真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

63 / 454
21:呉~蜀/一路、蜀国へ③

-_-/一刀

 

 不覚にも泣いてしまったのち。

 困った顔を浮かべるものの、聞く姿勢をとってくれたポニーテールな彼女に感謝しつつ、話をする。

 ……しかしなんだろう、何処かで見たような気がするんだけど……宴の時に会ってるのかな。

 

「へえ……じゃあ本当に愛紗に連れられてここに来たのか」

「はい……」

 

 頭には校務仮面を被せたまま、がっくりと項垂れてみせた。

 一応事情は理解してくれたらしく、彼女は「なにやってんだ愛紗のやつ……」と愚痴のようなものをこぼしている。

 

「それであんた、名前は?」

「校務仮面だ」

 

 訊ねられれば即座に姿勢を正し、誰の耳にも届くようなはっきりした声で名乗ってみせた……途端に胡散臭い視線を向けられてしまった。

 

「格好としての名前じゃなくてふつーの名前だよ。あるだろ? あたしは馬超。字は孟起だ」

「ば……あ、あーあーあー!」

 

 馬超……馬超か! どうりで見た覚えがあると……! ううん……ここは秘密だとか言ってる場合じゃあ……ない、か……?

 蜀の将が名乗ってくれたのに、それを返さないとくれば無礼にもあたる。仕方ない……よな。ごめん、校務仮面……自ら正体を明かす俺を許してほしい。

 

「ふぅ……俺は北郷一刀。魏で警備隊長をさせてもらってる。宴で顔合わせくらいは出来てたと思うけど」

「へ?」

「え?」

 

 校務仮面を取って、真っ直ぐに馬超の目を見ながら名乗った……ら、馬超は目をぱちくりと瞬かせたのちに───

 

「あっ……あぁあぁあーっ!! お前っ! 桃香様の着替えを覗いたっていう天の御遣いっ!!」

 

 人を指差しながら、大声でとんでもないことをおっしゃいました!!

 

「それはもうわかったから大声で叫ぶのやめてくれお願いだからっ!! 関羽さんに嫌われたり華雄と戦わされたり、関羽さんに恨まれたり馬小屋を部屋に宛がわれたり関羽さんに睨まれるだけじゃなく、さらに曝し者にする気なのかっ!?」

「あ、あぁああ悪いっ、悪かった! あたしが悪かったから泣くなよっ……!」

「え? うわっまた泣いてる!」

 

 言われてみて、視界が滲んでいることに気づいた。

 ああ……俺、蜀に居る間中はずぅっと変態覗き魔として十字架を背負わなきゃいけないのかな……。王の着替えだもんなぁ、そりゃ引きずるよなぁ。

 そんな未来に軽く眩暈を感じながら、ばつが悪そうにする馬超さんに“この世界に戻った時のこと”を事細かに説明し始めた。

 

……。

 

 ……さて。

 懺悔室で神父様に悲しみを打ち明けるような気持ちで、馬超さんに自分の罪を打ち明けた。

 覗くつもりもなければ、偶然が罪になってしまう悲しき状況で、果たして俺はベツ○ヘムで暮らすべきなのでしょうか否か。

 ……いや、正直に言えばもう覚悟を決めてしまったあとなので、今さら部屋に案内されても頷けるかどうか。

 

「ふ、不可抗力だろうが覗いたのは事実なんだろっ? だったら完全にあんたが悪いんじゃんか、このエロエロ大魔神っ!」

「………」

 

 ベツ○ヘム(馬小屋。勝手に命名)在住決定。俺もう馬小屋在住の遠征痴漢野郎で結構です。

 エロエロ大魔神……エロエロ大魔神か……ハハ……いろいろありすぎて否定できないよ、魏のみんな……。

 と、落ち込んでいる俺の腹に、ごしごしと顔を摺り寄せてくる馬が一頭。

 

(ああ、そういえばこいつのマッサージ、やり途中だった)

 

 胸にぐさりと刺さった棘を落とすように、馬のマッサージを再開する。

 人間のものと感覚が同じかどうかは別として、より負担のかかりそうな場所に、最初は軽く、次第に強く。

 それが気持ちいいのか、馬はさらにさらにと顔を擦り付けてくる。

 

「ちょ、ちょっと待った、くすぐったいって! ていうかそんな押されるといっだぁああああああーっ!?」

 

 少し距離を取ろうとした途端、さらにと寄せてきた馬の頭が治りきっていない腕に衝突。痛みはもう随分引いていたけど、やっぱり衝撃があると響く。

 

「……麒麟が一目で懐くなんて……」

「?」

 

 麒麟? 麒麟っていうのか、この馬。

 

「なぁあんた、もしかして警備隊長ってのは嘘で、名のある馬屋番だったりするんじゃないのか?」

「名のある馬屋番ってなに……? いや、生憎と馬に乗るのもまだまだ不慣れで、誰かに誇れるほど、馬との付き合いはないかなぁ」

 

 魏では多少かじった程度……普通に乗れる程度の経験しかない。

 思い返してみれば、関羽さんや恋を相手に立ち回っていた華琳を馬に乗って助けに入ったのは、相当な無茶だったと震えられるくらいだ。

 あの時、もしも呆れるくらいに馬に乗ることすら出来なかったら……俺はその時の自分を一生恨み、悔いていただろう。

 経験っていうのは大事だよな、それが後悔だろうと楽しいことだろうと。何気ないところでも、何かの糧になってくれる。

 嫌々やり始めたことだろうが実りになって返ってくれば、経験を積むことにも躊躇なんて無くなるもんだ。

 

「あ、でも警備隊の仕事は本当に誇りに思ってるし誇れるよ。自分が頑張れば頑張るほど、民や兵が笑顔になってくれる。……てっきり、ずっとそうやって笑顔を見守りながら過ごしていくんだろうなぁって思ってたのに」

 

 どうして俺、呉に行ったり蜀に来たりしてるんだろうね。

 ……と、そういうふうに思うことはあっても、それが後悔に向かうかといったらそうじゃない。

 結果として冥琳を救うことが出来たし、呉にも笑顔が増えてくれた。友達も出来たし、信頼も得られた。

 

「結局さ、とんでもないことに巻き込まれたなーとは思うけど、自分の足で、意思で、華琳の隣に居たいって思った時から……その“とんでもないこと”は俺にとっての常、ってやつになってて……“日常”ってやつだったのかもしれない」

「日常?」

「そ、日常。だからさ、情けないことに泣いたりもしたけど……良かったらここ、使わせてもらえないかな。理由はどうあれ、こうしてここを宛がわれたのも何かの縁だと───無理矢理思うことにした」

 

 ……俺の突然の言葉に、ポカンとする馬超。

 本当に突然な言葉だったろうから気持ちは解らないでもないし、そもそも“馬小屋に住まわせてくれ”なんて言う客人なんて普通は居ないだろう。呆れるのも頷けすぎる。

 

「あ、や、まいったな……んなこと言われたって、あたしが勝手に許可出せることじゃないしさ……」

 

 当然のことながら馬超は眉を八の字にしつつ、困った様相で頭を掻き始めた。

 

「それ以前にいくら愛紗に嫌われてるからって、あの愛紗がそんな陰険なことを本気でするとは思えないんだけどなぁ」

「え……じゃあ冗談だったのを俺が本気にしちゃった……とか?」

「あたしはそう思うけどな」

「………」

 

 ……ありえるかも。

 そういえばショックのあまり呆然としてたし、その時になにか耳に届いたような届いてないような……あ、あれぇええ……!?

 

「で、どーすんだよ。誤解かもしれないって思ってて、まだここに住むとか言うのか?」

「言います」

「言うのかよっ!?」

「だってもう覚悟決めちゃったし……決めた覚悟は意地でも貫くって決めてるんだ。なんかもう今さら泣きたくなってきたけど、俺は俺の覚悟を貫く!」

 

 そうと決まれば善は急げだ。

 力強く頷くとともに駆け出し、さっきまで桃香が居た場所へと向かった。

 後ろから馬超の俺を止めようとする声を聞き流しながら。

 

……。

 

 で……

 

「許可を貰ってきたよ~」

「なぁああーっ!?」

 

 しこたま驚かれた。

 

「あ、あんた魏からの客人だろ!? それがどうして馬小屋に住むことを許可されるんだよっ! いくら桃香さまでもそんなことの許可なんてしないはずだぞっ!?」

「“馬と仲良くなりたいから”って言ったら満面の笑顔で“それじゃあどうぞ”って」

「うぁ…………言われてすぐに“言いそうだ”って納得できた……。なにやってるんだよ桃香さまぁ~……」

 

 桃香はどうも、“仲良く”って言葉に弱いのかもしれない。

 結果としてそれに付け込むような形になって申し訳ないが、これも男の小さな意地のためと思って。

 

「えっと……馬超さん。なにかやっちゃいけないこととかってあったりする? 馬と一緒に生活するにあたって、気を付けることとかがあったら教えてくれるとありがたいかも」

「………」

「?」

 

 訊いてみるが、なにやらじーっと顔を睨まれるだけで、返事はない。

 俺もその視線から目を逸らすことなく見つめ返すと、馬超は急に顔を赤くしてそっぽを向いてしまい───

 

「な、なぁあんた。ほんとに、ほんっと~に、ここに住む気なのか?」

 

 そんな状態のまま、視線をこちらには向けないでそんなことを訊いてくる。

 もちろん俺はその質問にうんと頷いて、お世話になりますと言ってみせた。……もう後には引けない。

 

「そっか……はぁ。……あんた変わってるな。魏の連中って、もっと固いやつらばっかりだと思ってたのに」

「……? 固い、かな。結構砕けてると思うけど……ああでも確かに、華琳以外にはそういうところを見せない人ばっかりかも」

 

 季衣や流琉、凪に真桜に沙和、霞や春蘭や風…………あれ? 思い出すだけでも結構砕けてそうなヤツ、居るぞ?

 秋蘭や桂花や稟は確かにキリッとしたイメージが沸きそうではあるけど、それ以外は打ち解けやすいと思うんだが……。

 けどまあ、気持ちはわかる。

 魏は“そういう空気”を纏ってる感があるにはある。

 なにせ王が華琳なんだ、自然とそういう空気を纏ってしまうのも仕方ない。

 

 どう仕方ないんだーと訊かれたら……ううむ、どう説明したらいいものか。

 華琳にはこう……桃香や雪蓮にあるような、にこーとした雰囲気がない、と言えばいいのか? 年中キリッとしてるわけじゃないけど、誰かに寄りかかることを良しとせずに生きる者、というか。

 だからこう、宴の時に俺の胸の中で眠ってくれた時はかなり感激だった……のは、華琳にはずっと内緒にしておこう。じゃないと殺されそうだ。

 殺されないまでも、張り手のひとつは飛んできそうだもんなぁ。

 

「………」

「?」

 

 思考が顔に出てたのか、馬超が俺を物珍しげに見ていた。凝視と言ってもいいくらいにだ。

 さっきまでそっぽ向いてたのに……俺の顔って珍しいのかな。呉でもしょっちゅう見られてた気がするし……。

 

「……なにかついてる?」

「! なっ……ななななななにもっ!? べつにあんたの顔なんか見ちゃいないさっ!! なに勘違いしてんだよっ! べつにあんたのニヤケた顔なんてっ……!」

「……え? 俺ニヤケてた?」

「うぁっ……しし知らないって言ってるだろ!? ~っ……あたしもう行くからなっ! 住むっていうなら勝手にすればいいだろっ!?」

「え、あ───」

 

 呼び止める間もないままに走っていってしまう馬超さん。

 あれ? 俺、まだ注意するべきこととか全然聞いてないんですけど……? 勝手に……? 本当に勝手にしていいの? それよりも思いきり避けられたというか逃げられた気がして、むしろそれがショックというか。

 

「……誰か今の状況を事細かに教えてくれる人、居ませんか……?」

 

 だからだろう。

 微妙な心細さが心に突き刺さったとき、そんな言葉が口から漏れて───

 

「ここに居るぞーっ!」

「うわっ!? だだ誰だっ!?」

 

 ───呟きに返事が返ってきたもんだから、ビクゥと肩を振るわせて辺りを挙動不審者のように見渡しまくった。

 すると、馬小屋の裏側からひょいと顔を出す少女……!

 少女……少女が……………………誰?

 

「あの、失礼ですがどちらさまで?」

「ありゃっ……もうっ、ここはもっと溜めて、ばばーんとたんぽぽが名乗るところだよ~?」

「───」

 

 口調、物腰、纏っている雰囲気……宴の時に出会ってはいるはずだが、感じたものの全てで判断しよう……彼女は間違い無く“シャオ”と同じ、もしくは近い雰囲気を纏っている。

 俺の心が気を付けろと必死に訴えかけている。

 

「えーと、それでその、いったいどこから聞いてらっしゃったんで?」

「むかしべつれ○~む~の~、ってところから」

 

 最初からだった。しかも聞かれてた……歌聞かれてた! はっ……恥ずかしぃ……!

 

「あははははまあまあ、そんなに恥ずかしがることないじゃん。哀愁漂っててとってもいい歌だったよ? たんぽぽ的には、宴で歌ってた歌のほうがじぃんときたけど」

「うぐっ……」

 

 やっぱり宴で会っているようだ。

 そういえば季衣や流琉、張飛と混ざってほわーほわーと叫んでいた子の中に、こんな子も居たような……。

 

「おにいさんって歌人かなにかなの? 警備隊の隊長さんだって聞いてたけど」

「普通に警備隊の隊長だよ。天の御遣いは役職じゃないと思うし」

「へぇえ~……」

 

 なんか……物凄い勢いで全身隈なく見られてる……。

 桃香との謁見に合わせて、服はフランチェスカの制服を着てたわけだけど……それが珍しいのか、本当にじろじろと。

 

「綺麗だね~、何で出来てるの?」

「ポリエステル……って言ってもわからないか」

「ぽりえすてーる? それって上等な絹かなにかの名前?」

「化学繊維……天然繊維じゃないよなぁ。えっと、天の国の素材で作られた服なんだ。天の国の学校では、大体がこういう服を着るのが義務付けられてる」

「えっ、そうなんだっ? じゃあもしかして、ただで貰えたりとかっ……」

「それはない」

「あっはは、だよね~♪」

 

 退屈してたのか、普通に話すだけで楽しそうだ。

 そして質問の答えは依然として返ってこなかったりする。

 ……俺、一番最初に“誰?”って訊いた……よなぁ?

 

「それでえぇと……俺は北郷一刀。ここには学校のことについての助言と、お試し教師をするために来たんだけど。名前、よかったら教えてもらえるか?」

「そしてたんぽぽもお姉様みたいに口説き落とすんだねっ……!」

「落としてないし落とさないしお姉様って誰!?」

 

 軽く握った手を口に添え、物憂げな顔をして言う彼女にツッコミ三閃。

 お姉様、ってところには先ほど物凄い速度で走っていったポニーさんが該当しそうだけど、落とすつもりも落としたつもりもまるでない。

 しかし俺の慌てっぷりがお気に召したのか、少女はにっこりと笑うとようやく自己紹介をしてくれる。

 

「お姉様はお姉様だよ、従姉の馬超お姉様。で、たんぽぽの名前は馬岱。蜀の南蛮平定美少女戦士とはたんぽぽのことだぁーっ!」

 

 エイオー! と右手を天に突き上げて元気よく発声。

 うん、本当に元気だ。シャオと同じ感じがしたと思ったものの、そんなものはどうやら第一印象だけだったらしい。

 少し子供っぽいところはあるものの、それも歳相応といった感じで、シャオのように無理な背伸びはしてなさそうだ。

 

「で、その美少女戦士さんは……いい加減状況を事細かに説明してくれるのでしょうか」

「つれないなぁおにいさん。もうちょっとたんぽぽに付き合ってくれてもいいのに。あ、もしかしてお姉様に夢中? お姉様とお近づきになりたいとか? ───だったらまずたんぽぽを倒してから言えぇえーっ!!」

「まずは人の話をきちんと聞かないか!? どこでなにがどう誤解になってるのかがこっちもわからないから!」

「問答無用! お姉様に近づく輩はたんぽぽが認めない以上はたとえお姉様が許してもたんぽぽが───! ……あれ?」

 

 馬岱が背中に手を回す! ───ミス! 武器は持っていないようだった!

 

「うゎえっ!? あ、あれっ!? おかっ、おかしいな、や、槍、どこに置いてきちゃったかなぁ~……」

「………」

「……えっと」

「………」

「…………許す!」

「……お願いします……話、聞いてください……」

 

 武器がないと知るや、腕を組んで胸を張る彼女に脱力以外のなにも生まれなかった。

 

……。

 

 で、砕けて話し合ってみれば解ることもあるもので、馬岱はむしろ味気ない日常にはうってつけの調味料を見つけたとばかりに、俺のことを根掘りまがいに訊ね続けた。

 え? こっちの質問? うん、ほぼがスルーです。

 

「ねぇねぇおにいさん? おにいさんはさぁ、魏のみんなを抱き締めちゃったわけだよね?」

「………」

「誰が一番よかったの? やっぱり胸の大きい人? それとも慎ましやかな───」

 

 シャオが自分の恋慕に真っ直ぐ正直なら、馬岱は他人のことに真っ直ぐだ。わかったのはそれだけ。

 あれだな、奥様が話題を欲するあまりに、立ち入ったことを訊き漁るアレによく似ている。

 “名乗りあったばかりの人にそれを訊くか”と言い返したいことばかりを平然と訊いてくるもんだから、こちらとしても面を食らうばかりで……面を食らってたらどんどんと話が勝手に広がるし、否定しようとしても笑顔でスルー。

 ……神様、僕もう逃げていいですか?

 

(今こそ好機! 全軍討って出よ!)

(も、孟徳さん!)

 

 出る!? 出るって何処にですか孟徳さん!

 ……ハッ、そうか! スルーされるからって受身のままなのがいけないんですね!?

 よ、よし! だったら……乗ってやるぞ、その話に!

 

「馬岱!」

「ひゃあっ!? え? な、ななななにかな、おにいさん。まさかこんな話してて、たんぽぽに欲情しちゃったとか───」

 

 休むことなく喋り続ける馬岱の左肩をガッと掴み、その眼を真っ直ぐに覗き込む。

 途端に彼女の表情に焦りが生まれるが、もはや遅い。

 

「……今ここに居るのは俺と馬岱だけだ。この意味、わかるよな?」

「えっ……や、やだっ、まさか本気で……?」

「ああ、本気さっ。本気じゃなければこんなこと、出来るもんかっ!」

「で、ででででもおにいさんっ!? たんぽぽたち出会ったばっかりなのにっ! ほらっ、名前だって知ったばっかりなんだよっ!?」

「促したのは馬岱だ……俺も、もう覚悟を決めた」

「はうっ……! や、やっ───」

 

 そう、俺はもう覚悟を決めた。

 真っ直ぐに見つめるままに、震える彼女へと顔を近づけ───

 

 

 …………魏のみんなといたしたことを、その耳元で赤裸々に語ってみせました。

 

……。

 

 ふしゅぅううう…………

 

「はう……はぅ、はぅう……」

「………」

 

 今の心境を一言で片付けるとしたら、「やっちまった……」に限るんだと思う。

 質問攻めにぐったりしていたのは事実だが、なにもこんな少女な彼女にアレやコレやを生々しく伝えることはなかった……うん、なかった。

 お陰で馬岱は顔を真っ赤にさせて目を回しながら、馬小屋の戸に背を預けてへたり込んでしまっている。

 心なし、湯気が出ているようにも見える……刺激が強すぎたんだ、正直にごめんなさい。

 

「けどこれで少しは───ハッ!?」

 

 待て!? これってもしかして……教師として蜀に来た俺が初めて教えたこと……ってことになるのか!?

 

「………」

 

 今度は俺が、戸に背を預けて崩れ落ちる番だった。

 ……変態教師って噂が流れないよう、ただただ祈ろう……本気で。

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ