいに、体が痛みしか感じてくれない。

 瞬きでさえ痛く感じて、息をすることだけでも体内に焼きごてを沈められているような鋭い痛みが……!

 死ぬ、冗談抜きで、死ぬ……! 体が死を選びたがっているくらいに辛い……!

 いっそ死んでしまえ、そうすれば楽になる、って、祭さんの時のように体が勝手に意識を手放そうとする……!

 

「は、ぐっ……い、ぎぃいぁああっ……!!」

 

 それを、歯を食い縛ることで襲いかかるさらなる痛みで塗りつぶし、溢れる涙を拭うこともなく流し、集中を続ける……!

 

  ……本当にこんな方法で見つかるのか?

 

 するとどうだ。

 今度は体が、頭が、こんな“馬鹿げたこと”をやめる言い訳を探し始めた。

 誰かを救う覚悟ってものを、もう頭が“馬鹿げたこと”だと言い張っているのが悔しい。

 なのにやめろやめろと投げかけられる信号を受け取った先から捨てて、少しずつ作られる氣を変換、流すことをやめない。

 

  彼女が助かったからって、なんだっていうんだよ。

 

 弱音ばかりが聞こえる。

 助けたところで何があるわけでもない。“運命なんだから仕方ないだろ?”とでも言うように。

 

  それよりも俺が五体満足で魏に帰るほうが重要だろ?

 

 死んでしまっては意味がないと。

 お前の身も心も、全ては魏のためにあるんだ。死んでどうする。

 命を張る理由がどこにある。相手がいつか死ぬって受け入れてるなら、そっとしておけばいいじゃないか。

 そんな言葉を、何度も何度も浴びせてくる。

 

  誰もお前を責めないさ。むしろ助けようとしたことを褒めてくれる。

 

 だから、な? もうやめろ。

 ……ジワジワと、俺の体までもを止めさせようと信号を送る。

 無意味だ、無価値だ、適当にやって適当に甘い汁でも吸っていろよ、と。

 

  お前は民たちだけ笑わせてればいいんだ。それが仕事だ。

 

 ざわざわと胸がざわめく。

 感情が殺さていくように心が冷たくなっていき、自分が生きるためにそんな命は捨ててしまえって心が、じわじわと……

 

  な? 命張る理由なんてないだろ。捨てちゃえばいいじゃないか、そんな───

 

「……ふっ……ざぁ……けるなぁあああああっ!!!」

「おぉぅわっ!?」

「! 貴様、急に声を───」

 

 捨てろ!? 仕事!? だからなんだ! そんな理由で人との繋がりを簡単に手放して、そんな先で拾った命をこれからの人生に費やして、笑っていられるもんか!!

 

「命を張る理由が、っ……ない、だって……!? 理由ならあるさ……! 誰か一人の命を救おうとしてるんだぞ……! 自分が命を張らなくて、そんなことが出来るもんかぁあああっ!!」

 

 メキメキと体が軋む音さえ聞こえてきそうなくらいの激痛の中で叫び、さらにさらにと氣を練ってゆく……!

 そうだ、命を救いたいなら、己の命すらもかけるほどの覚悟を……!

 命と命が等価だっていうなら……それを救いたいなら、代償に命を賭けなくてどうする!

 勝負に勝てば命が救え、負ければ消える……ただそれだけの、単純な賭けだ!

 それを成し遂げるまでは、自分の弱音になんか耳を貸してやらない……そんなにもヤワなら、これから先の鍛錬なんてやっていけない! きっと、誰も守っていけない!

 だから……俺の中の臆病な自分にだって届くように、何度だって叫んでやる!

 一度覚悟を決めたなら最後までそれを貫き通してみろ! それが、俺がこの世界で学んだ、未来の知識よりも大切なものだろう!?

 諦めるもんか! “今日や明日死ぬわけじゃない”って、じゃあ時間が経てば死んでしまうってことじゃないか!

 血を吐いて! 苦しそうに気を失ったりまでして! 心配させたくないからって、人目を気にして……こんなところで独りで苦しまなきゃいけない人を、他人事だからってなにもせずにほうっておけるか!

 

「があぁっ!! ……ぅ、あ……!」

 

 ───頭痛がする。頭が割れるくらいの……ああくそ、まいった。

 漫画や小説で見るものに、どんなものなのかって思っていた時期もあったけど……これほどの痛みか、“頭が割れるくらいの”っていうのは……。

 光を受けたわけでもないのに視界が点滅して、バランスを保っているはずなのに体が傾いて。

 痛み以外の感覚を呼び起こそうにも、今は氣を送るので精一杯で……他の機能なんて、痛がるか涙を流すか以外に働いてくれない。

 ……ああ、そうだ。馬鹿なことをしてるって自覚はあるよ。

 他人のため他人のためって動いて、それで死んでしまったら本当に馬鹿かもしれない。

 こうでありたいと歯を食い縛ったところで、人間の体には悔しいけど限界ってものがある。

 どれだけ救いたいと願っても、どれだけ“これを耐えれば”と思っても、叶えられる願いとそうじゃないものがどの世界にも存在する。

 出来ないと確信が持てるものをやろうとすることは、本当に……呆れるくらいに馬鹿なことかもしれないけど。

 

(で、も……!)

 

 そう。“でも”だ。

 誰がそれを、“俺には出来ない”と確認したというのだろう。

 こんなことをするのは初めてだし、経験からすれば無理だとは言いたくもなる。

 俺だって出来るだなんて確信を持っているわけじゃない。───わけじゃないけど、出来ないって確信だって持ってない。

 どれだけ苦しくても辛くても、助けたいって思ったんだ。それを“俺じゃあ無理だからやめておく”って逃げたら、それは一生俺の中の後悔に変わる。

 もちろん助けようとして助けられなかった辛さのほうが重く圧し掛かるだろう。自分が係わって、なのに助けられなかったんだ。他人事だ~って笑いながら気取って逃げるのとはわけが違う。

 けど……けどさ。付き合いはほんの一ヶ月程度だけど、俺はもう係わってしまったから。

 抜けているな、とか仕方のないヤツだとか、いろいろ呆れられたりもして……思い返せば苦笑しか残らないようなことばっかりの係わりだけどさ。

 ああ、そうだ。どんな些細なことでもいい。心残りがあるのなら、別れたくないって思えるのなら、手を伸ばすのは当然なんだ。

 

(だから……だからぁあっ……!!)

 

 歯を食い縛る。途端に歯に電流が走ったような痛みが走るのに、もはや全身が痛すぎて怯んでもいられない。

 そんな中で、ふと感じたのは暖かさ。

 痛みしかない点滅した世界で、背中にやさしく触れるその暖かさが、無理矢理の錬気や拡張のために弱っていた氣脈に流れてゆく。

 

「……集中しろ。貴様の氣に合わせたものを流してやる。失敗は許さん」

 

 “なにが……?”と振り向くことも出来ない俺の耳に、聞こえる声がやさしかった。

 こんな時じゃあなければドスの利いた声に聞こえたんだろうけど……本当に責めるような言葉なら、こんな温かさは流れてこないだろうから。

 

「……、……」

 

 満たしてゆく。

 自分と、自分に流れてくる思春の暖かさで冥琳を暖めるように。

 それはゆっくりとだが確実に、冥琳の中へと流れていき…………やがて、雨に塗れた華佗が見届けた者の目で頷いた時───冥琳の気脈を満たす行為は、ついに完了を迎えた。

 

(っ……つ、は……) 

 

 繋いだ掌から伝わる、氣の充実感。

 むしろ空っぽになりかけの俺の気脈へと逆流しそうになるそれを暖かく感じながら───気が緩んでしまった。

 俺は、手放したくもない意識を手放してしまい、冥琳の手を握ったままに、その場に倒れた。

 

(……、待ってくれ…………。まだ、……淀みが……)

 

 もはや痛みしかない体は限界を迎えていた。

 意識を保とうとしても意識は遠ざかるばかりで、俺は……繋がれた冥琳の手から少しずつ流れる暖かさを感じながら、完全に意識を断った。


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