真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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17:呉/今はまだ気づいていない、その違和感③

 さて、そんなわけで……くたりと辛そうに座る冥琳。

 そう、上手く動けないのをいいことに、何故か俺の肩にもたれるように座らせられている冥琳。

 シャオも陸遜も俺からは離れて、肩を寄せ合って座る俺達をニコニコ笑顔で見ていたりする。

 ……もう一度言うが、寄せ合ってというよりは寄せ合わされて座っている。

 

「ね、冥琳。ちょっと訊きたいんだけど」

「……はぁ……なんだ?」

 

 冥琳はひどく気だるげだ。

 いくら変換したとはいえ、氣脈が他人の氣で満たされているなら仕方の無いことなのかもしれない。

 

「あのね、呉はこれからどんどん大きくなっていくでしょ? 騒ぎを起こす民も、一刀のお陰で随分減ったし」

「……そうだな」

「それを維持するためには、ここから先のことももっと考えなくちゃいけない。そうでしょ? だから私達もそろそろ後継を考えないといけない」

「ほう……? お前の口からそんな言葉が聞けるとは……思ってもいなかったが……」

「むぅ、失礼ねー……まあいいわ。で、その後継の話なんだけど。現在の呉王の座を蓮華に譲って、私は一刀と子作りに励もうと思うの」

「姉さまっ!?」

「お姉ちゃん!?」

 

 ……………口を挟むなよ北郷一刀。

 口を挟めば……絶対に矛先がこちらへ向かいますよ。

 僧になりなさい。如何なる騒音の中でさえも、草花のそよぐ音を感じ取れるところまで、悟りを開くのです。

 

「なにを勝手な! この、民の信頼が集中してきた大事な時に王を辞めるなど! 王はこれまで通り姉さまが続けるべきです!」

「えー……? じゃあ蓮華が一刀の子、産むの?」

「なぁああああーっ!? そそそそれとこれとは話が別です! 私には国を担うほどの力がないと言っているのであって!」

「そうそう、お姉ちゃんじゃあきっと、一刀を満足させてあげられないもん。一刀の子はシャオが産むから、まっかせて~?」

「小蓮! お前はまたそのようなことをっ!! 私は国を動かす力が無いと言ったのであって、一刀を満足させられぬ、と……は……かか……っ……!?」

「わお、蓮華ってば大胆♪」

「かかかか一刀ぉおおっ!! 貴方の所為でぇええっ!!」

「ええぇっ!? なんで俺!?」

 

 お湯でも沸かしましょうかってくらいに真っ赤になった蓮華が、何故か矛先を俺に向けてきました。

 はい、口を挟もうが挟むまいが、どうあっても俺は巻き込まれるらしいです。

 なんとかならないもんでしょうかと困り果てていると、ついに僕等の救世主が気だるそうに口を開いたのだ……! ……さっきから開いてはいるけど。

 

「はぁ……将の前で、あまり騒ぎ立てるものではありませんよ、蓮華様。それから雪蓮、お前も少しは冷静になれ」

 

 溜め息と同時にそうこぼすのは、無理矢理に連れてこられた冥琳。

 連れてきておいて蚊帳の外にでもしようかってくらい騒いでるんじゃ、冥琳もいい迷惑だろうに。

 

「し、しかし冥琳!」

「私、冷静なつもりだけど?」

 

 けれどさすがというべきか、双方にとって僅かでも気になる言い方をすることで、二人の意識はきちんと冥琳に向き……そうなれば一人で騒げるはずもなく、シャオの意識も冥琳へと向いた。

 そうしてから改めて咳払いをすると、

 

「そもそもだ。好きでもない者の子を宿すのが嫌、という話だが、それは北郷にも言えることだろう。魏を愛す北郷にとって、雪蓮。お前との間に子を作ることが、お前の言う好きでもない者との間に子を作るのとは違うと言い切れるか?」

「むー……ねぇ一刀。私のこと嫌い?」

「好きだよ。大切な友達だと思ってる」

「わ、即答なのは嬉しいんだけど、望んでた答えとちょっと違う……」

 

 そんなこと言われたって、似たようなことを何度も言ったはずなんだけどな……。

 

「さらに、北郷には“騒ぎを鎮めてくれ”とは頼んだが、“子作りを手伝ってくれ”などと頼んだ覚えはない。招き、逃がさないようにしてから“気が変わった”と告げるのは、いささか卑怯ではないかな? 孫伯符殿」

「うっ……それ言われると弱い……」

 

 おおっ……! 雪蓮が……雪蓮が押されている! すごいや、さっすが天下の周瑜さんだ!

 あの雪蓮を言葉だけで追い詰めている!

 

「しかし公瑾よ。後継を残さんとする意思は、早いに越したことはなかろうよ。策殿が逸る気持ちもわからんでもないだろう?」

「祭殿、これはただ北郷を手放したくないだけです」

「うわっ、これ扱いだ……理由に関しては否定はしないけど」

 

 しないのかよ! しなっ…………しないんだ……。してくださいよ……。

 

「あ、でも勘違いしないでね一刀。気に入ったからってだけじゃなくて、傍に居てほしいな~って思うのは本当よ? 一緒に居ると退屈しないし、一刀なら~って思えるし」

「そんな、今はそうでもあとで俺よりよっぽどいい男に会え───」

「やだ」

 

 ……物凄い早さの即答でした。

 しかも会えないとかそういう文句じゃなく、きっぱり嫌だと。

 

「むー、どうしてわからないかなぁ。あのね、一刀。私は一刀がいいって言ってるの。そりゃあいつかは一刀よりもいい男が現れるかもしれないわよ? でもそれって何年後の話? すぐ? それとも10年も先? 今目の前に居る一刀を逃して、いつ来るか解らない男を待つよりも、一刀を選んだ方が楽しめる時間が長いに決まってるじゃない」

「うわー、この人楽しむことしか考えてない」

「あっはは、当たり前当たり前~♪ なにをするにしても、楽しいほうがいいに決まってるんだから。戦も政治も食事も、もちろん恋愛もね」

「うぐっ……」

 

 ひどく正論……なんだけど、戦を楽しむのはどうかなぁ。

 そりゃあ、後味が悪すぎる戦よりも快勝出来たほうがいいに決まってるけどさ。

 

「そんなわけだから冥琳、一刀の血を孫呉に入れるわ。打算的に言えば一刀って支柱を糧に同盟としての在り方も強化できる。華琳の許可も得て、私は本気なんだから文句はないはずよね?」

「あの……俺の意思は?」

「一刀……政略的な物事に当人の意思なんて関係ないのよ?」

「うそだっ! このこと自体が雪蓮の意思だけで構築されてるようなものじゃないかっ!」

「失礼ねー。ちゃんとみんなの意思も入ってるわよ。ね、明命?」

「はうわっ!? は、はふぁっ……ふふふふふふふつつかものですがーっ!!」

「待て明命、早まっちゃだめだっ!! 雪蓮もっ! 急に明命に話を振って混乱させないっ!」

「だって一刀が私だけが悪いみたいに言うんだもん。いいじゃない、明命だって賛成みたいだし」

 

 だもんって……貴女何歳ですかもう……!

 しかしこのまま突っ込まれ続けると勢いだけで負けてしまいそうな……というかいくら断っても話が終わらないのは何故?

 と、助けを求める視線で冥琳を見ると、冥琳はもう本当に気だるそうにしながら雪蓮を見た。……むしろ盛大に溜め息を吐きながら。

 

「わ……物凄い溜め息」

「雪蓮。大切な友達、とまで言ってくれる者に無理矢理襲いかかるものではないだろう? 少し冷静になれ。今は友でものちにどうなるかなど、誰にもわからん」

「あ、そっか。ようは時間かかっても、一刀が納得する形で子供が作れればいいのよね。上手くすれば華琳よりも私のこと好きになるかもしれないし」

 

 にこー、と面白いオモチャを見つけた子供のように微笑む王様がいらっしゃったとさ……って、いいのか? これ。

 たしかに時間があれば、どうなるかなんて断言できたものじゃない。ないけど、逆だって当然あるわけで。

 現時点で言えることは、たしかに呉のみんなに好意は向けられるし、“大切なものの中のひとつ”にはとっくになっているが、一番ではない。こんな暖かな場所に居る今でさえ、俺の中には魏に勝る故郷がないのだ。

 だから、言えることは一つだけ。“今”の俺に、誰かから向けられる恋慕を受け止めることは出来ない。

 

(難しく考えなければいいっていうのはわかってるんだけどな……そう簡単にはいってくれない)

 

 複数の女性と関係を持ってしまっている自分が言えたものじゃないけど、国の先を決める大事なことなんだから、もっと冷静になって考えてみてほしい。

 今さら一人二人増えたところで変わらないだろ? なんて言えた状況じゃないんだ。だって、他国の重鎮だぞ? 重鎮じゃなければ手を出すとかそういう意味じゃなく、それ以前に無理。自分に向けられる好意こそが信じられないくらいだ。

 実は好意ではなく悪意でしたって言われたほうが、ショックは受けるだろうけどまだ納得できる。

 

「とにかく。“今の私”は一刀以外は考えられないわ。時間が経てば心変わりするかもだし、そればっかりはいくら勘を働かせたってわかることじゃない。他のみんながそうじゃないって言うなら、べつの誰かと一緒に子を成せばいいだけのことだし、それは各自に任せるべきよ」

「じゃあ僕魏の人限定で───」

「それはだめー♪」

「ひ、ひどい! なんてひどい!」

 

 基本的に俺の希望は除外済みらしい。

 うう、“命令”がある分、下手なことは言えないし……華琳、これはいったいどういった試練ですか? 過去に打ち勝つどころの試練じゃない気がするよ。

 いっそ泣き出しながら逃走したい心境の中で、ただただ黙して見守ってくださる呉の皆様がいっそ厳しい。もっと踏み込んでツッコミ入れてください、“俺なんかとは子作りなど出来ません”とか。

 念を込めつつ、ざっと皆様を見渡してみるのだが。亞莎、明命は目があっただけで真っ赤になって俯いてしまい、蓮華には目が合うより先にフンッといった感じにそっぽを向かれ、シャオと祭さんと穏は満面の笑顔で雪蓮の行動を見守り……思春はずっと沈黙を守っている。

 ……アー……なんかもう……だめっぽいやー……。

 

「さて、北郷。これがこう言い出した以上、相手が納得するか自分が心変わりをするかしなければ、いつまでも話が終わらないわけだが。お前はどうしたい?」

「うわ……さらりとまた“これ”扱いした……」

 

 で、ぴたりと視線が冥琳で止まると、待ってましたとばかりに投げかけられる質問。“お前はどうしたい?”と……そう訊いてくれたのだ。

 もちろん俺の意思はNOしかない……が、たしかに未来のことを断言できる人なんてそう居ない。知る限りでは華琳くらいだろう。いっそ無鉄砲とも思える行動ばかりだけど、それを未来に繋げる“力と意思”を持っている。

 俺にもそういった意思があればなぁ……望みすぎか、それは。

 

「……わかった。たしかに一歩先さえがわからない今で、頭っから否定ばかりなのは卑怯だ。今の意思がどうであれ、どれだけ経っても“同じ気持ちだ”って決まってるわけじゃない」

「ああ、そうだな」

「今わかってるのは、今頷いておかないととんでもない命令が飛び出しそうってことくらいだし……」

 

 ちらりと見れば、満面の笑みを浮かべているシャオとか祭さんとか穏とかが、怪しい眼光で俺を見ていたりした。

 

「受けるよ、その条件。けど、“揺るがない”って言ったのは一年前から今にかけての俺の意思だ。捻じ曲げるつもりは全然ないから、頑固者って言われようが知ったことじゃないからな」

「ふふっ……ああ、それでいい。雪蓮も、それでいいな?」

「うんうん、これで無理矢理じゃなくなるわけだし、十分よ。“揺るがない”って言った一刀の意思が相当強いっていうのも知ってる。その上で、私は絶対に一刀に“うん”って頷かせるつもりだから。無理矢理はよくないわよね、無理矢理は」

「それ……今まで散々と、人のことを命令で引っ張り回したやつの台詞か?」

「あれ? 本気で嫌がる命令、した覚えなんてないけど?」

「ぐっ……」

 

 これだ。雪蓮は本当に見るところをよく見ている。

 される命令はほとんどが結果的には民が喜ぶことばかりで、俺が本当の本気で断る理由が存在するものなんて、とことんまでに無かったと言える。

 その分、シャオの命令はとことんまでに予定破壊を前提としたものばっかりだったけど。世の中って上手くバランスが取れてるもんなのかな。

 

「えと……じゃあその。話はこれでおしまいでいい……のかな?」

「まだでしょ? 一刀のこと、ちゃんと話さないと」

「俺の? って、そうだった」

 

 突然追われることになったもんだから忘れてた。言わなきゃいけないことがあったよな。

 大事なことなんだ、どさくさで流していいことじゃない。

 え、えぇっと……どう説明するか。ストレート? それとも遠まわしに…………だめだな、呉の人は遠まわしが嫌いなイメージがある。ここは直球で。

 

「あのさ。俺……次に朱里や雛里が呉に来て、話を纏めに蜀に帰る時、一緒に蜀に行こうと思うんだ。だから、呉に滞在する期間はそれまでってことになる」

 

 直球。言葉のひとつひとつの中で呉の皆の目をきちんと見ながら、自分の予定を報せていく。きちんと、心を込めて。正座のままなのは気にしないでくれるとありがたい。

 すると明命と亞莎は驚きと寂しさを混ぜた目で、蓮華と祭さんはきょとんとした顔で俺を見て……

 

「ふぇええ~~~っ!? そんなぁ、真名を許した途端にお別れなんてあんまりじゃないですかぁ~」

「だめだめだめーっ! 一刀はずぅっと呉の、シャオの傍で暮らすのーーっ!」

 

 ……極一部、元気に騒いでらっしゃるお方もおります。

 せっかく離れててくれたのに、ぷんすかしながら俺に抱き付いてくるシャオと、とほー……と肩を落として口から魂でも出しそうな陸遜……じゃなかった、穏。

 程度の違いはどうあれ、この二人ってなにをやるにも全力っぽいよね。シャオはもうちょっと加減を知ってくれればなぁとは思うけど。

 

「途端じゃなくて、朱里や雛里が戻ってきてからだから。そこのところは───」

「祭~! 二人が来たら牢に閉じ込めっ───やぁんっ!」

「シャオさん!? あまり物騒なこと言わないで!? 些細なことから誤解が生まれてせっかくの同盟がっ……みんなの努力が水泡に帰すよ!? ……ていうか“やぁん”ってなに!? ただ口を塞ごうとしただけだよね!?」

「口を塞ごうと、なんて……一刀ったら気が早いんだから~♪」

「手で! 塞ごうとしたのは手でだから誤解を招くような言い方を───」

「かかか一刀っ! お前はっ……小蓮にまで手を出す気かっ!! どこまで手が早いのだお前という男はぁああっ!!」

「アレェェェェーッ!? ちょ……目の前! 目の前で展開されている事態に目を向けて!? 人の話はちゃんと聞かないと、いい大人になれないんだよ!?」

「問答っ……問答無用だっ! お前は誰にでもそうやってやさしくしてっ……! なぜそうなのだっ! お前は王ではなく警備隊長だろう! 王のように大衆に目を向けるのではなくて、もっと範囲を狭めて……その、もちろん隊長というからには視野が狭すぎるのも問題だが、民から兵から、そんななにもかもに目を向けるのではなく……そうっ、たとえば、たとえばだぞっ!? 小蓮よりもより成熟した私ひとりにやさしくすべきで───!」

「お願いだから話を聞いてくれぇええーっ!!」

 

 はい……一月経とうが一年経とうが、きっと変わることはないんだと思います。呉のみんな、基本的に僕の話を聞いてくれない。

 一番の原因は話し始めたら他のことが見えなくなることにあるんだと、ここまでの付き合いでわかった気がする。

 あ。あと焦ると目の前の誰でも見えなくなるというか……うん、ともかく巻き込まれてばかりだといい加減涙も乾きます。枯渇って意味で。

 

「じゃあこれから朱里や雛里が帰るまで、一刀にはいろんな命令をしましょ。やっておきたいこととかあったら、後悔のないようにしておかないとだめよ?」

「一刀~、シャオと一緒に遊びにいこ~?」

「だめ。今日は俺が気絶してた所為でできなかった、明命との割りと本気の鍛錬があるんだから」

 

 でも言うことは言いましょう。断ることは断りましょう。

 命令だと言われない限りは断る権利が俺には存在して───

 

「だめー。命令だから一刀はシャオと遊ぶんだよ~?」

 

 ───あっさり権利が剥奪されました。

 

「こ、こらシャオっ! 前にそれで亞莎を傷つけたの、もう忘れたのかっ!? 人の都合に割り込んだ命令は禁止っ!」

「うー……!」

 

 渋々といったふうに引き下がってくれる。

 わからない子じゃないんだよな……ただ強引すぎて人の話を聞かなくてある意味で歳相応なのにある意味で歳相応じゃないというか。

 この、妙に大人びた思考がなければもっと素直でいい子なんだろう。残念のようなこれでいいような……はぁ。

 なんて溜め息が、次の瞬間には驚きに変わった。

 

「あ。じゃあこうしよっか。ここに居るみんなで、一度一刀と戦ってみよ? もちろん一人ずつで、武器は刃引きしたものを使うこと」

 

 それは安堵には程遠い、とても重苦しい状況の到来であった。

 

「おお、それはしごき甲斐がありそうじゃっ」

「へわっ!? かか、一刀様と、たた、た、たたかっ……!? む、むむむ無理です、無理です~っ!」

「一刀様……覚えていてくださいました……」

 

 三者三様。

 雪蓮の一言で一気に騒然とした中庭で、俺は今もなお正座をしながら、隣で盛大な溜め息を吐く冥琳と一緒に天を仰いだ。

 

「……すまないな。あれは真実、これと決めたら意思を曲げない」

「いやー……いいよ。辛くなりすぎない程度に纏めてくれた。ありがとう、冥琳」

 

 皆が騒ぐ中で、視線を合わせず空を見上げながらの会話。

 ぎゃーぎゃーと響く騒ぎの只中にあって、それでも凜と耳に届く冥琳の声に、素直に感謝を届ける。

 すると、隣からくすぐったそうな、苦笑にも似た笑みが聞こえて……

 

「ふふ……“友達”を庇うのは当然のことだろう?」

 

 そう言って、視線を下げないままに、俺の手に彼女の手が重ねられ───

 

「お前を信頼しよう、北郷。いつか全てが落ち着いたら、絵本の感想でも聞かせてくれ」

 

 それだけが伝えられると、俺は……はっとしたあとに込み上げてくる嬉しさがくすぐったくて、こんな騒ぎの中だっていうのに可笑しくなって、笑った。

 

  “私はあまりお前に期待はしていない”

 

 そう言われてから今まで、自分は期待に応えられるだけのことが出来たのかはわからないまま。信用だって増やせたのかもわからなかった。

 そんな、“人柄への信用”しかされてなかった俺が、“信頼しよう”とまで言われたら嬉しくないはずもなく……みんなが驚いて注視するのも気に出来ないまま、俺は……声を出して、綺麗な蒼へと笑いを届けた。

 

  ───……ちなみに。

 

 このあと本当にみんなと手合わせすることになり、その後にどうなったのかは……想像にお任せしたい。

 

 途中まではいい線いけたと思う。……思う。

 

 だけど……はぁ、まだまだだなぁ。

 


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